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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
8章

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1

「生きていくにも精一杯なんです」

 

 だだっ広いリビングで涙ながらに語る女性。

 西洋人形のような大きな目と長いすだれまつ毛。

 小顔で鼻が高い。

 

 ドキュメンタリー番組である家族が紹介されていた。

 閑静な住宅街である大岳台に住む一家。

 妻の田先結花たさきゆいかは専業主婦、夫の周平しゅうへいは40歳でメーカーの役員兼人事部長。

 中3の長男の光河こうがは引きこもり。高校1年の長女の葵依あおいは部活と勉強で忙しく、家族のコミュニケーションはいいとは言えない環境。

 

 家計の支えとなるのは夫の親からの仕送り。

 彼の実家は両親共に代々続く地域の権力者だ。

 

 夫妻の出会いの話をしよう。

 妻の結花は42歳のバツイチ。元夫との間に娘がいる。しかし5年前彼女のやらかしで、元夫と娘に家を追い出された。

 それからネットで異性との付き合い――いわゆるパパ活で養ってもらう生活を続けていた。

 パパの中の1人の奥様と息子に関係がバレてしまい、彼女は涙ながらに元夫に追い出されたことを話した。

 

 不憫に思った奥様は、彼女を雑用係として働かせることで償うようにさせた。

 今夫との出会いもこの奥様から紹介されたものだった。2年前に結婚した。

 

 結花の夫である周平は、3年前に元妻の杏奈を病で亡くし、それから実家の手を借りながら子供たちを育ててきた。

 しかし、周平は根っこが怠け者だ。家では何もしない。

 勤務態度が悪いからである。

 表向きは真面目だが、裏ではしょっちゅうタバコ休憩と称して、スマホゲームやったり、女性スタッフにちょっかいかけたり、立場の弱いスタッフにパワハラしたりとやってきた。いわゆる真面目系クズである。

 

 上司がいるところではごますって、気に入られようと躍起になってたのもあり、入ってすぐに管理職になった。

 

 過去に関わった部下は周平からパワハラ受けていて、中には自殺した人もいる。

 その家族から訴えられたこともあったが、周平の圧力により、なかったことにされている。お咎めなしで、今の会社に居座っている。

 当然部下からの評判は悪く、社内でも性格クズとして知られている。

 

 皮肉なことに周平は社内のコンプラ対策の責任者でもあるので、自分が不利になる事案は全てもみ消している。 


 結花と周平が結婚したのは、彼の両親が孫達には母親が必要だからということで、お見合いとして成立した。結花の借金を肩代わりする条件で。


「夫に働いてもらいたいんですが、毎日その事で喧嘩ばっかです。言うと『お前が働け』ですし」


 結花はソファで肩をすくめてカメラの前で見てくださいよと背中を見せる。あざがある。主に背中やお腹周り。

 周平と義理息子の光河からの暴力だ。義理娘の葵依は大人しく言うこと聞いているだけ。彼女の本心は分からない。

 スタッフから「結花さんは働かないんですか?」の質問にこう答えた。


「えっ? 世界一かわいいゆいちゃんが何で働かないといけないんですか?」


「てか、あいつ給料安いからさーかれ、他でもっと働いてほしいのよねぇー。だって40万よ? やすくなーい? 世界一可愛いゆいちゃんのためなら、楽勝でしょ? ほんとお金ないの!」


「働く? あ、無理無理。ゆいちゃん働いたらいじめられちゃうもん。可愛いから。働かないのが結婚時の約束だしぃー」


 面食らったかのように答える結花。

 スタッフの顔が引きつる。いや、ドン引きしている。


 自己主張の激しい付け睫毛、派手な化粧、まるで水商売をやっているような見た目。

 お金がないのといいながら、服はピンクのカーディガンに黒のジャンパー風の上着と短いスカート。


 結花はカーディガンに合わせたミニバッグをさりげなくロゴが見えるかのように見せる。


「今の生活が嫌で元夫と娘に連絡してるんですけど、ぜーんぜん、返事がないんですぅ」


 思い出したのか鞄からハンカチを取り出して「どうしたら、会えますか? スタッフさん探してくれますか」と尋ねる。

 スタッフは分かりましたと答えて、和室に向かった。


 家族それぞれのコメントを取っていく。


 1階の和室でねずみ色のスエットを着た角刈りの男性――田先周平が寝転びながらスマホゲームをしていた。

 周平は「なんで他で働くひつよーがあるんです? いつが働けばいい話」「あいつ世間知らずの塊なんでね、いつまでもちやほやされると思ってる勘違い女」とヘラヘラしながら答えていた。

 結花への暴力については「あれはじゃれ合いですし。元々《《訳ありな人》》なんで、《《結婚してやった》》だけでありがたく思ってほしい。

 蓋を開けてみれば料理はマズイわ、うるさいわなので、うちの両親が厳しく教育してくれてるので助かってます」と答えた。


「ぶっちゃけあいつ自分のこと可愛いとかいってますけど、ブスですね。見ました? あの服? すっぴんマジブスですよ? ばかみたいにつけまだエステだ、存在だけでお金かかる。うちの親が紹介してきて、結婚してやったんです。うるさいから」


 スタッフは言い過ぎなのではと指摘するが、表情一つ変えず、結花への罵倒が止まらない。


「いつもあいつが言ってる見た目も、もう自慢出来る要素じゃないですし。見た目可愛いって、褒める要素が何もないときの言葉ですからね。ほんとなーんもいいとこない。ぶっちゃけけたオバさんいらないんですよね。美人は3日で飽きるっていうけど、あいつの場合初対面で飽きました」


「あいつ過去に色々問題起こしまくってるんで。身内や同級生に蛇蝎だかつのごとく嫌われてるみたいですよ。だって一緒にいるだけで嫌になりますよ? しゃべり方が幼いし、話しててイライラしませんでした? うちの家族が再三注意してもなおらないから、もう頭の病気だと思ってます」


 スタッフ達は確かに話しててムカついたというか、終始被害者という立場を貫いている印象だったが、ここでは言わないように抑える。


 ――ただ、彼女の言動や過去のことを調べ上げたらネットで注目されるだろう。炎上のリスク高いが。

 夫が働いているのに給料が安いだ、もっと働けの発言は特に荒れるだろう。


 半年前、新聞のお悩み投稿欄で『夫の給料が安いので、もっと働いてほしい。家のことももっとやってほしい。生活が困窮していて辛い』という内容がネットで拡散され炎上した。

 挙げ句の果てには投稿した人の名前を特定して、顔写真付きで拡散され、ある女性のSNSが炎上した。

 理由は住んでいる所と生活環境が投稿と似ているからというものだった。

 

 女性は少し前まで働いていなかったが、新聞の投稿時には既に勤務してた。

 夫の愚痴どころか、家族についてはほとんど投稿していない。

 ただ単に似ているからという理由で特定され、ネットの炎上の餌食になった女性は、あんまりにもひどいので法的措置を取る旨を発表して、やっと鎮火した。


 その炎上の火種を提供したのは一般人数名で、ネットで個人情報を特定するのが趣味というような輩だった。

 彼らは、特定されるようなことを載せるのが悪いと開き直っていた。 

 そもそもお悩み投稿も架空じゃないかという話がでていた。


 ネットを盛り上げるために、わざと反感を買う内容を投稿して楽しむ輩が一定数いる。

 その炎上するような投稿の内容を言っている人間が、リアルに存在することを確信した。


 スタッフは結花さんのこと愛してますかと尋ねるとこう答えた。


「え? いやー表向きは、愛してますけど、本気でと言われたら全然。むしろ嫌いなタイプ」と即答した。

 挙げ句の果てには「ね、20代の子いない? 紹介してよ? もううちの家族みんな嫌ってるからさぁー」と手を合わせてお願いしてきたので、すぐに退散した。

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