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第14話『花のタトゥー』

 俺達は250体のゾンビの討伐任務をこなしに、ロウの墓場手前まで出向いている。

 だんだん持久力もついてきて、手入れされてない道を歩くだけでは感じる疲れが少なくなってきた。

 前はこの道を歩くだけでもしんどかったよな。

 ランメニューや脚の筋トレ、体幹強化などのおかげだろう。


「うむ……。ここまでくるとさすがに数が多いね」


 今は目標の場所までの道中を歩いている。

 だが、周りにはゾンビが湧いて出ていた。


「まぁ、ゾンビぐらいじゃ負けないけどな!」


 ファイバは余裕をぶっこいていた。

 いや、油断してるわけではない。

 多分、俺たちを鼓舞してるんだ。

 

「お」


 チルドが声を上げた。

 それもそのはず。今、ゾンビの湧く量が一段と多くなった。

 今までは段階的にだったものが、急激に、だ。


 この調子だと、ロウの墓場は完全にゾンビの巣窟と化しているだろう。

 下手するとそのへんの村より人口(ゾンビ口)が多いかもしれないな。


「冷静に、こいつらを殺しながら前に進もう」


 キラトさんが剣を握る。

 俺も短剣を構える。

 各々がこれから起こる戦闘へ意識を集中させる。


「行くぞ!」


 ファイバがゾンビの方へ飛んでいく。


 それを追って、俺たちは一斉に走り出した。


「ふぅ……!」


 ひと呼吸して、俺はゾンビへ視線を向ける。

 これまでの経験からして……、攻略が難しい配置じゃない。

 正面に張り巡らされたそのゾンビ網を、俺たちは正面から突破する。


「はぁっ!」


 ドゴ!グチャ!スパッ!

 ゾンビの体が崩れる音、斬りつけられる音が鳴り響く。

 俺は右手に短剣を構え、空いた左手と短剣を握っている右手の拳の部分で殴る戦闘スタイルを確立していた。

 短剣はあまり使わないし腰にしまっておいてもいいんだが、何か握っていたほうが握力が強いので握ることにしている。


「おらっ!」


 俺はゾンビ1体に苦戦した頃からは考えられないスピードでゾンビを殺していく。

 もうその感触にも慣れてきた。体に血が付くことにも。


 ドガァアン!

 轟音が鳴り響く。これはファイバが炎を噴射した音だろう。

 突っ込みすぎて囲まれたか、広範囲でゾンビを殺すためか。


「キバ君!」


 俺はすぐさま近くの周りのゾンビを蹴り飛ばし、その場に伏せる。

 その瞬間、頭上を斬撃が飛んでいく。

 キラトさんのこの技は広範囲に攻撃できるから便利だな。


 俺達は計画通り、ゾンビを殺しながら前へ進んでいく。

 どうやら先程一斉に湧いた凄い数のゾンビも、その猛攻で数を減らしたようで、ゾンビ網と呼べるほどのものはもうなくなっていた。


「できるだけ早く目的地に行こうか。」


 キラトさんがそう言って、俺たちは残りのゾンビを相手しながら残り100m程の道のりを歩いていく。


 それにしても、キラトさんの能力は何なのだろうか。

 ファイバは炎。チルドは……『超治療』だっけか。

 チルドの能力に関しては、この前昼飯を一緒に食べた時に教えてもらった。

 どうやら普通のヒーラーのような治療ではなく、特別良い性能をしているらしい。

 故に、冒険者ギルドから付けられた能力の名称は超治療。


 能力の名称は自分で決めるものではなく、冒険者ギルドでの審査を受けることで決まるらしい。

 だから審査を受けていない一般の人達は自分の能力をその性能を見てなんとなくで読んでいるんだとか。

 アイシャさんも詳しくは言ってくれなかった。

 きっとわからなかったんだろう。

 私の能力は和食だよ!とか洗濯だよ!とか言ってたな。

 事あるごとに言ってたのが面白かった。


 キラトさんの能力は……。『剣豪』とか『剣士』とかだろうか。

 剣から斬撃を飛ばしているからそんな感じなんじゃないかな。


 

 そんなことを考えながらゾンビを倒していく。

 目的地に迫っていく。

 あと10m……。

 5m……。


 目的地に着いた瞬間、一斉にゾンビが湧いた。

 その数は先程とは比にならない。


(一気に100体ぐらい湧いたんじゃないか……?)


「気を付けて!なるべくゾンビの群れの中へ行かないように!最前線のゾンビから冷静に倒していこう!」


 数が多くなっても、囲まれない分には普段とさほど変わらない。

 だが、さすがにこの数となれば緊張してきたな。


「ふぅうう……」


 冷静に、いつも通り、だ。

 俺は、俺達は走り出す。

 俺たちを包囲するゾンビたちとの距離は20mほど。

 その空間が狭くなる前に全員殺しきらなければ。


「みんな!屈んで!」


 その掛け声と同時に目の前のゾンビを殴り飛ばし、しゃがむ。


 ズバァアッ!


「おぉ!」


 全方位の攻撃を繰り出した。

 輪っかの形の斬撃は、前線2列ほどのゾンビをすべて斬り殺し、生きたゾンビの数は70体ほどに減った。


 これはすごい……!

 今まで見たことがない技だ。

 やってることは自体は普段の斬撃と変わらないんだろうが、範囲が広くなれば迫力も増す。


「っしゃおらぁぁ!」


 ファイバが叫びだしたが、俺もそういう気分だ。

 その一撃はゾンビの数を減らすのと同時に、俺たちを鼓舞する一撃となった。


「っしゃ!かかってこい!」


 俺も気合を入れなおし、次々とゾンビをねじ伏せる。

 

 この木々の間に、ドドッ!ビシャ!バキ!ズバッ!と激しく戦闘の音が響く。

 その戦場はいつもよりもっと血にまみれていて、焦げた匂いと血の匂いで溢れていた。



 そこから1、2分程して、全てのゾンビを殺し終える。

 いつも通りの流れで魔石を拾おうとすると、キラトさんは腰の剣に手をかけた。


 特に気にせず魔石を拾おうとしゃがむと、その上を猛スピードで飛んだ『何か』がいた。


 キラトさんの斬撃でもなければ、速度的にゾンビでもない。


 じゃあ一体何が……?


 答え合わせは、キラトさんの方を向いた時に済まされた。


 キラトさんと鍔迫り合いをするその魔物は限りなく人に近く、首には花のようなタトゥー。


(人型の魔物……!?)


 長髪ではなかったが、人によっては長髪と呼べるかもしれないその髪はどこまでも黒く、光を感じさせない。

 剣を扱っていて、特殊な力も持っているようだ。


「黒い……稲妻……」


 キラトさんの飛ばす斬撃の色は光というのが相応しいほど神々しい金色のよう。

 だからすぐに気づいた。その黒いモノが、その人型の魔物のチカラなのだと。


 バチィッ!


「ぐっ……!」


 飛んできた稲妻が俺の腕を斬りつけた。

 斬られた跡に、周囲のやけど。皮膚が焼ける匂い。

 こいつはゴブリンよりももっと強い。

 E級……。そのレベル。

 目の前で起こっている戦闘は俺が知るそれではなかった。


 ギィン!キン!

 刀がぶつかり合う音。そのたびに飛んでくる黒い稲妻。

 D級の冒険者は、E級の魔物を単独で倒すのは難しい。

 ふと、その常識が頭をよぎる。

 助けなければ。

 でも、俺達が参戦して足を引っ張らないか……?

 そんなことをグダグダ考えていると、ファイバは普段より多い量の炎を噴射し、速度を上げてそこへと向かっていった。


「キラト!屈め!」


 スッとキラトがその場にしゃがむと、ファイバはその速度をそのままに、その魔物に回し蹴りをお見舞いする。

 剣で防がれていればファイバの足は即終了。切断の道を辿っただろうが、キラトさんが魔物の剣をつかみ、離さないようにしていた。


 連携での戦い。俺も……。俺にもできる……!


 短剣を取り出し、接近する。

 速度はファイバに比べてすごく劣るものの、今の俺の全力疾走で。


「おらぁぁぁ!」


 俺はわざと声を出し、こちらに注意を向ける。

 その隙にキラトさんが背中を斬りつけた。

 ギリギリでその魔物は身体をひねったため、その傷は浅い。

 まだ注意はこちらにある。


「ふんっ!」


 その魔物との距離が5mほどに縮まったとき、俺は短剣をその魔物の目元に投げつけた。

 その刃先はしっかりと目の方に向いている。


 魔物が剣でそれを弾き飛ばす。

 その一瞬、目元を剣が通り過ぎ、視界が悪くなるその一瞬のうちに、俺は一気に体を下へと伏せ、魔物の下へと滑り込む。

 そして、俺はそいつの足を掴み、言う。


「ファイバ!キラトさん!今!」


 人型と言えど言語は通じないようで、魔物はキラトさんたちの方ではなく、自分の足元。俺の方を見た。


「よくやった!」


 ファイバがそう言いながら頭に向かって踵落としを食らわせ、キラトさんは腹部を切り裂く。

 皮一枚ほどで繋がったその上半身と下半身を分ける切り目に向けて、俺は飛んできて拾った短剣を突き立てる。


 ズシャッ!

 血が飛び散る音とともに、その魔物の体は2つに分かれ、死亡した。

 その返り血は赤く、人のものに似ていた。


「っはぁ……はぁ……。やった……!」


 俺は荒い息の中、力む時に舌を噛んだときの血を飲み込んだ。


「……勝ったね!」


 俺が喜んでから一瞬間を開けてキラトさんもみんなに向けてそう言った。


「やってやった!俺達が話題の魔物を殺したんだ!」


 死体から魔石を取り出す。

 その魔石は普段見ているゾンビのものより少し輝きが強く、大きさもゴブリンのもの以上であった。

 林は静寂を取り戻した。

 俺達の互いを称賛し合う、そんな声だけが響いていた。


「本当に強くなってるな。キバ」


 チルドからそんな言葉を受けながら治療を受ける。


「うん……。そうだよな……!強くなってる!」


 俺は、強くなってるんだ。


「良い動きだったぜ!キバ!」


 ファイバが俺を褒めたとき、キラトさんは林の奥の方に目を向けた。

 鎧で顔は見えないが、少し体に力が入っている……かもしれない。


「どうかしました?」


「いや……。ロウの墓場はどんなものかと思ってね。今日はもう帰ろうか!」


 特にそれを気にすることもなく、俺達は魔石を拾い切って帰路についた。


ーーーーーーーーーー

 冒険者ギルドについて、任務終了の手続きと魔石の提出を行う。


「ゾンビ250体分……!すごい数ですね!それに……。この魔石は……?とにかく、こちらが魔石分の報酬です!」


 そう言って渡されたのは銀貨6枚と銅貨7枚。

 あの魔物の魔石は銅貨5枚ほどで交換されたらしい。


 そういえば、俺が泊まっている宿の半額セールがそろそろ終了する。

 それが終わったら1泊銀貨6枚か。

 アイシャさんが遺した金貨10枚もそろそろ尽きるころか?

 泊まる場所を考えなければいけないな。


「じゃあ、ここで解散にしようか」


 キラトさんはそう言って、俺たちに帰るよう促した。

 明日1日は休憩だ。もちろん、朝練はあるが。


 俺は明日の朝練に備え、今日も早く眠りにつくのだった。

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