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第31話『平穏な日常、不穏な雨』

(あれ……?)


 知らない天井。

 ……いや、俺はこの天井を知っている。


 肌に触れる暖かい風。


 俺は周りを見渡そうとするが、頭を動かすことができない。

 ……またこの夢か。



「この赤子が――力を――だけを――、――再現――! そして――お仕えする――名家と――!」


(……聞こえる)


 前回の夢では聞こえなかったこの声の内容が、ところどころ聞き取れた。

 その声の主はわからないままだ。


 誰かの手が俺へと伸びてくる。


 少し不気味さを含んだその手は俺の胸のあたりに伸び、やはり俺はビビってしまった。


(またかよ……!)


 フッ――


 俺の意識は、またそこで途絶えた。


ーーーーーーーーーー

 なんだか嫌な感じがして目が覚める。


(あの夢は……)


 前回、一度目にこの夢を見たときは覚えていなかった。

 でも今回は違う。俺は覚えている。

 その天井を、聞き取れた部分を。

 俺に伸びるその手の、嫌な感じを。


「気持ち悪い……」


「キバもか〜」


 キバもって……。


「実は昨日降り出した雨、これの影響で冒険者に限らず、大人数が体調不良になってるみたいだよ」


 俺は外を見た。

 降る雨は昨日よりも強くなっている。


 俺のこの気持ち悪さはこの雨の影響か、それとも……あの夢の影響か……。


「昨日は雨に当たって少し肌がピリッとするだけだったんだけどな」


「そうだね。俺も昨日はそんな感じだったんだけど、今は別に気持ち悪さとかはないんだよね〜」


 俺が寝ていた間、ライさんはS級冒険者の一人として、数々のS級、ギルド団長、冒険者ギルド側と話し合って、この件について調査していたらしい。


「久々にゆっくりした日常を送れると思ったんだけど……。まぁ、引き篭もるっていう部分じゃゆっくりしてるってのは同じか」


 呑気に笑ってそう言った。

 たしかに、俺も忙しい日常続きだった。


 冒険者になって、チームで任務に出て、修行が始まって、キラトさんがいなくなって。

 ライさんと出会って、修行が始まって、入団試験を受けて。


 やっとまともにゆっくりできると思ったら、体調不良か……。


「今キバも発症しているその症状に関しては、この雨に当たっている時間で決まるらしいよ」


 長く当たれば当たるほど症状が重くなるってことか。

 俺は短時間だったし、すぐ治るというのも教えてもらった。


 実際、俺も起きたときから段々とその気持ち悪さがなくなってきている。


「まぁ、飯でも食おう!」


 俺達はテーブルに向かい合い、昨日買ってきた牙イノシシの角煮と米を前にして手を合わせた。


「「いただきま〜す」」


 二人で声を揃え、俺たちは食事にありついた。


ーーーーーーーーーー

 特に何も起こらず、3日が経過した。

 どうやらライさんが俺に伝えたいことがあるらしい。


「小隊についてだよ」


 そう言って、真剣な目をした。


「本来だったら支部内で軽く戦闘を行って、それを見て小隊を決めるんだけど……」


 ライさんは外を指さし、「こんな雨じゃねぇ?」と息を吐いた。


「だから今回は、少し違った形で小隊を決めようっていう話になったよ」


「……具体的には?」


 俺が食いついたのを見て、ライさんは笑った。


「この雨の原因、北大陸北西部に一年ほど前にできた『ネオン街』という場所にあるって話になってね」


 そこから広がるようにして、この消えない、特殊な雨を降らせる雨雲が生み出されている。

 そういう結論に至ったそうだ。


「この大任務、『ネオン街の調査』と『特殊な雨の原因解決』を小隊配属戦をやる予定だった人達でこなしてもらって、振り分けるって形をとるようにしたんだ」


「なるほど……」


 いや……待てよ!


「こんな雨じゃとか言ってたけど、結局外に出るじゃねぇか!」


「気づかれちゃった? まぁ、偉い連中も小隊配属戦とこのネオン街からの異変が重なったのをいい機会として捉えたんだよ」


 ライさんは「利用するようで悪いね」と俺に言って、バシッと俺の背中を叩いた。


「まぁ、頑張ってきなよ! まだ早かったかもしれないけど、キバの知ってる人もいるから!」


 俺は押し出されるようにして、玄関に立った。

 外では相変わらずの雨が地面を濡らしている。

 傘を差し、なるべく雨に当たらないように寒さ対策に加え少し厚着をして外に出た。


「はぁ……」


 平穏な日常が終わるの、少し早すぎないか?


ーーーーーーーーーー

 指定された方向の門からグランベリアを出ると、そこには竜車が何台か止まっていて、その周りを囲むように数々の冒険者が立っていた。


 竜車というのは、A級程度の竜種(ドラゴン)を相当な実力を持つテイマーが手懐けた、馬車の竜版のようなものだ。

 テイマーというのは自身の魔力を餌に魔物を従える系の能力を持つ人の総称。

 治癒能力を持つ人が一般的にヒーラーと呼ばれる、そんな感じだ。

 もっとも、そんな実力を持つテイマーはごく少数もごく少数らしいが。


「こんにちは」


「こんにちは〜」


 俺はその冒険者たちに挨拶をしながら、同じように竜車を囲むように立ち止まった。


「あ、キバ!」


「はい?」


 名前を呼ばれ横を見ると、そこには見知った女子がいた。


 サキである。


「サキじゃん! ……っと、サキもこの任務に?」


「うん! っていうか、小隊配属の任務は一つしかないからね?」


 そう指摘され、俺はそうだった、と頭を掻く。


「こんなに大人数で一つの任務をこなすなんて、相当な難易度なんだろうね……」


 周りを見渡した限り、明らかに気迫がD級のそれではない者も多数いた。


「なんというか、俺達みたいなランクが低めのやつは今回、肩身が狭いな」


「そうだねぇ」



 二人でそんな会話をして三分ほどして、一人の男が声をかけてきた。


「よぉ! お前、強かったやつだよな!」


 左右で目の色が違うその男を、俺は知らなかった。


「……すみません、誰ですか?」


「はぁ!? ……って、この容姿じゃわかんねぇか」


 男はケースからサングラスを取り出し、それをかけてみせた。


「あ」

「え」


 おれとサキは同時に声を漏らし、その男に指をさす。


「爆発の!」


「レイラ、俺の名前だ! よろしくな!」


 差し出された手を素直に握り、握手を交わした。

 二次試験で俺達が戦った、単独で突っ込んできた男。

 こいつ……レイラも合格していたか。

 三人でようやく戦っていたぐらいだし、この強さを持つ知り合いは頼りになるかもしれない。


 合格者全員が来るとすれば、カラスもここに来るはずだ。

 まさかこんなに早く行動を共にするとは思わなかったけどな。

 ライさんが言ってたのはこれか。


 俺達は三人でカラスの到着を待ちながら雑談して過ごした。


ーーーーーーーーーー

「さぁ、出発するぞ。全員竜車に乗れ。配車はどうでもいいが、面倒事は起こすなよ?」


 そう言われて、俺たち四人は同じ竜車に乗った。

 カラスは無事到着し俺たちを見つけた。

 合流直後はレイラの存在に驚いていたが、レイラのコミュ力の高さのおかげですぐ打ち解けたようだ。


 竜車は八人乗りのものと十六人乗りのものがあり、大人数が移動するのにはぴったり。

 俺達は八人乗りを選んだから、新しく乗ってくる四人と顔を合わせることになる。


「こんちゃっす〜!」


 元気いっぱいの男が乗ってきた。


「……どうも」


 控えめな女子が乗ってきた。


「よろしく」


 白い鎧をつけた男が乗ってきた。


「よろしくお願いしますね」


 髪の長い女が乗ってきた。


 俺達はその一人一人に挨拶をして、席に着く。


 初対面の恒例行事、自己紹介が始まった。


「俺は――」


「俺はレイラって名前だ! こっちはキバで、この子はサキ。んでこの緊張しまくってるヤツがカラスな!」


 自己紹介をしようと思ったら、レイラが済ませてくれた。

 助かるが、助からない。


「俺はクロムっていうっす! よろしくっす!」


 俺より少し暗めの白髪、前髪の一部が黒い男はクロムという名前。


「あたしは……コハク。……よろしく」


 肩辺りまではないぐらいの黒髪に、綺麗な琥珀色の瞳をした女はコハク。


「俺ぁリョウだ。よろしくなァ」


 ありがちなムキムキ体型で褐色、右頬に切り傷のある男はリョウ。


「私はシズク。よろしくお願いしますね。みなさん」


 水色の髪、綺麗に整ったロングヘアーの女はシズク。


 各々の名前を聞いたところで、俺たちは今回の任務についてや、自分の能力についてなど、いろいろな雑談をして過ごした。


ーーーーーーーーーー

 すっかり日が沈み、空が暗くなってきた頃。

 竜車はロウの墓場がある林を抜けたあたりの草原で止まり、俺たちは夜を明かすため準備を始めた。


 人の住む、人の手があるグランベリアやその他の街からは少し離れたこの場所では、あのゾンビが多かった林やゴブリンが出る森より少し強い魔物が出没する。


 飯を済ませたあと、いくつかの場所で薪に火が起こされる。

 もちろん頭上には雨から守るための屋根のような道具を張っている。寝るテントとは別にな。


 パチパチと炎を揺らすそれを眺めながら、俺は体を温めている。


「キバ君、お隣失礼するね」


 そう言って隣に腰を下ろしたのはシズクだ。

 何か用があるのかと思ったが、一向に喋りだす気配はない。


「……どうしました?」


「……いえ。なんというか、あなたが一番落ち着く人だから」


 サキとレイラ、クロムは騒がしく、カラスとコハクはあまり人付き合いが得意ではない。

 それにリョウは……怖い感じがするしな。

 一人でいた俺のところに来たというわけだ。


「そうですか」


 濡れた地面に赤く光が反射する。

 俺達を越えてテントを照らす光を、ただ二人で眺める。

 この暖かさとは真逆に雨音は強くなる一方だが、不思議と心地良い。


 まだ寝るには早い時間、別の焚き火の周りでは他の冒険者たちが談笑している。

 サキとレイラ、クロムは飯の時間にいろんな冒険者と仲を深めたらしく、一緒に笑いあっていた。


 地面を打つ雨の変わらない音を背景に、パチパチと鳴る焚き火の音が時間の流れを伝えている。


ーーーーーーーーーー

「じゃあ、今日の見張り当番、一班がこれ、二班がこれ、三班がこれだ。」


 俺は三班に配属された。

 睡眠開始、つまり十時から零時半までが一班、そこから三時までが二班、そこから五時半までが三班だ。

 三班の見張りが終了すると同時に全員が起床、支度を済ませ移動開始だ。


 寝る時間は少ないが、冒険者ってのはこういうものなんだろうか。


 俺は限られた時間の中で疲れを取るため、すぐに眠りについた。

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