t=0 始まらぬ終わり、終わらぬ始まり
足音がする。真下からだ。
「そこか!」
俺は地面を強く叩く。抉るように、そして下にいるそれを殺すために。
「おいおい、物騒なんてもんじゃねぇなあ、『最強』さんよお。」
姿を現したそれは、まるで俺を煽るようにニヤリと笑った。……ふざけ、やがって
「戦場に物騒もクソもあるかよ、下手な煽りは身を滅ぼすぞ」
奴は跳び上がって、俺に向けて炎の一斉斉射を行った。俺はそれを打ち消すように、氷魔法を放ち続ける。
「……! しまった!」
氷魔法と炎魔法が打ち消し合うとき、当然ながらそこには蒸気が生まれる。相手はそれに乗じて、雲隠れして────。
「ダメだー!」
人間、体験したことがないものは小説に書き起こせないという。まあ全くの嘘ではある……とは思っているのだが、流石に『最弱』が『最強』を描くのは、過ぎたことだったらしい。
とっくのとうに失った右腕を見つめる。この右腕にペンを握らせ、空に物語を描けるのも、どうやらこれが最後らしい。
「明日は『最強』との模擬戦、ね。上層部も嘘がうまいことだ。」
明日、俺は処理される。そりゃそうだ。ここは仮にも秘密裏に動いている組織……俺みたいな足手纏いは、無駄な物資の動きを増やすだけ。それはつまり、陸軍やら、警察やら……とにかく、公的な組織が掴む足を増やすことに他ならない。
「俺だって、そう子供じゃない……これは仕方ない、それは、わかってる。」
「君にしては珍しく威勢が悪いじゃないか、『最弱』。」
隣から話しかけてきたこいつは、キリ。俺とは、一応ルームメイトにあたる。
「お前もわかってるだろう? 近年劇的に増え出した、俺らの敵、『U』。秘密裏に動いて対処し続けるにはあまりに数が多すぎる。どのみちこの組織は隠し通せるものじゃない。だから、お前は、処理されるわけではないさ。」
「いや、俺を処理する理由なんていくらでもあるだろう? Uだけが理由だとは思っていない。」
「……そうかい。諦めるのは勝手だけどね、お前が辛気臭い顔してると、俺が困るんだよ。お前の心、いつの間に飲まれたんだ?」
ルームメイトはそう言い残して、部屋を去った。
U。突如現れた、全てを飲み込む謎の存在。奴らは、人を飲み、街を飲み、そして……
「心を、飲む……」
そしてUはその巨体から新たなる存在……『A』を作り出す。そのAは、いついかなる場所にいようと、なんらかの要素を持つ。そして、Aを目撃し、もしそれを倒してしまったなら……
「AbilityのA、か。」
右腕を見つめる。もしこいつがあったなら、ここには来ずに済んだのだろうか。いや、そもそも俺の右腕は……
「ショウト、模擬戦の時間だ。いつも通り、せいぜい足掻け。」
最弱を魅せるには、あまりに力不足だっただけだ。
t=0 終




