表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/153

10

 大岳台駅おおたけだいえきから電車で約10分のとこにある灘岡駅なだおかえきに結花はいた。


 駅周辺は商店やビルが混在するが、少し歩くと住宅街に入る。

 そこは少し大きなお家が多く、閑静な所として人気あるエリアだ。


 電車の乗り方が全然分からないため、45になって駅員からICカードの使い方を教わった。


 以前明王寺(みょうおうじ)で働いていた時に最初は義兄に送ってもらっていた。

 最後は電車とバスに乗っていけるようになったが、結局今やり方を忘れている。


 結花は道行く男性に声をかけて、灘岡駅の行き方を教えて貰おうとしていたが、スルーされていた。


 年配の女性が声かけると「はぁ? あんたには聞いてないけど」と逆ギレするので、女性は駅員に結花のことを話したことで、このような形になった。


 駅員(男性)に教えてもらう最中にも、名前や年齢やどこに住んでるかなど、プライベートなことばかり聞くわ、夫に追い出されたんです、助けてと甘えてきた。

 最後は顔には出さないものの、口調がきつくなっていた。


 結花は連絡先ゲットならず、少し不機嫌になりながら、灘岡駅までたどり着いた。


 さて、その灘岡駅だが、結花が行くには目的があった。

 親友に会いに行くためだ。


 メッセージアプリには行くねと一言つけただけで、ほぼいきなり訪問するようなもんだ。しかも手土産なし。


 結花に手土産を買うほどの金銭的な余裕がない。


 今手元にあるのは、最低限の着替えと日用品だけで、ブランド物の鞄やアクセサリーは、田先家の家族によって、結花の目の前で、質屋行きとなった。


 質屋には結花が家族のお金を勝ってに使って、遊び回っていたから、その罰として売りにきたと説明した。


 結花は最後までごねていたが、葵依と光河が取り押さえたおかげで売ることができた。


 値段は全部で5万円、家族のお金となった。


 売った後、家族に連れられて大岳台の駅のタクシーロータリーで「先に降りてて。後で向かうから」と言って、消えていった。

 待てど暮らせど来ない。それも当然である。追い出されたのである。

 家族もどこで待っててとか、そこから先の予定は一切言っていないのだから。


 いかにして結花を追い出すかということで、このような形になった。


 結花が気づいた頃――30分後連絡したがつながらない。何度やっても無理だった。


 1時間経った頃には完全に音信不通となっていた。


 それだけ彼女が家族から嫌われたということである。


 結花は年賀状の住所を思い出して、加藤望海かとうのぞみの家にたどり着いた。

 ホワイトとベージュをもとにして、やや小さめの窓がちらほら見える。まるでフランスあたりに出てくるような家。


 うわぁ、こいつゆいちゃんより格下なのに、見た目だけシャレオツなお家に住んじゃって。


 調子乗ってるんじゃない? あとで懲らしめてやろう。

 

 結花は望海の家の外観を見て意地悪することを心に決めた。


 インターホンを鳴らしても誰もいない。ガレージを見るとシルバーの外車が1台停まっている。家族はいるだろう。

 数回押してやっと望海が出てきた。


 上品な紺色のワンピースでスリッパ姿だ。


「ゆ、ゆいちゃん?! どうした?!」


 望海はいきなりの訪問に目を丸くする。

 それもそうだ。離婚してから数年会っていないのだから。


「ねぇ、夫に追い出されたの! お願い! のんちゃんの家にいさせて!」


 すすり泣くような声を出しながら懇願する結花。


「一体何があったの?」


 結花は田先家での生活を話す。だんだん望海の目が険しくなっていく。それも当然だった。

 

 良輔兄さんが言ってたのは本当だったんだ。


 1時間前に連絡来た。


 頻繁に連絡する関係ではないが、彼女の動向をたまに送ってくれる。


 私の家族に影響出ないようにということで《《注意喚起》》の意味で送ってくる。


 直接会うことはしていないが、彼女から再婚相手や義理家族の愚痴を、メッセージアプリで送ってきていた。


 でも私は返信していない。面倒くさいから。


 家族が冷たいとか、息子娘が反抗的で嫌だ、旦那が働かないから義理両親に自分のせいにされるとか……。


 でも聞く文面を見る限り、お金ないからパパ活こっそりやってるとか、退屈だからネットで知り合った男性と遊んでいるとか。


 子供達のお金を「お母さん銀行」として預かり、少額ずつくすねて遊んでいた。


 また専業主婦として結婚できたらしいが、彼女の文面やSNSの投稿を見る限り、家のことをしてるとは思えなかった。


 家族に追い出されたとメッセージが来たのは30分前。

 

 ゆいちゃん 11月25日14:29:22

 どうしよう、夫に追い出された! 離婚された! ねぇ、迎えに来て! いいや、そっちいく!


 呉松良輔 11月25日 13:22:14

 のんちゃん、ご無沙汰しています。りょう兄です。

 うちのばかがまた色々やらかして離婚されて追い出されたんだ。もしかしたら、そっちくるかもしれん。


 案の定ここに来た。


 話を聞いていると、どう見たって彼女が悪いにしか聞こえない。

 

 以前も家族のお金で遊び回ってたし、家のことを全然してなかったもんね。

 

 前のご主人が倒れた時に呑気に男性と遊んでたし。あり得ないと思った。

 しかもその男性に《《既婚者であること》》を隠してたから、その分のお金払わないといけなくなったでしょ?


 せっかく前のご主人からやり直しの機会もらってたというのに、自分で全部台無しにしてるじゃん。


 離婚回避条件に働くことって言って、渋々働いてたみたいだけど、勤務態度ひどかったらしいし、真面目にやってなかったみたいだし。


 男性スタッフにちょっかいかけては、仕事にならなくって、厳しいスタッフについて貰って、少しましになったものの、結局勤務態度の悪さで解雇されてるし。


 クビになったからって、パパ活やってたしね。


 そりゃ、元ご主人も娘さんもうんざりするよ。


 それでよく彼女は再婚できたなぁと思う。まぁ、外面の良さはいいからね。


 自分が楽するためなら、出来る自分を演じたり、悲劇のヒロインにもなるんだから。


 あれで昔どれだけ悪者にされたり、振り回されたことか。


 実家が格上とか意味の分からん理由で威張ってるだけで、別に彼女自体が偉い訳ではない。


 単に見た目しか取り柄のない、薄っぺらい人だ。


 フィクションに出てくる同性に嫌われる要素を、ふんだんに盛り込んだ人がリアルに身内でいるということだ。


 再婚相手が意地悪というか、多分無神経で怒られているだけだと思う。


 彼女が家のことをしないのも、良くも悪くもお似合いだと思う。


 ただ、家族が耐えれなかったというだけだ。


「それは当然だよ。ちゃんと働いて、返さなきゃ」


「嫌だ! ゆいちゃんは世界一可愛いから働くなんてあり得ない! だっていじめられるじゃん! 格下の癖にこんなおしゃれな家に住んでるなんて生意気よ! ゆいちゃんに譲りなさいよ!」


 結花は門をガンガン開けるように訴える。


「何言ってるの! ふざけないでよ! どこまで人の物、奪う気なの?! ほんと中学校から変わってないね! だからそういう唯我独尊自己中な所にうんざりして、離れてるんでしょ!」


 今の家は夫婦の努力の結晶だ。


 昔から外国のような外観のお家に憧れていた。


 夫も海外建築が好きということで、家族のこだわりが詰まっている家だ。


 昔から彼女から色々な物を取られてきた。

 お菓子は序の口、筆記用具、貴重品など。

 取られても、あの母親が出てきて折れるように迫られる。彼女が《《被害者》》としてあの母親に言うからだ。


 二言目には「呉松家当主に逆らうつもりか」と。


 ただでさえ、彼女は自分の姉の恋人や同級生や婚約者いる先生の彼氏を寝取った《《前科》》がある。

 しかも同級生の件は、後に彼女の娘の担任だ。


 あの子が母親のことで散々言われたり、理不尽な扱いをされている。


 当のやらかした本人は現在進行形でのうのうと生きている。


 前回の離婚の件で学習していないことを確信した。


 そうじゃなきゃ、人のお金くすねたり、家のことおろそかにしたりしないから。


 彼女は自分が楽して手に入れるか、他人の手柄を自分のものにすることしか考えていない。


 人を踏み台にして威張り腐ることしかできない。


 数年ぶりに会っても、相変わらず自分のことは名前で呼んでるし、自分が常に被害者や悲劇のヒロインや主役でいないと気が済まない所が、言動や態度に出ている。


 苦労するのが絶対いいとは言えないけれど、彼女はおいしいとこ取りして、マズイ物は他人に押しつける。


 根っこは変わってないので、ある意味安心した。


「何言ってるの? 呉松家本家のお嬢様に家譲れって話よ? いいよ、お母さんにあんたの家、力づくで取って貰うから!」


 望海は思わず吹き出して笑った。


「まだお母さんに頼ろうとしてるの? 当主は良輔兄さんでしょ? あとね、ゆいちゃんのお母さん、老人ホーム入ってるよ。あ、ゆいちゃんの場合、両親との面会、良輔兄さんの許可ないといけないから。てか連絡先教えるなって釘さしてる」


 結花の顔色がみるみる悪くなる。


 嘘でしょ? あんな元気だった母が父と老人ホームのお世話になるなんて。


 どこなの? 兄の許可ないとダメってなに?


 ふざけんな、あのばか兄。首つって死ね!


「それ、どこなの? 教えてよ? その前に、家入れて!」


「ごめん知らないの。悪いけど帰ってくれる? 子供達と主人が待ってるし」


「それでもいいから! お願い! 中に入れて!」


 結花は門の前で土下座を始める。


「なんなの! 散々うちの主人馬鹿にしてて、何のつもり? それにね、主人はゆいちゃんのこと苦手なの」


 結花は加藤夫妻の結婚式で、望海そっちのけで、出席している男性達に連絡先の交換をしつこく迫っていた。

 その上望海の夫には地味な陰キャな癖に、ハイスペ多いから出席してやったと言って、凍り付かせた。


 それ以降もちょくちょく望海の夫の前でけなすので、すぐに「極力顔を合わせたくない」となった。

 そのため、望海が夫と結花を鉢合わせさせないように気を回していた。


「えー、いいじゃん! ちょっとぐらーい!」


 じたばたと暴れる結花に望海はスマホで電話をかけた――結花の兄である良輔に。

 良輔からは今すぐ向かうと返事が来て、30分後に着くと。それまで悪いが中で待たせてほしいと。


「仕方ないわ。ちょっとだけね」


 ゆっくり門を開けて結花を中に入れさせる。


「やったー! やっぱりゆいちゃんの言うことには逆らえないもんねぇ」


 結花は望海の肩をパンパン叩いてるが、特にリアクションもせず、どうぞと玄関に案内した。

 

 ゆいちゃんの言うこと云々じゃなくて、ここで騒がれて近所でもめたら面倒くさいし、あなたのお兄さんが言ったからに過ぎないのに。


 なんでこの人は自分の言うことが何でも通るって思ってるんだろう。


 少しでも不利になれば泣いて訴えたり、お母さん呼んで泣き寝入りさせてたもんね。


 未だに家の名前やぶりっ子で周りがはいはい言うこと聞いてくれると思ってるのかな。


 40代もなれば見る目はシビアになるのに。


 自覚しない方がある意味彼女にとって幸せなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ