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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
7章

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3

 家族で同居して1ヶ月たった。


 3月も半ばだが、相変わらず夜は寒い。


 夜の22時過ぎ、電気は台所だけつけた。


 流しの水を出して娘の弁当箱とともに家族が夕食で食べた食器類も洗う。

 結局同居しても家族がそろって食卓は難しい。


 私と義理家族は19時台で帰って来るが、夫と娘は帰りが22時過ぎてしまう。

 娘は春期講習朝からあるからと、朝から塾に缶詰になっていないし、夫は仕事が忙しいからと2人とも22時過ぎ。

 家族揃うのは日曜の夜ぐらいだろうか。


 それでも娘は私が話しかけても10回に1回しか返事しないし、敬語で返してくるか、きつい言い方をしてくる。

 夫は普通だが、以前よりとげのあると言えばいいのか、皮肉めいたことを言うようになった。


 義理家族と一緒にいてもちっともつまらないし、あれをやりなさい、これをやりなさいと色々言いつけられる。

 後でやるなんて言おうものなら、義理両親に「自分の立場が分かってるのか」と言われる。

 

 お風呂に入れるのは義理両親が入った後。でもシャワーのみで手早くやりなさいと。

 10分経ったら義父に早く上がりなさいと急かされる。

 世界一可愛い私が、スキンケアに力入れていることを分かってて言っている。


 お風呂からあがれば、明日の朝食と弁当と夕食の仕込みの準備。

 弁当以外は義母と一緒にやるが、これも色々言われながらやる。

 包丁の持ち方が雑過ぎるとか、分量をきちんと量ったかどうか毎回チェックされるし、味見されて微妙だとか、庶民の味に慣れてないのねと嫌みが飛んでくる。


 それで朝は4時に義母に叩き起こされる。

 この時期なんて眠くて仕方ないし、太陽も出てないから出てないから寒いし、布団から出たくないけど、問答無用で布団を剥ぎ取られるので、起きざるを得ない。

 早起きは三文の得と義母は言うけど、私としてはただただ寒いし、義母と2人で家事をするのが憂鬱でたまらない。


 義母は勤務中の事故の影響で、杖を使っているが、家事の時は台所にある椅子に座りながら、杖を振り回して。あれこれ言う。不備があれば徹底的にダメだしされる。

 買い物も義母について行くように夫から言われた。

 袋持ちも支払いも私だ。


 家族と同居してから、夫も娘もそうだが、義理両親もかなり強気というか、私をぞんざいに扱ってくる。

 あんなにきつい言い方する人たちだっけと戸惑っている。


 パジャマ姿でコップ片手に娘が弁当箱を流しにおいた。触ると重い。もしかして食べてないのか。

 中身を開けると全く手をつけてない。


 娘に近づいて詰問するが、スタスタと歩き去ろうとする。


「ひーちゃん、これはどうしたの?」


 のいてと娘に押し出され、コップに水を入れていく。


「友達と外で食べてきたから、お腹いっぱいなの。それだけ」


 さっさと洗ってよと娘は弁当箱を押しつけて、部屋に戻ろうとするのを止める。


「それなら、お母さんに一言お願い。お父さんにお金出してもらって……」


 でも本音は弁当で済ませたい。かといって、娘にも付き合いがあるから、多少はお金出した方がいいかとせめぎ合う。


「じゃぁ、あんたが出して。一日1000円。あんたの弁当、恥ずかしくて他の人に見せれない。なに? あのパンダみたいなの? SNS映えしないね」


 手をひらひらさせながら鼻先で笑う。 


 娘を喜ばせようと、ネットで中学生にぴったりな弁当の具を検索して、キャラ弁に挑戦した。


 定番のたこさんウィンナーや、海苔パンチを使ってパンダのキャラクターのおにぎりを作った。周りはプチトマトやきんぴらごぼうなどの野菜で埋めた。


 その途中経過や完成品はスマホの写真に残して、自分のSNSのアカウントにあげている。


 信者が凄いですねとか、可愛いと喜んでいて嬉しかった。


 なのに。なのに。なのに。


「キャラ弁でパンダとか幼稚園の弁当じゃん? ねぇ、どこまで私を馬鹿にしてるの?」


「そ、それは、ひーちゃんが、キャラ弁にしてって言うから、お母さん挑戦してみただけよ?」


 昨日は栄養バランス考えて、ブロッコリーやプチトマト、サツマイモの冷食と、卵焼きを入れた。ご飯は白米で一緒に紫蘇のふりかけを入れた。


「家事やってますアピールで、私に許してもらおうと思ってる?」


「いや、そういうつもりは……お母さん頑張って作ってるんだから、少しでも食べてくれたら嬉しいな」


 上目使いでアピールするが、娘はきっしょと一言切り捨てた。


「ぶっちゃけ、ばあちゃんやお父さんの方がおいしい。あんたのは、自己満の塊」


 突きつけられる厳しい言葉。

 下にうつむいてやり過ごそうとする。


 その瞬間なにかがかかった。

 冷たい液体がエプロンからしたたるように床に落ちていく。


 顔を上げると娘の嘲笑する声が聞こえた。


「や、やめ……て、こ、これ以上、お、お母さんを、いじめ……ない、で……」


 声を震わせて無意識に体が崩れ落ちた瞬間、また水がかかった。


 もうやめてと懇願するが、娘は無視して黙って私をじろじろ見る。


 あろうことか、私にスマホを向けてきた。


「じゃぁ、土下座して。私とお父さん苦しめたこと、赤澤先生とちーちゃんのお父さん、日下部さんとか、過去に嫌がらせした人達全員にごめんなさい言って」


 なんでこんな時に土下座しないといけないの?


 私、いま娘に嫌がらせされてるのよ?


 胸は苦しくなり全身が熱くなる。


「早く土下座して謝って。ジャンピング土下座ね」


 娘に急かされ渋々名前をあげながら、申し訳ございませんでしたと土下座をする。


 土下座をする度に身震いが止まらない。


「あーぁ、生まれてこの方謝ったことがないって自慢のあんたが、とうとう頭下げたねぇ。明日槍が降りそう」



「こ、これ動画撮ってるの?! 消して!」


「嫌なこった。お父さんや赤澤先生に見せるから」


 その笑みはまるで私の様子を楽しんでいるようだった。


 娘が怖い。怖い。怖い。


 今まで14年間一緒にいた娘じゃなくて、別の人に見えてくる。


「頼むから消して! ねっ? お母さんに意地悪しないで?」


 こんな姿他人に見られるなんて絶対嫌。


 うちの娘はこんな陰険な子に育ったの?


 他の人にはちゃんとしてるのに、なんで私だけきついの?


 もういいでしょ、許してと繰り返す。


「キャンキャンうるさい。土下座してとは言ったけど、許すって言ってないよ? そんなの私やお父さん達が決めることだよ。やっぱり元いじめっ子のメンタルは理解出来ないねぇ――私はあんたのこと一生許さない。これからずっと復讐するから。黙って憂さ晴らしの道具になって。あーあ、これで専業主婦でセレブ生活おしまいだね。《《因果応報》》だよ」


 娘は無言でコップに水を入れて私にふっかけて、部屋へ向かった。あー、あいつの声頭痛いといいながら。


 思わず声をあげて泣く。


 なんでここまでされないといけないの?


 やり直そうと頑張ったのに。


 なんで? なんで? みんな許さないの?


 そんなに根に持ってるものなの?


 ずっと昔のことなのに。なんで今頃になってとやかく言われるの?


 夫が仕事忙しいから、さみしくてマッチングアプリで出会った子と遊んでいただけなのに。


「なにやってんだ? こんな水を出しっぱにして」


 部屋にいた夫の声がした。


「床ぬれてんじゃん。さっさと拭いて」


 夫は流しを止めてなんで床や私のエプロンが濡れているか質問した。

 私は娘にされたこと、土下座をして動画を撮られていたことを話す。


「さっき送られてきたやつか。あのな、決して許してもらおうとか、元に戻ろうとか思うな。お前はやったことの重大さがまだ分かってないみたいだな」


 はぁと夫は大げさにため息つく。


「な、なによ? 娘の味方になるつもり?!」


「当たり前だろ。何言ってるんだ? 加害者の分際で」


 夫の淡々とした口調が怖い。膝が崩れて声が出ない。

 味方してくれると思ったのに。


「だって、み、みんなでやり直そうって……ひどいよ? なんでみんな私に意地悪するの⁈」


「確かにやり直すとは言ったが、お前の味方になるとは言ってない。悲劇のヒロイン面メンタル変わってないな」


 鼻で笑って一蹴する夫も敵に見える。


 ここに私の味方は誰もいない。

 歯を食いしばって上目づかいする。


「なんだ、その目は? 反抗的だな。意地悪じゃなくて《《因果応報》》なんだよ。何度言えば分かる? 今までのつけが返ってきてるんだよ。これからも続く」


 わざとらしくはーぁと呆れた仕草をする。


「ほんと、最低!! 私がいつまでもおとなしくはいはいいうこと聞くと思ってるの? 大人しく給料だけ運んでりゃいいんだよ! この底辺!」


 息が荒くなり、顔が赤くなる。いつもの癖で夫を罵倒する。でもぜんぜん怯まない。


「その底辺と一緒にやり直したいと言ったのはどこの誰だっけ? それとも婚活でもやるつもりか? いやー、顔だけ人間が相手してくれるか……まして、同級生いじめてた、夫がいるにも関わらず、未来ある男性騙して遊んでた《《前科》》ある人に。実家の母親も《《浮気の前科》》あり。完全に遺伝だ。いやー、陽鞠に遺伝しないといいんだけど……」


 心配だなーと大げさに首を傾げる。その姿が余計むかつく。


「これ以上、俺や陽鞠の足引っ張るな。顔も見たくない。目障りだ」


 無理やり夫に外に連れ出される。

 人気なく、外は冷たい刃が突き刺さるような寒さ。


「ち、ちょ、どこに連れていく気なの?! 世界一可愛いゆいちゃんに何するつもり⁈」


 大声で抵抗するが、夫に口を塞がれ、近所迷惑だと切り捨てる。


「うちの両親の手伝いと家事以外ここにいろ。あとで簡易式トイレ用意するから」


 連れて行かれたのは家の離れ。


「待って!! お風呂は?! 荷物あるのに!」


「今まで通りだ。ただし、シャワーだけな。嫌だったら、ジムなりスーパー銭湯なり行きゃいい。その分のお金はお前が出せ」


「そんなの無理!! 私のお金なんてたかが知れてるでしょ⁈」


「じゃぁ、俺が出す代わりに借金毎月返すのはどうだ?」


 ただでさえ、慰謝料の支払いか3万ずつあるし、それプラス夫に借金とか無理に決まってる。そんなの生きていけない。


「働き先増やせばいいじゃないか。貧乏暇なし。小人閑居にして不全を処すって言うし、お前には丁度いい処遇だ。じゃ」

 

 業務事項を伝えるような口調で、離れの門扉が閉ざされた。家の鍵は持ってない。

 離れの電気は古くさく蛍光灯が辛うじて2本つくぐらいだ。

 小さい椅子と流しとお手洗いが申し訳程度ある。

 

 スマホを開くと辛うじてWi-Fiが届く。


 ――ねぇ、覆水盆に返らずだよ?



 ――因果応報、自業自得。


 ――今まで調子に乗ってたつけだよ? 夢破れたね。


 お金持ちと結婚して、専業主婦で、周りに傅かれて、子どもにも愛される私――今はどうだ?


 子どもからは復讐宣言され、夫からは必要以外出入りするなと離れに連れられて、慰謝料の支払い。ずっとやりたくなかったと言っていたのに、スーパーでせっせと働いているじゃないか。


 実家は兄が継いで、敷居を跨ぐなと絶縁を言い渡された。


 大好きな母の様子も分からない。


 お手伝いさんも来なくなっちゃったから、今まで逃げてきた家事をやらざるを得なくなった。


 全ては夫が倒れたのが悪いのよ。


 そうじゃなかったら、こんなことにならなかったのに。


 もういい、明日も早いからもう寝よう。


 明かりを消して泥のように眠りについた。

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