第11話『E-級とその格差』
2回目の特訓。現在時刻は朝7時。
今日はチームで任務に行く予定のため、少し早めの朝練だ。
「いいか、パンチを打ったあとは――」
今は攻撃の後の動きについて教えてもらっている。
打ったあとはすぐ構え、相手から来る攻撃、攻撃したあとのカウンターに対応できるようにしなければいけない。
これがだいぶ難しい。
ただ攻撃後構えるだけならできる。
でも、それはただ構えただけ。
相手の攻撃に対するものとしては、多分意味がなくなってしまっている。
『構える』とは言っても、ちゃんと相手の攻撃に反応できるかが重要だからだ。
「まぁ、これは実戦形式の方が良い。俺と打ち合いするぞ」
ファイバからそんな言葉が出た。
たしかに実際攻撃が飛んでくる環境でやれば、少しは感覚が掴めるかもしれないな。
俺とファイバは向かい合い、距離を取る
「じゃ、始めるぞ」
ファイバが能力を使うのが開始の合図。
俺はその手のひらに炎が灯ったのを見て、走り出した。
(まずは……)
どこに打とうかと考えるが、ゾンビほど隙がない。
そりゃそうだ。
ファイバはE+級冒険者だが俺の先生でもある。
きっとこのレベルの技術に炎の能力が加わっているんだ。すぐにランクを上げていくだろう。
「ふっ――!」
息を吐き、その顔面めがけて左手で素早いジャブを打つ。
それに合わせるかのように、ファイバは右手でガードがない俺の左頬をめがけて手を出した。
パスッ。と音がなって、俺の左頬に拳が置かれる。
「俺が全力でやってたらこれで死んでたな」
「勘弁してくれ……」
俺はさっき、『打ったあとはすぐ構える』を意識したはず。
でも構えられなくて、それにはちゃんと理由がある。
「もし、キバが打った瞬間、その腕に真横からの刺激を与えられたら?」
そう、俺が左のジャブを打ったとき、俺の腕は左方向へとずらされた。
故に、体勢を崩して左頬、つまりがら空きの部分をファイバの正面に向ける形になってしまったのだ。
ファイバの性格上、もっと大雑把に戦うものだと思っていた。
が、その戦闘は技術が詰め込まれた、繊細なものだったのだ。
俺達2人は9時まで訓練した後、冒険者ギルドへと足を運んだ。
ーーーーーーーーーー
「あ、今日はファイバ早いね」
冒険者ギルド前にいたキラトさんに声をかけられた。
俺も一緒にファイバと遅刻、なんてなったらたまったもんじゃないからな。少し早めにここに来たのだ。
「やればできるってやつだ!」
いや、俺のおかげだぞ。
内心そんなことを思いつつ、その言動に反応しないまま、今日の任務について話し始める。
「前回は討伐系任務だったから、今回は採取系任務にしようと思うよ」
キラトさんがそう言う。
俺的にもいろんな系統の任務をやっておいたほうが今後のためだ。
異論はもちろんなかった。
珍しくチルドが最後に来たところで、俺たちは任務手続きをしていつものように冒険者ギルドを出た。
今回の任務について、キラトさんから道中に説明を受ける。
「今回採取するのは雑草だよ」
雑草を集めて何の意味があるのだろうか。
その疑問はすぐに解決することとなる。
「雑草、とは言っても花たちの養分を奪って育つようなやつじゃない。今回採取する雑草は、大気中の魔力を餌に成長するものだ」
なるほど。そんな物があるのか。
「それは何の役に立つんですか?」
俺の質問はだいぶ初歩的だったようで、チルドの顔には少し困惑の色が浮かんでいた。
「魔力を餌にして育つということは、その植物には周りの植物に比べて魔力の含有量が多くなる。こういうものを魔力草、魔力花と言ったりもするね。それらを調合系の能力を持つ人に調合依頼をすると、便利なものに変えてくれるんだ。」
その便利なものが魔力回復薬、らしい。
魔力回復役の存在は知っていたが、作り方は知らなかったな。
俺はだいぶ知識のある方だが、この辺の知識は普通の人より薄いのかもしれない。
「まぁ、今回採取する魔力草じゃ低級の魔力回復薬しか作れないんだけどね。」
その魔力草、魔力花の魔力の含有量や、生えている場所、環境によって作れる魔力回復薬のランクが変わってくるらしい。
俺からすれば、採取系も結構面白いものだ。
一方ファイバはというと、少し物足りなさそうな顔をしていた。
ーーーーーーーーーー
あの林と逆の方向にある森についた。
あそこより木が生い茂っていて、光が届きにくい。
そんな中で俺たちは魔力草の採取をする。
「あ、これこれ。この草が今回採取するものだよ。」
キラトさんが俺たちに見せたそれは、この森の中に結構生えていた。
目標量は1人1kg、合計4kgだ。
「ここならE-級の魔物以外はそうそう出てこないけど、一応キバくんは気をつけながら採取を行ってほしい。生えている場所によっては手分けしての作業になる時もあるからね」
「わかりました」
そう返事をして、俺たちは手分けして魔力草の採取を始めた。
採取を始めて4、5分くらいたっただろうか。
すでに持っている袋の4分の1に達する魔力草を採取することができた。
――その時、『そいつ』はやって来た。
緑の肌、痩せた身体。
腰のあたりにボロい布を着たそれは、ジリジリとこちらに近づいてきている。
(ゴブリン……!?)
ゾンビ以外の魔物は見たことがないので少し驚いた。
だが、こいつもE-級の魔物だ。1人で何とかなる。
「ふぅ……」
袋を地面に置いて一息。
俺はそいつに向かって走る。
ゴブリンは俺の動きに反応したようで、身構えた。
走った勢いをそのままに、俺はゴブリンの顔面めがけて右ストレートを繰り出す。
ガン!
「……!」
鈍い音を立てて吹っ飛んだが、そいつは立ち上がった。
(ゾンビのように腐った体じゃない。その分の脆さがないんだ……!)
一撃で殺せない相手だが、それでもやることは一緒。
俺はさっきのように走り出す。
距離が2mほどになった。変わらず突き進む俺にゴブリンは合わせるようにして手に持っている尖った木の枝を俺の方へと突き出した。
「は?」
俺は反応が遅れ、避けきれず肩にそれがかすめる。
「いってぇ……!」
俺の左肩から血が滲む。
大して深くはない。
でも、魔物との戦闘で怪我をするのは初めてだ。
肩が焼けるように痛い。意識すればするほど、その痛みが広がった。
採取任務でここに来たのに……まさかゾンビより強い魔物と戦うことになるとは。
ゴブリンは尖った木の枝を構え、自らこちらに突撃してきた。
「うっ……!」
俺はそれを必死の思いで避け、蹴りで2撃目を与える。
ドガッ!
それもゴブリンを殺す一手とはならず、またそいつは立ち上がった。
ゴブリンの口からは人間と色は違うが確実に血であろうものがたれている。
いくら有効打を打てても、殺す一手が必要だ……!
「ふぅ……ふぅ……」
ゾンビ相手だとあまり使うことのない『避ける』という動作の連続に、疲れが溜まってきている。
長期戦はできない。
なにか……この戦いを終わらせるきっかけを作らなければ。
ゴブリンが同じように突撃してくる。
(これなら……!いける!)
俺は突き出されたその枝を横からの力でいなす。
ファイバが訓練のとき俺に対してしたことだ。ぎこちなかったが、及第点。
(よし!できた……!)
俺はファイバの言ったことを思い出し、ゴブリンの攻撃に備えるためすぐに構える。
結局攻撃は来なかったが、構えたおかげで次の攻撃にスムーズにつながった。
俺はバランスを崩したゴブリンの鼻めがけ、左手で殴る。
よろっとさらに体勢を崩したゴブリンの右手を蹴り飛ばし、その木の枝を奪うことに成功した。
「はぁっ!!」
奪った木の枝を思いっきり頭の頂点めがけて振り下ろす。
ズシャッ!
それは見事に突き刺さり、ゴブリンは生命活動を停止した。
「はぁ……はぁ……」
森がまるで息を潜めたように静まり返る。血の匂いと汗の味だけが、まだ戦いの余韻を残していた。
そこには、俺の荒い息の音だけが響いている。
先程の俺の力む声が聞こえたのか、ファイバとキラトさんがこっちに走ってきた。
「お……!」
「これ、キバ君がやったの?」
キラトさんに質問され、ファイバは俺の頭に手を置いた。
「そうです。ゾンビとは比にならない強さでした。」
キラトさんは俺の左肩を見て、その苦戦具合が伝わったようだった。
「やるじゃねぇか!ゴブリン相手によくやったな!」
ファイバが俺の頭をワシャワシャと擦る。撫でると表現するには少し強い力だった。
「本当だよ。本当に強くなったね!キバ君!」
そんな称賛を受けたあと、すぐにチルドも合流し、俺の肩の傷を治してくれる。
「強くなったな、キバ」
落ち着いた声でそう言って、俺に治療を施した。
俺はゴブリンを1人で倒した、という事実に、喜んでいる。
それと同時に――俺の調子に乗っていた部分が引っ込んでいく。
(ゾンビとゴブリンはどちらもE-級……。それでも……。同じランクの魔物の中でも、こんなに強さが違うものなのか……)
ゾンビは身体が腐り脆い。脳まで腐っているため、知的行動は基本的に存在しない。その弱さ故のE-級。
対してゴブリンは、ただ弱さでE-級に分類されているだけ。体は腐っておらず、それがちゃんと『魔物』であることを感じさせる。脳が腐っているゾンビと違い、知的行動を感じた。
俺の突撃に、2度目で攻撃を合わせてきたことなどが、俺にそう感じさせたのだ。
ゾンビとはランクは同じなのに、明らかにレベルが違う。
(今の俺じゃ……。ゾンビ以外の魔物に苦戦する。もっと強くならなきゃ、上には通用しない……。)
ファイバはどこか少し不服そうな俺の顔を見て、ニヤリと笑った。
言葉にはしていないが、きっと伝わっている。
俺の今の気持ちが。
しばらくして俺達は採取を終え、冒険者ギルドへと帰るのだった。




