第25話『人生変えるぐらいの』
「よし」
俺達は外に出た。
修行は終わり、今日はいよいよ入団試験本番。
「緊張してる?」
「そりゃ、まぁ」
そんな会話をしながら、俺は家を見る。
(この1ヶ月間、俺たちここに住んでたんだな)
古い木製の外装は、ここに来た当初は温かく出迎えてくれる安心感を与えていた。
でも今となっては、「儂を置いて進め」とでも言いそうな雰囲気を放っている。
俺は家に向かって一礼する。
(今日で、俺の人生はガラッと変わる。合格してやる……いや、合格する!)
パンと頬を叩き、内心ビビってる俺に一喝した。
(修行で流した汗のぶんだけ、今日の俺がある。怖いけど、逃げるのはダメだ……。それに、逃げる気もない!)
離れていくあの家を背に、俺は進みだした。
ーーーーーーーーーー
グランベリア内、そのほぼ中心に構えるのは1km四方ほどの敷地を持つ『聖裁ギルド本部』である。
入団試験を受ける人たちは皆、一旦ここへ集まる。
「広い……し、人多いな」
広い敷地を持つこの場所を、受験者たちが埋め尽くす。
入団試験は年に三回行われるので、一度の試験で入ってくる人は意外と少なめなんだとか。
いや、十分多いけどな。
「じゃあ、この辺で。聖裁ギルド員同士でまた会おう!」
ライさんはそう言って建物へと入っていった。
随分と期待されてるみたいだ。緊張してきた。
「さて……」
俺は辺りを見渡した。
たくさんの冒険者、その奥にある、聖裁ギルド本部の本棟らしきもの。
その他にも、寮……?みたいなものや訓練スペースであろうジムのような場所がある。
(やっぱでかいギルドとなるとしっかりしてるな)
グランベリア内にはいくつかギルドが存在し、そのどれもが小規模ギルド。
聖裁ギルドのような大規模ギルドは存在しない。
そのギルドのどれもが、あまりスペースを取らない、というより建物の二階を使ったものだったり、そういう普段の生活感あふれる場所で構えているのだ。
でもここはまるで違う。
グランベリア中央に構えるこの場所だけ、どこか生活から切り離されたような、ここだけの生活があるような、そんな感じがする。
俺は周りを見渡しながら奥へと進んだ。
「てめぇ……!!」
何やら騒がしい。喧嘩だろうか。
「もう一回言ってみろ!!」
「お前みたいなやつは戦場でもすぐ感情制御ができなくなってすぐ死ぬから、このギルドに来る価値ないって言ったんだ」
「なんだと!?」
派手な髪色の男にそう言われたムキムキの男は胸ぐらをつかんだ。
「今ここでてめぇを再起不能にしてやってもいいんだぞ!!」
「やれるもんならやってみろよ」
ムキムキな男が殴りかかる。
その瞬間。
カァンッ!
どこからか、その殴ろうとする拳に向けて飲み物の缶が飛んできた。
「今日は入団試験……です。その、『こっち』としても喧嘩されると面倒です……し、自分のこれからのことを考えたほうが……身のためですよ」
その誰も手を付けようとしなかったその喧嘩を止めたのは、俺よりも背が小さい、黒髪短髪の男だった。
「誰だ……!?」
ムキムキな男が手を押さえながらそう質問すると、その小さい男は答えた。
「聖裁ギルド第三支部、の……ユウマです。……あの、一応S級なので、あなたじゃ勝てないですよ」
そう言い、ムキムキな男を睨む。
ビビった男は胸ぐらをつかんでいたその手をすぐに離し、ツバを吐き捨てて帰っていった。
「怖がらせるつもりなかったんだけどな……」
そう言って、S級を名乗ったユウマという男も本部へと戻っていく。
試験開始前から面倒なことにならなくてよかった、と思った。
ーーーーーーーーーー
「では、こちらに並んでください! これから班決めを行います!」
あの喧嘩騒動から10分ほどして、ついに試験へ向けた準備が始まった。
さっきの言葉通り、今回の試験、『班』に分かれて行動する科目があるらしい。
想定外ではあるが、何とかなるだろう。
「キバさん、ですね。37班になります!」
その数字に良し悪しなんてないだろうが、何とも言えないと思ってしまう数字である。
俺は本部本棟へ入り、所々の壁に貼られている案内の紙に従いながら37班の待機室を目指す。
道を間違えたのか、時々来た道へと戻って来る冒険者たちに会釈しながら、俺はついにそこへたどり着いた。
「失礼します……」
ドアを開けると、1人の男と1人の女がいた。
「お、君が三人目? よろしくね!」
と、女が言う。
「……よろしく」
男の方は緊張しているのか、ぼそっとそう言った。
「よろしくお願いします。俺はキバです。ランクは……E+級です」
俺は言っていて気づいた。
ランクの更新前である俺はあまり良い顔をされないかもしれない、と。
案の定、男の方には嫌そうな顔をされた。
「私はサキ! ランクはD+級だよ!」
嫌な顔一つせずそう言ってくれたのはサキという女子。
元気な性格に薄いクリーム色のような髪と薄紅色の瞳がよく似合う。
年齢は同じくらいか。
「……俺はカラス。ランクはD級」
嫌そうながらも自己紹介をしたのはカラスという男。
黒というより、漆黒というような……。光によって少し青みがかった髪をしている。紫がかった黒色で澄んだ瞳だ。
俺よりは年上っぽい。でも若い。
「じゃあキバ君! これ読んで!」
といってサキが指をさす。
そこに貼られた張り紙には、今回の試験についてのことが書かれていた。
『今回の入団試験について』
『・今回は、3人で1班に分かれての試験となる。
・一次試験はこの班の人間と一緒に受けるものでは
ない、それ以降は班での行動となる。
・できる限りこの部屋では暴れないでくれ。
・↑片付けが面倒だからまじでやめろ』
といった、本当に簡単な内容と、感情むき出しの主催者側の要望が書かれていた。
「……これだけ?」
「これだけ!」
俺の呟きにサキが答える。
「笑っちゃうよね!」
笑ってそう言って、部屋の中央に置かれた3人部屋のくせにでかいテーブルと多めの椅子が置かれた場所へと向かい、座った。
ちなみにカラスはもともと座っていた。
俺も真似して腰掛けようとするが、ここで放送が鳴る。
「1班から224班までのすべての受験生は、本棟入口前にお集まりください。」
(224班ってことは……672人か。多いな)
「じゃあ、行こっか!」
サキが前を歩き、俺とカラスは後ろをついていく。
本棟入口前に着くと、俺たちは声をかけられた。
「何班ですか?」
「37班です!」
そう言うと今回の試験官……のような格好をした人が資料に目を落とし、俺たちの名前を確認する。
「キバさん、サキさん、カラスさんでお間違い無いですか?」
「そうです!」
元気にそう返事するとその女性は案内を始めた。
「こちらへ……。この印の上に立ってください」
入口から少し歩いたところにある門のような印に案内された。
言われるがまま、俺達は三人でそこへ立つ。
「じゃあ、飛ばすぞ」
その印の横に立っていた顔の整った少し暗めの金髪の男がそう言って、俺たちに手をかざす。
フッ――
「……は?」
「え?」
「ん?」
俺とサキとカラスは同時に声を漏らす。
さっきまで聖裁ギルド本部にいたはずの俺たちは、いつの間にかどこかの門の下へ移動していた。
「すごぉい!!」
サキは目を光らせてそう言った。
カラスもこの一連の流れに理解が追いついていないようだった。
「ワープみたいな能力者かな!?」
「多分……そうなんだろうな」
俺も目の前のいきなり変わった景色に驚きながらそう答える。
「37班、キバさん、サキさん、カラスさんでお間違えないでしょうか」
すると、先ほどとは違う女性に声をかけられた。
「はい!」
またサキが元気に返事をすると、その女性は笑って頷き、俺たちについてくるよう促した。
見たことがない景色だ。
おそらくグランベリア内ではないだろう。
「ここは赤龍神の背骨付近の森林、その中の半径1kmほどの空間です。」
森林の中に、そんなにでかい空間があったのか。
知らなかったな。
「この半径1kmほどの空間の中は4分割されていて、あなたたちは別れてそこへ入ってもらいます。」
それぞれの空間に、同じような魔物が存在しているらしい。その中で制限時間中、生き残れっていう話だ。
「どうして4分割されてるのに3人のチームなんですか?」
と、サキが質問を投げかける。
「その4つのフィールドのうち1つは二次試験の会場になります」
疑問が解消したことによりサキが感謝を伝えて黙ったので、その女性は改めて説明を始める。
「もうこの世を去りましたが、聖裁ギルド前副団長の『結界の能力者』の能力で、ここには特殊な結界が張ってあります」
その結界の機能をまとめると、こうだ。
この半径1kmの空間では、登録された生命のすべてを管理されている。
その生命が死の危機に瀕したとき、この空間の外、聖裁ギルド本部の医務室に飛ばされる。
合否については、まず医務室に飛ばされた時点でその受験者は失格となる。
それ以外にもギルドの人間が監視していて、一人一回、魔物と戦い勝利する必要がある。
制限時間終了までにその条件をクリアしていないと脱落、というわけだ。
「こんなフィールドが用意されるほど、聖裁ギルドはこの大陸にとって重要なものなんですね」
「はい、それはもちろんです」
説明終わりにそんな会話をしながら、俺たちはそれぞれ、部屋に案内された。
3人とも別々の部屋だ。
「すげえ数……」
その部屋に集まる、224人の冒険者。
まだその全員が到着していたわけでは無いが、誰もが試験に集中していて、とてもじゃないが軽い挨拶なんてできなそうな雰囲気だ。
全員の移動が済んだ頃、再びアナウンスが流れる。
「これより、一次試験を開始します。部屋の壁のうち一面だけが開きますので、30秒以内にそこから出てください」
おそらく30秒を超えると失格。
試験参加外になってしまうんだろうな。
「ふぅ……!」
俺は力強く地面を踏み、開いた壁からフィールドへと出る。
俺の人生が変わると言っても過言ではない入団試験が、今幕を開けた。




