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第12話『成長速度』

 あれから3日がたった。

 現在時刻は朝6時前。

 俺はいつものようにファイバと朝練をするため、平原に足を運んでいた。


 あ、そうだ。

 あのとき倒したゴブリンの魔石は3つで1銅貨のようで、金にはならなかった。

 あんだけ頑張って倒したのに、辛いものだ。


「早ぇな」


 俺より少しあとにやってきたファイバがそう言った。

 今回はファイバが遅いわけじゃなく、俺が早く着いているだけだ。


「じゃ、始めるか」


 ファイバはそう言うと構える。

 俺も構えて、戦闘の準備をする。

 俺は2日前から既に実践訓練に移っていた。

 必要になれば技術の解説などを挟み、また実践。

 この方式でやり始めたのは、戦闘に必要な肌感や判断力などを鍛えるため。


「開始!」


 好きなタイミングで「開始」と言えと言われているので、俺は俺のタイミングで戦闘を始めることができる。


「ふっ!」


 手始めに右足の蹴り。これは避けられる。

 こんなのは想定内だ。


 ファイバから俺の右足が定位置に戻る前に顔面に左ジャブが繰り出される。

 頭を右にずらしてそれを避ける。

 右足が着地する際、俺の場合体全体に時計回りの回転がかかる。前に出ていた右足を後ろに戻すとき、元の位置まで弧を描くように戻すとこうなるのだ。

 俺はその回転の力を利用し、左の拳をファイバの顔面の前に置き、手を開く。


「お」


 ファイバが声を漏らした。

 手を開いたのは攻撃のためじゃなく、ファイバの視界を塞ぐため。

 そのまま死角から脇腹に向かって思いっきり右膝を繰り出したが、ファイバはそれをステップで避けた。


「いいね……!」


 ニヤリと笑い、ファイバの動きは1段階早くなった。

 今までのファイバの動きでも精一杯なのに、さらにその上を軽々と越えていく。

 もちろん能力なしで、だ。


 E級とE+級の差は大きい。

 わかっていたことだが、俺はより一層その事実を理解する。

 こんなに壁が厚いのか……。


 ファイバが左足で俺の右脇腹に向かって蹴りを放とうとしたので、それを掴みにかかる。

 だが、その蹴りは途中で軌道を変え、俺の顔面めがけて飛んできた。


「ぐっ……!」


 視界が揺れ、よろける。

 痛みももちろんだが、頭を蹴られたのがでかい。

 まだ視界が揺れている。


 この間に構えが緩くなった俺の腹をファイバが殴り、俺は意識を失った。


ーーーーーーーーーー

「……お、起きたか!」


 目を覚ますと、ファイバがこちらをのぞき込んでいた。


「負けた……!」


 完敗だ。俺はまだファイバの足元くらい。


「いや〜、久々に本気出したぜ。能力なしで、だけどな!」


 俺はファイバの本気を出させるのに成功したらしい。

 これに能力が加わると考えると、まだまだこの壁は越えれないな。


「だいぶ技術は身についてきたんじゃないか?」


 ファイバにそう言われる。

 たしかに、初期の頃から比べると俺の戦闘での攻撃の選択肢は結構増えている。

 その中での最善の選択は何か、というところまでいくとまだ難しいが。

 それは戦闘の肌感や判断力の話になってくるため、この実践訓練をしているのだ。


「技術が身についてきてるってことは、成長が遅くなるってことだ。」


「……ん、どういうこと?」


 俺は思わず聞いてしまう。


「技術は付け焼き刃でもいいなら一朝一夕で身につけることができる。練度はまた別だが、戦闘の選択肢が広がる面で言えば、それは紛れもなく成長だ」


 ふむ。たしかにそうだ。

 現に俺は、訓練開始から5日でここまで成長してきている。


「でも、技術がある程度身についてしまったら。基本的にそれの練度を上げるか、身体的に強化するかの2択だ。」


 練度を上げるのにはその技を何度も使い、だんだんと感覚をつかんでいくしかない。

 身体的な強化で言えば、たった1日で付け焼き刃でも技術を身につけられるのと違い、筋肉は一気には育たない。


 だから、技術が身につけば身につくほど、基本的にその後の成長が遅くなっていく、というわけか。


「だから、これからはフィジカルトレーニングメインでやることになるな!」


「もう技術は終わりか?」


「あぁ。あと技術面でできることと言えばその技術をどれだけきれいに戦闘で使えるか、それとその技術の練度を磨くくらいだ。」


 この日、俺の凄まじい速さの成長速度は終わりを迎えた。


ーーーーーーーーーー

「今日は討伐任務だよ。キバも成長してきてるし、少し難易度を上げようか。」


 そう言ってキラトさんが手に取った任務は、『ゾンビの討伐』の任務。

 何が変わったのかといえば、その量。

 今回は50体のゾンビを討伐する任務だ。


 俺達がいつも討伐任務に行っている林の奥には、『ロウの墓場』という場所がある。

 最近になって、そこ付近のゾンビの発生が異常な量になってきているらしい。

 そこに近づけば近づくほど、出現するゾンビの量が多くなる。

 きっとそのロウの墓場という場所がゾンビの巣窟なのだろう。


ーーーーーーーーーー

 俺達はいつもの道を歩き、目的地に到着する。

 そこに到着する前から、ゾンビは林の中に現れた。

 ここに来るまで、どんどんその出現数は多くなっている。

 そして――。


「前方に10体、後方7体。左、右両方向に6体ずつ!行くよ!」


 キラトさんのその言葉を皮切りに、俺たちは一斉に構える。

 こんな大勢との戦闘は初めてだ。

 俺は集中力を高める。


「行くぞ!キバ!」


「うっす!」


 俺とファイバは右方向へ走り出す。

 炎の能力で加速し、一気に3体のゾンビを撃破。

 ファイバの能力の一瞬のクールタイムでできる隙に、俺はファイバに襲いかかるゾンビ2体を蹴散らした。

 俺の足が着地する瞬間に、ファイバがもう1体のゾンビを殴り飛ばし、右側は終了。


 チルドはゾンビに襲われないよう。俺たちの背中を追ってもらっているため、安全だ。

 チルドに食いついもともと後ろ側にいた7体のゾンビに向かい、俺はすぐさま走り出した。


「ふっ……おらぁ!」


 一体のゾンビの単調な振り下ろし攻撃を避けつつ、そいつの腕を蹴り飛ばす。

 反撃の手段がなくなったそのゾンビの頭を手で鷲掴みにし、その手を軸に俺は飛んだ。


 空中で2体のゾンビを回転しながら蹴り殺し、掴んでいた頭の持ち主であるゾンビもその回転で頭ごと捻り切った。


 着地するまでの間にファイバが合流し、俺の背後にいた1匹のゾンビの腹を蹴り、そのゾンビが飛んでいく。

 そのゾンビはほかの2体のゾンビを巻き込み木へと打ち付けられ、一気に3体のゾンビの生命活動が停止した。

 俺は残りの1体の頭を殴り飛ばし、後方のゾンビ達も殲滅した。


 その間にキラトさんはもともと左側にいたゾンビと正面にいたゾンビの相手を終わらせたようだった。

 キラトさんは血がついた鉄製の剣をブン!と振り血を払うと、鞘に納めた。


「これでこのゾンビの波は終わったね。次に備えよう」


 合計29体のゾンビを殺し、その魔石を拾う。

 その後1分ほどの休憩の後、新たにゾンビが出現し始めた。

 数は――25体か。

 目的である数、50体を超えているが、超えるぶんには問題がない。


 俺達は特に苦戦することもなく、先ほどと同じようにゾンビを殲滅した。

 そのまま魔石を拾い、冒険者ギルドへと帰ることにした。


ーーーーーーーーーー

「こちらが今回の任務報酬と、魔石分の報酬となります!お疲れ様でした!」


 いつものようにその言葉を口にしたあと、受付のルルさんは追加で俺達に話しかけた。


「それにしても……。すごいですね!合計54体のゾンビを討伐してくるなんて!最初は8体でしたっけ?」


 キラトさんが頷くと、ルルさんも力強く頷いた。


「成長が凄まじいです!顔つきをみるに……。キバ様もお強くなられたようですし!」


 べた褒めされ、少し調子に乗りかけたところで思い出す。

 あのゴブリンとの戦いを。

 まだまだ俺は弱い。

 あの日からどんな任務に行くにしてもキラトさんから貰っていた短剣を持ち歩くようにしているから、もう一度あいつとやれば少しは戦闘が楽になっているだろう。


 だが、それでも壁は厚い。

 E-級内の魔物でこんなに差があるなら、E級の魔物などもってのほか。

 そんな事を考えていると、あのいかにも悪役冒険者がまた懲りずにやってきた。


「少しは討伐数が増えたかぁ?だが、てめぇみたいな無能力者はどうせ仲間に頼り切りなんだろう!?」


 頼り切り、というわけでもないが、言い返せないでいると、キラトさんが口を開いた。


「僕の大切な仲間を馬鹿にするのはやめてくれないか?これでも、キバ君は54体のうち14体を殺している。」


「はっ!無能力者がそんな戦えるわけねぇだろ!!」


 そんな言葉を吐きながら、その男は俺に向かって拳を振り上げた。

 自分に向けられた敵意と、がら空きになった腹。

 殴らずにはいられなかった。


 ドゴッ!


「かはっ……!」


「……あ」


 冒険者ギルド内は一瞬にして静まりかえる。

 ……やってしまった。

 誰もが息を飲み、時間が止まったような一瞬。

 だが次の瞬間、誰かの笑い声が響いた。


「よくやったぞ!白髪のガキ!」


 空気が一気に弾け、笑いと歓声が広がっていく。


 冒険者ギルド内はもとの賑わいを取り戻した。

 いや、もとよりもより騒がしくなったか。

 笑いと歓声で包まれるこの場所で、キラトさんが口を開く。


「この冒険者は『ヘイト』といってね。E+級冒険者の割には、E級冒険者と大して変わらない強さなんだ。そのくせ、周りをバカにしているからみんな鬱陶しがってたんだよ」


 ご丁寧に、なぜ賑やかになったか説明をしてくれる。


「僕も少しスッキリしたよ。よくやった!」


 優しさで溢れているキラトさんも人にうざいと思ったりするのか。

 少し人間味を感じて、俺はキラトさんにより好感を抱けるようになった。


 まぁ、俺的にもウザかったし、この事件のことは気にしないようにしよう。



 このくだらない一件をきっかけに、俺はE+級冒険者へと昇格したのだった。

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