第13話『フィジカルトレーニング』
朝6時。
俺は昨日、E+級冒険者となった。
それで俺が急激に強くなった訳では無い。
ただ、冒険者ギルドから俺の強さを評価されただけに過ぎない。
だから、俺は今日もファイバと朝練に励んでいる。
「今日からフィジカルトレーニングだな」
ファイバがそう言った。
「例えば何するんだ?」
「まぁ、筋トレだ。」
名前の通り、身体的な強化。
筋力や体力、持久力のトレーニングだ。
「早速始めるぞ!」
ファイバは俺についてくるように促す。
場所はいつもの平野、看板前。
技術の訓練より成果は出にくいだろう。
よし、頑張ろう。
こういう地道な訓練も大切なのだ。
「え、ちょ……。速い!」
俺が頑張ろうと思った矢先、ファイバの走る速さに驚愕させられた。
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「はぁっ……はぁっ……。ゲホッ……」
「もうギブアップかぁ?」
ファイバはまだ元気いっぱいのようだ。
最初のメニューはランニングだった。
ファイバによれば、今走った距離は約10km。
昔ランニングで走っていた距離より8kmも長い。
しかも、ここ1年半の間それすらもサボっていたときた。
いきなり10kmの距離を走るのはまじで疲れた。
この10kmという距離は都市グランベリアを直線で横断したときの距離と一緒。
つまり都市グランベリアの直径だ。
「グランベリアを一周できるくらい体力つけよう」
「ファイバ1人だったらもういけるの?」
そう聞いてみた。
「今のペースなら余裕だな。速めのジョギングみたいなもんだったし」
こいつヤベェな。
俺は全力とまではいかないが、相当速いペースで走っていたのに。
それを速めのジョギングと言われてしまったら、少し傷ついてしまう。
まずはペースについていけるように頑張ろう。
この訓練で俺は俺なりの目標を立てることにした。
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「はぁっ……はぁっ……」
フィジカルトレーニング2日目。
今日もランニングの距離は10kmだった。
俺はファイバのペースになるべくついて行ったが、今日も肩を上下させ、疲労困憊である。
「少し休んだら筋トレすっぞ!」
「はぁっ……はぁっ……はい!」
これはあくまでも朝練。
今日はこのあと、任務もひかえている。
朝練で体力を使い果たしてしまうぞ……。
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「ゲホッゴホッ……。はぁっ……はあっ……」
フィジカルトレーニング3日目、今日のランメニューは少し特殊だった。
500m毎に休憩を挟んだ。
その代わり、速度が上がった。
これがなかなかきつい。
ほぼ全力疾走のペースで500mを走らなければいけない。休憩の時間は1分半。
死んじまうよ!助けてくれ!
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フィジカルトレーニング開始から1週間が経過した。
少しずつ、身体が変わってきている。
見た目も引き締まり、体力もついてきた。
体力に関しては昔よりも今のほうが多いだろうが、見た目に関しては昔、鍛えていた頃に戻ってきたって感じだ。
ファイバの走るペースは1日目から変わっておらず、俺もそのペースについていけるほどになった。
筋トレに関してもだ。
外でできる筋トレも、結構あるものだ。
丸太を用いたスクワット。
丸太を担いでジャンプ。
丸太を持ち上げる。ゆっくり下ろす。
結構足系のものが多いな。
この丸太の重量は100kgくらい。
そろそろ扱う重さが上がる予定だ。
毎日、ファイバとの戦闘訓練も欠かさない。
疲れ切った体で戦う。
これは結構大事なことだと思う。
自分が疲れ切ってもう無理だと思っても、魔物たちは待ってはくれない。
そこでどれだけ踏ん張れるか。それが戦闘において重要になってくる。
それが終われば、再び筋力トレーニングが始まる。
今度は上半身メイン。
プランクなどの体幹に効くものもあるが、腕立て伏せや木を使った懸垂など、そういった物が多い。
毎日のメニューはだいたいこんな感じで、このあとに任務がある日もある。
なかなかハードだが、強くなるにはこれをこなすしかないんだ。
頑張ろう。
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いつも通りの朝練を終わらせて、ファイバと冒険者ギルドに向かった。
任務の日だ。
今日の冒険者ギルド内の様子は一段と騒がしく、それには理由があった。
「お、来たね」
「少し遅いぞ」
チルドには少し言われてしまった。ごめん。
「わるいわるい。遅れちまった」
お前は思ってないだろ!
「ごめん。ちょっと長引いた」
素直に謝り、キラトさんに騒がしい理由を聞いてみる。
「何かあったんですか?」
俺は周りの冒険者や、冒険者ギルドに勤める者たちに視線を向ける。
「あぁ。あれね。なんか人によく似た魔物?が出没してるらしいよ。分かっているのは、その少しの特徴。長髪で後ろでひとつ結びをしている。性別は男でクビに花のようなタトゥー?があるらしい。」
へぇ、タトゥーか。
俺と同じようなものかと思ったが、花模様のものは聞いたことがないので多分趣味だろう。
「僕たちにはそんなに関係ないことだよ。今日もゾンビの討伐任務を受けようか。」
キラトさんはその事実を軽く流し、任務の紙をはがした。
冒険者ギルドに提出し、任務手続きを終えて俺達は外に出た。
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ピシャッ
俺は短剣についた血を払う。
今日の討伐任務はゾンビ100体だ。
いつも通りの林。その奥に進んだ。
ロウの墓場まで残り数100mほど。
休む暇もなく、ゾンビが湧いて出る。
「キラト!」
「ファイバ!今!」
ファイバは真上に飛んで、キラトさんはそのタイミングで剣を横振りし、斬撃を飛ばした。
一気に10体ほどのゾンビを殺し、ファイバが着地と同時ににさらに6体のゾンビを殺した。
楽々そうだが、ここまでの数となればE-級と言えど脅威となる。
俺はその連携を見ながらゾンビを3体殺し、一旦距離を取る。
ゾンビの動きが止まる。
(なんだ……?)
一斉に動き出したかと思えば、俺たちに背を向け、去っていった。
「あっちは……」
「ロウの墓場方向、だな」
こっちにファイバ達がやってきた。
「もう100体以上は殺してるし、魔石を拾って帰ろう」
今日の任務はここで終わり。
明日も討伐任務を受ける予定だ。
早く帰って寝よう。
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ーーーキラト視点ーーー
キバ君と出会って2週間と少しがたった。
今日任務を終えて、彼らと別れてから少しした頃。
僕はキバ君について考えていた。
僕は初日からキバ君のチカラが不自然であることに気づいていた。
無能力者。その事実は変わらない。
強さから見てもそうだろう。彼はE+級冒険者で、無能力者の力そのものだ。
だが、本当にただの無能力者だろうか。
友達に、無能力者の人間がいる。
そいつは無能力者の中では珍しい冒険者。ランクは違えど、キバ君と同じ境遇。
2人は同じ無能力者のはずだが、違う点がある。
そいつには、魔力腺がない。
魔力の通る道がないのだ。
だが、キバ君は違う。
キバ君には魔力腺があり、そこに流れる魔力がない。
無能力者の中では特殊。僕は見たことがないタイプ。
もし僕の推測が正しければ……。
キバ君。やはり……、僕は君に賭けよう。
今日のうちに、やらなければいけないことを終わらせよう。
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ーーーキバ視点ーーー
朝が来た。
いつも通り朝飯を食べ、いつも通りファイバと訓練をする。
「はぁ……はぁ……」
やっぱり疲れるな……。
でも、強くなるためだ。
身体が少しずつ変わってきているのを感じて、俺は今日もモチベーションを保っている。
今日は任務の日。
昨日の100体が少し簡単だったからゾンビ200体とかだろうか。
色々な予想をしながら、俺達は冒険者ギルドに到着した。
「来た来た」
そう言って開口一番、任務の内容を聞かされる。
「今日はロウの墓場手前あたりまで行くよ。ゾンビの討伐数は250体くらいかな……!」
キラトさん、ちょっとテンション高いか?
そこじゃないか。
ロウの墓場手前って……。大丈夫かな。
「ついに巣窟近づいてきた感じすんな!」
「そうだな」
「僕が治すから、安心して戦ってくれ」
各々が喋りだしたところで、俺たちは冒険者ギルドを出た。
今、俺たちの挑戦が始まった。
このパーティの命運を分ける、そんな挑戦が。




