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「まぁ? それじゃー、だめねぇ。警察のお世話になって、うちの名前に傷ついちゃう。弁護士に相談かしら?」
「そんなことしなくていい。こいつを甘やかすだけだ。そもそもこいつの存在が恥の上塗りだろ?」
強い口調で責められ、周子は「それもそうよねぇ」と頬をあてる。
「確かに聞いてたら、金銭トラブルや盗みは変わってないねぇ。しかもよりによって田先先生のとこでしょ? あそこ、奥さんの登美子さんがむかーし、うちの会社で働いてなかったかしら? あの人に少し香関わりがあってねぇ。生意気なことに、政治家先生とご結婚されたからねぇ。随分いけずね。うちのゆいちゃんに意地悪するなんて。調子に乗ってたからじゃないかしら?」
うふふと笑う周子に良輔の全身に鳥肌が立った。
「バカいってんじゃね。調子に乗ってたのは結花だろ? お金はこいつ自身で払わせる。お母さん、こいつがやったこと分かってんのか?!」
「いーじゃん、おかーさん払ってくれるの?! ゆいちゃんのお金全然ないから、ついでに30万ちょーだい。りょうにいもいちいち真面目でウザいんだけど」
兄妹喧嘩が始まりそうな雰囲気な中、周子は「りょうちゃん黙ってちょうだい」と切り捨てる。
「とにかく、田先先生のとこのお金は返さないといけないわ。お母さんが用意しようか?」
「え、ほんと?!」
結花の声が高くなり、良輔に向かって舌をだして威嚇する。
「だって、身内に犯罪者なんて出たらいやじゃない? それこそ、大翔くんやひーちゃんの結婚や進学で名前が傷つくわよ? ひーちゃんに至っては、犯罪者の娘って汚名がつくよ? それでもいいの?」
「そうよ! 大翔くんが彼女出来たときどーすんの?! ゆいちゃんが警察のお世話になるなんて、可哀想と思わないの?」
味方を得られたのか強気でいる結花の口調は、良輔を煽るものだった。
挑発的な目、見下した口調。
さてこの姿勢、いつまで続くのやら。
確かに身内で犯罪者でましたなんて嫌に決まってる。
正直微妙な所だろうなというのが自分の考えだ。
ライブチケットの転売は今回が初めて。常習性が低いという意味で、起訴されないとか罪に問われない可能性だってあり得る。
いい年して、色々な意味での素行不良な妹に、いい加減社会的に制裁された方がいいと思っている自分がいる。
悪運強いと言えばいいのか、しぶといと言えばいいのか。
因果応報を受けてる立場なのに、まだまだ効いていないだけだろうか。
あれだけテレビで紹介され、言動や態度がネットで叩かれているのに、本人は反省の色なし、むしろ被害者だと開き直っている。
良くも悪くも神経が図太い。
また母が妹を甘やかしそうなノリだ。
やっぱり自分に似ているからなんだろうか。
いつも不利になると、過去のこと持ち出しては、脅しにかかるスタイルが妹そっくりで。
だから妹も母といるときは常に強気で、変に自信持ってる。虎の威を借る狐と言えばいいのか。
母の恩に着るスタイルを利用すればいいのか?
「その脅しやめろ。とっくに結花の悪行は広まってる。今頃全国ネットどころか、世界で広まってるでしょ?」
「そりゃそうだけど……お母さん、ゆいちゃんが警察のお世話になるのは可哀想だし」
「可哀想なのは、お前達のおつむだ!」
良輔の強く言い切る口調に結花は「ひ、ひどいよ……」と涙目になる。
「結花には社会的な制裁が必要だ。まだまだ因果応報が足りてないということだ。お母さんもな」
「えー? お母さん何かしたかな? 心当たりないわー。ひどいねぇ、ゆいちゃん」
「そうよ! お母さんなんもしてないじゃん!」
良輔はこの母娘の頭のおめでたさに思わず失笑した。
周子は他所の男性と関係もってからの、結花が生まれた。
それをなかったことにするつもりでいた。いや、家族はもう覚えてないと思っているのだろう。
それ以外にも、お手伝いに来てた、野田、柿本、大野へのいびり、結花がトラブル起こす度に、無神経な言動やお金で解決してきたことなど。
表向きよさげに見えるから余計質が悪い。
その報いとして孫と夫が来ないことだろう。
これ以上関わりたくないのが答えだ。




