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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
8章

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4

 葵依あおいはスタッフを中に入れてゆっくりドアを閉めた。


 黒のスポーツ刈りで、凜々しい目に白い肌と整った顔立ち。黒のスエット上下を着ている。

 部屋の周りはアニメや漫画のキャラクターのポスターやアクリルスタンドがいくつか飾られていた。


「今日は気合い入れました。いつもこういうの着たらあの人に《《怒られる》》ので」


 肩をすくめて葵依は「どうぞ」と話をうながした。


 ――怒られるとはどういうことですか?


「あの人が私がこういうガーリーやフェミニンな服着るの《《嫌ってる》》んです。休日に化粧も全然できなくって。母が生きていた時はこんな髪型も格好もしてなかったんです」


 葵依はスマホで中学時代の写真を見せた。

 友達4人でテーマパークに行った時に入り口近くで撮ったものと付け加えた。


 白のシャツと黒のマキシ丈ワンピースに、厚底のサンダル。

 髪は肩の少し下まであり、赤のターバンをつけていた。

 スタッフ達は今の姿と中学時代の写真を必死に見比べる。


 ――同級生達が見たらびっくりするでしょうね?


「ええ、そうですね。あの人が来てから、私が急に髪短くなったり、ダサくなっていく姿みて、先生や友達が心配していると。父が再婚してからなので、なんかあるんじゃないかって噂されてます。光河もジャージやスエットばっかですが、前は色々おしゃれに挑戦していました。去年は、担任に何回も聞かれました。まして本当の理由を言っちゃうと、あの人の耳に届きそうだからいわないだけです」


 ――でも、ここでいうと。


「そうです。あの人がいかにおかしいか、全国の皆さんに知ってもらいたくって、今回インタビューに答えようかと。あの人の前でははいはい言うこと聞いて、従ってますが、ぶっちゃけ付き合ってられません。従わないと、泣き出したり、手が出たり、《《物を勝手に売られる》》んで」


 ――勝手に売られる、ですか?!


「見ての通り私の部屋はアニメやゲームのキャラのグッズが多いです。私と言い争いしたとき、高確率でグッズがなくなってるんです」


 声優のライブDVD、限定ペンライト、Tシャツ、アイドル育成ゲームの看板キャラクターの缶バッチ、コラボカフェで特典で貰ったコースター、他作品のクリアファイルやタペストリーなど。


「グッズの中には、仲間から譲り受けたものとか、売っちゃいけないものもはいてるんです。家中さがしても見つからないし。聞いてもごまかしてばかりで」


 深刻な口調で話す葵依にスタッフ達はただ黙って聞いてるしかなかった。


「あの人はアニメや漫画好きな人見下してるのは、言動で伝わりますし、直球で言われたこともあります。陰キャ趣味でダサいって。そのくせおしゃれなことやろうとしたら、似合わないとか気取ってるとかからかってくるので、嫌なんです。表向きは従って、弟や父に愚痴ってます。そうじゃないとやってられないんで。喧嘩するのも、話するものダルいんで」


 ――お義母さんにお金を使い込まれたって話を弟さんから聞きましたが……。


「そうなんです! 数百円単位でなくなるんです! あいつが来る前は自分たちで管理してたんですけど、だんだんお金減ってて。平日の昼間に下ろされてるっぽいんです。通帳なんてあの人に強制的に没収されているんで、アプリ通知で分かるんです。聞いたとこでしらばっくれるだけなんです」

 

 家族が口揃えて結花が使い込んでるんじゃないかって言ってるのはおかしいと思う。


 過去にそういったことをしていたから余計疑われるのだろう。


 しかし結花本人はお金がないだ、生活が苦しいと騒いでいた。


 なのに、インタビューで着ていた服や鞄はブランド品だ。


 他の家族はみんな地味な服を着ている。


 仮に家族がファッションに無頓着にしても、葵依も光河も元々おしゃれな服を着ていたとしたら、この変わりぶりは、みんな不審に思うだろう。


 ――もしかしたら、葵依さんのアニメグッズ、フリマアプリとかに売られてるんじゃないですか?


 スタッフの指摘に葵依は顔を覆って「そんな、嘘でしょ?」と繰り返す。


 でもあり得そうな話。


 毎月お小遣いためて、推しのグッズを買うのに楽しみにしている。


 クリスマスや誕生日に祖父母からライブDVDやチケット代とグッズ代を入れてくれて本当に嬉しかった。友達と全力で楽しんだ。


 もし、あの人がフリマアプリで売っていたとしたら?


 ライブグッズは非売品だし、通報される。もしかしたら放置されていたら、まだ証拠を探す望みとなるかもしれない。


 ――ライブというのはいつのですか?


「えっと、2ヶ月前ですかね。大崎啓太おおさきけいたのライブです」

 葵依はSNSに勝ったグッズの写真を載せていたことを思い出し、スタッフ達に見せた。


 ――あぁ、この方ですね。分かりました、探してみましょうか?


 スタッフの心強い言葉に葵依はぱっと明るくなり、お願いしますと声が高くなった。


「うちはあの人が来てからおかしくなりました。弟は明るかったのに、同級生にいじめられて、暗くなりました。私も弟も追い出してほしいと思ってます。あんな人親じゃなくて、親の皮を被った《《疫病神》》です。あの人、2回目の結婚らしいですが、元旦那さんとの間に娘さんがいるらしいんですよ。あの人は追い出された、離婚されたと被害者面ですが、そりゃしたくなりますよ。あの人のわがまま、傲慢さ、陰湿さにうんざりしたんだろうなと思います」


「あの人は元旦那さんと娘さんと住んでる時に、旦那さんのお金で家のことせずに、遊んでたというし、娘さんのお金をパクってたと。旦那さんの趣味の本とか勝手に売ってたと」


 ――それは誰から聞きましたか?


「あぁ、彼女のお兄さんです。祖父母が仕事で関わりがあるんです。あの人の過去のことも聞きました。昔っから周りからちやほやされないと気が済まないみたいで、同級生いじめてたとか、あの人のお姉さんの彼氏寝取ったとか、問題おこしてたと聞いて納得できました。だから、お金の件でうちの家族から疑われるのは無理もないですね。日頃の行いがよくないから」

 

 ――そのお兄さんとは会ってるんですか?


「何度かお会いしたことあります。あの人抜きで。とても真面目な人でした。弟も私も、あの人に何かやられたら、やらかしたら教えてくれと言われてるので、逐一報告しています」


 葵依はスタッフに見てくださいと、スマホのメッセージアプリを見せた。


 そこにはグループチャットで、田先家と結花の兄良輔とのやりとりが残されている。当然、結花は知らない。いや、入らせないようにしているし、教えないように良輔に口止めされている。


 良輔が田先家と関わりあることや、周平と結花が再婚したことにより、結花の動向を知るために作られた。


 内容は結花に関する愚痴や報告だ。


 光河は姉弟でお金が勝手に引き落とされてるとか、ベタベタ触ってくること。葵依はコンプレックスをついて暴言を吐かれること。


 嫌だと思ったらきっちり言うとか、あんまりひどいようだと、田先家に行くと話していたところだった。

 今回テレビのインタビューに家族が出るのも、最初は嫌がっていたが、良輔があえて出ることで、結花の非常識さ、世間知らずぶり、異常であることを世間に知らしめることで、現状を知ってもらうために出た方がいいと勧めた。

 それに、自己顕示欲強い結花が出たら、変なこと言ってネットで叩かれることで身の程を分かって貰うという意図もある。


 スタッフ達は田先家のやりとりで、相当結花に悩まされているんだなと察した。

 

 葵依のアニメのグッズがもし結花の手で売られたとしたら?


 過去のことを聞いている限りプラスのことより、マイナスな話しか出てこない。元夫のものを無断で売っていたと言う話もあるから、疑われるのは当然だろう。


 しかし今の段階で証拠が出ていないとなれば、勝手に疑ったところで、またもめ事の火種になるのは自明じめいである。


 スタッフは失礼しましたと言って、田先家をあとにした。

 

 田先家の人間は誰1人、彼女のことを名前で呼ぶことなく、あれこれ呼ばわりされている。

 家族の口からでるのは、彼女の悪いところだけ。いいとこは一切なかった。


 本人は自覚ないし悪びれてもなさそうだが、家族に注意されるだけで、いじめられたとおもってる。

 いわば悲劇のヒロインとして注目されたいだけ。


 田先家の話がお昼のドキュメンタリー番組で紹介された後、ネットでは田先家の態度はもちろん、結花への言動に対する批判的なコメントが並んだ。

 彼女のSNSにはわがまますぎるとか、この年で自分のこと名前で呼ぶのはない、スタッフにため口はなし、家族から嫌われてるのは自分が原因だと厳しい指摘が並ぶ。


 また、結花の昔のことを知っている人達から、いかに性格悪いかとか痛いやつとか、過去にやられたことを投稿されていた。

 結花の個人情報も特定され、出身学校、過去に起こしたトラブル、SNSの発言が拡散され、批判の的にされていた。因果応報の言葉が沢山並んでいた。

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