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第10話『その拳に乗せるもの』

 昨日と同じ宿で目を覚ました。

 現在時刻は朝8時。

 今日はチームで集まる予定がないので、朝練は少し遅めである。


「それにしても……特訓、か。」


 キバは自分が能力者の特訓についていけるか、不安なのである。

 ついていけるかどうかじゃなく、心構えが大事だ。これはキラトから教わったものだ。


 キバは身支度を済ませ、約束の場所へと向かった。

 宿から歩いて10分ほど、グランベリアの外に出る。

 初任務の時の林のちょっと手前、足場の良い平野で、キバとファイバは集まる約束をしていた。


「この辺だったと思うけど……」


 キバが周りを見渡すと、ちょうど待ち合わせの場所、目印となる道案内の看板が見えた。

 あそこだ。ちょうど、1人付近に立っている。


 少し駆け足でキバがそこに近づくと、やはり立っていたのはファイバだった。


(先についてるなんて珍しいんじゃないか?)


「よぉ、新米冒険者。遅かったな」


「まだ集合時間の20分前だぞ」


 キバがそう返すと、ファイバは笑って「やる気が見られていい」と言った。

 ファイバのことだ。「遅かったな」と言いたいだけだったんだろう。


「早速今日から訓練始めるぞ!」


 そう言うと、足元にあった丸太のようなものをドン!と地面に突き立てた。

 ……サンドバッグ、多分そうだ。

 ファイバはその直後、キバが予想していなかった事を言い放った。


「適当に打ち込んでみろ。敵だと思ってな」


「……えぇ……」


 てっきり、敵との戦い方について教えてくれると思っていた。

 こういうふうに打ちこめ、とか。

 キバの素の実力を見るためだろう。キバ的にも納得しかない。


「分かった。やってみる」


 軽く足を曲げ伸ばししたり、腕を回したりして、ストレッチを終わらせた。


「ふぅ……」


(行くぞ……!)


 キバその丸太に向かって一歩を踏み込み、上の方を殴る。

 蹴りも交えながら、ある程度丸太に打ち込み終わると、ファイバはキバを手で制止した。


「まぁ、はじめだし下手だな。まず体重が乗ってない」


「うっ……」


 キバも打ち込んでる途中から、そう思いながら続けていた。

 あの日、ゾンビを殺したときのような手応えがない。


「どうすれば良くなる?」


 ファイバは間髪入れずにこう言った。


「お前は今、強く打とうと思いすぎて、手だけで殴りに行ってる。腕の力じゃなくて、大事なのは特に下半身だ」


 ファイバがその場で構える。


「キバがゾンビを殺したとき、あれは体重が乗ったいい攻撃だった。何が違うと思う?」


 キバはあの時のことを思い出す。

 足がもつれて、ゾンビの方に倒れそうになったんだったな。

 その時よりいい姿勢で攻撃してる今のほうが強そうなものだが。


「あのときは足がもつれて、コケながらの攻撃だった、ぐらいしか思いつかない……」


 そうだ、とファイバが言った。


「あの時、お前は倒れ込むように攻撃したよな。考えてみろ。その場に両足そろえて立って手だけで壁を押すのと、倒れ込むようにして壁を押すの。どっちが体重乗ってる?」

「……あ、そうか」


 倒れ込んでるほうが体重が乗っている。そりゃそうだ。

 当たり前の事だが、気づくことができなかった。


「でも、毎回姿勢を崩してたら隙ができるんじゃないか?」


 新しく、キバの中にできた疑問を聞いてみた。


「そうだ。まず、体重を乗せるのに、わざわざ倒れ込む必要はない。」


 ここでファイバが動き始める。

 丸太に向かって軽くパンチを打つと、さっきのキバの連打よりも丸太が揺れた。

 キバには、このパンチは軽く打ったように見えた。

 そんなに速くもなかったし、能力も使ってなかったはずだ。


「キバ、パンチを打つとき、何を意識した?」

「そりゃ、当ててダメージを与えることだよ」


 ふっ、とファイバは笑った。


「まず、その『当てる』って意識を変えてみろ。パンチを打つとき、右頬に拳が当たるなら、その反対側。左頬まで衝撃を伝えるイメージだ」


 要するに、奥の方まで貫通するように、ってことらしい。


「あと、その打ち方やめろ。手ぇ怪我すっぞ」


 ファイバに拳の握り方、手首の構え方を矯正してもらう。

 そこでもう一度丸太を打ってみると、威力は少しで済まないくらいに上がっていた。

 奥の方まで貫通するように打つことの何がいいのか、と聞いてみた。


「『当てる』をゴールにしちまったら、相手の中まで響く攻撃が打てるわけねぇだろ。だからもっと奥の方を打つようなイメージをするんだ」


 定められた距離を走るとき、ゴールを目標にするか、ゴールの先まで突っ走るか。

 その先まで全力で走る意識でやると、ゴールの時点でも意識的に全力で走れるから良い結果が出せる、というようなもの。


「あとは……体の使い方だな。」


 そう言って、またファイバは構えた。


「キバの攻撃に体重が乗ってきてはいるが……。まだ手打ちだ。パンチってのは、身体全体で打つんだ。」


 ファイバはゆっくりと、キバに見せるようにパンチを打った。


 何度か見せてもらってるうちに、キバは段々と、自分とファイバで違うところが見えてきた。


 まず、構え方が違う。

 ファイバは前の方に重心を持ってきている。

 

 次に、打つ前の動作が違う。

 手は常には握っておらず、構えるだけのときはぶらり、とまでは行かないが、軽く構えている。

 

 打つ瞬間の動作が違う。

 前にある重心をさらに前に押し出すように、前足に体重を乗せ、足首→膝→腰→肩と、下の方からひねっていくようにしていた。

 

 打つ瞬間。手は構えていた場所から狙った場所までの最短距離をきれいに描き、打つ直前に手を強く握る。

 体重の乗った一撃の後、ファイバはすぐに体を元の姿勢に戻した。


 キバはもう一度、丸太に向かって打ち込むことにした。

 さっそく実践である。

 

(手は軽く。重心を前、さらに踏み込んで重心を前に、体をひねるようにして手を伸ばし、打つ瞬間に強く握る……!)


ドッ!!

今までの打撃とは比にならないほどの音を出し、丸太は大きく揺れた。


「いいじゃねぇか!」


 自分のことのようにファイバは喜んだ。

 キバは忘れないうちに2度、3度と打ち込んだ。

 その一連の動作が体に染み付くまで、しばらくかかるだろう。


 ……それにしても……。

 ファイバ、教えるの上手いな。

 ここはグン!でドン!だよ!とか言いそうな雰囲気だけど。


 ちゃんと動きの一つ一つが言語化されていて、実践に移しやすかった。

 きっとファイバも努力してきてるんだろう。

 

 わざとキバが見取り稽古のようなもので動きの意味や仕組みを深くできるようにしたり、過去の出来事をここで使ったりと、本当にいい先生だと思う。


「じゃ、次は蹴りだな」


 ファイバがそう言って、2人は昼前まで修行を続けた。


ーーーーーーーーーー

 昼、キバは宿に戻ってきていた。

 宿に販売されている食料を買い、部屋で食べる。

 味の方は、さすがに酒場などに敵わないものの、普通に美味しかった。

 キバの自作料理より少し美味しいくらいだ。


 そう考えると、料理も上手くなってきた。

 最初はアイシャですら酷評するレベルの味だった。

 アイシャがいなくなってからも少しずつ、キバは成長しているのだ。


 さて、昼飯が終わったらまた、キバはファイバと集合する約束をしている。今度は冒険者ギルドで、だ。

 もちろん、任務に行くため。

 訓練の成果をたしかめるためだ。

 ファイバは念の為、チルドにも予定を開けておいてもらったようだ。

 怪我して動けなくなった時のために。

ーーーーーーーーーー

 冒険者ギルドについた。昨日絡んできた冒険者がキバを睨みつけている。

 戦い方を教えてもらったことでキバは多少強くなっているため、自信もついてきたところだ。


「すまん遅れた」


(思ってないだろ……)


 まぁ、初任務の時の会話でファイバが遅刻魔なのは分かりきってるし、まぁいいか。


「何の任務受けるんだ?」


「前回と同じゾンビ討伐でいいだろ」


「うん、それが安全だと思う」


 チルドとファイバ、それにキバ。

 リーダーのキラトなしの3人で集まって任務に行く。

 D級冒険者がいなくなるだけで難易度が変わる気もするが、今回はキバも強くなってる。

 大丈夫だろう。


 三人は任務の手続きをして、外に出た。



 30分くらい歩いて、前回の林のあたりに着く。


「今回、メインでの戦闘は全部キバだ。危ない時に俺が助太刀する。もし怪我したらチルドが治す」

「安心して戦ってくれ」


 魔物との戦闘をキバが主役でやる。

 前回のままだったら、きっとすぐ死の危機にさらされるだろう。

 今は違う。今日の午前中だけの訓練でも、キバは大分強くなった。


「行ってくる!」


 目の前に地中から這い出て来た3体のゾンビに向かって走る。


(まずは1匹……!)


 訓練を思い出し、左足で踏み込む。

 体のひねりを使って体重の乗った右のストレートを繰り出した。

 もちろんゾンビはこれを避けず、もろに食らって顔面が大破した。


「よし……!」


 このときすぐ右に近づいていたゾンビと後ろにステップして距離を取り、後ろに傾いた重心を一気に前へ押し出す。

 と同時に右足を突き出し、ゾンビの腹を貫いた。


(これで2匹……!)


 振り返り、残りの1匹のゾンビに目をやると、こちらに向かって大きく振りかぶっていた。


(ステップじゃ間に合わないか!)


 キバは振り返った勢いでゾンビの肩を突き飛ばし、姿勢を崩す。

 ゾンビの攻撃が空を切った。

 腕を思いっきり振り下ろす攻撃だったため、ゾンビの頭も下がっている。


(左足重心、回転を使って……!)


 ばきゃっ!

 キバは右の足で頭をめがけて蹴りを入れた。

 骨の砕ける音とともに、ゾンビの首が横に吹き飛んだ。


「ふぅ……ふぅ……」


(動く相手が標的になるだけで、こんなに感覚が違うのか……)


 動かない丸太とは必要な集中力のレベルが違う。

 だが、キバはやりきった。

 ゾンビ3匹を相手に、無傷で圧勝できるくらいに、強くなった。


「やったな!」


「すごい……。昨日解散してからの短期間でここまで……?」


 ファイバは喜び、チルドは驚いた。

 内心、キバも嬉しいし驚いている。


(これが……俺の力、か……。)


 訓練をした時間はたった3時間ほど。


(短期間でこんなに強くなれるなら、俺にだって能力者と肩を並べる冒険者になれるかもしれない)


 もっとランクを上げていけるかもしれない。


「帰るぞ!」


 ファイバがそう言って、三人は来た道を引き返した。


ーーーーーーーーーー

「こちらが今回の任務報酬と、魔石分の報酬となります!お疲れ様でした!」

 

 受付のルルはそのお決まりのような言葉を言って、三人に報酬を渡した。

 魔石分、とは言ったが、ゾンビが落とす魔石は4つで銅貨1枚。3つだと切り捨てだからもらえたのは任務報酬のみだった。


「こんな魔物数匹倒して帰ってきたのか!無駄なんだよ!」


 昨日来た、いかにも悪役冒険者な奴だ。


「じゃ、明日も朝練な!2日目でさぼんなよ!」


 三人はその冒険者の言葉を無視し、それぞれ自分の暮らす場所へと帰った。


(毎回言われるならちょっとうざいかもな)


 どうにかならないものか。

 キバはそんなことを考えながら、宿の宿泊継続手続きをした。

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