第23話『ちゃんと知って、ちゃんと使う』
この話は本日2話目の投稿です。
修行開始から20日、つまり制限時間の三分の二が経過した。
残りの10日で俺は能力を使った戦闘をほぼ完璧まで持っていく必要がある。
俺が拉致されそうになったあの一件、そのときから一歩ずつ、その道をたどっている。
「はぁ……」
ため息をつくと、ライさんが顔をのぞき込んできた。
「どうしたの?随分テンション低いね」
「随分、と言うにはため息一つついただけなんだけど」
それでも俺は自分の不安を話した。
「入団試験……っていうのは、具体的には何やるもんなの?」
「……それは……。うん、教えられないかな。俺の弟子とはいえ、入団試験は受験者一人だけが有利な状況でやるものじゃないし」
「だよねぇ……」
俺はまた一つ、ため息をつく。
その試験内容が、魔力測定や身体能力テスト、とかならなんとかなるだろう。
だが、魔物との戦闘、対人戦などが行われるなら別だ。
はっきり言おう。俺は能力を使っての戦闘が苦手だ。
ファイバには、身体の使い方を教えてもらった。
その説明はちゃんと一つづつの動作が理解できるもので、それが俺にはわかりやすかった。
「魔力……ってなんなんだよ……」
能力を使うってことは体内の魔力を活性化させるってこと。
筋肉を動かして熱を持つように、魔力もそんな感じ。
……っていうのは俺がしている解釈。
俺と同じ境遇の人を聞いたこともないし、ライさんもそう言ってる。
だから、ちゃんとした理解によって強くなってきた俺には、なかなか難しいものなのだ。
「いやぁ……。うまく説明できなくて悪いね、本当に」
「多分、ライさんが馬鹿なわけじゃないよ」
生まれ持った身体的なものに、当然のように魔力が含まれている。
俺はそうではなかった。
その状況で生きてきて、今になって魔力という新しい要素が加わり、たった1ヶ月で感覚を掴めるはずなどなかった。
「これをどうにかできなきゃ、合格は難しいかもなぁ……」
俺は心の内をそのまま、1人呟くのだった。
ーーーーーーーーーー
「ってことで、この2人に来てもらいましたー!」
「……はい?」
20日目、その午後。
昼飯を終えたライさんはすぐに家を出ていって、数十分で帰ってきた。
「聖裁ギルド第三支部所属の2人の冒険者だよ!」
ここに連れてこれるっていう状況を考えれば、そんなこと分かりきってる。
「紹介の通り、ザンギだ」
「……同じく、ハナ、です……」
ザンギという男は筋肉で覆われた身体をしていて、金の短髪の冒険者。23歳、A-級らしい。
ハナという女子は体つきは貧相で、身長も小さい、茶髪のロングヘアーの冒険者。15歳で、A+級だ。
「キバ、だったか。お前の悩みを解決してほしい、ってライさんから聞かされてな。ここまで出向いてきたってわけだ。」
「同じく、です……」
ライさんが2人についてさらに説明を加える。
「ザンギはキバと同じ身体強化系の能力者。同じ系統の能力者なら何か分かることがあるかなって思って連れてきた」
それと同時に、ザンギさんが軽く手を差し出したので、俺はその手をつかみ、握手を交わす。
「ハナは……そうだね。一言で言えば、『バッファー』だよ。役割的にはヒーラーと同じサポート系なんだけど、仲間の能力や身体能力を強化、補助してくれるものなんだ」
ハナさんがペコリと頭を下げる。
俺は同じようにその動作を真似る。
「そんな彼女なら、何か魔力と筋肉に関する関連性がわかるんじゃないかな、って思って連れてきたよ」
「よろしくな、キバ」
「よろしくお願いします……」
「……お願いします!」
軽く挨拶を終えた俺たちは、揃って外に出る。
なにかこれで掴めるものがあればいいな。
「てことで早速、見せてもらおうか?」
「……お手柔らかに」
俺は強く踏み出す。
ザンギさんがそれに合わせて俺の顔面へ、右の大振り。
ライさんのそれに比べて少しゆったりとしたその攻撃に合わせるように、俺はザンギさんが防げないように、左足で顔面へ蹴りを打ち込む。
……が。
「そう来るよな」
ザンギはそれを読んでいた。
その蹴りの高さに合わせて頭を下げて、軽々と避ける。
同じ近接系、身体強化系だからこそ、俺の戦い方が読まれている。
……ライさんは別に同じ系統じゃないけど、S級だから例外とする。
(やべぇ……!)
俺は後ろへと回避行動を取ろうとするが、集中が続かなかったのか、能力が解除されてしまった。
「……うわ!」
「遅い!」
ドガッ!っと音を立て、俺の腹へと拳が打ち込まれた。
「かっ……は……」
俺はその場に倒れ込む。
俺の勢いを利用したその一撃は、ザンギさん的にはそんなに威力を乗せたつもりがない。
だが、とても重く、しっかりと芯をとらえた一撃だった。
立ち上がることができず、その戦闘はあっけなく俺の敗北で終わる。
「何かわかった?」
と、ライさんがザンギさんに聞いた。
「そうだな……。力みすぎ、だな!」
俺の戦闘での改善点を一言で言い表したあと、ザンギさんは説明を始めた。
「俺も苦労したぜ。能力を使い慣れてない、子供の頃はな。なんせ昔から筋肉質で、冒険者をやる前は能力を使う必要がなかったんだ」
と、自分の境遇を語った。
能力を使えなかった俺と、使う必要がなかったザンギさん。
全く異なるものではあるが、ただ一点、能力を使ってこなかったっていうのは同じ。
「自分の基礎身体能力1つで生きてきた俺には、能力を使った戦闘ってのがまぁ難しくてな……。っと、ここまでで理解できたもんはあるか?」
俺の何一つピンときていない顔を見て、ザンギさんは豪快に笑う。
「まぁ、そうだよな。簡単に言えば、魔力と筋肉を併用するとき、筋肉に頼ってきたせいでそっちに偏る癖があるんだ。」
「……なるほど」
確かに、俺は有効な一撃を与えようと、体が力んでいたかもしれない。
「話を聞く限りじゃあ、歩くとか走るとか、そういう動作はもうできてきてるんだろ? そのとき、戦闘するときみたいに力んでるか?」
その一言で、俺はハッとする。
魔力を使うということ。
その訓練、俺は直立した状態から始まった。
力む必要がない、その状態から始まり、日常生活、力むことなんてない動作から徐々にこの戦闘訓練へと進んできた。
「頭は魔力に集中してても、体が筋肉に集中してしまう……?」
「おう! 飲み込みが早ぇなキバ!」
そう言ってバシッと背中を叩かれた。
うぅ、さっきの腹への一撃に響く……。
「ハナはなにかある?」
「……ぇ、あ」
間抜けな声を出し、ハナさんは慌ててこちらを向く。
「……あの、失礼します」
「あ、はい」
ハナさんは俺の胸に触れる。
小さい手、それが俺の胸に触れている点から徐々に体の中へ、体中へ、不思議な力が広がっていく。
「……力のバフをかけました。触ってすみません……」
変に力まずとも、俺の能力を使った時のような威力が出そうだ。
「力のバフは主に筋肉に作用します。……私の能力は、そうですね……。あなたに通っている魔力腺とは別に……えっと、作用する部位に膜を張る……?みたいな感じです」
その魔力が変換され、力や防御、速度などの強化に繋がるんだとか。
「いまなら……力を入れなくても、能力を使ったときの半分くらいの威力は……きっと、出せます。……あの、やってみてください」
そう言われたので、俺はザンギさんへ拳を向ける。
(力まないように……、軽く……)
ガスッと音を立て、ザンギさんの分厚い胸に直撃する。
「さっきのより良い一撃だな」
「そう、ですか?」
その流れを見守っていたハナさんが、しゃべり始める。
「力まずとも威力が出る。その状況に慣れるまで、やり続けてください。……その間、バフはちゃんとかけますので……」
と、言ったあと、こう付け加える。
「ライさんの話では、もう直立している状態での能力使用は力みがほぼない、と言っていました。……なのでこの訓練が終わったあと、その直立した状態でただ腕を引いて、前に突き出してみてください」
喋り終えたあとのハナさんは何かをやり遂げたような清々しい顔をして、ふんと鼻息を鳴らした。
その後俺は1時間ほどザンギさんをサンドバッグにして、バフをかけられた状態で殴り、蹴り続けた。
ーーーーーーーーーー
「行きます」
俺は直立のまま能力を発動し、ただ腕を引き、前へと突き出す。
その拳はサンドバッグザンギさんに直撃した。
「……力んでない、いい攻撃だね」
ライさんがそう言った。
「そうですね。これで……私ができることは終わりました」
「俺も、キバのサンドバッグになるぐらいしかやることがないし……。ここからはライさんに引き継いでもらうとするか!」
と言った後、ライさんの何とも言えない顔を見てザンギさんは豪快に笑った。
「じゃあな! キバ! たった2時間くらいだけど、新鮮で楽しかったぜ!」
「私も、私みたいなのが誰かに何か教えるっていう……人生の中で貴重な体験をできました。ありがとうございました」
ザンギさんは俺の手を掴み、ハナさんはペコリと頭を下げた。
会ったときと同じように。
そうして2人は俺に、俺達に背を向け、山を下っていく。
ライさんが俺に、良い一撃と言った。
それは紛れもなく、彼らのおかげだ。
訓練をしていたのはたった2時間ほど。
その2時間で、俺の悩みを解決するほど、彼らは教えるというのがうまかった。
「……あの!」
俺は伝える。
その感謝を、晴れたその気持ちに任せて。
「ありがとうございました! あなたたちのおかげで……! 俺……俺は、大きく成長できました! 一緒にいたのはたった2時間ですけど、俺の中であなた達は恩人のような存在です!」
そう言って、俺は大きく息を吸う。
(いずれ訪れる……、いや、俺が自分からたどり着く、その日を……。その覚悟を……)
「いずれ! あなたたちに会いに行きます! 肩を並べて戦ってみせます! 本当にありがとうございました!」
俺は言い切った。
確定した未来ではない。だけどきっとその未来を掴んでみせる。
そしてもう一回、感謝を伝えに行こう。
あなたたちのおかげで俺はここまでこれました! って。
その言葉を聞いてザンギさんはこちらを振り返らず手を軽く挙げて、ハナさんはただ目元を袖で擦っていた。
遠くなっていくその後ろ姿に、俺はもう一度別れを告げる。
そうしてこの1日を終え、俺は家へと戻ったのだった。




