【MOVIE5】カニのツインテール
家に着くと、真衣が泣きながら『にーに!心配したんですよ~』と抱きついて来た。
妹に心配されるのはやはり良いものだな。と喜ぶ俺だったが、プール行くと告げた途端、真衣はいきなり目をキラキラさせて『真衣も連れて行ってほしいのです~』と騒ぎ始めた。
――その結果。
「にーにーとプール楽しみです~」
「そう思ってられんのは今のうちだぞ。」
……これから真衣は地獄を見ることになるだろう。
【MOVIE5】
俺と真衣は近所の区民プールの入り口へと到着した。
辺りを見渡したが、藍那は見当たらない。まだ来てないのだろうか。
代わりに、でっかい日傘をさした小柄な人が立っていた。
俺の方から見て傘をバックにしているので、はっきりとした姿は分からないが、長いニーソとスカートが目に映った。
なんだか、その傘に、その後ろ姿に、見覚えがある気がする。
「藍那、貴様遅いぞ!」
と、何だか聞き覚えのある声が。
周りに藍那が見当たらないという点から、通話をしているのか? この人も藍那にこき使われるのだろうか……?
なんて考えていると、クルッとターンしてこちらを向いた。
150cmくらいの背丈。
前へと伸びる触覚のようなツインテール。先端がカニのようなハサミ状になっていて、両サイドもカニの足のようにロールされている特殊すぎる髪型。
特徴的な麻呂眉に、目元はがっつりメイクで、長いまつげが異彩を放っていた。
俺は、この格好を、この姿を、知っている!!
「それ、餡子の真似か!?」
気づけば、俺は目の前の少女に話しかけていた。
「真似などでは無い。“我は正真正銘のカニ崎餡子だ!”」
「……なっ!?」
その声は!
俺のかつての推しキャラ、『妬いてるシスターシンデレラジャンヌ』の『カニ崎餡子』のものだった。
見てくれだけならともかく、声まで二次元のキャラと一緒なんてあり得るか!?
「夢じゃ、無いんだよな?」
「だから言っただろう、我は餡子だと」
手で片方のハサミを払う少女。
「……いや、キヌエちゃんですよね!?」
と真衣の声。
「誰だ貴様! なぜ我の真名を知っている!?」
「同じクラスの舞浜真衣ですよ~」
「なるほど、わからぬ!」
「覚えてもらって無いのですか~>< かなしーです。」
どうやら真衣の同級生らしい。
……キヌエ?
どっかで聞いた気が。
……ああ!
「キヌエちゃんってもしかして、デレジャンやってる?」
「やってるが。それがどうかしたか?」
「毎回ランキングで一位とってる『キヌエェ!』ってキヌエちゃん?」
「如何にも。そうだが、何故分かった。」
マジかよ。
「実は、俺もちょっと前までデレジャンやってたんだ。ランキングで、「マイハマー」って見たことないか?」
「あー! あの、昼間にやたらポイント稼ぐ『マイハマー』か!」
「そうそう!それ!」
……トッププレイヤーに認知されていたのが嬉しい。
授業ふかして、屋上でやってた甲斐あったぜ。
「貴様がランキングに顔だしたのは第二回の『触らぬ蟹に挟み無し』辺りだったか?」
「そう、あのイベが初だった! 当時はSSRの排出率低くて艦隊組めなかったんだよなー」
「にーに、まぢでキモイ」
と、真衣に会話を遮られた。
傍から見たらキモいこと言ってたんだろうな、俺。
「……ごめん」
久しぶりのデレジャン話に盛り上がってしまった。全部、捨てたつもりだったのに。
話題をデレジャンから引き離して、真衣も参加出来る会話にしなければ……。
「あのさ、キヌエちゃんは学校でも餡子の真似してるの?」
「これは真似ではない! 魔装だ!」
「「……魔装?」」
「魔装じゃなくてそれはコスプレって言うんですよ」
「遅いぞ、藍那!……それと、久しぶりだなー、間切こもの」
「小物!? あんたより登録者50万人は多いんですケド?」
「そいつらはアクティブじゃ無いだろうが! 上昇率じゃ我のほうが上だ!」
――バチバチーー
……なんで間切のやつが居るんだ。
「悪い、俺帰るわ」
そう言ったら、間切が俺の方へ振り向いた。
「ちょっと、藍那! 何でこいつがいんの!?」
……俺だって、居たくているんじゃねえよ。
「ボクが呼んだんです。散々こき使ったのでご褒美あげようと思って……」
「俺、居たら迷惑そうだし帰るわ」
今すぐここから逃げ出したい。帰りたい。
気持ち的にも、理屈の話でも。
「行くぞ、真衣」
――がしっ。
背を向けた俺は手を掴まれた。
「……真衣。ここじゃなくても、プールなら浦安のとこにでm――――」
―ぎゅっ。
強く掴まれた手は、指先は、真衣のものじゃないって感触で分かった。
振り返ると、俺の手を掴んでたのは真衣ではなく――――間切だった。
「……居て、いい。」
「は?」
「ていうか、居て。居て…ほしい。」。
「……お前それ、言ってる意味分かってんの?」
「分かってる。分かってなきゃこんなこと言わない」
真剣そうな瞳を浮かべる間切。
「……分かってねえよ。俺とお前が、プールにいるとこなんてまた盗撮されたら、せっかく沈下させた炎上がまた燃え上がるだろ。」
「あたしが言いたいのは、そういうことじゃ―――――」
「その心配なら大丈夫ですよ」
藍那は言った。
「いや、大丈夫じゃねえだろ。俺はもう、前みたいなのはごめんだ」
「前みたいなことにはならないです。絶対。」
……何の根拠があってそんなこと言えんだよ。
「だって、貸し切りですよ。プール。」
「―――――へ?」
作者PS.新キャラをテコ入れするのって難しいですよね。俺はかなり下手や… キヌエのカニのハサミのようなツインテールのデザインはお気に入りです。