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劣等聖女と重重メイド

 リンネの部屋はメイド体験をさせてもらった時に入らせてもらったから場所は分かってる。付きっきりで看病してくれてたリンネには、ちゃんと目を覚ました事を報告して、お礼を言わないといけない。


 でも、ほとんど寝ずに私の傍にいてくれたみたいだし、寝させてあげた方がいいのかな? まあ、行ってみて寝てそうだったら退散すればいいし、起きてそうだったらお話しよう。


「お邪魔しまーす」


 私は小声で囁いて、リンネの部屋の扉を静かに開けた。中は暗い。パッと見た感じ起きてる雰囲気はないかな。


 そろそろと忍び足でリンネのベッドに近付く。誰かが寝ている。リンネだ。

 寝ているならちょっとだけ寝顔を拝んでから戻ろうかと思ったけど、私は彼女の息遣いを聞いて足を止める。なんだか苦しそう。すごいうなされている。


(悪い夢でも見てるのかな?)


 エフィも私が目覚めない事を悪夢って言ってくれたし、リンネも同じように思ってくれてるのかな?

 自惚れかもしれないけど、そうだと嬉しい……じゃなくて、すごいうなされてるのどうしよう? こういうのって起こしてあげた方がいいんだっけ?


「よく分からないけど……とりあえず聖女の加護」


 私はリンネの手を取って、両手で包み込む。そして、私の中に染み付いた第二の加護、聖女の加護を発動させる。


 苦しんでいるリンネに癒しの力を送り込む。手が光ってリンネの寝顔が見えるようになった。さっきよりは落ち着いたかな? こころなしか苦しそうな表情が和らいだ気がする。


「ふふ……普段は鋭い目付きだけど、寝てるとかわいいねぇ。いや、起きててもかわいいけどさ」


 壁が無くなって一緒に遠慮もなくなったから、いつも厳しい事ばっかり言うリンネだけど、なんだかんだ世話焼きだし、一緒にいてくれるし、本当にいい子だよね。

 よしよし、悪い夢は私が聖なる力でどっかポイしてあげるから、しっかり休むんだぞ~。


「……お嬢様?」


 なんて聖女っぽい事言ってるな~と思った傍からリンネが起きてまった。聖女の加護で光ってしまう手が眩しかったのかな? なんにせよ、起こしちゃってごめん。あと、お嬢様じゃなくてごめん。


「ごめんね、起こした?」


「……ブラン、様?」


「はい、ブランノア・シュバルツちゃんですよ」


「目が、覚めたんですか?」


「おかげさまでね」


 リンネの手に力が籠る。驚きに染まるリンネの顔がかわいい。

 でも、びっくりしたよね。エフィだと思ったら私だった訳だし。


「あ、あっ……よかった。よかったです!」


「なになに? 私が起きなくて寂しかったの?」


「だって……ずっと起きないからっ、私があんな事言ったせいだとばかり……っ。ごめんなさい、本当にごめんなさい……っ」


 リンネが顔をくしゃっと歪めて嗚咽する。

 それだけじゃなくて、深い後悔を抱えている様子で、私に何度も謝罪をして肩を震わせている。


 ああ、エフィが言っていたのはそういう事か。

 私が眠る前にリンネと交わした会話。リンネはそれをずっと引きずっていたんだ。

 もちろんその言葉が本気じゃないのは分かっていた。リンネと出会って、リンネと過ごして、リンネと仲良くなって。リンネの性格なんかも結構掴めてきたから分かる。あれは紛れもなく冗談だった。


 でも、そんな冗談を冗談ではなくしてしまうほどに、私のタイミングが最悪だった。そのせいでリンネに重荷を背負わせてしまったんだ。


「違うよ。リンネのせいじゃないよ。私が無茶したのがよくなかったんだ。あれは自業自得なんだよ」


 だから気にしなくていいんだよと、泣きじゃくるリンネに告げるが、零れる涙の勢いは増すばかりだ。

 エフィと違ってリンネは心配だけじゃなくて自責の念もあった。

 そんな彼女になんて言葉をかけてあげればいいのか……私には分からない。


 でも、私はちゃんと目を覚ました。

 リンネが思ってるような事にはならなかった。その事実を受け止めてほしい。

 そして――いつものように叱ってほしい。


 そんな悲しそうで痛々しい顔は好きじゃない。

 私が寝坊や二度寝をした時、呆れたように、困ったように。ほんの少しだけ微笑んで、仕方ないといったように起こして、ちょっとした悪態を吐きながら挨拶をしてくれる。そんなリンネが私は好きだ。


「ねえ、リンネ。私、起きたよ? いつもみたいにさ……笑ってよ」


「いつも、みたいに……?」


「そうだよ。私……また寝坊、しちゃったね」


「あ……」


 リンネは私の言いたいことに気付いたのか小さく声を発した。

 そして、グシグシと乱暴に袖で涙を拭うと、いつものそれとは似ても似つかない不格好な笑みを浮かべる。


「まったく……ブラン様はまた寝坊して……いい御身分ですね」


「……うん、だって私、劣等聖女だもん」


「そうですか。そうですね。ブラン様ですからね。仕方のない事です」


「うん。リンネ……おはよ」


「っ! 全然早くないです。むしろ遅すぎなんですよ。でも……おはようございます」


 そう言ってリンネは、今日一番の笑顔を見せてくれた。

 そこにもう、さっきまでの陰りはない、屈託のない綺麗な笑顔だった。

 私はつられて微笑んだ。

 やっぱりリンネは笑ってた方がかわいい。改めてそう思った。

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