第26話『一次試験』
「外とそんなに変わらないな」
俺が部屋を出て、フィールドを見渡した感想はこれだった。
森林であることは変わらず、ただ見渡した先に何でできているかわからない壁があるだけ。
「っと……。1回戦って勝たないといけないんだっけか」
俺はあの女性から受けた説明を思い出した。
(とは言っても……もうこの辺は狩り尽くされそうだよなぁ……)
周りの冒険者たちが走って戦う様子をみてそう思った。
よし、ここはいっそ遠くの方に行くことにしよう。
(覇力……出力最大にして……!)
能力を発動して、地面を蹴る。
特大のジャンプをかましながらフィールドの端の方へと向かった。
「お」
壁が見えてきた。この辺で止まろう。
見事に着地し、周りを見渡す。
「え……は?」
俺はある光景に思わず目が止まる。
そこにいたのは……。
(サイクロプス……!?)
額に1つの目を持ち、緑がかった色をした巨体。
その手を見ると木でできた……いや、木そのものを持っている。
討伐難易度は確か……D-級ぐらいだったか。
(奥に来たから魔物が強くなったのか……!? それとも……たまたまここにいるだけ……?)
その目は明らかにこちらを向いていて、俺の存在に気づいている。
「やるしか……!」
俺は覇力を発動し、地を蹴る。
(正面から戦うなら一撃、重い一撃を与えてから……!)
ランクの更新、自分のランクを測るための接戦ができる魔物と戦うことをしてこなかったため、自分の実力が正確に分からない。
だから重い一撃を与え、アドバンテージを取る必要がある。
俺の足はその巨体の腹あたりに直撃し、なんと地面に尻をつかせることに成功した。
(よし! 手応えあり……!)
と思ったが、サイクロプスは地面に尻をついたまま木を振り回した。
「うおあ!?」
俺はギリギリでそれをかわし、一旦呼吸を整える。
「はぁ……ふぅ……」
(なんとか勝てそうだ。落ち着け……落ち着いてこのまま行けば、絶対に勝てる!)
呼吸を整えながら、その巨体を睨む。
ちょうど立ち上がり、俺の一撃でへこんだ腹などなかったかのように振る舞う。
サイクロプスは目の奥にある核を潰すか、体の9割を欠損させるかしないと倒せない。
打撃系の俺にはどうも厄介な相手。
サイクロプスと目が合う。
俺は狙う。その眼球の奥にある、その核を。
「行くぞ……!」
再び出力を上げ、地面を蹴り飛び上がる。
まっすぐその眼球へ向かう俺の動きに反応したサイクロプスは手を大きく上にあげた。
(やべぇ……!狙いすぎた!!)
ガッ!ドンッ!
その手を見事に命中され、地面へと叩きつけられる。
「ぐっ、ゲホッ」
口から血が出る。
さっきの腹への一撃で、サイクロプスが俺の速度に反応できないと思ってしまった。
だから俺は空中で無防備な姿を晒し、一撃をもらうこととなった。
すぐに立ち上がり、前を見る。
頭から血が垂れてくる。
(同じ失敗はしない、今度は確実にいく……!)
俺が弱り、動けないと思っているのか、サイクロプスは再び木を持つ手を振り上げる。
地面に叩きつけられたそれを避け、俺は木に乗り、腕へと飛び移る。
「一応腕も……貰っとく!」
サイクロプスの腕を走っていた俺は自分の足でその腕を思いっきり蹴り、手を損傷させる。
重低音とも言えるような叫び声をあげたサイクロプスは自分の腕を押さえるように、もう片方の手をこちらへ向かわせる。
「ほっ!」
迫りくる手のひらを当たる直前に飛ぶことで避け、その眼球へと一直線に向かう。
(さっきとは違う、確実な一撃……!)
「はぁああ!!」
グシャアッ!
俺の右足はその眼球を貫き、核ごと頭を貫通した。
倒す面倒さと破壊力によってD-級あたりの難度がつけられている。
その防御力は乏しく、身体はゼリーのような柔らかさである。
……そういう比喩なだけで、そんなに柔らかいわけじゃないんだけど。
俺はしっかりと着地し、そのサイクロプスの方を向く。
(通用する……。今までやってきたことがしっかりと、魔物との戦いでも発揮されてる……!)
自分の成長を噛み締めて、俺は周りへの警戒を始める。
一匹倒したからといって別の魔物にやられてしまっては勿体ないからな。
ーーーカラス視点ーーー
「出遅れたってやつか……」
ため息をつきながら、そうつぶやく。
このあたりの魔物はすっかり狩り尽くされ、冒険者たちの声が遠くなっていく。
(俺のスタイル的に、最初は分析だからな……)
これが仇となり、俺は窮地に立たされていた。
「はぁ……」
俺はまたため息をつき、影に潜る。
その中を移動して、周囲の魔物を探す。
(あれは……サイクロプス……?)
D-級以上の魔物も出てくるのか。
防御力が乏しいため、D-級の中でも下位の方。
D級冒険者はE級の魔物を単独で倒すのは難しい。
……つまり、ちょうど1段階下のランクの魔物は単独撃破が難しいとされている。
だが、それは全体的に見たときの話。
例えば身体が柔らかいでお馴染みのサイクロプスは、C-級くらいのビーム系の表面を焼くような遠距離攻撃は通りにくい。
でも、D級ぐらいの打撃系なら十分通用する。
つまりは相性。結局はその魔物に合った戦い方があるのだ。
(俺の能力じゃちょっときついかもなぁ……)
こんな魔物がいるフィールドで、キバは生き残れるだろうか。
あいつはE+級……。うん……。
「お」
俺はちょうど近くの木の陰に潜んでいたゴブリンを見つけ、すぐに影から出る。
「ラッキー」
そうつぶやきながら、俺はその魔物に気づかれぬまま武器を奪い、その身体に突き刺した。
これで条件はクリア。あとは生き残るだけ……か。
少し卑怯な気もするが、俺の本領は『メイン攻撃役』のサポートをする時に生かされる。
まぁ、この一次試験じゃ仕方ないだろう。
仲間もいないしな。
ーーーサキ視点ーーー
部屋の壁が開き、私はすぐに銃を構える。
持参したわけではない。私の能力で今できたものである。
(周りの冒険者に魔物取られる前に……私も倒しておかないと……)
遠くにいた狼のようなE級の魔物、『ガルフ』を視界に捉える。
「体の大きさ的にも……一発で十分ね!」
私は銃口を引く。
バァン!と豪快な音とほぼ同時に、標的が倒れる。
(戦ったというより……ほぼ奇襲なんだけど)
これで条件が達成できた……はずだよね?
一応不安なので、制限時間ギリギリまで戦うことを選択した。
(なるべく試験官にアピールしておかなきゃ! 私の戦闘スタイルだと戦ったって認識されるのか怪しいし!)
そんなことを考えながら、私は次の標的を探した。
ーーーキバ視点ーーー
「おぉ……」
俺は先に奥に行く判断をしたため、あとからこっちに来る冒険者の様子を眺めることとなった。
(こっちに来るほぼ全員が必死だ……。魔物をまだ倒せてないからこんな奥まで来たんだろう)
そう推測するのは簡単だ。
だけど、こっちに来たのは……間違いかもしれない。
実は警戒を始めて20分くらい経った頃から、物陰に身を潜めている。
……サイクロプスがいる。
流石に2体連続での相手は厳しいので、体力を回復させていた。
もうすでにその眼球が向く先は冒険者の群れ。
ここに来るってことは、俺ぐらいの強さがある冒険者たちだろう。
静観で大丈夫だ。
そう思ったが、俺はここに来る道中、ライさんとしたある会話を思い出した。
「毎回、冒険者としての名声や人気欲しさにこのギルドに入ろうとする人たちは結構いるんだよ。……でも……。そういう奴らは毎回一次試験で落ちる」
D-級に割り当てられているサイクロプスがいる時点で、この試験が生半可なものではいことは分かっていた。
(もし、あの冒険者たちのなかのほとんどがそういう気持ちで入ってきたやつらなら……)
グシャ!
そう考えついた頃にはもう遅い。
死ぬ直前に医務室送りにされるとはいえ、ここから脱落するのは本当なら死んでいるようなもの。
「はぁ……」
俺がため息をつく頃、すでにそこにいた冒険者の半分以上が姿を消していた。
だが、立ち向かう者もいる。
名声欲しさに来る奴らとは違う、覚悟の決まった目。
(きっとあそこで戦ってる奴らは……いい冒険者になる。)
俺が理想とする、弱きものを守るために戦う、そんな冒険者に。
俺は走り出した。
体力的な回復はもう済んだ。
血が出てるから本調子じゃないが、加勢することにした。
俺はサイクロプスの後ろから接近し、その足のアキレス腱らしき場所を断裂させる。
やはりその体は柔らかく、打撃がよく通る。
ドシンと大きな音を立ててサイクロプスが膝をつく。
その姿を確認し、立ち向かっていた冒険者が眼球に長い剣を突き立てた。
見事にサイクロプスは撃破され、俺はすぐに物陰に身を隠す。
まだ警戒しなければ……。
そう考えながら前を向く。
ヒュ!
風切り音とともに、俺の体に強い衝撃が走る。
「グフッ……!」
なんだ今の……!
俺は吹き飛ばされる前に立っていたところを見る。
「また……『お前』かよ……!」
サイクロプス。
明らかに興奮したサイクロプスがそこにはいた。
傷を負ってはいるるものの、それは打撃でできた有効打となるものではない。
ライさんみたいなビームでできた、皮膚が焼けたような傷。
体の9割を欠損させるか核を壊すかしなければ倒せないこの魔物に、表面だけの傷を与えるとどうなるか。
大したダメージにもならず、ただ怒らせるだけ。
興奮状態になった魔物の動きは単調になるが、その破壊力や速さなどは上がる。
俺は先ほどの一撃で体が自由に動かなくなっていた。
(あれ……? これ、ヤバ……)
迫るサイクロプスに危険を感じたとき、熱を感じた。
それと同時に魔物は横からの炎で焼け焦げた。
「……すげ……」
その一撃、いや一焼きでサイクロプスの身体はほぼ炭となり、見事に撃破してみせた。
体の9割を欠損することによる、圧倒的な撃破。
「今をもちまして! 一次試験は終了です!」
そんな放送が流れ、俺はその炎が流れてきた方向を見る。
「誰もいない……」
第二次試験で対人戦が来るなら脅威になるだろうと思って顔を確認したかったが、もうすでに帰ったあとだったか。
俺は踏ん張ってようやく立ち上がる。
(頭クラクラすんな……)
俺はフラフラの足取りで、この一次試験会場をあとにした。




