【MOVIE7】N○Rインフルエンサー
「結人くんなら、そう言ってくれるって信じてました。」
藍那がホッとしたような面をして俺を見つめる。
「なら、これを見せても大丈夫そうですね」
そう言うと、藍那が再びスマホを取り出して、DMをスクロールさせた。
“分かった。する。でも、あいつを、結人を、傷つけたら絶対許さないから“
”分かってるって^^“
……また、結人って言ってくれた。あの間切が。
だけど、今はそっちより……
「何で俺の名前が出てくんの?」
「結人くんをダシに、脅されているからですよ」
……俺をダシに?
「これ見てください」
藍那がDMを逆スクロールすると……
“初めまして^^僕、頂点っていうんだけど、知ってるかな?”
“君もよく知るマイハマーの妹を殺ったのは僕^^”
“兄の方も殺っちまおうと思ってるんだけど、そうなりたくないなら、分かるよね?”
――送信者に目を見張ると、頂点という名前だった。
「……は。じゃあ間切は俺の身代わりになって、こいつのとこに向かったってんのか」
「それ以外に、何があるって言うんですか」
あの時、ツイッターに上げるとか言った途端、間切の機嫌が悪くなったのはこれを見たから……
……何でだよ。
何で俺みたいなクズを庇ってお前がそんなことすんだよ。
さっきの俺の妄想が現実になろうとしてんじゃねえかよ。
ざけんな、ざけんな、ざけんな……。
「もしもーし!」
「あっ……悪い。ぼーっとしてた。」
「迎えに行きましょう。もも様を。」
「ああ、行くに決まってる」
「でも、迎えに行くつったってあいつ今どこにいるか分からないだろ。」
「もも様は今、沖縄にいます。」
「沖縄? なんでそんなこと分かんだ?」
「ボクがもも様とGoogleアカウントを共有してるのは知ってますよね? ログイン履歴から沖縄のIPアドレスが表示されました。」
「沖縄つったって何メートルあると思ってんだ。そんな広い範囲から間切を見つけるなんてキツイんじゃねえのか」
「さっき調べましたが、沖縄に『おも』から始まる町名は『おもろまち』の一つしかないです。」
ああ……さっきの『おもホテ』のことか。
「『おも』?『ホテ』はどこいった?」
「……結人くん、もしかしてわざとやってます?」
藍那が目を細めて俺を睨む。
「『そういうこと』するっていったら一箇所しかないですよね?」
あ……。
「すまない、俺、デリカシー無さすぎだな。」
「……ほんとですよ。」
つまり、間切は今日の夜8時に沖縄の『おもろまち』にあるホテルに現れる。
「でも、その『おもろまち』にだってホテルは幾つもあるんじゃねえの?」。
「……そうですね。ですが、安心してください。」
「ん?」
「googleの検索履歴から『ここ来てね☆ 尾奈ホテル 3101号室』と出ました。」
……何だその、おっさんが書いたみたいなキショイ文章は。
「それがどうかしたのか?」
「おそらく、ラインを交換したあとにこの文が送られてきて、場所を調べようとしたもも様が、テキストを丸ごとコピペしたんでしょう。ラインの全選択しか出来ない仕様が幸いしたんだと思います。」
「いや……全く意味分からないんだけど」
「結人くんはやっぱり、おバカさんですね」
悪かったな。
テキストとかコピペとか全選択とか、難しいこと言われても訳わかんねえんだよ。
「簡単に言うと、googleアカウントを共有していたことと、ラインの仕様のおかげでホテー(ゴホン)の名称と部屋番号まで割り出せたということです。」
……最初から簡単に言ってくれ。
「つまり……今日の夜8時に、沖縄のおもろまちにある、尾奈ホテル 3101号室に間切は現れるってことか。」
「そういうことです。」
そんなこんなで俺と藍那は駅のロータリーに到着した。
「その、言いにくいんだけどさ」
「どうかしました?」
「…てくれ。」
「はい?」
「……金、貸してくれ。」
「はいこれ、使ってください。」
1センチはあるだろうか、藍那にかなり厚めの茶封筒を手渡された。
「ありがとう。すぐには無理だけど、バイト代入ったら少しずつでも返すよ。」
……我ながら、すごくみっともない。
「結人くん、勘違いしてますよ」
「えっ、何か勘違いするとこあった?」
さっきは俺の勘違いで、セクハラみたいなことになってしまったから、勘違いなら今のうちに知っときたい。
「貸すのではなく返します」
「返す? 俺、藍那に金なんて貸したっけ?」
俺には人に金を貸す余裕なんて全くない。(全く誇れない)
「いえ、これは結人くんの動画の広告収入で得たものです」
「俺、あの時の動画に広告なんてつけてないぞ。」
「違います、これは土下座動画の広告収入ではないです」
「えっ」
「キス動画と煽り動画の分です」
―――――へ?
―――――は?
―――――はっ?
「ってことは……! 藍那があの『ているん♪』なの!?」
「……はい。 僕の苗字と似てるでしょ?」
いんてる→ているん
言われてみればそうだ。
ほぼまんまじゃねーか!
どうしてこんな簡単なことに気がつかなかった。
「これがあの時、『僕が居たこと後悔しますよ。』って言ったことの答えです」
「……あーね。」
何か、今までのご都合主義ほぼ全てに合点がいったわ。
「ボクのこと……恨んでますか」
「それを答える前に俺から質問していいか、2つほど。」
「はい、どうぞ」
「まず一つ目、藍那は俺の煽り動画をパクったけど、あの時点じゃ、タイトルは日付のままだったから動画を見つけるのはほぼ不可能に近かったはずだ。どうやって見つけたんだ。」
「チャンネル名ですよ。チャンネル名が結人舞浜だったから、事前に本名を知っていれば見つけられるじゃないですか。」
……ってことは
「お前に俺が助けを求めたときの態度は演技だったってことか」
「そういうことになりますね。」
やっぱ外道だよ、お前。
「次に二つ目、なんでこんなことしたんだ。」
「こんなことと言われても、正直色々しすぎて困るんですが……」
……確かにな。
「けど、全てのボクの行動の根幹は一つです。」
「結人くんを、もも様の(かれ)ぴっぴにしようと思ったからです。」
……ぴっぴ? ギエピーのことか。
相変わらず、藍那の言うことはわけわかんね。
「そんなことの為に、俺を炎上させたってのか!?」
「イヤでしたか?」
「……別に、イヤってことはねーけど。」
欲を言うなら、ミュウツーとかレックウザが良かった。
「さっきの問いの答え、聞いてもいいですか。」
……藍那を恨んでるかどうか。
「まぁ、正直恨んでる」
「……です……よね」
「けど、そんなのは端っこに出る登録ボタンぐらいのもんだよ。」
「……はい?」
「藍那のおかげで、俺はまた間切と出会えた」
「あいつと会ってからの毎日、ずっと楽しいんだ。」
「だったら……早くもも様のところに向かいましょう」
「間切だけじゃない、藍那もだよ。」
「えっ!?」
「キヌエにも。Youtubeにも。ユーチューバーにも。」
「ムカつくことも多かったけどさ、すげえ楽しかったんだ。」
「俺の眼で、耳で、撮ってきた動画は、見返しても間違いなく高評価押せる代物だったと思う。」
「だからさ、ありがとな。炎上させてくれて。」
「ど、どういたしまして(?)(半分ぐらい意味不明でしたけど……)」
「じゃ、飛行機の時間もギリギリっぽいので電車乗りましょうか。」
「ああ。だけど……乗るのは俺一人でいい。」
手を汚すのは、俺一人で充分だ。
「……何でですか、二人で行きましょう」
「何でもだ、ついてくんなよ」
「無理ですよ、そんなの。部屋の前まで辿りついたとして、どうやって鍵を開けるっていうんですか。ボクがホテルに根回ししないと絶対無理です。」
「根回しとかそんなのも必要無い、全部俺がなんとかする」
「どうして結人くんは、そんなにボクがついて行くことを嫌がるんですか」
ちっ、藍那も真衣に負けず劣らずすげー頑固だ。
時間も無いし、しゃあないな。
「藍那が嫌いだからだよ。元はといえば藍那があんな動画を盗撮しなきゃ、真衣も間切はこんなことになってねえんだ」
「そうですけど、さっきはチャンネル登録ボタンぐらいだって、ありがとうって言ってたじゃないですか!」
「気が変わったんだよ」
「……そんなのズルいです。ボクが結人くんに負い目を感じること、分かって言ってるじゃないですか。」
「ズルくて、いいよ。とにかくついてこないくれ」
「何か……ボクがついてっちゃいけない理由があるんですね」
「そーいうことだ」
「……それでも、ボクは行きます……! いつか言いましたよね、ボクはもも様のためなら何でもするって。」
……今はっきり分かった。
藍那は、真衣以上に頑固だ。
ここでキルアとかサスケみたいな手刀でザンッって出来たらいいんだろうが……
けど、そんなのは漫画の、アニメの、二次元の世界の話だ。
倫理的にも肉体的にも精神的にも俺には無理だ。
大体、そんなんして藍那を放置したら、今の間切と同じ状況になる可能性だってある。
かといって、俺は藍那を説得出来るだけの材料を持ち合わせてない。
藍那の安全を確保しつつ、葛西に置いていく……
場所は駅のロータリー、相手が藍那で、藍那の身長だからこそ出来る方法。
それは……
「おまわりさーん! ここに迷子が居ます! 早く来てください!!」
大声でそう叫んでやった。
「なっ、何言ってるんですか!」
――交番からおまわりさんが出てくるのが見えた。
「今ここで、二人とも事情聴取受けたら終わりだ。間切を助けたいなら、出てきたポリ公を足止めしてくれ」
「やっぱり……結人くんはズルいです。」
「約束してください。絶対、無事にもも様を連れ帰ってくるって。」
「ああ、約束する。絶対に……だ。」
「……いざとなったらこれ使ってください」
と、真っ黒な巾着を手渡された。
中を開けると……
……なんだ、藍那も同じこと考えてたのかよ。
「行ってらっしゃい」
「行って来る。」
「あ、そうだ。帰ったらポ○モンバトルしようぜ!」
「……?」
作者PS.ぎえぴーのくだりどういうこと、、? 今はライン、指定選択も出来るようになりましたね。 とりあ藍那可愛い。




