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第22話『S級冒険者の実力』

 採取系任務を受けて、数日が経過した。

 俺はというと、能力発動中の日常の動作がだんだんと無意識的にできるようになってきていた。


 しゃがむ、料理をするなどの細かい作業も、きちんとこなせるようになっている。


「こういう小さいことの積み重ねが、後々の能力の正確さや繊細さで分かれる実力の一歩になるんだよね」


「そうなんだ」


 俺はそう返した。

 内心、焦ってきている。

 もうここに来て12日が経過した。残りは18日。

 戦闘訓練を一切せずここまで来ているので、本当に入団できるのかと疑問を抱いている。


 そんなとき、ライさんからついに新しい訓練について伝えられた。


「じゃあ、そろそろ戦闘に移ってもいいかな」


 と。


「ついに俺の大躍進が始まるのか」


「それはどうかな。君のセンス次第だね」


 笑い合ってそんな会話をした後、俺たちは外に出た。




 もうすぐ昼になる。

 日差しはまだ強いが、寒さは増してきている。


「じゃあ、俺が波動使ったらスタートね?」


「わかった」


 お互い50mほど離れて、位置につく。

 ライさんの上へと向いた手のひらが光を放ち、水色の波動が空へ飛ぶ。


 これが開始の合図。


 俺はそれを見た瞬間、能力を使って走り出した。


「ふっ!」


 直線的に飛んでくる波動を飛んでかわし、走り出しからおよそ3秒ほどでライさんとの距離が詰まる。

 ライさんの頭上に到着してすぐに拳を構えた。


「その能力で近接戦闘を避けないのは……!」


「お、速いね」


「悪手だ!!」


 思いっきり拳を振るったが、それは当たらなかった。


(速っ――!?)


 俺は背中をパンと叩かれた。


「俺の手の内も分からないのに分かりやすい動きで距離を詰めるのも、悪手だよ」


「うお!?」


 俺は慌てて距離を取る。

 先程まで俺の正面下側にいたはずのライさんは、いつの間にか俺の背後を取っていた。


「あんたの能力は波動だろうが……! なんで俺より速いんだよ?」


「まぁ、S級だし?」


 ライさんは微笑んだ。

 その瞬間、目の前に波動が迫りくる。


「は!?」


 俺は能力を発動し全力で腰を反らし、顔面への攻撃を回避した。


 スレスレで回避したが、腰を反って逆さまになった視界の中には、ライさんがいた。


「はい、2回目のゲームオーバー」


 俺は腰を反る回転の勢いをそのまま、バク宙をしながらその頭をめがけて蹴りを打つ。

 ……が、またしても当たらず。


「いやぁ、身体の使い方は素人にしてはしっかりとしてるね。誰かに教わったの?」


 俺の背後にいたはずのライさんは近くの木の上にしゃがんでいた。


「さっきからこっちには当てる気で攻撃しないで逃げてばっか……!」


 そこまで言うと、視界に収まっていたはずのライさんは姿を消した。


「仏の顔も3度まで、だよ!」


 ガッ!

 俺の視界はすぐに暗転し、ここで意識を失った。


ーーーーーーーーーー

「ぅあ……」


「気持ちのいい昼寝はできたかな?」


 俺の視界はライさんの顔がドアップで収まっていた。


「うわぁ!?」


「いやぁ、まだまだだね。キバ」


 そんなことを言われた。

 実際そうなので何も言い返せず……。


「ランクが13個も違うじゃん!」


「まぁ、たしかに!」


 ケラケラと笑いはじめ、それが終わるとライさんはこう言った。


「俺の能力は波動。魔力を魔力腺から放出するだけ能力。これは前にも言ったよね」


 そう、この話は聞いている。

 だからこそ、ライさんの身体能力を疑問に思っているのだ、


「そのシンプルな内容の割に、使い方がいろいろあってね」


 例えばビーム。これは先ほどの戦闘でも使われたもの。

 例えば感知。これは俺の能力が判明したときと、ゴブリンを感知したときのもの。

 

「そして、強化。物質に魔力を付与することでそれを間接的に強化することができる」


 刃物の斬れ味や、盾の耐久力など。

 それを自分の筋肉に応用しているらしい。


 だから、遠距離だけの能力ではなく肉弾戦もある程度ならできるんだとか。


 あ、魔力を譲渡するっていうのもライさんのような魔力放出系の能力者にしかできなくて、さらにその中でも魔力のコントロールが超上手な人にしかできないらしい。


 自分の魔力腺から他人の魔力腺へ、魔力を通し、流す。

 原理はこういうものなんだと。


「筋力強化がメインの能力者なのに、俺みたいなのに手こずっているようじゃこれからやっていけないよ?」


「逆に手こずらず圧勝しちゃったらそれはもはや俺がS級冒険者じゃんよ!」


「あはは、たしかに!」


 2人で笑って、今日の訓練は終了した。


ーーーーーーーーーー

 それからは、日々の訓練に必ず戦闘訓練が組み込まれるように。


 さらに、それに必要な殴る、蹴るなど基礎となる体の使い方、それに能力を使ったその動き方の調節など、普段の訓練はついに入団試験に向けた本格的なものへとなっていった。


 2日、3日と日々が過ぎていく。

 未だ勝てるという未来が1度たりとも顔を出さず、ライさんの強さの底なしさを実感していく。



 戦闘訓練が組み込まれて4日目。


「あ……。食材がない……」


 朝、いつもの食材を保冷している場所を見ると、それがなくなっていることに気づいた。


(まだ朝ごはんには早いし……、今日は間に合わないけどグランベリアに行って食材買おう)


 そう決めて、俺はライさんを置いて家を出た。


(なるべく早く家に帰ろう)


 俺は能力を使い、一気に山を駆ける。

 一瞬、木々の緑と茶色の中から、自然にふさわしくない派手な模様が目に入った。


(……ん?)


 俺は立ち止まり、能力の発動をそのまま、そちらを振り向く。


「誰かいるのか……!」


 ただの登山客なら、素直に返事をするだろう。

 だが、2秒、3秒とたっても一向に返事は返ってこない。


「買い物しに来ただけなんだが……」


 俺はそれを無視することに決め、また山を下る道の方向へと顔を向ける。


「やっと見つけたぁ」


「うっ……!?」


 声のする方へ振り向き、拳を振るう。

 そこには何もおらず、俺は後ろから口元を押さえられた。


「探したよぉ? 脱走した失敗作君」


(こいつ……! まさかアクロセスの……!?)


「んー!! んぅ!!」


「叫ぼうとしても無駄だ」


 どこからか、こいつとは違う声が聞こえた。

 と同時に、俺は縄のようなもので体を縛られる。


「捕獲成功、だな」


「あっけないねぇ」


 目の前に現れたのは2人の男。

 1人は目に眼帯をしていて、もう1人は前髪の長い黒髪の男だった。


「我が家へ帰ろうか」


 口元の手がどかされる。


「絶対に嫌だね! 俺はこの冒険者って職でやることを見つけたんだ! お前らが誰だか知らないけど、俺はこの道で生きていく!」


「誰だか知らないけどって……。はは、面白い冗談だなぁ」


「気が狂ったか? キバ」


 どうやら失った記憶のなかでの俺の知り合いらしい。


 また叫ばれても面倒だ、と俺は口にきつく縄を巻かれ、そいつらに運ばれた。




 山からグランベリアに着くために通る道を途中で曲がり、俺を担いだまま森の中を走っていく。


 なすすべなく、俺は運ばれる。


(能力を使って……)


 この縄をちぎろう、とも思ったが、俺はあの家では失敗作とされていた。

 それでもし能力者だということがバレれば、変な実験や拷問に合うかもしれない。

 やめておこう、隙を見て脱出するんだ……。


 と思ったが、俺は行く道の先を見て、変に力の入った体を脱力させる。


(なんとか住む家まで戻れそうだ……)


 そして俺は心の中でそう思う。

 俺はここから脱出できるのだと、確信した。

 なぜなら……。


「その子今うちの弟子なんだよね。アクロセス関連の人なのかもしれないけど、返してもらうよ」


 木の枝に立って、走り抜ける俺とこの二人を見下ろしていたのは、S級冒険者、ライである。


「てめぇはコイツと違って雑魚じゃねぇみてぇだな」


 ライさんは俺が抵抗していないのを見て、俺が能力を使わない理由を一瞬で察知したのか、こう言った。


「その子は無能力者だけど、S級の俺が鍛えれば強くなるかもね。今の君たちを超えるくらいには」


 ヒュッ!


(え、えぇ……?)


 俺の横を通り過ぎるビームが、二人の腹に直撃する。

 それは威力が抑えてあり、速度だけが普段の比ではなかった。

 直撃したビームはその体を貫通しては居ないようだった。

 だが、それでも動きを止める一撃には十分。


「て……てめぇ……!一体なんなんだ……!?」


「冒険者。数いるうちの一人、ただの冒険者さ」


 もう一撃ずつ、2人にビームを放って、いとも簡単に制圧した。

 俺が簡単に背後を取られる相手。

 それを一瞬にして制圧してみせた。


(本当に……。実力の底が見えない人だ)


「食材買って、早く帰るよ。朝飯まだなんだよね!」


 俺のことを複雑に縛っている縄をビームで溶かし、ライさんはそう言った。


 今の一件を、ただの日常だと言わんばかりに、落ち着いた声で。

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