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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
6章

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11

 3人は休憩スペースに移動して、結花と赤澤が並んで野崎と向き合うように座った。


「2人が呼ぶってことは何かあったんだね」


「品出しの最中に……」


 野崎に話を促され、結花は赤澤とのやりとりを説明した。

野崎の顔がみるみる険しくなる。


「えっと、つまり……依田さんの娘の担任が、たまたま依田さんを見かけて、声かけた。で、尾澤さんにいかに依田さんがだめ人間か話して、クビにするように迫ったってことかな?」


「そんな感じです。あんまりにも酷いので、これ以上やるなら、営業妨害として警察呼ぶことを警告しました」


「その方がいいね。てか学校の先生がそんなことしていいのか……依田さんも、ここでの仕事の愚痴書いてるでしょ?」


 結花の顔がなんで知ってるのと愕然とする。


「人事部長がチェックしてるからね。依田さんのSNS」


 仕事が辛いだ、なんで働かないといけないんだと、ぽつぽつ書いていた。息抜きなのに。


「あのね、依田さんは《《厳しい立場》》なんだ。社長がここで働かせてくれる意味分かってるかい? 変な所で働かれるよりはマシだからだ。《《最後の情け》》。愚痴なんて言ってられる立場じゃない。依田さんのSNS見て、保護者とか同級生とか見て広まったんだろう」


 野崎は大きなため息をついて「他の仕事あるから戻っていい?」と立ち上がる。


「店長! ほっとけって言うんですか?! また来る可能性あるんですよ?」


 尾澤がまなじりを釣り上げて迫る。


「だって警告したんでしょ? ならいいじゃん。それ以上何をしろと? こんな人がいるのは事実だし。言われても仕方ないのでは? 依田さんは《《因果応報》》でしょ」


 野崎は立ち上がってもう他の仕事あるからと、出て行ってしまった。

 結花と尾澤が店長と追いかけても、野崎は作業員スペースに腰を下ろして、無視を決める。


「店長、それは言い過ぎです! やめてください」


「そうですよ。依田さんは受け入れて頑張ってるんですから」


 それでも野崎は他人のフリをして作業を続ける。


 尾澤が来てから野崎は結花と関わっていない。

 最低限の挨拶や業務情報は話すが、他のスタッフに比べて冷たい。まるで突き放すような、関わりたくないと言わんばかりに心を閉じる。

 野崎としては、こんな癖のある社長の身内を尾澤に押し付けて、自分の仕事に向き合いたかった。

結花の最初の態度でないわーと思っていた。

 社長である悠真に恨みというか、負の感情を持つようになった。


 陽貴とは長年苦楽を共にしてきた仲だ。しかし、最近はこんな癖のある身内を押し付けやがってと、悠真に対する同じ感情を持つようになった。

 陽貴と悠真に結花の勤務態度の悪さをひたすら送り続けている。些細なことでもだ。

 たとえ、尾澤が頑張ってると言っても、あれこれできてないと愚痴る。


 最初は尾澤の厳しさで結花が自滅しますようにと思っていたが、意外と上手くやっていた。

 トラブルメーカーがこの数週間であんなに上手くいくわけないし、根っこは変わらないと思っている。

 今もどこかで結花が、何かしでかしてくれないかなと願っている。

 そうだと、あいつはここで働くの無理と捨てられるのに。


「あのねー。君は色々やらかした人なんだから! 強く言われるのは仕方ないでしょ? 《《被害者》》でいようなんて烏滸おこがましい。それでお客様と揉めるなら、いらないんだけど」


 野崎は結花に冷たく切り捨てる。

 結花は顔色を失って言葉がでない。

 

 いらないと言われた。ここに? 

 

 他人からここまで突き放されたことなんてある?


 これも私に対する《《因果応報》》なの?


 因果応報なら私は何言われても、されても仕方ないということ? 


 ――お前が今までやってきたことが返ってきてるんだよ。

 

 耳の奥まで届く誰だか分からない囁き。


「よ、依田さんは以前より少しずつ頑張ってますし、もう少し様子見させてください。それに彼女の担任がやったことは営業妨害ですよ? 勤め先の学校に連絡した方がいいのでは」


 学校の先生が生徒の親の勤め先にわざわざ来て、親は過去にこんなことやらかしてました、絶対なにかやらかしますよと大きい声で言ってくるのは、どれだけ暇なんだろうと。

 やめさせるかどうかなんて、こっちが決めることで、余計なお世話というものだ。


「悪いけど、いくら依田さんが頑張ろうとも信用できない。過去に浮気や同級生いじめてた人が、やり直そうとしているのを褒めたり、反省してますなんて信用できない。真面目な人は評価されないんだから。被害者としてはムカつく」


「いいか? 最初の印象が悪かった人が良い方向に変わることなんてまずない。調子に乗るな」


 野崎はあごを引いてあざ笑う。


 この目の前にいる店長も私の不幸を願っている。


 それは最初の態度が悪かったからだ。


 確かにここで働くのも、おばちゃん達と混じってやるのが屈辱だった。


 男性スタッフ達に私のぶりっこが通用しないこともよく分かった。


 尾澤さんが来てから、同性のスタッフから褒められる機会が増えた。休憩時に話しかけてもらえる人が増えた。


 手つきが早くなった、品だしに出していいと言われた。言葉が丁寧になった。


 お客さんを引き込むのが上手。ポップが可愛いとか。


 見た目以外褒められたことがなかった。


 ――ゆいちゃんは可愛いから何もやらなくていいのよ。男の人に養ってもらって生きていくのが一番よ。


 子供の頃から母に言われてきた言葉。


 文字通りに受け取って生きていた。可愛いからなんでも思い通りにやってきたのは、周りが気を遣ってた結果によるもの。


 それに気づかず開き直ってきた。ただ、もう見た目が通用しない年で、シビアになってきたことに最近気づいた。


 店長や尾澤さんの言うとおり中身のない見た目だけ人間だった。


 尾澤さんはそうならないように、私に根気よく向かい合ってくれた。


 言葉遣い、スタッフ達とのつきあい方、店長のトリセツ、店舗や会社の現状、お店の商品がどの時間帯で、季節の狙い目など。あとは、家事のやり方。

これは尾澤さん以外にパートのおばちゃん達にも教えて貰った。

 

 出来たらきちんと褒めてくれる。それだけでも嬉しい。


 店長はいつも怒ってばっかで冷たい。


 いつ話しかけても。他のスタッフと話してても、私になった瞬間、まるで虫が来たかのようにあしらう。


 勤務時間や出来ることを増やしたいと申し出た時もそうだ。人がいないと尾澤さんが言っていたから。


 ――依田さんは大変だからいいよー。


 しかし裏でほかのスタッフと話してるのを聞いた。


『ちょっと褒められたからって、なんか勘違いしてんじゃね? 仕事増やすにしても、あんな《《おばさん》》にかき回されたら最悪だよ。最近尾澤に褒められてるのと、うちのSNSでバズったから調子に乗ってる。へし折ってやる』


『依田兄弟やめてくんないかなー。あのおばさん追い出せるし』


 陰で店長が私をやめさせたいことを言っていた。


 だからきついんだと確信した。最初の態度が悪いのは《《建前》》。


「おっ、お得意の泣きモードか? ここでは《《お前のお気持ち》》なんか通用しないぞー」


 ニヤニヤしながら煽る野崎に対して「そこまで追い詰める必要ないですよね。もう結構です。依田さん面談スペース行きましょ」と尾澤がピシャリと言い放って、向かった。


 一部始終を見てた人達は、2人を見るなり持ち場へ戻った。

 

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