第19話『この景色を、この感情を』
昼を食い終わり、俺たちはあの山の家へと戻ってきた。
程なくして、午後の訓練が開始する。
能力を発動、それから維持。
周りの稲妻は、先程のようにバチバチと駆け巡っている。
「あとは能力の操作。やってみようか」
言われるがまま、俺はその稲妻を操作しようと試みる。
だが、何回やっても電撃を飛ばすとかそういうのはできそうにもない。
「……あれぇ……?」
するとライさんが近づいてくる。
「少し暖かくなるかもしれないけど、それは俺の能力だからね」
一気に気温が上昇する。
といっても少し暖かくなったくらいだ。
「……うん、やっぱりキバのそれはただの魔力放出だね」
そう言うと、すぐに気温が下がっていく。
「俺の能力は波動。魔力腺から魔力を放出するだけの能力だ」
俺はその話に集中するため、能力を解除する。
「君の能力は多分その稲妻じゃない。このあたりを俺の波動で包んでその中で何か変化したものを読み取った。それでわかったのは、キバの稲妻が『能力』のものではなく『魔力』そのものだってこと」
よくわからない。どういうことだろうか。
「つまり俺の能力は別の何かってこと?」
ライさんは俺の身体にポンと手を置き、それに答える。
「君の体内で魔力が運動力に変換されて筋肉が働いてるってのが検知できた。たぶんその稲妻はそのエネルギー変換の際の魔力ロス。それが体外に出たものだと思う」
魔力が運動力に変換。
それによって筋肉が働く。
なんとなく話が見えてきた。
つまり、俺の能力は……。
「身体能力強化系、か?」
「正解!」
ライさんはパチンと指を鳴らし、俺に指を向ける。
「それが全体的な強化なのか、それとも防御力、速度、パワー、そのどれかなのか。まだ分からないけど、とりあえず実践するのがいいと思うよ」
俺の能力は身体能力強化系のもの。
それが分かったら試すことは一つ。
「俺を殴って!」
ライさんはこの一言で何をしようとしているか理解したようで、軽く拳を握る。
「じゃ、行くよ!」
ガッ!
能力を発動していない時の痛み。
殴られた腹が痛む。ズンと響くような痛み。
俺は少し休憩し、能力を発動する。
「もう一発!」
「はいよ!」
ガッ!
きっとこの人は同じ強さで殴っている。
多少痛みは軽減されているものの、その軽減率から防御力がメインで強化される能力とは思えない。
じゃあ、次は別のことを試そう。
ーーーーーーーーーー
「ちゃんと測っててくれよ!」
「大丈夫だって!」
そんな会話をして、俺は50m先にいるライさんを見つめる。
ライさんは手をまっすぐに伸ばし、力強く振り上げる。
と同時に、俺は走り出す。
俺のできる最大限の走りを見せる時だ。
加速、加速、加速!
「はい! ……5秒1くらい!」
魔力を持つだけでこんなに違うものか。
前までは6秒3くらいだったが。
次は能力を使って測る。
「ふぅう……」
息を吐き、俺は目を閉じる。
走るという動作はきっとまだ集中しないとできない。解除されてしまう。
「行けます!」
ライさんは先ほどと同じように、手を振り上げた。
ダン!と力強く踏み込む。
周りの景色は能力なしの時より数段早く過ぎていく。
(……え!?)
俺はあっという間にゴールした。
「おぉ……。3秒5くらいかな……?」
ライさんはそのタイムに驚いたようにそう言った。
いや、そうじゃない。
ライさんが驚いたのは、俺への視線を通り越したその先、さっきまで俺が立っていた場所。
俺は後ろを振り返った。
「はぁ……?」
そこには、直径1mほどにわたって抉れてヒビの入った地面があった。
その地面を見て、俺は直感する。
……俺の能力は、筋力増強なのだと。
いや、一応試してみよう。
そう思い、ライさんに声をかける。
「近くのあのでかい岩、あそこに行こう」
「なるほど、今度は筋力を試す感じね?」
理解が早くて助かる。
俺達は山へと入り、散歩してた時に見つけたその岩のところまで数分ほど歩いた。
目の前に、俺の身長、175cmほどの岩がそびえ立つ。
横幅もそれと同じくらいで、全体的に歪さはあるが、ちゃんとした球体状の岩。
俺は今から、この岩を殴る。
能力なしでやってびくともしないのは今わかった。
ほぼ全力で殴ったが手が痛いだけだったからだ。
バチバチ……!と稲妻が俺の周りを駆ける。
ライさんが説明してくれたことで俺の能力の内容がわかった。
それによって、筋肉の動きに集中すると、確かにそれが強化されているのがわかる。
感覚的に、だが。
「ふぅ……」
(行くぞ……!)
バシッ!
「痛っ!」
全力で岩を殴ったその痛みに、俺は焦った。
殴るという動作を能力発動中に試したことがなかったため、維持を失敗してしまったようだ。
俺は今一度気合を入れなおす。
「集中はこのまま……!」
ドガァッ!
「おぉ……」
岩が音を上げて抉れ、その次に音を発したのは俺ではなくライさんだった。
遅れて、俺もその威力に驚く。
その岩は完全に崩壊するとまではいかなくとも、その半分、それより少し狭いくらいの範囲が原型を保っていない。
……やはり、俺の能力は筋力増強系だ。
俺は改めて、俺自身の能力について理解する。
「キバの能力の内容が分かったところで、修行のメニューを組むよ」
俺達は山小屋へと帰る。
今日はとりあえずこれで修行は終了だ。
明日からの本格的な修行に向けてゆっくり休もう。
と、その前に飯だな。
いろいろなことが頭に浮かんでくる。
自分の能力に、その威力に、テンションが上がってきていた。
ファイバから習った戦闘技術も活かせる物理攻撃型の能力。
俺はこれを使って強くなってやる。
キラトさんに言われた「強くなってね」の一言は、俺に大きな影響を与えていた。
ーーーーーーーーーー
「おはよう! 早く起きろ!」
山の家生活2日目にして俺は理解した。
ライさんの生活、そのだらしなさを。
自分で起きることはない。これからもきっと俺が毎朝起こす生活が待っているだろう。
はぁ……。
うん、嫌じゃないんだけどね。
なんか、ね。S級冒険者ってこんな感じかって。
10分ほどでライさんは朝飯を食い終わり、一緒に外へと出る。
修行2日目。
ライさんが考えてきたメニューとやらを楽しみに、俺は話を聞く姿勢を整えた。
「いきなり戦闘とか、そんなハードなことはしないよ。昨日見てて思ったのは、能力発動中に走るっていうのにいちいち集中してるなってこと」
もう分かったよね、と訴えるような眼差しをこちらに向けてくる。
つまり、日常での動作、戦闘に必要な動き。そのすべてを過度に集中せずにできるようにする、ということ。
鼻歌を歌いながら料理を作る、なんて最初はできなかった。
言わば、鼻歌を歌いながら能力発動中にいろいろな動作をできるようにする。
……多分そういう訓練だ。
戦闘中にいちいち集中しないと走ることもできないようじゃ、死んでいくだけだしな。いい訓練だと思う。
「何からやればいい?」
「うーん、まぁまずはランニングかな。もちろん、能力を発動した状態で」
まぁそのあたりの訓練だとは思っていた。
能力者入門にはいい刺激になるだろう。
早速俺はストレッチを開始し、それをしながら位置につく。
「俺も一緒に走るから。いいって言うまで走るように!」
ライさんが走り出した。
俺も後を追うように能力を発動、一息はいて走り出す。
……こりゃすごい。
軽いジョギングのつもりだが、無能力者だった頃、疲れている時の全力疾走に近い速度が出ている。
俺はこの力に胸を躍らせながら走る。
とはいえ、集中が途切れないようにしながらだから疲れるな。
もう息が切れてきた。
ふと隣を見ると、軽い顔をして息切れ一つしていないライさんの横顔が見えた。
この人の能力って……波動だよな。
一体どんな原理で筋力増強系の能力者である俺についてきているのだろうか。
強がって余裕な顔をしておいて実は全力疾走、とか?
……いや、それはないな。
そんなことを考えながら、俺はペースを落とさないように山道を走る。
少し冷たい空気が頰をかすめた。
北大陸の短い夏は、あと1ヶ月とその半分ほどで終わりを迎える。
夏の中でも暑いと言える期間は少なく、同様に秋、と呼べる期間はほぼ無く、夏終了後は急激に気温が下がっていくだろう。
現在は8月1日。
俺がグランベリアに来てから1ヶ月が経とうとしている。
早いようで短いこの期間は、俺の仕事探しの1年半よりも内容が濃いと言ってしまえるほど、新しい経験をしたな。
7月6日の誕生日の3日後。
グランベリアで冒険者になり、仲間ができた。
いろんな任務を経験し、仲間の死の悔しさも味わった。
そして俺は今、こうして立ち上がっている。
新たな力を持って、新たな先生を持った。
これからの人生もきっと、いろんな経験をするだろう。
「はぁ……」
俺は暖まってきた身体から息を吐く。
体内の温度と気温との差で、その息はもう白く昇っていってもおかしくないほどだ。
いろんな経験、それをするたびにこの景色を、この感情を思い出そう。
俺は元、無能力者。
全てはそこから始まったのだから。




