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第24話『あれ、もう最終日?』

「ふぅっ……」


 俺は体の力を抜きつつ、能力を発動する。


「さぁ、来い!」


 ライさんがそう言った。

 修行28日目。入団試験までの3日のカウントダウンが始まる。

 俺達は朝ごはんを食べた後、もうすっかり寒くなってきたこの場所で戦闘訓練を行っていた。


「よっ!」


 ひょいとライさんが跳んで俺の拳を避ける。

 ……それは想定内。ここからどう動くか、だ。


 俺は打ち込んだほうの拳を開きライさんの足を掴む。


「お」


 掴んだほうの手を引き、一気にライさんと距離が詰まる。

 

(行ける! 一撃を……!)


 別の方の手で拳を打ち込むが、それは手で受けられる。


(これだけじゃない!)


 俺は両腕を思いっきり引き、ライさんに頭突きする。


 ガンッ!

 という音とともに、俺の頭が揺れる。


(当たった……!)


 と思ったが、俺の視界は青い空で埋まっていた。

 ライさんは咄嗟に自分の片足を上げ、俺の顎を蹴っていたようだ。

 先ほどの音はどうやら俺が一撃を入れられた音らしい。


 揺れた頭が正常に働き始め、痛みが遅れてやってきた。やはり額ではなく、しっかりと顎が痛い。


「いっでぇ……っなぁ!!」


 俺は足を掴んでいた方の手を離し、回転して顔面へと拳を投げるように打ち込む。

 それは読まれ、さらにはその回転の勢いを利用され俺の顎へもう一撃、今度は拳でガツン、と一発を入れられた。


「ぅあ……!」


 思わずよろけ、体勢を立て直そうと横へ跳ぶがもう遅い。

 その動きを先読みしたライさんが横へ移動する俺に足をかけ転ばせた。


「おわぁ!?」


 ドサッ!と音がして、俺は地面にキスをする。


(砂っぽい……! っていうか砂!!)


 ペッと吐き出し、ガバっと顔を上げる。

 俺はデコピンされ、額を抑える。


「また、キバの負けだね。というより、勝たれたら困るんだけど。威厳的にね」


 そんなことを言ってライさんは俺に聞く。


「今の敗因は?」


「えっと……」


 俺はこの戦闘を思い返す。

 結構いい線いったと思ったが、それでもまだ粗がある。


「そう、だな……。横に飛んだのがマズイ……か?」


「そうだね。俺は右足が上がってたし、俺がすぐに踏み込みにくい斜め左後ろに下がるべきだったかもね」


 と言ったあと、そんなもんかな、と今回の戦闘の反省を終えた。

 もっとも、俺がS級という立場だったならもっとアドバイスが出てきただろう。

 今の俺の実力に見合うアドバイスが、こんなもんだというわけだ。


「じゃあ、もう1戦!」


 ライさんはパンと手をたたき、能力を発動する。

 そして俺はまた、彼のところへと踏み込んだ。


「はぁっ!!」

ーーーーーーーーーー

「ぐう……」


 午前中、10戦以上したうちのすべてに惨敗し、俺は言葉通りぐうの音が出る。


「これで午前の訓練は終わり。飯食ったあとの午後の訓練は、ザンギたちが来たときの力まず動く練習をしようか」


 あの日から、毎日の訓練にこのメニューを採用している。

 実際かなりためになっていて、俺は戦闘中に能力が解除されることはほぼなくなった。


 ……最近できた口内炎を噛みちぎる勢いで舌を噛んだときは解除されてしまったけど。


「じゃあ、今日も飯作るね」


 そう言うと、ライさんは俺へ手の平を向けて制止した。


「今日は……、酒場に行こう!」


 この1ヶ月間で2回ほど、俺たちは飯を酒場で取っている。今日が3回目だ。

 俺も体が変化してきていっぱい食べるようになったというのに。

 毎日俺につきっきりのライさんのどこにそんな金があるんだか。


 そんなことを考えながら、俺たちは山を下りた。


 やはり森林には魔物が湧くもので、魔力を持っているだけでも簡単に制圧できそうだが、結構な数のゴブリンを見かける。


 まだ魔力を持たない俺にはかなり頑張って一匹倒すのが限界だったな。

 初採取系任務のあの日を思い出しながら、ゴブリンを制圧しながら進む。


(今となっては能力使わずとも楽勝、だな)


ーーーーーーーーーー

 真昼、午後12時を少し超えた辺りで俺たちは酒場に到着した。

 昼ご飯をとる冒険者たちの、力強く活気のある声が響いている。

 俺達は入り口の扉を開け、ゆっくりと中へ入る。


(そして、やっぱり今日も……?)


 酒場に入った瞬間、歓声が沸き上がる。


「S級のライさんじゃねぇか!!」


「えっ!? ……きゃー! やっぱりイケメン!!」


(うぅっ……。ライさんへの視線が流れ弾で飛んでくる……)


 俺は前に立つライさんへの視線を羨ましく、そして少し呆れたように思い、声をかける。


「行くよ、これ以上人増えると飯くんの遅くなるって」


「そうだね! じゃあ……、あの席にしようか!」


 隅の方に並べられた2人用の小さなテーブルに腰をかけて店員さんを呼ぶ。


「ライさん先どうぞ」


「そう? じゃあ……、牙イノシシの角煮……と、森林ワームドレッシングのシーザーサラダで。」


 牙イノシシはD級の魔物。

 E級台には食える部分が少ない魔物や食えても不味い魔物しかいないので、この安値の角煮は冒険者に人気のメニューだ。

 味もうまい。


 森林ワームはC+級の魔物。

 少し値が張るが、魔物を使ったドレッシングの中ではA級の魔物よりも美味しい。

 わざわざ高めの金を出して食いに来る冒険者もいるほどだ。


「じゃあ、おれも同じ角煮と、サラダをお願いします。」


「はい、少々お待ちください」


 そう言って、俺たちに米と水を配膳して奥の方へ戻っていった。

 酒場では米と水は頼まずとも来る。なんと無料だ。


「合計金貨1枚と銀貨1枚……。酒場来るたびこんな食事して……。その金どこから湧いてんだよ」


「S級だからねぇ。そりゃ、金持ちさ。まだまだ底をつきないよ。それに、S級特権で半額になるし」


 どうやら、『S級冒険者』だからこその制度があるらしい。

 酒場の料金について、

 E級台は何も変わらず。

 D級台は1割割引。

 C級台は2割、B級台は3割といったように、ランクの桁(文字)が上がると1割ずつ割引が大きくなるようだ。

 S級は五割。ほぼ飯食い放題じゃねぇか。


「任務報酬もおいしいんだよ。竜種(ドラゴン)の魔石報酬だけで金貨3枚は稼げるし」


「そんなに簡単にA級の魔物の話をするな」


「ごめん」


 このレベルになると、俺がたどり着くのはもっと先になるであろう話だな。


「おまたせしました。牙イノシシの角煮2つと、森林ワームドレッシングのシーザーサラダ2つです」


 そう言って俺たちが座るテーブルに合計4つの料理が運ばれる。

 腹減ってたから輝いて見えるな。


「「いただきまーす」」


 2人で声をそろえ、俺たちは料理を食べ始めた。


ーーーーーーーーーー

 食い終わり、その後はいつも通りの訓練をして一日を終えた。

 29日目も何事もなく終わり、ついに最終日を迎える。


 いつもより晴れた空、それでも気温は下がる一方。

 乾燥した空気が俺達を包み、より一層冷たく、俺達の肌に突き刺さる。


「寒ぅ……」


 俺は一人、そう呟く。

 冒険者の大半は、魔物から、環境から肌を守るため夏でも長袖を着ることが多い。

 俺もそのタイプで、今よりも夏の暑さのほうが辛かったものだ。

 いくら冒険者が着る長袖は通気性がいいからって、半袖で過ごしてきた過去を持つ俺にはまだ慣れないのだ。


 とはいえ、まだ冬に入ったわけではない。

 本当に寒くなるのはまだこれからだ。


「はじめるよー」


 その呼びかけに応えるように、俺は自分の頬をペチッと叩く。


「っし……」


 ライさんが能力を発動。俺は斜めに切り込み、ライさんの左半身側へ。


 こちらにビームを飛ばす瞬間、体の力を抜き右足を前に出す。

 その足に思いっきり力を乗せて、進行方向を反転。

 それを読んでいたライさんはすぐに俺へビームを放つが、俺もそれを読んでいる。


 ジャンプしてそれを避け、さらに来るもう一撃をスライディングで避ける。


「おぉ」


 ライさんが声を出す。

 標的は目の前、1mないほど。

 俺はスライディングの勢いを殺し、前足でライさんの足を蹴る。


「ぐぁ……」


 だけどその足は俺が怪我しない程度に踏んで止められ、拳が目の前に迫りくる。


「うっ!?」


 俺は咄嗟に体をひねり、それを避ける。

 能力の出力を上げ、踏まれている足を思いっきり上に持ち上げる。


 だが、ライさんはその直前に足をどけて、俺に蹴りを入れた。


「かはっ……」


 一瞬息が止まるが、まだ終わっていない。

 その蹴りで少し後ろに飛んだ俺の体を、追撃するようにこちらへ拳を向ける。

 頭部の動きのみでそれを避け、迫りくるライさんにこちらから一歩、踏み込む。


「うわ」


 バシィッ!

 俺の拳はライさんに手で防がれ、俺は空中に放り投げられた。


「おわぁあ!?」


 どうすることもできず、地面に背を向けた状態で落下する。

 それをライさんがお姫様抱っこで受け止める。


「よくできました! 今日の修行はここまでにしよう!」


 抱えられたままそう言われた。


「……いや、これちょっと……結構恥ずかしいんだけど」


 午前中、寒さの中行われた戦闘訓練を最後に、俺たちは休憩に入る。

 俺は早めの休憩に違和感を覚える。


(……明日ってもう入団試験!?)


 思い出したように咳き込み、ライさんに「風邪?」などと聞かれながら俺たちは家の中へと入った。

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