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『どうもほとぼり冷めた頃に再開してたっぽい。若干名前やIDを変えてやってた。ちょうどそれが、3年前。瀬ノ上さんとこにお世話になってるときから』
悠真の中で第六感のアラームが鳴る。
眉間にしわ寄せながら「もしかして……」と言った後に、良輔は「かもしれない」と淡々と答えた。
「その瀬ノ上さんって方からは、何か言われてないんですか?」
『以前あった。妹が来てからうちの物がちょくちょくなくなっていたって。鞄とか靴とか着物とか』
しかし、瀬ノ上夫妻は結花のことを疑うことが出来なかった。というのも、瀬ノ上和子は、元々少し忘れっぽい所があるから。
家のものがなくなってるのに気づいたのは、田先家が結花のフリマアプリで売っているものの中に、和子がよく集まりで持っていた着物にそっくりなものが売っていたから。
気づいたのは登美子で、なんか見たことあるわから始まり、和子に連絡したことで発覚した。
着物は藍泥のもので帯はピンク色でセットとして出品した。12万で。
元々和子は日常で着物姿が多く、色々な種類や柄が置いてある。
それは親から譲り受けたものや、親族から記念でもらったものなどなど。
宝飾品も特に真珠のネックレスが好きで、様々な大きさや種類のものが保管されており、いつも着物に合わせて着用していた。
『まぁ、ばか妹の考えのことだから、1つぐらいなくたって怪しまれないだろうという考えかな』
「怪しまれないって……」
悠真は大きなため息をついて、もうだめだこいつと呟く。
『あいつは昔っから汗水垂らして働いている人を馬鹿にしてた。働きたくないがために、悪行隠して嘘ついてまで、悠真くんと結婚したようなもんだからね。それでも君は、あいつとひーちゃんのために頑張ってきたわけでさ』
改めて突きつけられる事実。
悠真はやり場のない怒りを良輔に向けたかった。
「本当に働きたくないというか、楽したがり、なんですね。身内のものを勝手に売ってまで、自分の懐に入れたがるわけなんですから。本気で何か自分で最後まで努力したり、やり遂げたことがないんでしょうね」
『そう。あいつの目指すお姫様ライフは、家族や周りの人が犠牲になったり、泣き寝入りすること。それが当たり前だと思っている。シンデレラですら、もう少し気を配ってるぞ?』
良輔の冗談に思わず悠真は笑いをこらえる。
シンデレラは不遇な生活をしていて、コツコツと地道にやってる姿をお天道様が見ていたから、王子様と幸せになったんだと思う。
自分の昔の立場を分かっているからこそ、周りの人に偉そうに威張ったり、いびったりしない。
「あの人の場合逆シンデレラ、ですかね?」
『いや、うーん、シンデレラのその後で、調子に乗っちゃって、自滅ルートかな? 今流行の悪役令嬢のポジション』
「悪役令嬢、ですか?」
いまひとつピンと来ないが、良輔曰く若い子の間で流行ってるネット小説のジャンルの1つで、立場の弱い人をいびって、最後はだいたい痛い目に遭うと教えてくれた。
悠真は言われて見ればそうだなとすぐにイメージできた。
「悪役令嬢がおばちゃんみたいな感じですね」
実家は裕福だし、色々隠しまくって、お手伝いさんとか娘とか身内いびってたし、同級生いじめてた前科あるし……家族には嫌われて追放ルートみたいな感じか、ネット小説にありそうな話の実写バージョンかな?
『マジそれな! 本当は今すぐにでも呉松家”追放”させてやりたいんだけど……』
悠真は追放という言葉に吹き出しそうになる。
「そうは、いかない、でしょうね……下手にやると今度はお義兄さんが悪者になってしまいそうですね」
『そーそー、そうなんだよ。追い出したら追い出したでさ『呉松良輔は鬼畜』なーんて、変な評判ついたらさ、めんどくせーじゃん? バカ妹が追放されて喜んでる人いるんじゃね? 昔やられたこと思い出した人とかさ、俺が知らなかったあいつの悪行がまたボロボロ出てきてさ!』
陽鞠が幼稚園の時、ママ友のリーダー格で、夫婦で役員会に入っていた。
しかしほとんど悠真が動いていて、結花は役員会という地位で威張ったり、邪魔していただけで、仕事らしいものは全くやっていなかった。
気に入らない保護者に対して、大切な情報を渡さないとか、挨拶しても無視するとか、持ち物や服装を品定めして、態度を変えていた。
子供にもさりげなく嫌味言ったり、母親の悪口いったりと困らせたり泣かせたりしていた。
もめ事が起きても、実家の名前だして支配しようとしたり、お金払ったからいいでしょと、謝罪の言葉なしだった。
悠真はトラブルが発覚する度に、頭を下げての繰り返しだった。
転園も考えたが、結花がとにかく嫌がっていた。
地元で人気のある幼稚園で、裕福な保護者が多いことからだ。
”裕福な家の人と友達"というスターティスが欲しいだけ。
役員会に入ったのも、ママ友とお茶をしたいのと、地位で威張りたいだけであり、本気で幼稚園のことを考えていなかった。
小学校でも同様だった。
6年間のうち1年、2年、4年、6年と4回ほどやっていたが、結花本人による立候補だった。
すぐに結花のわがままや、非常識さが知れ渡り、悠真が尻拭いしているような形だった。
保護者の間では「陽鞠ちゃんとご主人はいいんだけど……」と同情気味だった。
それでも保護者会の役員が出来たのは、なかなか人手がいないことからだ。
打ち上げと称して、依田家に保護者集めて、ホームパーティじみたことをしていたが、これも悠真に接待を任せっきりで、結花は他の保護者の悪口や愚痴を話していただけだった。
来ている保護者も結花に逆らえないこと、子供同士は仲がいいことから、付き合っているようなものだった。
「やっぱり、昔っからなんですね。トラブルメーカー気質は。保護者会やってる時期が本当にしんどかったです。言ったとこで、またお小遣い減らされたり、嫌味飛んでくるし。陽鞠に友達がいなくなって困らないのって脅迫するんで」
『あれは、多分一生治らない。母親の性格の悪さを《《バッチリ受け継いでる》》し。自分が蒔いた種なのに、少しでも不利になれば、相手を悪人に仕立てて、被害者モードだからなぁ。全部母親や悠真くんが尻拭いしてたからね。いい加減自分の立場を弁えさせないと、無理だと思う。未だに反省してないし。てか、来たんでしょ? どんな内容?』
遠回しに結花から来たメッセージアプリを読み上げるように言われ、悠真は考えあぐねる。
良輔の声が好奇心にあふれていた。
「わ、分かりました……」
いっそのことここで共有した方が面白いかもしれない。
ふいに邪な感情が浮き上がり、悠真はわかりましたと、結花から来たメッセージアプリの内容を音読した。




