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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
9章

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1

結花にとって久しぶりの実家は心躍るものだった。

 なんだかんだ望海の家の玄関で、中入りたいとごねていたが、実家に戻れると聞いて楽になった。

 

 だって《《娘》》になれるんだから。ゆいちゃんが《《主役》》でいられるから。


 結花は車から降りてそそくさと玄関ドアを開ける。


 ただいまと声かけても誰も返事しない。


 母が駆け寄ってこない。父もいない。


 お手伝いさん達もいない。なんでみんなゆいちゃんを盛大に迎えてくれないの?


 車を駐車してきた良輔りょうすけが中に入ってきたので「ねぇ、お母さんとお父さんは?!」と甲高い声で尋ねる。


「お父さんはいつもの部屋。お母さんは……おっと、言えないんだ。早くあがれ。お父さんとこいくぞ」


「まって、私の部屋行く!」


 結花はかつて自分が使っていた2階の部屋まで駆け上がっていく。

 手前てまえの部屋のドアにつけていたピンクのハート型のプレートがなくなっていた。


 そこにゆいちゃんの部屋と飾っていたのに。

 ノックすることなく、ドアを開けると、積まれた段ボール箱にアウトドア用品、来客用の布団など、物置になっていた。

 

 そんなお姫様のような天蓋てんがいベッドも、薄いピンクの壁紙も、白を基調としたドレッサーや衣装ケースが全部なくなっている。どうして?


 良輔が追いかけるように結花のもとへやってくると「物置だ」と短く答えた。


「なんでよ? ここはゆいちゃんの部屋よ! なんで物置にするの?! こんなくっらーい場所にして! 今すぐ元に戻して!」


「いつまで娘気分でいるんだ? お前は《《出戻り》》だ。しかも《《2回目》》の。お前の私物は全て捨てた。自分の立場わかってんのか? ここで今まで通りの生活出来ると思うなよ」


 結花の言い分を無視して、良輔は早くお父さんとこいくからと急かした。

 自分の部屋を一瞥してしぶしぶ兄についていく。


 ちょっと! なんなの! 私の部屋がこんなに変わって! ほんとこのクソ兄死んでくれないかなー。そしたら、ゆいちゃんが当主になれるのに。


 それでお母さんと一緒に住むの!


 その前にこの兄と下僕父を追い出さなきゃ。


 そうするためにはどうしよう? 


 父の明博はリビングのソファに座ってテレビを見ていた。

 紺色のセーターに薄い青のズボン姿。


 髪はあるものの、あちこちに白髪ができていた。

 まだまだ働いているのか背筋が伸びている。


「お父さん、こいつ、《《またやらかした》》から連れて帰った。しばらくいさせてやれないか」


 良輔の話に明博あきひろはテレビを消して、立ち上がり、結花のもとへ向かう。

 

 勢いよく結花の頬を叩く音が響いた。


 頬は赤くなり結花の目元からじわりと塩分を含んだ液体がはらりと落ちる。

 結花は言いたい言葉を探しながら、口を急速に動かそうとする。しかし、声が出ない。


「専業主婦なのに家のことせず、威張ってばっかで、家族のお金勝手に使って、挙げ句、向こうのお子さんの物を勝手に売って遊んでたそうだな。悠真ゆうまくんと陽鞠ひまりちゃんと同じことしてるじゃないか。この年になっても学習能力がないみたいだな。呉松家でいくつになっても、トラブルメーカーがいると、良輔もお父さんもおちおち安心できん。身内の恥だ」


「な、なによ! 婿養子の癖に! 世界一可愛いゆいちゃんに対して、身内の恥なんて! ひどいよ! とっとと年金と遺産をゆいちゃんに渡して失せろ!」


「だ、だって、あいつの給料マジ安かったんだから、ゆいちゃん、生活出来なかったの! 何がわるいの?! みんな意地悪してくるもん。寂しいから友達とちょっと遊んでただけ」


 明博に対して早口でまくし立てるように結花は威嚇する。


「婿養子は関係ないだろ。少し不利になれば、相手の嫌なとこついて、屈服させようとするのやめろって散々指摘してるだろ。それに、この年で自分のこと名前で呼ぶのもいい加減にしなさい。今までみんながはいはいが言うこと聞いてたのは、結花が勝ったんじゃなくて、《《面倒くさいから》》折れてただけ」


「結花はこの年にしては言い方や行動が幼すぎる。みんなが意地悪してくるっていうけど、それは、結花が悪いことしたから注意してるだけだ。それが何回も続ければ、言い方もきつくなる。本当に嫌なら、無関心になっている。今までやり直しのチャンスが沢山あったのに、全てお前自身が潰している。耳が痛い言葉を無視したツケだ。それは、お母さんも同罪だけど。お前は自業自得だ。報いを甘んじることなく受け入れろ。決して”被害者”になるな。お前の《《処遇》》は良輔に任せる」


 明博は痛烈つうれつな言葉を結花に突きつける。

 結花は大きな声で泣きながら「お母さんはどこにいるの?! 教えて! 会いたいの!」とせがんだ。


 もう味方は大好きなお母さんしかいない。


 兄も父も冷たいし、みんな言い方きつい。


 口を揃えて自業自得だ、因果応報とか言ってくるけど、ゆいちゃん、そんな悪いことしたの? 生きるのに、可愛くいるためには当然のことしただけ。


 それが何? 見た目ぶっさいくで、真面目さしかないから、嫉妬してるんでしょ。


「お母さんのことは教えない。会ったらろくなことにならんからな」


 明博は強い口調で制止する。


「いやだ! おかーさんにあいたいー! ゆいちゃんいなくって、寂しいでしょ? ねぇ、どこなの?!」


 こんなに粘っても父が突き放すってなによ?


 いつもならあっさり言うこと聞いてくれるのに。


 そんなにお母さんヤバいとか?


 それならとっくに言ってるよね? クソ兄が冠婚葬祭だけ連絡するって言ってたし。

 

 キャンキャン甲高く騒ぐ結花に良輔も明博も思わず耳を塞いだ。

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