第18話『何かをできるようになるのは楽しい』
目が覚める。
昨日までの見慣れた天井ではない。
そう、俺は今、山の中腹の家に住んでいる。
1人ではなく、S級冒険者のライさんと2人で。
「……って、なんで先生であるあんたが起きてないんだ……」
隣でまだすやすやと眠っているライさんを横目に、俺は朝ごはんの支度をする。
自分で料理するのは何気に久々かもしれない。
宿で売っていたものばかり食べていたからな。
「やっぱり久々に料理するってなったら……!」
和食を作ることにした。
この1ヶ月間であの味を再現できるといいな。
俺は昨日買ってきていた食材たちを取り出し、包丁を握った。
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「起きろ! 朝だぞ!」
昨日言われた通り、なるべくタメ口で声を掛ける。
やっぱりちょっとだけ遠慮してしまうな。
「ふが……。今何時……?」
本当に俺に修行させる気あるのだろうか……。
「7時。朝飯作ったから早く食って」
こうして、俺の新しい生活が幕を開けた。
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準備ができたので外に出る。
ついにS級冒険者との修行が始まる。
「今日は能力を使う訓練をするよ!」
俺が作ったご飯がお気に召したようで、少しテンション高めで説明し始める。
「君はもともと無能力者として生きてきた。今になって自分の体に新しい要素、つまり魔力、能力が加わってうまく使いこなせる?」
「いきなりは難しいかも」
隠すことなく自分の思っていることを伝えた。
「難しいってもんじゃないと思うよ。まぁ、やってみよっか」
そう言うとライさんは俺の手を握った。
「今からキバに魔力を過剰に譲渡する。って言ってもゆっくりやるから、副作用の心配はないよ」
「副作用……?」
疑問に思ったので一応聞いてみた。さすがに怖いもん。
「うん。あまりに過剰すぎると体が魔力量に対応しようと体積を増やそうとするんだ。ある一定のところまでいくと皮膚が破裂する。」
「ひぇ……」
いや、怖すぎるだろ。その心配はないと言われたから信じるが……。
「鳥肌たってきたら教えてね。」
そう言われたので数十秒、鳥肌が立つまで待ってみる。
「……あ! 鳥肌たってきた!」
体の内側からゾワゾワと奇妙な感覚が駆け巡る。
「じゃあ……こんくらいかな?」
バチバチッ!
「おわぁ!」
俺の体から稲妻のようなものが走った。
輝く白色の稲妻。
直感で分かった。これが俺の刻まれた能力なのだと。
「皮膚破裂までいかなければ、体が過剰な魔力量を減らそうと勝手に能力を使うんだ。元無能力者にいきなり能力を使えって言ってもやり方が分からないよね」
そう言ってライさんは俺の手を離す。
「だから、その体の反射を利用して『能力の使い方』ってのを覚えさせるんだ」
「なるほど……。てことはやっぱり、この稲妻みたいなのが俺の能力ってことですか?」
と、俺の周りを見ると、その稲妻らしきものは消えていた。
「……あれ?」
「能力使い慣れてないのに、使うのと同時に喋るからだよ。まずは能力の維持の訓練からしよう」
さっきからライさんの話を聞いているが……。
もしかして、能力使いこなせるまでで一ヶ月終わっちゃうんじゃないか……?
1ヶ月という期間があるのに、今から少し心配になる俺であった。
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「いくよぉ」
ライさんは今までのように俺の手を握る。
能力強制発動6回目。
未だに能力発動を維持できていない。
あくまで強制発動しているのは自分の魔力量限界値を超えた魔力が体内に流れているときのみなので、1回目以降は魔力譲渡を始めて一瞬で能力が発動する。
バチバチ、と体の周りを稲妻が駆け巡る。
(今は周りの音に気を取られてる場合じゃない。目線を動かすのでさえ、能力発動維持の集中力を削ぐ原因になる……!)
俺は体の感覚に集中する。
体に流れる魔力が活性化し、熱を持つ感じ……。
筋肉を使うと体温が上がるように、魔力を使うと魔力が熱を持つ。今の俺の感覚はそんな感じだ。
能力を発動するときの感覚についてライさんに聞いてみたが、生まれたときから流れていて当たり前のものなのでよくわからないらしい。
「回数を重ねるごとに維持の時間が増えていってる。成長してる証拠だよ」
今はその言葉に返答できるほど余裕がない。
無視したみたいになってすまんね、ライさん。
強制発動から数分経っただろうか。
6回目の挑戦はなかなかいい所まで来ている。それに……。
本当に少しずつだが、慣れてきた。
視線を動かしても維持できたままだ。
「少し、ずつ……。慣れて、来た……!」
まだ文を分けないといけないが、喋っても発動を維持したままでいれる。
確実に進歩してる。
俺の体が、自分が本来持つ力に適応してきている。
(まだ……まだ集中切らさないぞ……!)
この調子で、俺は数十分ほど発動を維持したままその場に止まっていた。
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「おっけい、発動維持の訓練はとりあえず中断しよう」
ライさんがそういったのは、能力強制発動9回目。
6回目からの成長速度は凄まじく、俺はもう発動したまま歩くことができるようになっていた。
……走れはしないが。
「まだ走れないし、日常で使うような動きも全部できないけど……いいの?」
そう言うと、ライさんはうんうん、と頷いた。
「そこまでできるようになったら、能力を自分で発動できるようになるのが先かな!」
なるほど。
たしかにいくら能力を使いこなせても、発動までの過程を自分でできないようじゃ話にならない。
理にかなった訓練内容変更だな。
「でも……、発動の感覚なんて過剰な魔力が外に出るぐらいの感覚しかないよ」
「『能力を発動する』っていうイメージが良くないかもね。能力発動維持してる状態をイメージするんだ。」
維持してる状態というと、魔力を使うことで体温が上がるようなあの感覚のことだろうか。
「やることは、自分でその状態まで持っていくだけだよ」
とりあえず実践だ。やってみないことには始まらない。
俺は自分の体に感覚を集中させる。
筋肉を使うことで、体温が上がる。
例えば持ち上げる動作、例えば踏み込む動作。
そういう細かい動作でも、筋肉は使われている。
自分についている筋肉を使用する感覚。
自分に流れている魔力を活性化させる感覚。
その2つの感覚は多分、似たようなものだろう。
……あぁ、理解した。
こういうことだったのか。魔力を使うっていうのは。
バチッ!
稲妻が走る。
さっきまでと同じ、輝く白色の稲妻。
俺は閉じていた目を開く。
目の前には、俺の目をみて微笑むライさんがいた。
「飲み込みが早いね。助かるよ」
「一発でできたわけじゃない。何回も試行錯誤した結果だよ、ライさん」
俺は笑って、能力発動を解除した。
今までのように、集中力が切れて勝手に解除されてしまうそれではない。
自分の意志で、俺は能力を使い、能力を解除したのだ。
やっぱり、できるようになるっていうのは面白いな。
「じゃあ、今からは自分で発動してから維持の訓練をしようか」
そう言ったあと、ライさんは自分の腹に手をかざした。
ぐー、とお腹の音が鳴り響いた。
「……その前に飯にしようか。腹減ってるでしょ」
「いや、あんたの腹の音聞こえてますけど!」
現在時刻は昼過ぎの1時。
訓練を開始して5時間近くが経過した。
確かに少しお腹が減った。集中しすぎて気づかなかったな。
「でも、ご飯食べよう。おれもおなか減った」
「キバも頑張ったことだし、昼は俺がおごるよ! 朝飯作ってもらったし!」
ライさんはいい笑顔でそう言った。
それにつられ、俺も自然と笑顔になる。
そうして俺たちは、グランベリアへと向かった。
たらふく食える酒場を目指して。




