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第30話『友達というもの』

ーーーライ視点ーーー


 全ての班の最終試験が終了し、俺は本棟の廊下を歩く。

 そうして狙っていた人物と鉢合わせることに成功する。


「お疲れ。イース」


「あぁ」


 軽くあいさつを交わし、同じ方向へ歩き始める。


「キバはどうだった? 聞かせてよ」


 イースは少し沈黙して、その後すぐに話し始める。


「お前の弟子だからで贔屓することなく審査した。能力に気付いてから一カ月だったか。それであれだけできるなら上出来だな」


「……それだけ?」


 面倒くさそうにこちらを見て、「何を求めてるんだ」とため息をつかれた。

 が、その後何も言わずともイースは口を開いた。


「今回の試験内容。一次試験は実力。二次試験は連携を見て、三次試験は即興連携、対応力、覚悟、まぁいろんな面で審査するものだった」


 イースは若干微笑んで言った。


「今回の入団者は優秀なやつが多いな。氷を使う女は強かった。A-級ぐらいか?」


 俺も見ていた戦いだ。

 その氷使いの女は一次試験で仲間を両方失ったが、二次試験では弱気になることなく、攻めの姿勢を見せていた。

 三次試験ではイースに勝てはしなかったものの、キバの数倍は善戦してみせた。


 期待の新人ってやつだ。

 イースにとってキバもそんな存在になれてるだろうか。


「ところでキバのランク更新、どうするつもりだ?」


 気になっていたのか、そう聞かれた。


「んー……。普通に任務受けてとか魔物と戦って、でもいいけど。でもそれじゃあキバの心理戦の部分の評価はされないよね」


「そうだな。冒険者ギルドで更新を受けるなら多分D+級になるだろう。俺としては、キバにはC-、C級あたりに評価したいところだが」


 冒険者ギルドでのランク更新とは、指定されたギルド員の前で特定の任務を受ける、単独で魔物を倒す、名声などによって変動するもの。

 その評価方法から、キバと『直接』戦うわけではないので心理戦の部分が評価されにくい。


 だからランク更新する際はそのギルドの団長か、各支部長に頼むやつもいる。

 頼まれた側がランクを決めるのではなく、それはあくまで冒険者ギルドがランクを決めるときの補足情報としてのもの。

 直接拳を交えたことでしか伝わらない強さもあるのだ。


「キバには聞いておくよ。多分頼ることになると思うから、一応資料の用意はしといて」


「あぁ。じゃあな」


 俺はここで止まり、イースはそのままこちらに背を向け歩いていく。

 頼れる先輩を持った。

 ……頼れるから支部長として選ばれてるんだがな。


ーーーキバ視点ーーー


 三次試験が終わってすぐ、俺たちは自分の班の部屋へと帰った。

 全ての班の三次試験が終了するまで、もうその試験を終えた者たちは待機する。

 試験を終え、あの戦闘場の外に出た時にそう教えられた。


「合格できてよかった。それにあの試験官……えっと、イースさんだったか。俺たち全員、彼からいい評価を貰えたみたいだしな」


「そうだね! 私、S級に到達できる実力があるって言われてうれしくなっちゃった!」


 各々、今日の試験を振り返る。


「俺は……。もともと無能力者として生きてきたんだ。能力を自覚したのが最近でさ。だから……、だから、あんなにすごい人から評価されたのがすげぇ嬉しい」


「ってことはそのタトゥー、やっぱアクロセスの……?」


 分かってはいたらしいが、触れにくいことだ。

 今までの間、あえてこの左頬のタトゥーについては黙っていたらしい。


「あぁ。って言っても、俺は特殊なケースだったみたいで……。もうこのタトゥーを背負って生きて行く義理もないんだけどな」


 俺は無能力者ではなかった。

 このタトゥーは無能力者に刻まれるもので、すでに俺には必要のないもの。

 能力を偽ったまま生活していくのが世間的に悪いように、この無能力者の証をつけたまま今の俺が生活していくのも、また悪いことかもしれない。


 これは後でライさんに相談してみよう。


「そういえば、カラスって一次試験のときと比べてだいぶ喋るようになったよね! ……やっぱり緊張してた?」


「誰が緊張なんて……! いや、そうだな。緊張してたかもしれない」


「素直じゃないな」


「仕方ないだろ? こんな大型ギルドの入団試験となれば緊張しないほうがおかしいって」


「私は全然だったけどね!」


 この会話を通して、俺はキラトさんのチームの4人を思い出した。

 ライさんを、アイシャさんを思い出した。


 「ははっ」


「キバ?」

 

 短い時間一緒にいただけなのに、なんでこうも安心できるんだろう。

 一緒に笑えるんだろう。


 ――あぁ、誤解だったな。


 友達っていうのは……。

 長時間一緒にいて初めて、そう呼べる存在へ成ると思っていた。

 でも、違うな。


「同じギルド員として、これからもよろしくな。 サキ、カラス。」 


「おう……」


「うん!」


 俺は今日、新しくできた友達に向かってそう告げた。


ーーーーーーーーーー

「じゃあね! キバ!」


「あぁ。また」


 元気に手を振りながら、サキは歩き出した。


「俺も帰るわ。今日はありがとな」


「おう。またな」


 軽く手を上げて、カラスも歩き出した。


「……俺も帰るか」


 友達が帰ってしまったこの場所では、今日はもうすることがない。

 することがないのにここにとどまるのも変だしな。


(ライさん……もう帰ってるのかな)


 あの人は審査する側の人間だ。

 試験後の処理などでやることがあるのかもしれない。


「どうやって時間をつぶそうか……?」


 特に案も浮かばないので冒険者ギルドに顔を出すことにした。

 この都市に存在する冒険者ギルドの数は五つ。

 そのうち南方向にあるものにしか入ったことがないので、この聖裁ギルド本部付近の都市中央にあるものへ出向くことに。


 顔が広くて困ることはあまりないしな。


 歩くこと1分ほど。

 俺は都市中央の冒険者ギルドへたどり着いた。

 聖裁ギルド本部が近いこともあって、その賑わいは俺がいつも立ち寄っているあそことは比べ物にならないほどだ。


「にしてもデカいな……。」


 より一層活気のある冒険者たち。

 その賑わいから、数もあそこと比べるとやはり多く、その数多い冒険者達を受け入れるために建物の大きさも二回り……、いや、それ以上は違っている。


「よし」


 冒険者ギルドに入るのは慣れたと思っていたが、環境が違うだけで少し緊張するな。


 俺は扉を開け、中へと入る。

 内装はあまり変わらず、規模が変わっていただけだった。


 大きな依頼板、それに貼られた一種の壁紙ともいえる量の依頼。

 数多くのテーブルと椅子に、そこに座る冒険者たちの顔つき。


 依頼板、テーブル、椅子、受付カウンターと見ていって、俺は目が止まった。


「……え」


 受付カウンターには、冒険者ギルド員のなかで俺の唯一の顔見知りと言っていい彼女……。


 ルルさんの姿があった。

 俺は彼女に近づいた。

 何の用があるとか、そんなんじゃない。

 ここにいたことに驚いたから。


「ルルさん」


「キバ様?」


 笑顔を崩さず俺の名前を呼んだ。


「なんでここに? あなたは南側の冒険者ギルドにいたはずじゃ……」


「配属先が変わっただけの話ですよ。まぁ、こんなに『タイミングが良い』のはあまりないと思いますけどね」


 それでも、自分がここにいることが当然だと言うように答えた。

 一ミリも表情を崩さず、驚いたといった様子は見受けられない。


「俺、聖裁ギルドに入団しました。せっかくなので報告しておきます」


「そうでしたか! では、ランクの更新はやはり支部長に頼むことになるのでしょうか?」


 ランクの更新。

 俺が山に籠もっていたためにできていなかったことだ。

 支部長に頼むっていうのはどういうことだろう。


「支部長に頼んで何か恩恵が?」


「はい。支部長や団長のような人に、冒険者ギルド員が評価しにくい部分……つまり戦闘での駆け引きの部分の評価をしていただくことで、より正確に、よりその人の実力に合ったランクに振り分けることができるんです」


 D級なのに実際戦ってみればE+級って言われてもおかしくないなとか、E+級だけどD級ぐらいの実力があるなとか。

 そういうことがなくなってくるわけだ。


 能力の偽った登録に、実力に見合わないランク付け。


 冒険者ギルドからすれば、こういったものはなくしていきたいらしい。


「そうですね。相談して決めてみます」


「相談というのは、ライ様にですか?」


 ライさんと一緒に、一度ルルさんにに顔を出したことがあったな。


「はい。……そろそろライさんが帰ってきてもいい頃かもしれないので、今日は帰ります。今後も会ったときはよろしくお願いします」


「はい! それでは良き冒険者ライフを!」


 俺は冒険者ギルドを出た。


「雨……?」


 ぽつ、ぽつ、と俺の肌に水が落ちてくる。

 小雨というのにも小雨すぎるな。

 それに……。


(肌がピリピリする。なんだ……?)


 とは言っても気にならない程度で、俺は無視することにした。

 まぁでも、少し急ぐか。


 あらかじめ伝えられていたある場所へと小走りで向かい、2分ほどでそこに到着する。


「ここか」


 そこに建っている家は、ライさんの家である。


「お、きたきた」


「おじゃまします」


 俺は開いた玄関をくぐり、中へと入る。


「うわ……」


「うわってなんだよ」


 山に住んでたときの様子から予想はできていた。

 散らかりすぎだろ……。

 なんで何枚も服が散乱してんだよ。


「小隊に配属されるまでは、キバはここに住むことになるね。まぁ……」


 何かを言いかけ、「なんでもない」と口を閉じた。


 小隊というのは五から八人程度で編成されるもので、各支部別で振り分けられるものだ。

 支部ごとに行動なんてしていたら、任務をこなすのにいちいち「君はこれ」、「あなたはあれ」など、めんどくさいことになってしまう。


 だから聖裁ギルド側がこれを防ぐために少人数で一つの任務をこなす、『小隊』という制度を作ったんだとか。


「今日は早めにご飯食べて寝ようか。疲れたでしょ?」


「……そうだな。そうしよう」


 そんな会話をしたあと、俺たちは飯の買い出しに向かった。

これで第二章 元、無能力者 は終了になります。

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