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結花の実家がある呉松家から、春の台のバスで約8分のとこに西南中央駅がある。
周りはショッピングモールや駅ビルやホテルがある。少し離れるとそこは閑静な住宅街に入る。
西南中央駅から徒歩分のとこにと建物が見えた――有料老人ホーム"サルース”。
まるでマンションのような建物だ。
結花はこんな場所あったっけと、兄の良輔についていくように、エントランスに入っていく。
エントランスを抜けると開放的なロビーが見えた。
車椅子の男性2人、女性1人と普通の椅子に座っている男性1人が、机囲んで麻雀に夢中になっている人達。
他のブースでは、囲碁や将棋を楽しむ人達、書道やカラオケを楽しむ人達、せっせと広告でゴミ箱を作る人達と、各々楽しんでいる様子だ。
ロビーのあちこちに、利用者の書道や絵画や、折り紙やフェルト生地で作られた作品が展示されている。
良輔は受付のロビーに面会に来た旨を伝えて、案内して貰った。
ロビーすぐ近くのエレベーターに乗って5階までいく。
エレベーターの中には、施設からのお知らせや敷地内にあるレストランの営業や、建物の案内図が掲示されている。
5階につくと、結花は良輔の後を追うように急ぎ足でついていく。
「ここだ」
電子化されている病室のネームプレートに、呉松周子様と表示されていた。
他にいつ入ったかや担当医師・看護師やケアマネの名前なども一緒に載っていた。
「え、ちょ、ここって?」
何一つ状況に気づいていない結花に、良輔は内心呆れていたが「老人ホームだけど」と短く返した。
なんで、お母さんだけ老人ホームなの?
お父さんは一緒じゃないの?
お母さん寂しいじゃん! というかお父さんも意地悪じゃない?
「ねぇ、なんで、お母さんここにいるの? お父さんは、なんで家なの?」
結花は良輔の肩を揺らして「どういうこと」と尋ねるが、何も答えない。
「ほら、さっさとはいるぞ」
「りょーにー! おしえてよ! どうせ、りょうにいが追い出したんでしょ! 教えないと、あんたの口うるさい嫁に直接聞くから!」
キャンキャン喚きそうな声で、良輔は心底不愉快そうに顔をしかめる。
アラフォーになっても、落ち着きのないしゃべり方が身内でいると眉をしかめたくなる。しかも妹という立場だから尚更。
鼓膜を破く勢いだから余計嫌になるし、こいつとしゃべった後は、すぐ頭が痛くなる。
まるで超音波いや、怪音波だ。
「あのな、少しはトーン落とせ。ほら、他の利用者が見てるぞ」
他の利用者から冷たい視線が結花に向けられる。
「いい加減TPOを弁えろ。ほら、はいるぞ」
良輔はドアをノックして「来たぞ」と告げた。
「どうぞ」と返ってきたので、結花は良輔と一緒に中に入った。
ベッドの上に横たわる周子。
その姿は結花が知っている姿と少し変わっていた。




