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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
8章

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「あー、ふみちゃーん、おっひさー。ゆいちゃんだよぉー」


 舌っ足らずなしゃべり口調で挨拶をするが、文登はまるで嫌な物を見たかのように、目線をそらす。


 望海に「なんでこの人が来てるんだ」としかめっ面で耳打ちする。

 結花が来た理由を話して、拓登は渋々だが玄関までならいてもいいと承諾した。


「ねぇ、ふみちゃーん、ゆいちゃん家追い出されて喉渇いてるのぉー。のどかわいたのぉー」


 文登の喉は唾が飲み込めず、口元を覆った。


 結婚式で散々私のこと目の前で悪く言ったこと覚えてないのか?

 友達から彼女にしつこく連絡先聞かれたってクレーム来たんだよ。


 結婚後も妻と彼女は従姉妹同士の付き合いだし、一応親族だからと俺も集まりに顔だしていた。

 毎回妻の目の前で、自分の実家や家族に対して馬鹿にされるのが嫌だ。


 私の家は都会の片隅で、両親は実家で小さな塾を経営している。

 今は代替わりして兄が継いで、両親は裏方として働いている。

 

 彼女はそれをガリ勉一家とか、面白みのなさそうな人とか、そんな小さい塾すぐ潰れるっしょと嘲笑していた。

 都会での塾の生徒を集める競争率は激しいし、大きい会社がやってるところに安心感や受験の実績でみんな行ってしまう。


 実家がやっている塾は競争に疲れたり、マイペースな子が多くやってくる。

 中には有名どこの塾で、未だに威圧的な授業する先生にトラウマ抱えた生徒達も少なくない。

 そういう子達に向かい合う両親に誇りを持っている。


 妻が彼女に対して私を馬鹿にするようにやめるよう散々言っているけど開き直る。

 いつも魅力ない陰キャだとか、真面目ちゃんでお似合いねとか、こんな地味子どこがいいのとか、妻を働かせるなんて甲斐性ない男となじる。


 妻も昔から彼女の"子守役"として、ずっと振り回されてきた。

 家に上下関係あるらしく、単に彼女の実家がたまたま本家だったというだけで。

 何かとつけて本家の娘に逆らうのかとか、困ってるのに助けないのかと。


 妻がいつも彼女と会っただけで疲れた顔を見せてくる。もう会わなくていいと言いながらも、心配だからと。

 妻もたいがいだが、いつまでも《《昔の上下関係》》を引っ張ってきたり、家族を馬鹿にする彼女は、これ以上関わってほしくない人間だ。


 彼女が離婚して、どっかに追い出されたと聞いた時、やっと妻がいじめられることなく生きていけると思ってたのに。

 また追い出されたと聞いて呆れてなにも言葉が出ない。

 しかも相変わらず妻に偉そうに威張ってる。


 最近、娘がはまっているアニメの主人公を思い出した。今年の10月に放送されているものだ。

 

 塾の女子生徒達の間でも流行ってて「先生、面白いから観て!」と勧められた。生徒の1人から原作の小説1巻を押しつけられるような形で、借りるところだった。

 さすがに生徒から借りるのは忍びないので、電子書籍を読んだ。元々はネット小説らしい。


 自分1人で観るのはなんとなく恥ずかしいので、妻と一緒に動画配信で子供達が寝た後に、こっそり観ていた。

 結局子供達にバレてしまい、なんだかんだ家族で観ている。


 現代の主人公が事故で異世界に行って転生して、意地悪な令嬢を追い出すというものだ。

 その令嬢は両親の前や外面は非常にいいけど。裏では雑用係と血のつながらない妹に意地悪している。

 主人公はその妹に転生しているという設定だ。


 アニメでは主人公と雑用係が現代の知恵を使って、令嬢の婚約パーティーで悪行を見せて、婚約破棄になった。

 両親は黙認していたということで、爵位剥奪、家は売り出され、令嬢とともに庶民に。


 今、主人公は令嬢の元婚約者の友人と結婚するしないという話になっている。


「ねぇ、たくちゃん、彼女あの人に似てない? ほら、千陽ちはるが見てるアニメの……」


 望海は拓登に耳打ちして「悪役令嬢に似てるよね」と。


「やっぱそう思った?!」


 加藤夫妻は結花に聞こえないように、こそこそと必死に笑いをこらえて「リアル悪役令嬢」じゃんと呟く。


「アニメのように”追放”されないかな……あの人……」


 拓登は結花を一瞥して「頼むから、家に上げないでくれ」と訴える。 


「リビングに戻って。私は大丈夫だから」と望海は文登を戻らせて、結花に「こっから先はいかないで」と制止する。


「嫌だー! 中はいりたーい! のどかわいたぁー!」


 40代女性の子供のような駄々っ子ぶりは、子供達がいる2階まで響く。


「さっきからなんなの! 悪役令嬢って! うるさいわね! てかなんなのそれ!」


「あ、いや、それはゆいちゃんは知らなくていいんだよ」


 望海は結花が”地獄耳”であることを思いだした。


 自分が不利になると、人が気にしている所や、《《変えようがないもの》》をついて、相手を挑発するのに、注意されたり、言い返されたら、悲劇のヒロインモード。


 その癖、他の人が彼女に対して「ちょっと……」と勝手に盗み聞きして、意地悪してきたと愚痴ってくる。


 しかも大半が、挨拶しても返さないとか無視するとか、筆記用具パクられたとかそういったものだ。


 自分に対して敏感で、他人には超無神経な人だ。


 あのアニメの悪役令嬢も、めちゃくちゃ無神経で、家の名前で威張るようなタイプだった。

 平民になって何も残らないことに、屈辱を感じながら生きている。自分が被害者だと訴えて。

 

 望海は額に顔を当ててスマホを何度もチェックする。


「ねー、本家の娘の言うことでしょ! 黙って聞きなさいよ! そうじゃないと……」


 結花は望海の耳に囁く。その瞬間、望海は「やめて!」と声を荒げた。

 

 心臓が跳ね上がる。全身に血の気が引いて、言葉が続かない。言い返せない。  


 どこまで人のものを奪う気?


 実家の母に頼んで、この家をゆいちゃんの物にするとか、状況わかってるの?!


 そうだ、この人は力づくで自分が欲しいものを手に入れるタイプだ。


 昔は泣き寝入りしていたけど、もうそんなはいはい言う人じゃない。


 彼女はずっと昔に取り残された人なんだ。


 インターホンの音がした。リビングにいる拓登から「良輔さんが来た」と声がした。


 兄の名前を聞いた結花の顔がしかめっ面になった。

 望海がドアを開けると、スキンヘッドに長身の男性。太い黒縁眼鏡と高い鼻。黒の光沢あるスーツを着ていた。


「うちの馬鹿妹が本当にお騒がせしてすみません。後日お詫び伺います。何かされませんでしたか?」


 良輔は穏やかに尋ねるが、今目の前に結花がいることを考えて望海は口ごもる。

 望海の様子を見て良輔は「後ででいいので、また教えてください」と告げた。


「ほら帰るぞ、お礼とお詫びは?」と良輔が結花を無理矢理引っ張ろうとするが、顔も会わせずぷいとそっぽを向く。


 良輔は頭をかいて「人に迷惑かけといて謝罪できないの相変わらずだな」と呟く。


「彼女、生まれてこのかた、"自分で"謝ったことがないのが《《自慢》》ですからね」

 笑いながらチクリと嫌味を言う望海に、良輔も「そうだったな」と笑った。


「また馬鹿妹、家のこと何もせずに、子供達含む家族のお金使って、贅沢三昧してたし、パパ活もやってたからな。向こうの家族から相当嫌われてたみたいだ。挙げ句の果てには、子供達のものを売ってたからな。前とちっとも変わってねぇ」


「私は《《変わった》》! 少しは家のことしてた!」


「はいはい、それは人が決めることであって、お前自身が言うもんじゃない。今までのこと考えたら信用すらされてなかったんだろうな。大人しく田先たさきさんとこの家族のお金返すために、働け」


 良輔は結花の言い分を無視して「本当にご迷惑おかけしました」と告げて、実家に向かった。

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