「SNS」〜大手町に勤める都内勤務の独身30代サラリーマンと家庭環境に事情があり、家を飛び出し複雑なバックグラウンドを持つ女子高生がおりなす恋愛物語〜
CHAPTER1
渋谷のネオンライト、スマホ、インスタグラマー、ハロウィン
これらのものに共通して現代人は潜在的に輝かせることが、自分を美しくさせると思わせた。属にこれらは日本市場で国民の性質を掴み勝ち組へとのし上がり、ましては、自分たちが今までにない製品でまるで全ての、特に若者へ、大いなる偉業を果たしたと、自惚れする程自負しているだろう。
女子高生のインスタグラムの用途は、主にインスタグラムにより架空の日常に仕立てたり、思わせたりなどしてフォロワー数やいいねの数を「稼ぐ」。暗黙の了解で
おいては、彼氏写真、海外、カフェ、高級店などましてはそれを頂いてることを書く人は大抵美人かまたしても手に届かない子なのだろう。若いくせして生意気だよな。
そんなことを同僚と帰りの電車で談笑していた、丸ノ内線にそのようなファンタジーは起きるわけがない、大手町駅にはロマンスさえもない。同僚の「そういう
女子高生は大人の男を見る目もあって、可愛げなんか無いんだろうな
プリクラ撮ってもどうやって撮ったら可愛く見えるかなんて分かっているし、自分の売り方だって分かっているからさ、俺らの頃なんかデジカメで撮って焼いた写真にペンでお絵描きしてさあ、あー可愛かったわあのクラスのマドンナちゃん、えーと名前は…。」発言とは裏腹に少し彼女たちに関わることができるサラリーマンさえ羨ましい。
次の日もその翌週も同僚とは一緒に帰るけれど、その話が脳裏から離れない。
まるで頭で虫が昼寝をしているようだった。
課長からの半ば強制的に先輩女性の退職祝いの幹事を任され、嫌々な態度を見せながらも心の中ではエリア決めを牛耳れるこの喜びが心の中で暴れている。
女性社員と言うこともあり、雰囲気のいい店や見栄えする料理などを決めるのに
インスタグラムは大いに力を発揮した。タグつけの検索はとてもやりやすく、沢山の利用者の感想やおすすめのコースやメニューが一目でわかりやすく、また一緒に行った人も写真で載っている。インスタグラムは人それぞれ様々な投稿の仕方があるけれど、中には「記念日とタグ付けされているにも関わらず相手の写真が投稿されていない写真」もあった。なんでだろう、そう考えるといつの間にかインスタグラムというアプリに見入ってしまった。しばらく色んなインスタグラム利用者を漁っていると原因の目星はついてきた。そして、根拠もないがまた同僚との話が脳裏を過ぎった。セミが泣き叫ぶ異様な夜だった。
無事に先輩の会は終わり、課長や女性社員から沢山のお褒めの言葉を寄せられた。
純粋に嬉しさが溢れ落ち、青山駅はいい頃合いで鈴虫の声色をならせておいてくれた。それぞれ家路をたどる男性社員や、インスタ映えの写真を目的に現地に残る女性社員とで分かれた。男性同僚に混じりながらメトロ渋谷線から渋谷駅で乗り換えて山手線で神田で降りるはずだったその道を、山手線に乗る前に遮ぎられた。
「ごめん。。買うもの思い出したから、何本か後の電車乗るわ、先に帰ってて」
「おお‼︎気をつけてなー」
思わず口から出てしまった。誰がいるんだ、自分の中には。
渋谷駅の人混みにかき消されて苦しみながらも窓に這いつくばるセミに同情しながら、センター街へと足は運ばれていった。
CAHPTER2
無意識に足は運ばれてしまったと言うものの、1人で飲み直そうと気持ちは切り替わり1人用の居酒屋やバーを探し出した。女子高生の足を眺めながら歩いているとセミの騒音が邪魔をして、彼女たちの足元を辿ることに自分は許されないらしい。
298円から飲むことができる店を見つけ、昔を思い出す。当時のお金がなかった学生時代に恋人と飲みにいった時、テレクラで女子高生を誘って大学生や社会人が気前よく彼女たちをご馳走し、紳士的に駅で見送っていた姿を。そして「よそ見しないで」と耳を引っ張られながら心密かに憧れていた事を。
昔の記憶にふけっていると、10時になっていた。プレミアムフライデーの会社員が渋谷駅から新宿線に乗る優越感漂う姿を尻目にまだ大人が残るだろうセンター街へと足を運んだ。その時だった、カモシカのように細く綺麗な脚が目の前で転んで見せた。袖に重みは乗っかったものの、腕で簡単に支えることができた。
チューハイ二杯目で飲み直した筈の体は脳に酔いが回ってしまったと思えたが、そこにいるのは確かに制服をも身につけた女の子だった。
「あ。。。ごめんなさい」
「大丈夫です。。お怪我は?」
「大丈夫です。。まだご飯を食べていないもので。」
「これからどうですか?自分もまだ食事をとっていないので」
しまった。何紳士面して女子高生を誘っているんだ自分は。これで怪しまれたり、ましては警察になんて突き出されたらと思うと冷や汗が止まらなくなり、彼女の顔を直視できなかったのだが、まるで何かを察したかのように顔を覗き込んでから
彼女はまるで子供をなだめるかのごとく手を引っ張っていき、輝かしいネオンライトセンター街の奥へ導いた。
chapter3
虫の音が飛び交うセンター街でも自然は感じられるのかと関心しつつ、彼女は手を
引かれ、あたりはより眩しさを増していく。
「お兄さん、お店どこがいい?私ね、和食がいいな〜リーズナブルの」
チューハイのせいなのか頭が回らない、とりあえず右目の視界に入った小洒落た店をただただ凝視し、まるで察したかのごとく彼女はこのチューハイで酔ったヘタレなサラリーマンを連れて店の中へと堂々と入店した。
「ごめんなさい、衝動的に君の立場を考えないで気軽に誘って。時間も遅いだろうし君も疲れているだろうから、奢るし家まで送るから、好きなもの決めちゃってほしいな。」後の祭りではあるが、自分の立場を守りたいと言う思いを乗せながら
紳士な態度で彼女に誘導した。彼女は一瞬キョトンとし、そして緊張を溶かすかの
ごとく笑顔を向け、口を開いた。
「お兄さん、そんなに緊張しないでよwそんなに緊張されたの久しぶりだよ、初めてかもしれないな。私のことそんなに丁寧に扱ってくれるのね。さて何にしようかしら…。んー卵リゾットもおいしそう。」
彼女の栗毛や少し蛍光色を交えたアイシャドウから想像できない、和食好きなところやアイスブレイクが上手なところ、お冷の飲み方が丁寧なところ、とても彼女は華やかで美しく感じた。卵リゾットの熱さを飛ばそうと息を吹きかける姿には
思わず魅了された。そして思った、女子高生は愛しい。セミが少し唸っている
環境には少し暑苦しくも感じるほどだ。
もちろん写真は3枚撮っていた。自分のことを気にかけてなのか三枚に抑えてくれたように思えた。そして美しい栗毛とアイシャドウはまるで目薬を点けたかの如く綺麗な水晶玉のようだった。その姿もインスタグラムに写しているのだろうか。
「お兄さん、私ね時間は気にしない主義なんだ。お兄さんとても緊張していそうだし、お金のことも全然気にしなくていいよ。純粋にお兄さんといると何だか心地いいの、だからもっと一緒にいたい。」
「嬉しい、でもおうちの人は心配しないの?とても気使ってくれているけど
大人という立場上やっぱり君を安全に返してあげるのが仕事だと思う。」
この綺麗な栗毛の彼女と居たい。自分のことを忘れないでと思う反面彼女に見入って来始めた自分もいる。でもここは大人として身を引くのが最適だろう。
「じゃ、寂しいけどお別れするよ。駅くらいまでなら送る。本当に危ないし」
渋谷駅の雰囲気にマッチした栗毛は街灯のもとでより一層魅惑を見せた。
この栗毛に別れを告げるのはおしいと思いつつ、個人を特定しすぎる連絡先を聞くことはタブーである。
そんなことを考え悶々としていると女子高生の文化はまた気持ちを汲み取っていく。
「インスタグラムに今日連れていっていただいた場所載せますね。ここです」
「イ…インスタ交換しませんか‼︎」
「え、インスタやっているんですか‼︎オシャレですね‼︎」
今時の女子高生に褒められたことへの喜びと、自分の中からインスタという言葉が出てきたことに驚きが隠せなかった。レストランの予習が役に立ったのだろう。
お互いのスマホでネームタグを出し合い、静寂とそよ風がこの緊張に調和するように絡み頬を撫でた。
くすぐられた猫のような笑顔でゆっくりと踵を返した彼女の後ろ姿を見届け、
渋谷から遠い遠い窓から少しくすんで見えるセンター街のネオン見つめながら彼女にメッセージを送り、ふとメッセージを送りながら笑顔になれる自分を見つけた。
CAPTURE4
彼女のメッセージは来ないだろうと思っていたものの、朝のコーヒーは普段よりかはゆっくりと味わった。アイフォンに表示されるインスタグラムの使用時間は増えているが、それでもインスタグラムがこんなにも自分を楽しませることができるという発見できたことへの喜びは大きい。朝の日課にしていいくらいだ。
そんなことを考えていると彼女からメッセージが来た。大人としてどこまで彼女に対して関係を持っていいか分からず悩んでいると、またや若葉はクルリと交わし
相反した双葉になりたがるかのように、沢山の絵文字を巧みに使いながら
渋谷での食事を誘って来た。当然酔いは覚めているが、ここで踵を返す自分にはなれない。夜だけ会うのは味わいきれず、昼から会うことにした。
喜びは高まり、会う前に彼女の好きな店を念入りに調べておく。昨夜行った店、
新宿、渋谷。高級店やカフェは思いのほかあまりない。友人との写真は
モザイクで隠してあり、やはりここでも彼女の他人への配慮は感じられる。
タグ付けにも記念日という文字はなく、あんなに魅力的なのに彼氏は居ないのか
あるいはレベルが高くて男が狙えないのか。それとも他に自分との関係のような男を隠しているのか。心の中ではいつのまにか男関係の想像を繰り広げていたが、JKというプロフィールの文字で現実に引き戻された。
彼女の好みに合わせ昼は渋谷のカフェ、夜は少し大人に横浜に連れて行く。
ロードスターにワックスを付け、屋根をオープン状に全開に彼女の姿を想像しながら首都高を飛ばす。より地面と高さを強調させたこの道は2人を非日常にさせてくれる。
入道雲はまるで大きい綿あめのように広がり、渋谷方面へと雲は動く。
ハチ公前のたむろする人からも彼女のことを見つけられた。昨夜のセンター街とは反対に表参道方面に足を運ぶ。昼から会うなんてまるで恋人同士のようである。
隣のフレグランスの香りに誘われ、表参道までの港区の自然は安らぎを与えてくれる。港区ということもありお金持の男性が若い女の子を養う光景もいいが、差のありすぎる双葉としてでもいいから2人だけの特別感を味わいたかった。そんな時だった。彼女は僕の目を見つめ、手を繋いでくれた。自分の手が強く握り返さないか心配だったが、思うより紳士的に動いてくれた。
「このお店とても落ち着きあっていいよね。私すごく好きでねずっと行きたかったの。このレンガ造りもとっても可愛くて、ああ幸せ。」
「そんなに来たかったのか‼︎こんなにお出かけしてる回数多いのに誰とも来たことなかったの?驚いたよ。」
「みんなこういうところ来たがらないのよね。なんでだろう、私だからかな。」
髪をくるくると巻きながら視線を外す彼女を映し出すブラックコーヒーはいつもより濁ってさえも見えたが、豆を多く入れ過ぎてしまったのだろうと心の中で悟り豪快に喉に流し入れる。
「あのね。」
「ん?」
彼女から質問を問いただしたが、耳や頬は赤みを増している。テーブルに人差し指を打ちつけながらも、言い出そうと懸命に言葉を探していた。しかし彼女のパンケーキは運悪く到着してしまい彼女は女子文化を繰り広げはじめた。
「角度どんな感じで撮ろうかな…。 ん。。お日様の光が映り込んじゃって白く見えちゃう。。」
彼女の写真を写真を撮っている姿にいつのまにか目を奪われてしまった。大人の女が男にいい女とみてもらうために上品に振舞ったり、言葉を選んだり、彼好みの女になることを望む。だが実際相手に落ちるのは自分の期待を少し裏切ってくる行動や、本来結ばれてはいけない相手や、自分の気持ちをわざと汲み取らず天真爛漫に自分を振り回してくる行動だろう。恋とはやはり自分の期待から外れることから
始まるのだろう。君と貴方の呼び方の違いは、その期待の裏切りを超えて
も相手を愛せるか、否か。そんなものだろう。
自分の世界に浸っている間、女子高生はもうすでに毎回行事を終えており、パンケーキで舌鼓を打っていた。そしてパンケーキはゆっくりと少し辿々しく口元を当たりそうなくらいまで口元に運ばれていた。
「お兄さん、パンケーキ食べれる?これほんとにおいしいの。一緒に食べたいな。」
「お。。おう食べれるよ。じゃ貰うわ」
口を開き、パンケーキを切って運ぶ彼女の姿を見るとどんな性格の女の人でもこの子は妖精なのかと想わせるくらい女と言うのを意識させられる。そういえば学生時代にパンケーキを食べに来た時もショートカットの髪とジーンズ姿がパンケーキと対比して何故か守りたくなるような可愛さを感じさせた。
口についたクリームを拭き取り、結局質問は後にし店を出た。青々とした桜の葉は少し強めに風に揺られ、隣から漂うフレグランスは来年の開花を想像させる。来年彼女をここに連れて一緒に歩こう。そう誓った。
渋谷通りは女子高生、女子大生を中心に、また個人個人から様々な色を発し
華やかに街は彩られる。そんなファッショナブルな街はエセ魅惑を醸し出す大人の文化も兼ね揃えてしまう。大抵の女子高生をふくめた若者がこんなエセ文化を本気で魅惑と勘違いしてしまわないことを望むが、フレグランスはどうなのだろう。
エセ文化通りの前に着くと彼女は期待通り。その通りから目をそらし、顔を頑なに向けない様にしながら無言で歩いた。執拗に避ける姿は少し疑問を抱かせるものの、本当は純粋なのかなと少し想像したら安心した。
ロードスターの助手席には感動した様子を見せてくれた。愛おしさがガソリンにも伝わったのか、馬力はより音を立て首都高を抜けレインボーブリッジを抜けていく。「東京事変/ 恐るべき大人たち」はとても運転手を活かしてくれる。お化粧直しを終えた隣のお嬢も窓から入ってくる風と自分の香水に酔いしれながら運転している姿を眺めている。こんな姿を見ていると恋の話でもしたくなってしまう。
「あのさ、こんな感じに車乗るの初めてなの?なんか大人っぽいからさ年上の彼氏とかいそうだって思っていたんだよね。」
外から入ってくる風の騒音が自分の気持ちをうまく隠してくれないかと期待しながら、彼女に質問を投げかけた。
「あはは、いないよw私そんな彼氏作るの向いていないもん」
「え。。こんな魅力的なのに?」
またもや失言してしまった。昼に飲んだコーヒーが濁って見えた理由をもう少しきちんと考えるべきだった。だが運良く風の騒音は本音を隠してくれた。
「誰かに所属するのが嫌なのよ、こうやって今見たいに自由に振る舞う方が
幸せよ。悲しむ回数が減るわ。」
運転している姿を見つめていた彼女の姿は離れ、彼女も風の騒音の遮りを期待しているかのように淡々と綴った。
この回答が心に引っかかったので、今度は言葉を専攻し始め、考えているうちにみなとみらいと川崎方面につながる分岐にぶつかったので即座に交わし、コスモクロックに向けてロードスターを走らせる。バックミラーから見える子供のような笑顔に魅了されるといつのまにか110キロを飛ばしていた。パーキングは土曜日の割に空いており、ファッショナブルだが広くて落ち着いている山下公園は興奮しすぎた心を落ち着かせてくれた。海風にあたりながらたわいもない話から公園を散策することにした。山下公園にはこういう童謡が歌がある。「赤い靴履いていた女の子が、船に乗って外国人に連れられて、行っちゃった。」これは実際に起こった事件が元になって作られた。こんなこと、起こってほしくない。守らなきゃ。
「2人ってなんだか特別なように感じる。一番人数の中で親密になれる距離間だから、今夜は楽しみましょ?」
この女は自分が赤い靴の女の子になりたいのだろうか。あって2日の関係の男と手を繋ぎ、すごい早さで親密になることを怖がらないのだろうか。男と2人という危険性を甘く見過ぎだ。
歩数を稼ぐごとに高まる体温はみなとみらいまで持つのだろうか、いやこの神聖な横浜は大人のエセ魅惑文化は許されない。そして自分自身も彼女にそれを晒すことなど絶対に許さない。夜でも25度を下回らないこの温度に葛藤をぶつけながらも、フレグランスのおかげで表面上では穏便に進めることができた。
コスモワールドは二つに分かれており、主にコスモクロックのある側が大人向けである。ジェットコースターは三個作られており、まるでジェットコースターが売りの遊園地と思わせがちだが、やはりコスモクロックが最大の売りだろう。
観覧車だけ孤立して存在していたら成り行きも作れず、気分も緊張で高揚させることはできない。夜景にそびえ建つ輝かしい横浜の商業施設とともに観覧ができる。なんて上手な設計者だろうと感心した。
ジェットコースターがかなり苦手なことを隠しながら楽しんでいたら 案の定ジェットコースターに乗る羽目になり、結局放心状態になってしまった。しかし彼女はその情けない姿に笑顔を向け、ジェットコースターの写真を投稿した後コスモクロックに向かって手を引っ張っていった。後味の冷たいそよ風が頬を撫でた。
コスモクロックにはシースルーのゴンドラと普通のゴンドラ、また写真撮影がある。いつもならタグで「♯撮っていただきました」のタグは多いがこの時はカメラマンにも撮ってもらわず、普通のゴンドラに乗った。まあこの年だから人の目を憚ることは普通であろう、ましてイケメンなわけでもない。
そう自分に言い訳しながら、夜景のほうに目をやった。栗毛は光に照らされて鮮やかな金髪に映し出され、おかげで放心状態は徐々に回復した。でも彼女は写真を撮っていない。こんなに見栄えする写真をなぜ撮ろうとしないのだろうか。
彼女は近寄ってくるわけでもなくただずっと夜景に顔を向けたままだった。光で反射してるせいもあるとは思うが、彼女の顔は少し涙ぐんでいるようだった。抱きしめたいけど、抱きしめられない。彼女を支えるようにそっと隣に移動した。すると彼女は口を隠しながら「もう少し、見ててもいい?」と言い、結局話せずに観覧車は地上に戻ってしまった。きっと親密になりすぎた雰囲気は若い彼女にとって怖かったのだろう。背伸びしすぎだ全く。夜に予約したチャノマカフェをワンタップでキャンセルし、近隣にある開放的なアメリカンパイ専門店へとエスコートした。観覧車の雰囲気とは
打って変わって美味しそうに多くのパイをほおばった。「さっき楽しかったね‼︎私こんな楽しい休日は久しぶり」何回このセリフをほかの男に言い放ったのだろう。「お兄さんって彼女いるの?」またもや聞く予定だった質問を彼女に先行を取られてしまった。「いないよ。いたら2人で来てない」「そっちはいるの?」また同じ質問をしてしまったが、お互い走行中の風で誤魔化しあってたのははっきりしたい。「いないって。誰かと長い間いると苦しくなっちゃうの。」「私さ恋愛とかダメなんだと思う。みんな学校で彼氏欲しいとかクリスマスまでに欲しいとか言っているけどわたしはあまり同感できないんだ。みんなを見ているとすごいよって思うんだよね。」視線を外さず、笑顔を崩さず自分に直接訴えるように思えた。「お兄さんはとても紳士的よね、年下だから、子供だからって雑に扱わないで意見を尊重している感じ。んー、私、今日が終わるの嫌だな。」確かに入店していた時に見えていたはずの夕日は東京湾に沈んでおり、星も見えはじめ、月の光が差し込んでいた。
そんなこと言われると頑丈にしたはずの理性のスイッチは、ぐいっといまにも押し上がってしまいそうだ。ここは横浜だが、関内駅の北口にはビジネスホテルを中心とした街である。大人のエセ文化で彼女を染めたい。〆に飲んだノンアルのカシスオレンジを勢いよく流し込み半ば強引に彼女の手を取り、ロードスターへと向かう。
関内まで勢いよく飛ばしていたが、最後の分岐点でハンドルは本来曲がる方とは逆に切っていた。「すごいね‼︎こんなに遠回りしてわざわざ距離遠くしてくれたの?
あーもう楽しいよ‼︎帰りたくなくなっちゃう。もっと居たい」舌を出してじっと見つめてくる眼差しはまるで試されているかのように思えたが、運転に集中するように自分を仕向けた。「仕事って大変?こんなこと聞いていいかわからないけど、将来のためにも聞きたいっていうのもあるし、それに。んー。。」「仕事は大変だよ、特に自分は営業職だからさ、その、お客さんの気持ちを汲み取ってより良い配慮、サービスをすることが第1だからさ。ただ、貴方だからよかったって言われるとやりがいなんて感じちゃってさ、居場所になっちゃうんだ。なんだそのある意味中毒だ。ま、生きるためにはその手段を選ばざるを得ないけど。」
「なるほどね。。ふふ、すごいなあ、私も早く大人になりたい。」渋谷駅まえのハチ公は満月で照らされて、その日は少し紫がかった雲とともに鮮やかな色合いを見せた。「それじゃ、またね。疲れていると思うからメッセージは送らなくていいよ、本当に為になる話も聞かせてもらいました」そう言ってぺこりと頭を踵を返した。フレグランスの髪はわざと大きめに揺らされたようにみえた。セミの鳴き声はいつもより不安定な音程で夜を包んだ。
CHAPTER5
いつもより充実した休日空けを過ごした。いつもより大きな挨拶で社員に挨拶を終えた後、朝礼までインスタグラムを眺めた。「お‼︎インスタのアカウント持ってるのか‼︎いまどきやなー、こりゃ女受けか、お?」「やめろよ。。」そう言いつつも
頭の中は彼女のことでいっぱいだった。きちんと投稿はされていた。よしよし。
女性社員とも前より仲が深まった。「今度いいお店あるから一緒にいこう‼︎なんて
誘われた。大手町のビル街は意外と悪くないな。
社員食堂にある大型テレビは3つあり、バラエティ、NHK、ドラマを主に流している。ドラマとバラエティは女性社員に人気で毎回食堂では推しのキャストやときめいたシーンについてキャッキャ話している。バラエテイはお洒落な店を見つけるとこの店行きたいね‼︎映えるね‼︎など話し、インスタグラムは若い子の為のものではなく寧ろ女のアクセサリーさえにも思えてくる。「へえ。。明治神宮ね‼︎原宿と同位置にあるけどなんか和風に感じるよね。神社も近くにあってああ。。こう見ると楽しく感じるわ。あ、近くにもこんな和風なカフェや城下町チックな 通りがあるのねえ
お洒落〜着物とか人力車もあるんだ、あーいいなあ、ねえみんなで休みにいかない?」「明治神宮前か。。いいな。。彼女にはいろんな街を知って欲しい。」間一髪入れずに彼女のことをビジネス脳エリアにシフトさせていた。そして女性社員の話が耳に、意識しなくても入ってくる。「東京はインスタ映えをするところは沢山あるけれど、周りに娯楽施設が多いというわけではないから、デートをする際にはトーク力は必要不可欠で、ディズニーにカップルで行くと別れるというのはこれが原因らしいのよね。確かに互いの努力必要よね。でもそれが楽しかった気がする。私もう一回若い頃に戻って恋がしたい。」「でも今の子は彼氏彼女の関係もだいぶフラットみたいよ。LINEで告って、別れるのも友達に戻ろうとか、ろくに話し合いもしないでブロックする人も中にはいたりと簡単すぎよね、最近のアプリみたいに。」「♯彼氏、couple、ってタグ付けするとファボ率も高くなるって。」「ファボ率ってなあに?」「なんかインスタグラムであるワードらしいよ、最近の流行語でもあるみたい。それ稼ぎのための人間関係なのかしら。それになんかわ閉鎖的ねえ〜ワードも徐々になんか知っている人だけのって感じになってきたよね。」「そういう私たちもインスタに
支配されている気もするけどね。」談笑に包まれ、自分を残せば食堂の雰囲気は明るくなったように思えた。彼女の発言はまるで的を射っているように思えた。自分が一目で惚れてしまった自業自得なのか。認めたくはないが、同じ女性同士の発言にはより確かだろう。虫酸が走ってくる。会社では濃いめのブラックコーヒーと定評のあるコーヒーはアメリカンに感じる。疲れた目からは陽に当たる大手町駅は東京駅と同じくらい輝かしいのにな。ぼんやりそんなことを口にしていると、右のポケットに感じる振動は存在感を示し、鮮やかなブルーライトの着信通知をアピールした。でも手は避けていた。今日は体で少し休めたい。喉が無性に乾いた。目の前のコカコーラの自販機は、いつもおまけつきで、この結果に今日の運勢を重ねてしまう。左のいろはすを押して、お釣りを取ろうとした。ルーレットは開始された。今日の喪失感を流してほしかった。だがルーレットは回るどころか、入れたはずのお金が戻ってきた。お釣りを見て重なった。「今日はインスタをみるのはやめよう」右手で握ったスマホを左手で持ち替え、不浄の手としてスマホを握ることで今日の思いを流すことにした。大手町駅から渋谷方面に流れる雲を見届けながら
神田までの家路をただ辿った。
CHAPTER6
目が覚めると、朝になっていた。バスローブは少しはだけており、記憶がないながらもきちんと入浴は済ませていたらしい。今日は11時に会議が行われる、それに合わせるために一度シャワーを浴びておく。今日の接待をうまく成功させるためカモミールの香水を買っておいた。別に彼女のことを思って買ったわけではない。「カモミールは女性に人気ですが、男性につけるにもいいと思います。女性がカモミールを与える大体の理由は、優しさや安らぎを与えるという意味でつけることも多いです。ですが、ビジネスなどにおいて苦難の中の力という意味合いで使われることがあります。なので男女問わずとてもオススメのフレグランスです。」と店員のすすめがあったからのことである。調べてみるとカモミールは非常に幅広い意味がある。「清楚、癒し、苦難の中の力、逆境に耐える、厳しさの中の愛」カモミールは清楚などのおとなしさのイメージしかなかったが、こんなに強い意味を持っていることを知った。さらにスクロールしていくと、「カモミールには二面性を持っている方も多いと言われております。」という言葉に目が止まった。そしてこの後のことを心配した。まずは今日のこと。。それから。。いや、もう考えるのはやめよう。まずは今日のことだけを考えよう。 もう一度ヘアスタイルをし、自宅を後にした。大手町行きの丸ノ内線は時間的に空いていた。正直今日の会議のプレゼンテーションがうまくいくか自信を強く持てない。先輩の退職祝いからより社員の仲間とは仲が深まったせいなのか、色々任されることも多くなった気がする。期待されることで嬉しくなるが、一方でかなりの不安も多くなる。受験に差し迫った高校生が受験の緊張感と相乗し、一時的に恋愛にも盛り上がるというケースも存在する。自分はまるで高校生と変わらない状況に陥っているように思えた。彼女は高校生だけどこういう風になるのだろうか。インスタを今もまだ開くことができないけれど、開かないで考える幸せが恋愛の醍醐味だろう。階段を急いで駆け上がり、ガラス張りの会議室で少し安心した。プレゼンをを見直し、もう一度フレグランスをつけ会議に挑んだ。会議は無事に終了して思わずすぐにインスタを開いた。昨日は色々訳があって見れなかったメッセージも彼女からきており、緊張感から気分は高揚した。彼女のストーリーによると、どうやら渋谷にまたきているらしい。また渋谷か、勉強は大丈夫なのか?少し過保護に心配したくなるが、いるのなら一人で足を踏み入れようと思っていた。だが、ちょうど同僚がお祝いとして食事に連れて行ってくれることになった。前に渋谷で訪れ、一人飲みした居酒屋に訪れた。居酒屋は渋谷でさえもやはり変わらない。なにか意識してアロマを焚いたり、する訳じゃないけど自然と暖簾やししおどしが店の端においてある事や、微かな音だけで体の何気なく感じるしばきを解いてくれる。落ち着ける環境でありながらも少しまちのおしゃれを感じさせる店内の写真をストーリーで投稿した。メニューは取らず店員さんを呼んだものの何を頼もうか頭の中で消え去り、言葉が詰まってしまったが自然と隣席のビールに目が行く。店員は瞬時に笑顔を自分に向け、目の動きを察したかのように颯爽と暖簾をくぐり抜けた。暖簾のひらひらと靡くのを無意識に目で追った後、なぜ普通のビールを頼んでしまったのだろう。実はこの居酒屋は各国内、国外の様々なお酒を取り揃えた店である。しかし前回訪れた時も、今回も普通のビールを頼んでしまった。金色はこんなにも目を止まらせるのだろう。潜在的に日本の男たちは「取り敢えず、ビール」と始める。アルコール度数の低いビールに手を出しやすいという理由のほかに、注がれるときの金色の液体にそそられていると感じる。金色は日本における、人々が身近に手を出しやすく特別感のある色なのかもしれない。10円チョコでさえも金色の包装紙で巻かれている。金にそそられる理由は彼らのブロンドヘアが持つ白人崇拝的意味合いなのか、もしくはかつて昔中国から渡来した高貴な存在を表す意味なのか。理由はともあれ、日本人は金に魅了され、ビールのような飲み物でさえも、髪色に金を取り入れるなどして日常的に何らかの理由で潜在的に金を追い求めていると思う。肩こりした腕で持ち上げたビールが喉を勢いよく通る時間はあっという間に通り過ぎた。少し大きなポップコーンは存在感を示すように揺れるも床にコロコロ転げ落ちてしまった。拾うつもりはなかったが、落ちた白いポップコーンを拾ってしまうとなぜかポップコーンをみて案外金色って手に入りやすくなったように思ってしまった。わざわざ揺れて存在感を示さないと認知されない存在でさえ、金色は特別な意味合いを持ちながらも様々な値段で売られ、手に入ってしまうようになったからだ。「取り敢えずビール」を終えた後、色んなビールの味を試そうとまずは「ヒナノ」を手に取る。苦味のある味に心が落ち着く、男の多くはビールや日本酒を飲む人の方が多い。カクテルを飲む男は格好がつかないと言われるから、女、男関係なく男は人前であまりカクテルやサワーを積極的に飲むことは少ないだろう。それでも、現代は個性が認められるようになってきたから甘党男子など
も出てきたけど、塩顔の自分にはあまりフルーティーなカクテルは似合わない。
そのように普段人前では男のルールだと格好つけてみるが、このヒナノビールの意味も「可愛い女の子」という意味であることに気づいた。残念だが、お酒は自分が思いのほか男の性を理解しているようだ。一方で隣でも男のルールを守っているように思えるが、手に取っているのは「コロナ」だ。「コロナは量が少ない」と茶化すと「このビールは奥行きがある。それにここは渋谷だ。若い女の子としてもベロベロに酔った汗で額が輝くサラリーマンより、ワックスで輝いた男に惹かれるだろ。前にも言ったように今の子はインスタグラムで色々愚痴愚痴言うんだから。なんだっけ、1日で消える機能らしいけど。」スマホを弄る指が震えた。言い返しにも程があるだろと心の中でも普通は毒づいてもいいだろうが、そんな余裕もなく反射的にインスタを開く。無論彼女の更新を見るためだ。震えた指が押すのは他の人のストーリーで、インスタは酒と違って自分の気持ちに寄り添ってくれない様だ。やっと定まった指でその指で投稿を開くと、今度はセンター街に動いている様だった。胸を撫で下ろし、ほっと息をついた所で彼の言葉を心の中で毒づく余裕とともに次に手を伸ばすペースは早まった。「おい、頼むの早いな。」と言われつつも
彼もつられて日本酒に手を出した。「越乃寒梅」に手に取る奴を見て「おい、日本酒に手を染めて男臭さ見せてるけど、淡麗辛口だろまたー、さわやか気取りやがって、もうかっこつけるのやめろよ。」冗談交じりとともにうさを晴らす爽快感は「獺祭」の喉越しの爽快感と相乗し、自然と女の話にシフトさせる。ししおどしは
水の勢いが不足しているからか、少し儚げに音を響かせた。「お前がプレゼンした後に真っ先にフォローしてくれたあの女の子めちゃ可愛いよな〜。あのこ地味な感じだけど隠れて男には好評らしくてさ。まーじ狙おうか悩んでるよ。」「どーせそんなこと言ってまた前に、あの社食でかわいいかわいいほざいていたじゃんか。まーた格好つけてどうせマルティーニとかのんでいいとこみせようとか思ってんだろ?お酒は男の性の一番の理解者だからな、はははっ、バカにするなよー」「何言ってんだ‼︎お酒は男をかっこよく見せるためなんだぞ。」「あーなるほどだから
ここで練習してんのな、面白w、もはや10%もいかないじゃん、一杯で」「そんなお前もずーっとビールじゃん、お前もかっこつけなくてええの?彼女とかさ、女の人って意外とビール好きらしいじゃん。よかったな‼︎」ふとビールが趣味の自分についての反応を知りたくて、ストーリーにこのビールを投稿しようかためらうが、自己顕示欲を晒すのは少しばかり格好がつかない、指をシフトした。第1意見が欲しいのは彼女からであるから別に他の目的はない。右上の右端の小さなマークを押すには太い指が小刻みにわずかに左右するが、それでも焦点は定めることができ。後は返信を待つのみである。五分もしないうちバイブが鳴った。いつものダイレクトメールかと思い、放置しようと考えたが、バイブ音の違いに気づきすぐさまスマホを開くと待ち受け画面はピンクに染まっていた。ピンクに目を奪われ、タップすると彼女からのメッセージが届いていた。「もう‼︎私未成年じゃないですかw」普段女としてみていたから年齢の概念などなかった。数日間彼女に向き合えなかったくせに、いきなり格好つけたようにとられてしまってはないか。もしかしたら他の女性宛のメッセージが自分に届いてしまったのではないかと思われてしまわないか。いや違いない。恥ずかしさと後悔のあまりにヒナノをがぶ飲みし、記憶をかき消そうと努力してみたが、「ストーリー見ましたよ〜渋谷なんですね(^_^)渋谷の女の子にはお気をつけを」のメッセージで自分が彼女にめちゃくちゃにされたいと彼女を心の中で求めてしまう。互いに酒を飲み干し店を後にすると自分から奴の男の性に握手しようと試みて「センター街の奥のエセ文化通り通りながら帰ろうや」と誘い、
やっぱり奴も「お、やっと下心的な意味をそそるヒナノビールは体内に回りましたかあ〜体はやっぱり正直ですねえ」と答える。「うるさいなあ〜」と呼応をし、互いの男の性に握手した。このエセ文化通りの路地裏には彼女と訪れた居酒屋がある。いい思い出だなと気分を浸らせながら彼と冗談交じりに談笑しながら歩いていくうちに蝉の声は次第にうるさく訴えてきた。「うるさい」でもこんなビル街にいる蝉に少し不思議に思える。こんなとこに普通蝉はいない。蝉にとっての幸せはここでは掴めない。きっとこの通りを歩く男たちだってそうだ。奥さんに営みを拒まれ男の性を晒す場を失ったのだろう。ましてやみずみずしい果実の様な女体は年を重ね、ドライフルーツの様な見た目ではもう感じられないが奥に秘めた美味しさを、若い女が簡単に入る時代になってきたからこそ男は感じられなくなったのかもしれない。あたりを見渡せば、ライトがきちんと照らされているはずなのにどこか空気は暗く感じられたからだ。場違いの蝉の様と通りの空気はマッチした。その時だった。ライトで照らされた金髪が目に入った。そこには通りを歩く彼女の様な姿に見える女の子が歩いていた。体は凍りついた。それでも本当かどうか確かめるために振り返ってみるが、その金髪は栗毛の姿に変化した。「あなたは何をしているの?」と心で訴え、言葉にしようとしたがたが、答えは早かった。後ろに男が付いていたからだ。男は彼氏の様に彼女の肩に腕を回し、彼女も男にほくそ笑み、目的地の聖地が視界に入ったのか息を荒らして歩みを早めた。立ち尽くした時間は1時間に感じられた。当然彼にも彼女の存在を示すことはできないし、彼女にとって自分の立ち位置は長い男のリストの1人なのだろう。でも少し自分の時には震えていなかった手が振動するのを見て自分に少し安堵感を与えることができた。だけどそれも束の間で彼らは姿を消そうとしていた。目から離れなくなり、足が一歩出そうとした時だった。蝉が今までにいほどに泣き叫び、まるで自分が踏み込んでいい領域ではないことを示唆しているような警告の雰囲気を感じ取った。「どうしたん?二件目行きたいんか?ここで若い女に染まって彼女との学生生活思い出す?wしばらくお前、レスだろw」「いや、いいや。染まりたくないし」瞼が熱くなるのをいろはすで冷やしていると「おい、酔っ払ったたのかw」と奴のいつものしつこい茶々を言われるのが鬱陶しいはずが、今はそう思えたらいいなと願わずにはいられなかった。蝉の鳴き声が後押しし、若草色の桜の葉はビル風で自分の方向に大ぶりに揺れた。風によって、咲いていないはずのカモミールの香りがほのかに自分を打ち付けた。風と鳴き声とともに歩みを速めると次第に鳴き声も風も収まっていった。そして貴方のストーリーも消えた。
chapter7
「うるさすぎない大都市の郊外の街並みに身を置くのは、誰しも常に自然に感動することがなく生きることはできないからであろう。何もネオンライトには関心はしても感動はしない。大人はね。」自己啓発本は悩みを解決する道しるべと言われるが時には、ど正論に心を納得さすることができない。今は酒でもなく、人肌感じるぬいぐるみかペットが一番の男の性、いや自分の性の理解者だろう。猫は変わらぬ姿で大人心を習得する。命を立つ時も、1人家や家族から離れ、周囲の涙を流さないために森などの土の暖かさを人の体温の様に感じさせて、生涯を終える。人間は?安定を求めて死をアピールさえするだろう。わずかな成功を夢見て金を費やし、未知である死の世界を知ることを避けるために自分の貯めた金を科学医療に費やし、それでも助からなかった場合は死に対して周りの同情を得ようと死を人工的に神秘的に取り繕う。今は猫の習慣をできるだけ想像し、ベットに身を投げ、明日自分がどうなっているかさえもわからないと今にもまた瞼が熱くなりそうだったが。気づいた頃には光が差し込んでいた。「貴方の投稿は消えたけど、貴方の記憶は消えてないよ」そうスマホの待ち受けに呟くとインスタのメッセージには昨日と変わらない口調の貴方からのメッセージが来ていた。「猫の様に行動する貴方を本当は避けたいはずなのに、思い出は自分を乱暴に掴んで離してくれないね。」少し愛しい母親の表情を画面越しで見せると、彼女らしいいたずらっ子な表情が浮かんだ。いつものコーヒーはブレンドなのにまたアメリカンに感じた。刺激の強い貴方は食べ物の味さえも変えることができる。昨夜の出来事に毒づくも、やはり刺激は強くなっていくほど虜になっていくのだろう。昨日の出来事を冷静に対処しながら、週末を迎えた今日の行き先をいつもの様に決め合う。昨日は互いに刺激的だったから今日は身を互いに落ちつけるために品川へロードスターを走らせることにした。少し自分を試すために品川は最適だ。品川にはアクアリウムがあって、巷の噂ではデートに水族館は、反射版に移されるライトで血色が悪く見え、可愛いと思うからだ。コンビニチケットを信号機で差し出すと、バックミラーに目を光らせる姿が映し出され、軽快にアクセルを踏み続け、点滅しかけの黄色信号を滑り進んだから「なにしてるの〜」と笑う姿に「貴方の行動に腹を立てながらも、興奮が高まって自分をコントロールしたくてもできないんですよ。」と呼応したかったけれど、今日は風当たりに頼れそうな風量ではなかったのでまたアクセルを強く踏むことで呼応した。
きゃっきゃっしている貴方の表情を見るとまるで昨夜のことが嘘の様に感じられるけれど本当なんだと信じたくはないが、根拠なしに自分は貴方にとって落ちつける人だと自負できる自分が隠れていた。品川は大人な街で、今日のにわか雨がより一層品川の良さを感じられる。こんなに雨の似合う街は存在するのだろうか。ビルに併合するビルはコンパクトだけど、ナイトショーなども売りであり、老若男女のデートスポットには最適である。他の敷地内のシュハスコレストランなど普段は目にしないが、お肉であり、気軽できっと喜んでもらえるレストランもあるのでおもてなしはよりできるだろう。前よりも寄れるスポットはないけれど、お互いの内面をより深く理解するのに半年経った今には最適だ。ゆったりと泳ぐアザラシを眺めてうっとりしている横顔が反射板に映し出されたライトが直下で当たり、白く透き通る肌はより青白く映るけど、それでも栗毛のもつ魅力なのか貴方は変わらず、それどころか自分を魅了させてくれた。気まぐれに泳ぐホッキョクグマに「かわいい、私みたい〜」という言葉を放つ姿に「ほんとだよ。」と睨み顔で毒づくけれど。真珠の様な瞳を見ると「ほかの男により魅了されたと思って欲しくないというものの、明日はどんな人の相手をするんだろうと無意識に頭に浮かんでしまう。恋人的な優しさで包みたいけれど、頭に手を置き「なーにー‼︎さみしいん?」て笑って見せた貴方への仕返しに左右に強く手を動かし、「痛いっw」とまた自分に向けた表情を直視できなくて目をつぶってしまった。迫力のあるパフォーマンスにより水しぶきがかかりながらも人気のアザラシの写真を撮ろうと一生懸命になっている姿にあどけなさを感じるけれど、インスタグラムのためと思うと少しばかり心に雲がかかる。インスタグラムでは本当の可愛さなど映し出されれるわけがないと言い張って言ってやりたい。もちろん昨夜の男にも。思いのほか長い距離のある美術館を回り、次の目的地をスクロールしているとシュハスコの食べログが目が止まり、子供に風船を渡す様に差し出すと、彼女は子供の様な笑顔でここに行きたいと訴え、自尊心は満たされた。頬張る牛肉が頬にとどき、「ほっぺたに付いているよ」と言った後の戸惑いが一番可愛いと改めて感じる。実は先輩のお別れ会の後、会社の女性同僚から食事を誘っていただきご一緒した際に 、大人な振る舞いにはとても関心した。でも貴方と出会った後のだったからか、何か自分の目をより惹かせる天真爛漫さを欲してしまい食事はそれっきりになってしまった。完璧に取り繕るいい女、大人感を演じすぎず、少し振り回してくれる行動に時に面倒くささを感じるものの追いかけたくなるのが男の性だろう。このティーンの年頃が1番男を魅了する様に感じる。それは嫌われず失礼の無いように、 少し肩に力を入らせすぎた振る舞いをする事で得るための報酬目的の夜のビジネスの観点とはそれた、「愛しい」と思わせる振る舞いが「惚れさせる」という観点では1番大切なことだと貴方を見ていると余計に感じる。且つ貴方は失礼な態度があまり目につくことがないのだから、きっと大人の振る舞いだって見せているのだろう。それに久しぶりに学生時代の様に肉を沢山食べ、当時の付き合っていた彼女はどうしているかとコーヒーをのみながら耽けっているといつの間にか砂糖を従業員からいれられ「ブラジルのコーヒーは甘いんだぜ」なんて言って許可もなく入れられ、特にブラジルのサトウキビは甘いもんだからマックスコーヒーにしか思えず「おい‼︎」と大人気ない事を発して「おーお兄さん怒っちゃってーwおー赤いっすね〜w」と笑われ、いつもなら少しキレてはみるものの、もっと笑われていいさえ少し思えた。自分のプライドを守るより、貴方が本当に笑える相手でいる方がよほど価値がある。頬張って少し手拭きを汚す姿を見れるならずっと笑われてもいい。ほかの男に目を向けないのなら。冷めたサトウキビコーヒーを一回で飲み干し、今朝のアメリカンコーヒーに感じたブレンドコーヒーのインパクトのなさを補えたからまあいいや、行くあてがなくなるも店を後にし、彼女の出方を待った。貴方の好きなデートスポットはきっともうここにはない。踵を返す貴方の姿でいっぱいになった。「あのさ。。私」わかってる、わかっているから。「神保町に行きたいの。」「へ?古書しかないよ?」「いいの。敢えて神保町の何もない雰囲気に身を落ち着けるのは体にいいのよ」自分とロードスターはこの先を想像する余裕もなく彼女に手を引かれ路地裏に導かれた。
chapter8
チャプター7の続きをここでそのまま書き続けたいところなのだが、一旦彼女の 天真爛漫さに貴方達の疲れただろう身を落ち着けるためや、女性同僚の思い出に浸りたい気分なので少し話そうと思う。
実は最初彼女とデート?ナンパを終え、彼女とのやりとりはメッセージ上続いていたものの自分にもまだ特定の恋人がいるわけでもない。それに先輩の退職祝いの後に数人の同じ部署の女性同僚がその件を気に誘ってくれたので、食事に行くことが度々多くなり、「袖振り合うも、多少の縁。」1人1人着実に見ようと試みて、彼女とは文面上のやりとりだけで関係を続けた。誘われる前、社内では親会社への新製品のプレゼンを誰が選ばれるのかという話で花が咲いていた。入社して恋人もいなかったので気軽に仲のいい女性同僚と食事や遊びに行くことも月に何回かあり「頑張り屋さんでおっちょこちょいでとても親しみやすい」というイメージだったのが、このプレゼンテーションを気にイメージが変わったのか次々と食事に誘っていただける機会が多くなった。別に誘ってきたことに嫌悪感に思うわけでないが、どの女性陣もインスタに自分といった事をあからさまにアピールしている様な文面に表していたり、お互いのコメントに「いいな〜」と言い合うコメント欄に自分の存在感はインスタのためだと自然と見出されてしまう。彼女たちに「袖振り合うも多少の縁」の価値もない。「誘って、いいとこ見せても結局失礼な感じがするよね」こちらもかしこまってワインとか飲むけれど、本当にいい女は気を使うことより、気を使わせないことよ。」仲良しの女同僚がにっこりと見せた微笑みは何も期待を感じずそれどころか落ち着く。この女といると確かに気を使わせない女が一枚上手に思える。さすが、恋人に婚約を約束される女だ。「ー君と」とタグ付けされる事は純粋に嬉しいと感じる。しかしインスタで視覚的に晒す事で、ましてやこの状況だから何か勘違いをされたり、変に期待されたり、噂されたり、本来望んでいない事も沢山起こりやすくなる。特にインスタというが余計にそれを助長される様に感じる。マウントの取り合いにも感じてみっともない。インスタは本来自分を魅力的に見せるはずなのに、載せ方によってインスタに載せることで魅力が半減する様に思えた。「インスタをなくせばもっと魅力的にも見えるのに」と結婚に齷齪していない身分から思われるのは腹が立つ様に思われるが、男の本音を言わせてもらえば正論だ。「インスタのストーリーを見ることに面倒だと思うし、そんな凡庸な事を書いて少しの関心しか引けない女に興味ないよ。どうせミュートしてもまた口を窄ませて言うんでしょ。」まるでインスタを否定している様な言い方になってしまっ た。だが、インスタに執着する人ほど、ブランドに執着する人ほど、ましてやそのように「誰かを崇拝する」と「自分の自由を失う」のが宿命だ。対象物に執着し、成長を楽しめない。自分を愛せないような奴は所詮幸せになれない。幸せにしたくもない。ワインを飲み干しご縁に感謝を捧げ、酒とインスタに飲まれた女を毎晩、親切に素早くタクシーを呼び、懐に入れた財布の中の店の名刺を一切りずつ千切った。しつこく電子音の鳴り響くパチンコ街の路地に欠片を撒き捨て、エセ文化通りで彼女の怯えた姿が頭に浮かんだ。少しネクタイをきつく締め少しばかり難しい顔を作り、まるで彼女と自分を守るように嫌でも染まらせないと胸をはって歩み進んだ。こじんまりとした居酒屋をゴールのように見立てて、歯を食いしばって歩く自分に自己陶酔するくらいがこの街を歩くにはちょうどいい、そよ風はきっと自分に味方する。居酒屋までの道で左右に顔を向けない男はここでは異質に思われると思うが、別に世間の基準に合わせることはしないし、かといって同情を求めない。そこで同情を求めてしまったら、自分自身を失ってしまう。彼女たちの垣間見れた本心はここの街にぴったりとあうだろう。売るのは自分自身だけで十分売れるよ。自分の吐いた白い息に1つずつかき消していく。居酒屋の提灯のオレンジにぽうっと光る姿を可愛げのあるあの子に重ね、指で少し揺らして「また来るね」と挨拶を交わした姿を見られないようにと当たりを見渡し、人の視線を確認するとすこし微笑んで女子高生のような可憐な笑顔をなぜか提灯に向けた。「ちょんっ」「さよなら」といつもより大ぶりに提灯に向かって踵を返し、彼女に重ねあわせようと試みたがドアに移る肩幅や自分のすがたにやはり彼女には劣ってしまうのだろう。渋谷を通り過ぎると青山で、トリンドル玲奈や若いインスタグラマーの女子会、又はいわゆる港区女子の庭として佇んでる街である。そういえば、彼女にはあまり高飛車感を感じさせない。行儀がいいのもそうだけれど、なにかをせびるわけでもなく、ロードスターを持った男を高級店に上手く誘導するわけではない。むしろ千代田区なんて何もないところに車を回すもんだから、自分としてもなんとか喜ばせようと余計なことを頭で悩ませる。それに本人曰く青山は大嫌いらしい。なんで?大人にならなくていいよそんな早く。欲のない子猫が1番心配になることを、この子は分かっているか。いや彼女は自分自身を猫なんかに例えたことなどないだろうが、貴方はそのくらい愛おしいですよ。どこにいるんですか?がらす越しに落ちた滴を潤すため、敢えて大きな傘を後ろにずらし滴を落とした。月の光に照らされた滴は少し震えて焦点を定めない。2、3秒経ってから、少し止まりもっと光を見せてくれた。なぜか悲しくなった。小さい滴の粒は思い通りに動いてくれていいのに、滴よ動け、動け。「植物には感情がない。魂はないと思わないでください。踏んじゃダメです。たしかに、目も口もないけどきちんと生きています。」植物は欲求を目に見えるように出さないけど、クラシックを聴くと欲育つというでしょ。?」小学校の頃、花壇を遊び場にして踏み荒らしてた男の子たちを生き物係の女の子が教壇に登り、演説していた男の子達を生き物係の女の子が教壇に登り、演説していたのが脳裏に浮かんだ。やがて腕に滴がながれた。「育てていた朝顔の滴が流れてきてびっくりしました❗️」って小学生の日記のフレーズが頭に浮かんできた。「見届けられて嬉しいです❗️僕はこの朝顔を大事に育て
たいです❗️」自分は、自分への期待が見えない蕾の花を見守ろうと思います。僕は生き物係です。カモミールの。
chapter9
神保町は本やレコードの老舗の店ばかり。まして今日なんて日曜日で親父ばかりで立ち読みしている。こんなところで格好つけられないし、この町に合うミュージックをかけられない。「神保町はいいよね。なんか何もないところがいいのよ」「え?」「だっていろんな話が出来るじゃん。まあ私だからそんなん求められないけど」いつも言う「私だから求められない」っていう言葉を理解できてしまったのはかなしいけど、まだ言われている分自分は貴方に求められている。エセ文化通りの男とは違ってな。少し横目で何故か神保町の立ち読みした親父に尻目で眺めてみる。関係のない男たちと重ねる自分自身も訳がわからないけど、今日の革ジャンが味方してくれるのだろうと期待した。「神保町は格好つけられないから嫌いだ。」狭い駐車場に止めるために上手くハンドルがきれなくて恥ずかしい。助手席でお外を見ながら栗毛を優しく溶かす姿に目を奪われてしまう。余計に失敗してついに車止めにぶつかってしまった。「やべっ」。「なんかスリルあった笑笑 ここは花やしきじゃないのに」
「面白かった笑笑」そうか、何もない神保町がいいのはきっとこんなチープな話を純粋に楽しめるからか。ま、あとで浅草にロードスターを回そう。今日の香水はあまりまだ感じない。お揃いの(本当は貴方を感じるために買ったフレグランス)を忍ばせておいたが、まだ待つとしよう。目の前に本屋が繰り広げられた。貴方の片手に取っている「真夜中乙女戦争」を途中まで読み続ける姿をオカズに、アイコスを本の隣の路地裏咥えた。久々に自身の欲望が昂ぶっているのを感じる。
「いっそ思うまま女を掻き抱いてみれば、興味も失せるだろうか。。」
でもここは神保町だから、ここはアイコスの香りとともに消えて差し上げよう。自分は所詮大手町のサラリーマンだから。忍ばせておいたカモミールでエセ文化通りの香りもついでにさようならした。紙タバコではなかったから地面に足跡を残せない上に、霜で覆われた道路を温める配慮がなかった自分自身に、少し舌を出さざるを得なかった。積雲が導く姿とともに今日は隣の栗毛を振り回そうと思うと、いわし雲が中野方面から積雲と重ねて訪れてくるのが見えた。足早に片手で今日のイベントが周辺でないかgoogleで慌ててネットサーフィンを始める。「白山は東京港区です。この周辺jのイベント情報といたしましてはお隣の渋谷区にございます。渋谷ヒカリエで行われるイベントはいかがでしょうか。」渋谷ヒカリエは大人すぎる。大人さと言っても青山の大人さしか感じない。「ちなみにどなたとでしょうか?」「ご年代は?一緒に楽しめるプランといたしましては」ネットビジネスに愛を感じない。ただ、立ち寄ったら奇跡的に会ったくらいで良いと思う。関心はするけど感動はしない。自分たちは何もない街で小さいことで幸せになれるのだから。
このサイトに踵を返した。明日、貴方にもし踵を返されたら、自分はとっくに踵
返している(真の愛を感じれない貴方と、サイトに)と返そう。それと裏切りは女のアクセサリーだと。目の前の「神保町カレー当店1位です」と言う看板が目に入った、正直自分はあまり1位に興味がない。安心した、貴方も興味ないらしい。少し通り過ぎて積雲の誘うように歩いてみると、細い路地裏の日本風のお店が見えた。貴方の了承も得ず店に入ると、そこでもやはり神保町カレーを置いていた。和定食もあるらしいがとりあえずコーヒーを頼む。貴方はオレンジジュース。コーヒーは店によって味が様々だから、ま、コーヒーに力を入れてないところもたくさんあるが。メニューを決めているうちにコーヒーとオレンジジュースが届いたので、神保町カレーを二つ頼んだ。コーヒーの味は少し甘さを感じるが、それもあまりしつこくない。多分オリゴ糖とかなのだろう。あえて「砂糖いただけますか?」と尋ねると「すいませんうちは置いてないんです」と言われた。「砂糖なんて珍しいじゃん!」という貴方に笑顔で返した。砂糖には落ち着かせる成分があるけど、貴方のまえでは砂糖は要らない。ちなみに週一の女性社員たちの食事会以降、会社では砂糖を入れるようになりました。次回の健康診断心配です。笑。カレーは何もゴージャスに乗っているわけでもない、だけれどオリーブオイルや蜂蜜の効果で本当にまろやかで美味しかった。目の前ではあえて小さいスプーンで頬張るから思わず目尻が下がる。この店をリマインドしておこう。星が出できた頃に車を回してとりあえず行き場に詰まったから、いつもの渋谷区あたりに車を回すと今日は珍しく花火が上がるらしい。車道規制している。動けよ。渋谷区でしか格好がつけられないんだよ。前のトラックと一緒に千代田区から渋谷区に超えた時にスイッチを変えたその時のミュージックも工事のせいで心地いいものにもならないようだ。しかし、幸いなことにまたさっきのサイトを憎むことはなくなった。花火が行われるらしい。こんな季節に行われるのも少し疑問に感じるけれど、彼女は渋谷に色々くわしく車でくつろぎながら花火が観れるスポットを教えてくれたので、ホットココアとブラックコーヒーを買って花火に備える。開催の8時は6時には少し遅く感じられたので「どこか回る?」と聞くと、「いや、車がいいな」 と答えた。その理由寒いからと信じたかった。うちあげ始めのサインの花火が打ち上がる。続いて、菊型の割物が 打ち上がったところでコーヒーを落ち着けて飲めた。「小さい頃、よく花火きた?」他愛無い話が一番良いはずだった。「うん。」花火に貴方が没頭しているように見えた、だけどポカ物に花火が形を変えると貴方も変わった。 花火が枝垂れ状になるとともに栗毛も貴方も枝垂れ状になった「私、あまり親の記憶無い 」エスコートは崩れ、花火に自分の情けなさをぶつけたい衝動に駆られた。「コスモワールドで最後、私が小さい時に みたときかな、あのまま逸れたの。きっと背の高い観覧車に乗れば助かるんだと思った、でもお金もないしまだ小さいから保護されたんだよね。」「横浜につれていってくれたでしょ?あれ本当に嬉しかったの、観覧車に対してずっと乗りたいって気持ちもあったけど、やっぱ一人で乗るのも怖くて、でも貴方がいてくれたから良かった。」「最初はお互いに楽しむためにお出かけしていたけれど、今は何も無いところでも楽しめるように思える。私が神保町に行きたいなんていったら普通引いちゃうじゃん、でも貴方は1人1人見てくれるような感じがして 、だから言えた。」「大人だよ?怖くなかったの?」少しエセ文化通りに連れて行って怖がらせようと思ったが、束の間だった。「私、所属して悲しい思いをすることが1番怖いの。それも青山と同じじゃない?一時保護所を作ろうとしないじゃん、私が育ったところを否定するんだっていう味方を青山に見出しちゃうところ。青山は渋谷の隣にあって青山が大人の魅力的な街って言うけれど、実際は渋谷の方があると思う。自分がどうみられているかだけしか脳がない青山に感動しないでしょ?関心はあるけどさ」「渋谷が待ち合わせ場所でよかったね、それに似合ってる。」そう思った。最後は自分の個性を思い出してから大手町のサラリーマンになれるのは良いと思う。「これからも渋谷で待ち合わせて、渋谷で終わりたいね」そう栗毛を撫でて言うと、その手を握りしめてこういった。「同情を欲した時に全てを失っちゃうから。」「私は貴方にまだ向き合えない、エセ文化に浸りながら生きていく私をまだ自分で愛せていない。生きる為に男は必要って考えている私にとって貴方は特別よ。一人で自立して過ごせた時にまた、私はストーリーで知らせるから。」一口飲んだブラックコーヒーがほろ苦く、少ししょっぱかった。ハートの堅物を栗毛の隙間に眺めカモミールの香りを吸い込み、ブラックコーヒーの香りを覚えさせた。渋谷駅をすぎ家路に帰る路で青山を通ると、予想外の雨が降った。
ウィンカーで掃除するも滴は無邪気に踊った。そしてインスタに投稿した。貴方の既読がついたがメッセージの足跡はなかった。コーヒーは今まで感じた中で1番苦かった。
Chapter 10
この日の土曜日もブラックコーヒーを味わい、東京へロードスターを走らせ首都圏観光を始めた。今日のコーヒーはキリッとしているけどまだ一味足りない。オリゴ糖を追加して入れたけれど味に近づけない。神保町のカレーに置いてあったカモミールの花壇に微笑んで、雨予報の横浜にロードスターを走らせる。「港区、青山」の標識にイラつきながらも「自分の頑張ったことに対しての未練が晴れるといいね」と心から願う。渋谷のスペイン坂にカモミールの花壇があるらしい。開花は3月から6月という。その時また、一緒に渋谷を歩く時まで大手町のサラリーマンになりすぎないようにします。その時はまた、コーヒーの味を変えてください。