【MOVIE2】原子番号14は付けてくださいね
【MOVIE2】
妹の真衣がいちごジャムを塗られたパン耳片手にスマホを弄っている。
俺はそれを傍観しながらもやし炒めを食べていた。
「おい、ごはん中のスマホはダメだぞ」
「えぇ~おこう先生の動画みたいですぅ~」
『しばき倒すぞ!このクソガキがぁ!ヴォイ。』
真衣のスマホから怒鳴り声が響いた。
……言っちゃ悪いが、趣味悪くないか?
今時の女の子が見るような動画じゃないだろ……。
それに、兄として妹の教育に悪影響が出るんじゃないか心配だ。
「だーめっ、行儀悪いだろ。」
「イヤじゃイヤじゃイヤじゃ~!」
真衣のスマホを取り上げると、真衣は餌を見たフェレットのように俺の手に向かってぴょんぴょん飛び跳ねた。
しばらくすると諦めたのか、悔しそうにパン耳を頬張っている。
さすが我が妹、悔しがる姿もかわいい。
「なぁ真衣、youtube好きか?」
「好きですよ~。無くなったら生きていけないです~。」
「そっか。ならそのうち、すごいもの見せられるかもな。」
「すごいもの!? それってなんですか~?」
「ないしょ!」
◇
授業が全て終わるなり、俺はホームルーム前に教室を出ていった、とある生徒を追いかけて学校を出た。
その生徒はすぐ見つかって、もう一人の方も一緒にいた。
「おい、ホームルームぐらい出ろよ」
「あんただって同類でしょ 今ここにいるんだから。」
まぁ、そうだけど……
「間切」
「……何よ」
「俺、ユーチューバー目指すことにしたよ。」
俺は言った。
「昨日、動画の編集とか調べたんだけどさ、何か難しい言葉が多すぎてs――」
「イヤよ」
まだ、頼んでもないだろ!?
「動画編集くらい、ググればやり方の載ったサイトが幾らでも見つかるでしょ?」
間切は腕を組んで偉そうに答えた。
「ああ。確かに載ってるサイトは見つかった。でもさ、残念なことに俺の頭じゃ理解が追いつかなかったんだよ。」
「はぁ? だったら理解出来るまでサイト見てなさいよ。」
確かにその通りなんだけどさ。
「そこをなんとか頼む! 俺は……変えてえんだ、クソみたいな毎日を!」
「わかった。そこまで言うなら協力してもいい」
「マジでか!?」
「ただし、今日からあんた、あたしの下僕ね」
「下僕ぅ? 俺が……お前の?」
「そ。ヤならこの話はアリよりのアリからナシよりのナシになるから」
―――――は?
なんで俺が、お前の下僕なんぞになんなきゃいけねえんだ……!
けど、答えはもう決まってる。俺は……真衣のためなら何だってする。
……だから
「なる……なるから、俺に編集を教えてくれ」
「それならよし。」
と間切は笑みを浮かべた。
――俺、間切、あいなの三人は校門を出た。
「もも様に編集教えてもらえるなんて超嫉妬案件なんですからね!」
と言うと、藍那は急用を思い出したらしく、帰ってしまった。
嫉妬ってなんだろ。と考えていると間切が会話を切り出す。
「じゃ、行こ」
「行くってどこに?」
「あんたの家に決まってんでしょ」
「えっ!?」
「動画の編集、するんでしょ?」
「いや、なんで俺の家? ス○バとかじゃダメ?」
パソコンいじりながらドヤ顔する人ごっこしてみたい。
「このスーパー美少女こももちゃんに低俗な店に行けと?」
スタバが低俗? 贅沢なやつだな。マ○クって言いたい所を背伸びしたのに!
と思ったけど、間切ほどの知名度だと先日のように動画を見た人に集られる可能性もあるか。
次に、『じゃあ、お前の家は?』とも聞こうかと思ったけど、『あんたみたいな低俗なやつ、ウチに入れたくない』とか言われたら悲しくなりそうだからやめた。
「……分かった。俺の家でもいいけど、覚悟はしとけよ。」
俺の家はそれこそ”低俗”でス○バなんて神殿に見えるレベルのボロ屋なのだ。
「覚悟!? あたしのこと襲うつもり!?」
―――――は?
自意識過剰すぎるだろこいつ。
お前みたいな性悪女に欲情なんてしねえつーの。
「心配しなくても何もしねえよ。」
「……だと良いけど。」
俺の家に向かって、間切の隣を歩く。
ふと思った。
「なんでお前ユーチューバーやってんの?」
「……なんで?」
不思議そうな面で俺を見る間切。
「やってて楽しいからに決まってるでしょ。それ以外の理由っている?」
訳わかんねえ。動画とって編集するだけだろ?
「けど、しいて言うなら分かってもらえるのが嬉しいから」
「……分かってもらうって何を?」
「自分のことに決まってるじゃない。自分の投稿した動画で、みんな喜んでくれて、あたしを認めてくれるのが嬉しいの。」
「ふーん」
ますます、訳分かんねーや。
「そんでね、あたしは、日本一……世界一のユーチューバーになりたいって思ってる!」
「世界一!? ってことは……ムカキンやまじめしゃちょー超え!?」
「たりめーでしょ、ムカキンもまじめんもぶっ倒して、地球最強ユーチューバーになりたいって思っーーいや、絶対、なるから」
あまりのスケールのでかさに、言い回しに、唖然としてしまった。
間切って普段偉そうだけど、案外アホの子だったりするのかな。
――そんなこんなで、俺の家へと到着する。
「着いたぞ」
真っ黒な屋根。錆びて茶色く染まった窓ガラス。
壁は薄汚れた灰色で所狭しと蔓が生い茂っている。
木造で築50年。そのボロアパートの3階一室が俺と真衣の暮らす家だ。
なんと、家賃はたったの1万円。
不動産屋の話だと、良くないことが絶えないからこの値段らしい。
部屋番号が0301(わざわい)なのをもじって、災いの部屋なんて言われたりしてる。
「……なにこのアパート。きったな。」
「悪かったな。まっ、お前の心よりか綺麗だから安心していいぞ。」
「帰る。」
「嘘! 冗談!」
「次、同じようなこと言ったら今度こそ帰るから」
はい……肝に命じておきます。
階段を上がって、部屋を鍵を開けた。
「ただいまー」
「お、おじゃまします。」
こんな性悪女でもお邪魔しますは言えるのか。ちょっと驚きだ。
狭い家に声が響くと、奥の部屋から妹の真衣が出てきた。
「おかえりですにーN……って! お客さん!?それも女の子!?」
飛び出してきた真衣は、間切のことを見ると現実を受け入れられないのか、目をチカチカさせて瞬きを繰り返していた。
「初めまして。間切こももです。」
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「は、はじめまして!? ですよね!?」
(何かこの人どっかで見た気が……)
「にーにの妹をしています!舞浜真衣です。」
「ど、どーしたんですか、にーにっ! こんな美人さん!」
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「ちょっと顔は良いかもしれんが、中身は最悪だぞ。」
<ゴッ>
間切に肘打ちを御見舞された。
「やだ、かわいい!」
――ぎゅつ
間切に抱きしめられる真衣。
「痛いです~! それに何か臭い! オスを誘惑する臭いがします~」
バッと間切の手をどける真衣。
「もー! 照れないの。」
「いやじゃ! 寄るなギャバア!」
俺の背中に隠れる真衣。
「そ、その、ルフィはちゃんとしてくださいね!?」
「「ルフィ?」」
何故、そこでルフィ!?
「ではごゆっくり!」
なぜか、真衣はそう言い残すと家から出てってしまった。
「早速だけど、始めましょうか。」
「……ああ。」
「あんたの部屋ってどこ?」
「そんなもんあるわけねーだろ」
そう。
俺の家には、6畳のリビング兼キッチンと8畳の寝室の二間しかなかった。
「……はぁ? じゃあどこですんのよ。」
「寝室の天井に部屋を仕切るカーテンがある。それ使えば部屋っぽくはなるだろ。」
「寝室!? やっぱりあたしのこと襲うつもりで……」
間切両手で肩を抑えてプルプルさせた。
「んなことしないって言っただろ……。とっととやろうぜ。」
俺、どんだけ信用ねえんだよ。
「ヤる!?」
「その下りもういんねーから!」
作者PS.こもも…うざいなこの女。