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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
6章

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13

 家に帰って電気をつけても誰もいない。

 夫も娘も義理両親の家だ。


 帰ると1人ぼっちで話相手すらいない。


 今日は娘の担任が店までやってきて嫌みや喧嘩売ってきたからムカついて仕方ない。

 挙げ句のは手には娘に嫌がらせしてるとか意味分かんない! ま、娘地味だからいじめられるのは仕方ないね。


 母親のゆいちゃんでもムカつくから。


 しかも昔のこと暴露しやがって。そんなのもう終わったことじゃん! いつまで引きずってるか分からない!


 あんたに魅力ないからでしょ! あ、だからわざわざ嫌味言いに来るのね。納得。


 あいつ昔っからうざかった。真面目ちゃん気取りで、そのくせちょっとハイスペの男子と付き合ってた。

 ちょっと《《ちょっかい》》かけただけなのに。それを未だに気にしてるから、子供出来ないんじゃない?


 仕事終えてから帰り時、すぐにメッセージアプリで親友の望海に愚痴った。

 スマホで望海からの返信が来てた。玄関で内容を確認する。


『赤澤先生って、まみりんでしょ? わざわざゆいちゃんとこに来たの? 暇なのかな? 陽鞠ちゃんがまみりんに嫌がらせされるのは意味わかんないね』


『悠真さんと陽鞠ちゃんはどう?』

 

 夫と娘の様子を聞かれたので、全然返事してくれないし、帰ってこない。ゆいちゃん1人じゃ無理!

 このまま離婚なんて嫌! ATMがいないと生きていけない! もう働きたくない! 前みたいな生活したい! 


『まだ分かってないんだ。義理のお母さんが骨折したときも働きたくないと言ってたよね。悠真さんが倒れても、ゆいちゃんは家族のことより、男性と遊ぶことや自分の贅沢しか考えてないんだね。陽鞠ちゃんはゆいちゃんに失望してるの!』


『失った信用を取り戻すのは難しいよ。小手先で2人にアピールしても信じてもらえるとは限らないからね。私はゆいちゃんじゃなくて、悠真さんと陽鞠ちゃんの味方だから。これだけ言っとく。ゆいちゃん、もう顔だけでちやほやされると思ったら大間違いだから。しっかり《《現実》》みて生きて』


 ムカついたので、もういいやと料理に取りかかった。

 レシピアプリとにらめっこしてチャーハンにチャレンジした。

 完成したのを写真に撮って、家族用のグループチャットに送信する。

 夫と娘へ、元に戻るために頑張ってますアピールするためだ。

 でも反応はない。おっとはたまに頑張ってるねと返してくれるが、娘は一切返さない。


 返ってきても、また誰かにやって貰ってるとか、お惣菜でしょと決めつけられるかのようなコメント。

 スーパーでパートを初めて1ヶ月半。


 実家のお手伝いさん達は来なくなった。


『もう結花お嬢様と奥様のわがままにはうんざりなんです』


『悠真様と陽鞠お嬢様が出て行かれた理由、よーくお考えください。私達を使って、悠真様を騙し続けていたことや、過去のこと全てお話しましたので』


『40前で自分のことが全然出来ないわ、自分のこと名前で呼ぶわ、遊んでばっかだわ……いい加減結花お嬢様の行動が、厳しく見られるご年齢であることを自覚してください』


 夫が出て行った日、3人にお願いしたらこのコメント。去年の12月のことだった。


 実家に住んでいる兄がお手伝いさん達に、私の家に頻繁に行くのをやめるようにして、実家の雑用に週3で交代で来るようにしたらしい。兄がそう宣言したから。

 私がお手伝いさん達に連絡しても拒否されている。

 メッセージアプリもブロックされている。


 実家の跡継ぎが自分だと思ってたら、兄になっていた。他のみんな知っていたのがショックだった。

 母以外の家族は私が跡継ぎになると絶対ろくなことにならないから。

 それを理由に兄と姉と父は母に強く説得した。


 母は随分反対していたけど、3人の押しに負けてしまった。他の親族も私より兄の方がいいと。

 兄と父はかなり前から根回ししていたみたい。


 正式に跡継ぎになった兄は、妻を連れて実家に両親と住んでいる。


 ――二度と呉松家の敷居をまたぐな。家族にもそう言ってある。両親だろうとお手伝いさん達だろうが、無断で入れたやつは出て行ってもらう。

  

 少し前に実家に行ったら、鍵が開かなかった。

 合鍵を替えられていた。


 インターホン鳴らして、出てきたのは母と兄嫁だった。天敵が出てきた。

 夫と娘が出て行って、お金がないから助けてほしいと頼んだ。


『ごめんね。りょうちゃんがダメって言ってるから。中へ入れることが出来ないの』


 申し訳なさそうに母は頭をさげた。


『お茶用意してないので、お庭見ていきませんか?』


 兄嫁に連れられて外に出てついて行ったら追い出された。


 なんで追い出すのと寒空の下で懇願した。

 兄嫁は冷めた目で私を見てこういった。


『今までのことが返ってきてるんですよ』


『夫から全部聞きましたよー。因果応報じっくり味わってくださいな。――これ以上あんたの思い通りにさせないから。二度とうちに関わらないでくださる? 私あんたみたいなお行儀悪い人大っ嫌いなの』


 にこにこしながら追い詰めるように話す兄嫁に全身鳥肌が立って逃げた。    


 それ以来実家に帰りたくても帰れない状況。


 ――あんたがやってきたこと今返ってきてるの。これからもずっと。


 今日スーパーで会った娘の担任から言われた一言。


 最近周りが口を揃えて私に因果応報や自業自得の言葉を突きつけてくる。


 確かに過去に娘の担任の彼氏と付き合ったし、同級生の大事な杖にいたずらした。


 当時は特に学校やめるとか、転校するとかの状況にならなかったから、気にしてなかった。


 浮気されるのは魅力ないから、嫌がらせしたくなるタイプだから仕方ないでしょと開き直っていた。

 私が何かやらかしても母がお金で解決してくれるし、世界一可愛い私には、何しても許されると思っていた。


 専業主婦で働かないことを契約と称して、ずっと大卒から、同級生達があくせく働いてるのを高見の見物して、裕福で夫に愛されてるアピールのために調子に乗っていた。


 私に惚れていたから夫を蔑ろにして、やりたい放題していた。

 そのツケが来ている。

 散々働いてるのを馬鹿にしてたのに、今はローカルスーパーのパートのおばちゃんになってるし、夫と娘には愛想つかれて出て行かれてしまった。

 娘は私のかつての同級生達やその娘から嫌がらせされている。

 被害者としては、私がここまで転落してるのが楽しくて仕方ないのかもしれない。

 

 娘が嫌がらせされるのは親の因果は子に報いるからと。

 そんな理由なんておかしい。

 

 パート先では、店長にやめてくれと遠回しにいわれたり、理不尽な因縁つけられたりと。

 毎日惨めだ。これも《《因果応報》》の1つなんだろうか。


 私はどこまで受けないといけないの?


 1人なんて、嫌だ。みんなから見捨てられるのなんて嫌だ。


 ご飯も一人で食べると味気ないし、作ったのを夫にと娘に食べて貰いたい。


 前みたいな生活なんて望むのはだめ?


 このまま孤独死コース? ニュースでやってるような将来が毎日頭に浮かんで仕方ない。


 ごみ屋敷で腐敗した部屋、駅前のタクシーロータリーで冬場に凍死。


 私は世界一可愛いくて、愛されるキャラなんだから。


 ダイニングテーブルに腰を下ろして、チャーハンを一口つけると目からポタポタ落ちる。


 味が分からない。美味しいのかまずいのかも。


 もういやだ! 家族みんな戻ってきて!


 私は頑張ってるんだから!


 寂しさを紛らわせるためにテレビをつける。

 芸能人が自慢の自宅を公開していた。

 今人気のタワマンだ。

 エントランスにはコンシェルジュの人がいて、フランス王宮をイメージしたパルティ。

 家の中は、アイランド式のキッチンや、広々としたリビングや洋室。そしてウォークインクローゼット。

 かなり前に結婚した女優俳優夫婦だ。


 この夫婦が結婚した報道が出たとき、絶対1年で離婚すると思ってたけど、理想の夫婦ランキングでずっと1位になっているぐらいの仲だ。

 子供たちも可愛い子で優秀らしい。


「いいなー、こんなとこに住みたい」


 思わずつぶやく。


 シャレオツなタワマンで、かなり上の階に住む。

 上の階に行けば行くほどランクが高いらしい。


 現実を見る。


 誰も居ない一戸建てのお家。


 庭の手入れも掃除も中途半端だ。今までお手伝いさんに押しつけてたから。


 駅からは少し遠いけど、教育環境はいいので、人気のエリア。レベルが高いことから、有名大学に行く人が多い。


 小中学校も全然荒れていない。勉強熱心で駅前にある古くからある塾にみんな通うのが定番。親子2代で行ってる所もある。

 西南中央せいなんちゅうおう駅の改札口を越えた所にストリートピアノがあるぐらいで、足を止めて聞き入れる人がいる。 

 駅周辺は、酔っ払いやホームレスがいないし、よくネットで出てくる宗教勧誘や政治的なビラ配りをする人なんていない。厳しく決められているから。

 スーパーもうちが経営してるとこと、大手スーパーのチェーン店で来客を競ってる。

 みんな安いスーパーになんだかんだ行きたがるのは分かった。


 たとえ1人で住んでいても、長年住んでる場所だから近所の人やママ友に働いてる情報が回ってる。


 親友の望海から頑張って働いてるのねと連絡が来た。これで情報が広まることの恐ろしさを痛感した。


 もう私の悪行も出回ってるし、娘の現状も、夫との関係も。情報源は望海からだった。


 とにかく惨めでしんどい。私は外堀を埋められている。


 今頃望海もニヤニヤしながら、私の行く末を高見の見物してるのかもしれない。


 スマホの通知音が鳴った。

 ディスプレイを見て思わず心が高鳴る。

 最初に会ったときのような。


『結花? 元気か?』


 うん、なんとかと声がはずむ。

 何で連絡してくれないの、返してくれないのと責めようと思ったけど抑える。


『今週の土曜日空いてる?』


 待ってとスマホアプリでシフトを確認する。


「大丈夫。行けるよ」


『一回陽鞠と俺がそっち戻るから。これからについてね話そうと思うんだ』


「ね、早く戻ってきて!! 今すぐに!」


 その瞬間通話が切れた。


「なんなのよー‼ 身勝手すぎる!」


 スマホを投げつける衝動を抑えて深呼吸した。


 戻ってくるという言葉に赤くなる。


 やっとみんなそろうのね。

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