第21話『日常をより正確に』
俺達は朝ご飯を食べ終わり、外へ出る準備をする。
「今日は冒険者ギルドに行くよ!」
「ん……なんで?」
俺はまだ戦闘ができない。
能力なしならできるが、能力発動しての戦闘は多分難しく、実戦として任務を受けに行くならまだ早いと思う。
「自分の能力について、キバも登録のときに書いただろ?」
あのときの俺は、確か「能力なし」とだけ書いたんだっけか。
冒険者ギルド員で唯一の知り合い、ルルさんという受付の女性。
ルルさんも最初は俺が冒険者をやることに戸惑っているようだった。
「自分で理解している自分の能力について書く。だけどその能力が実は少し違うものだったってのはよくあることで、そういうときのために冒険者ギルド側は能力詳細情報の更新ってのを受け付けてるんだ」
と、いうことらしい。
俺も無能力者だと思っていたが、実際は身体強化系、その中でも筋力を強化する系統の能力者だということが判明した。
これはつい最近の出来事だ。
こういうとき、無能力者として生きていくのは世間的にも能力を偽っているとしてあまり良くないということ。
「じゃあ、俺は能力の詳細情報を更新しに行けばいいってこと?」
「その後任務も受けるよ」
ライさんは、もちろん、採取系のね。と、付け加えた。
無能力者が能力者になる、なんて、珍しいことなんじゃないか?
変な目で見られないといいな。
ーーーーーーーーーー
俺達は森を抜け、グランベリア内の5つの冒険者ギルドのうち俺がいつも行くところへと足を運んだ。
入口から冒険者ギルド内へと入ると、すぐにざわつき始める。
「ライさんだ……!」
「いつも応援してます!!」
ライさんは顔がいい。そのうえ優しい。
S級だからか異質なオーラを放っているものの、それ以外で見れば若いイケメンだ。
その性格、容姿のおかげか、ファンというものが多いらしい。
ライさんはこういう人たち一人一人に目を向け、笑って、ありがとう、などと返す。
この人の後ろにいると、なんだかこっちまで人気者になったと勘違いしてしまう。
実際、そんなことは全くない。
「ルルさん、いますか?」
ライさんが受付の一人にそう言うと、奥の方、扉からルルさんが顔を出した。
「ライ様、ここに顔を出すなんて珍しいですね!」
丁寧な口調で話し始める。
「どんなご要件で……?」
「用があるのは俺じゃなくて、ここにいるキバなんだけどね」
ルルさんはこちらに目を向け、前と何ら変わりのない目で話しかけてくる。
「キバ様、キラト様の件は……残念でした。今回はライ様とチームでも組むのですか?」
ニコニコしながらそう言う彼女は、キラトさんの一件で本当に悲しんでいるのかどうか、俺には見抜けなかった。
「そういうわけではないんですけど……。能力の更新で……」
そこまで言うと彼女は理解したようだった。
ただ、理解と同時に驚きが来たようだ。
「あ……、え!? キバ様……は無能力者で登録されていますが……」
数日前、俺もその反応になったな。
自分のことなのに。
「実は……自分に能力があったことに気がついていないだけでして」
「な、なるほど……? では更新の手続きをするため、奥の部屋へ一緒に来て頂けますか?」
この反応を見る限り、やっぱり無能力者から能力者に更新しに来るっていうのは珍しいことなんだろう。
受付のカウンターの中へと招かれ、俺は前を歩くルルさんについて行った。
さっきルルさんが出てきた、受付カウンターの奥の方。
あそこから見ていたときは扉で隠れていたものが明らかになる。
受付カウンターにある4つの接客窓、その4つにはいずれもこの扉があり、そこを抜けると1つの廊下につながっている。
廊下の左右には様々な部屋があった。
その中で俺が見たものだと魔物資料室、冒険者情報資料室、魔石鑑定計算室などがあった。
最初の2つは見てそのままだが、魔石鑑定計算室はなんだろう。
冒険者たちが魔物を倒して手に入れた魔石の鑑定、それを銅貨や銀貨などに換算するときの計算室、そんな感じか?
そんな事を考えていると、目的の部屋へ着いたようだ。
冒険者情報更新室。
(冒険者情報資料室とは別にあるんだな……)
さっき見たその部屋へ視線を向けると同時に、ルルさんが更新室の扉を開いた。
俺とルルさんは中へと入り、向かい合って席へと着く。
「では、能力の詳細についての説明をお願いします」
そう言われたので、俺は自分が確認したこの能力の全てを話した。
「えっと……。系統は身体能力強化系のものです。その中で、防御の強化率はあまり高くありません。速度はある程度出ます、けど、その時の地面の抉れ方や、筋力面での強化率を試した時の攻撃の威力が高いことから、メインは筋力を強化するものだと思います」
この情報の他にも、魔力ロスで稲妻が発生すること、魔力の相性の話からまだ能力が完全なものかわからないことなどを話した。
「……その能力詳細情報から、冒険者ギルドからは『覇力』と名付けさせていただきます。」
「覇力……!」
いい名付けだ。ライさんの『波動』よりもかっこいい!
「では、このことは冒険者情報資料にも記載しておきますね。では、これからも、良き冒険者ライフを!」
そう言って、俺はルルさんと別れた。
来た道を引き返し、受付から出る。
「どうだった?」
ライさんに聞かれたので、俺はふんと鼻を鳴らし答える。
「覇力、いい名前でしょ!」
「はりょく……? どんな字?」
「覇王の覇に、力!」
「いやぁ、かっこいいなぁ……」
それな。
ルルさんに感謝せねば。
俺達はそのまま依頼板へと向かい、採取系の任務を手に取る。
「じゃあ、行こうか!」
ライさんは手続きを終え、俺にそういった。
ーーーーーーーーーー
グランベリアを出て、俺たちが住む山へと向かう道の途中、森に入って数分のところで、俺たちは止まる。
「この任務は魔力草の採取だね。今回はどれだけ取れるかってより、草を抜く際のしゃがむ、かがむ動作とか、摘むときの細かい動作なんかをより丁寧にやることが重要だよ。」
能力を発動して、しゃがみや細かい動作をする訓練。
歩く、走るなどの大きい動作ではなく、こういった地味なところから、俺の能力は少しずつ日常へと溶け込んでいく。
そこを目的にした訓練だ。
俺は先ほど名付けられたばかりの覇力を発動し、付近の木の根元にしゃがみ込む。
そこに生えている魔力草を細かい力加減で抜き、袋に入れる。
……これはなかなか神経を使うな。
「俺が波動でキバの魔力の流れ、乱れを見るから、安定してきたらこの修行を終わろう」
「おっけい」
俺は次の木の根元、またその次の根元へと場所を変えながら魔力草を集めた。
しばらく集めていると、ライさんがこういった。
「キバを起点に半径25mくらいで波動を発動してるけど、今キバの動き以外にもう一つ、生命の動きを感じた。多分この形は……ゴブリンかな」
「そんなことまでわかるの?」
「うん。俺の波動の能力の殺傷力を極限まで無くして、展開する。そのあとは魔力を流さずその魔力の波を動かさないことで、生命体の大きい動きによって無理やり動かされた波を感知してるんだ」
その生命体の種類を見分けているのは大まかな大きさと、形状。あとは慣れらしい。
「来るよ」
あのとき、ファイバと約束したはずの戦い。
任務が終わった次の朝練でゴブリンと戦いに行く、そんな感じだったか。
今、成長した俺の実力が試される時だ。
改めて集中し、ふっと息を吐く。
「……あれ?」
俺は強く踏み出した。その後止まるためのブレーキをかける部分で、能力が解除されてしまったらしい。
その前進する運動を止める力が足りず、俺はゴブリンを通り越して正面の木に突っ込んだ。
「いてて……」
木の幹に体を打ちつけたが、悔しさはなかった。
ただ、この能力を使って踏み出す一歩が爽快だった。
だけど俺は覇力を解除し、素の力で戦うことにする。
あのときと違い、俺は魔力を持っている。
ライさんが言っていたように、能力の有無、優劣以外に、魔力の有無、その量によっても身体能力に差が出る。
前よりは少し楽に戦えるはずだ。
目の前のゴブリンに向かい走り出す。
おなじみの木の枝のような武器を振り下ろしてくるが、それは前回の戦闘からも想定済み。
軽くそれを避け、ゴブリンの足に蹴りを入れる。
よろっと崩れたそいつは持っている枝を突き出してくる。
「あぶね」
顔をひねって避け、さらに顔面に一撃をたたき込む。
近くに武器もないので、握力が弱まったゴブリンから俺はまたその武器を奪い、その胸部に突き刺した。
「おぉ……」
ライさんは感心したような声をあげた。
俺も実際自分の成長に感動している。
魔力があるってのも大きい。だけど、それ以前の戦闘における攻撃する部位と、その正確さに磨きがかかっている。
前回ゴブリンと戦ったときから、俺はあのチームで何度も戦闘をした。
それに加え、山での山登りの訓練で鍛えられた判断力もある。
そのすべてが俺の戦闘技術の底上げに貢献しているだろう。
血の匂いが広がったこの場所で俺はその魔石を拾い、ポケットにしまって採取任務を再開した。
程なくして俺達はその訓練を終え、冒険者ギルドで任務終了の手続きをした。
前回と同じように、倒したゴブリンは1体だけなので任務報酬以外の報酬はない。
稼いだのは銅貨は2枚。
訓練が目的とはいえ、ちょっと悲しくなるな。
少し悲しい気持ちと真逆のような、地面を照らす陽の光を見ながら、俺達は暗い森を抜けた先の山、そこにある住む家へと帰るのだった。




