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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
6章

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10

ローカルスーパーよだ・明王寺店は昼の買い物客で賑わう。

 バレンタインデーからひなあられが段ボールいっぱいに陳列されている。

 

 有人レジには長い列ができていて、担当が手早くお客を捌いていく。

 セルフレジでも操作エラーが出たり、慣れてない人がもたついて並んでる人が早くしろと圧力をかける。

 

 結花は教育係の尾澤がいるときだけ、商品の陳列に出れるようになった。

 

 今日の目玉商品は個装された小松菜2本入り150円。

 

 ダンボールに詰められた小松菜を陳列していく結花。

 隣で尾澤が丁寧に置けてるじゃんとか、そうそうその調子と声かける。

 結花は言われて嬉しいのかテキパキとこなす。

 

 ――彼女は《《容姿以外で》》褒められることがなかったのでは? むしろそれ以外は苦手で怒られたり、叱られたりすることが多かった、または見てもらえなかった、教えてもらう機会がなかった。出来て当然みたいな環境にいたからこそ。


 尾澤が結花と一緒にいて出た結論だ。

 結花は最初尾澤に反発していた。男性と思ったら女性だった。同性から言われるのが嫌な結花にとっては、かなりダメージを食らった。

 言葉遣いや態度に注意され続けていたが、ここ最近は多少改善した。

 通勤用の服はともかく、スタッフ達にですます調で話せるようになったのは大きな進歩だ。

 

 尾澤は出来てたらどこができている、あれこれしたらもっとよくなると指摘するタイプだ。

 言葉遣いもどうやって覚えたらいいか分からない、何が常識なのか自信がない、悪いところを改善するにも、どうしたらいいか分からなかったと結花は言っていた。

 

 尾澤はここまでやらないといけないのかと思いつつも、根気よく結花の苦手な所に向き合った。

 最初から人に丸投げせず、分からないことは誰かに聞く、または、自分のスマホで調べる癖をつける。

 

 スタッフ達とも多少他人行儀ぐらいが丁度いい。

 特に若い子はプライベートに踏み入れられるのを嫌がる子が多いから、なおさら。

 一歩間違えればハラスメントになる時代であることを意識する。


 挨拶は目が合えば会釈か声出すこと。地位や好き嫌いで態度変えると同性から反発来るのは当然である。

 これだけで幼さがだいぶ消える。


「いらっしゃいませー、小松菜超お得ですよー! 卵とニラで炒めるのおすすめです!」


 結花の挨拶が買い物客に注目させる。

 元々顔がいい結花はそこを利用して買い物客に手に取ってもらう作戦にした。


「ゆいちゃん今のいい! その調子ね!」


 負けじと尾澤も小松菜を使った料理をアピールする。


「あらー、呉松結花さーん、こんなとこで働いてるんですねぇ」


 しばらくするとを小松菜を陳列していた結花に声をかけてきた人――その瞬間、結花の顔が強ばった。視線を下ろす。


「誰? あの人?」


 尾澤に耳打ちして「娘の担任です」と教えた。


「《《呉松》》……ゴホン、依田結花さんが働いてるって聞いたもんだから、本当かどうかこの目で確かめに来たんです」


 わざと旧姓で呼ぶ赤澤あかざわに結花は無視をして、作業を続ける。


「散々働いてる私をバカにしてたけど、まさか《《依田さんが働く》》とは思わなかったー。あれだけ働くの嫌がってたのにね。惨めになったもんだねぇ。何があったの? 《《因果応報》》ね。《《中学時代の罰》》が当たったのね。まあ、それで娘さんは学校でいじめられてるもんね」


 口角を上げる赤澤。その姿を楽しんでいるようだった。

 結花は作業をしつつも、赤澤からの言葉に言い返そうと頭の中で罵倒していた。


 なんなの! いつまでも昔のこと引き合いにして!


「む、娘は関係ないでしょ‼ なんなの⁈ 辛く当たって良い理由になるの?」

「そりゃ《《親の因果は子に報いる》》って言うからね。残当ざんとうでしょ? 吹部の子が代わりにあなたの娘に嫌がらせしてくれるから、助かるわー。私が担任で辛く当たられるし、彼女は逃げ道ないからね。家庭訪問で依田さんが失礼なこと言ってくれたからね。《《天罰》》じゃない?」


 得意げに天罰だとか、娘がいじめられるのは仕方ないと言われて、結花は歯を食いしばる。

 これも因果応報なの? 私が過去に色々やらかしたから、それを正当化して娘がいじめられる。


「もうやめて!! 今関係……」


 ないでしょと耳を塞ぐ結花に、尾澤が赤澤を止める。


「――申し訳ないですが、これ以上うちのスタッフを侮辱するなら、出て行ってもらいますよ?」


 低い声での牽制が結花の耳につく。


「あら? あなたここのスタッフ? なら教えときます。この人過去によその男寝取ったり、足の悪い同級生の杖投げ捨てたり、病気の夫放置して男と遊んだり、問題の多い人ですよ? こんな人入れて大丈夫ですか? クビにした方が良いんじゃない?」


 結花を指差し、早口でニチャニチャしながら、いかにだめな人かをベラベラ喋る。

 尾澤は赤澤の話を黙ってうんうんと傾聴するだけだ。


「貴重な意見ありがとうございます‼ 考えときますね‼」


 元気よく答える尾澤。しかし、赤澤はさらに話を続ける。


「こんな問題児が真面目にやってるなんて、この店もいつか潰れそうね。あ、この人のご主人がここの社長だっけ?」


「まあ、過去にいじめっ子だった人が真面目に働くなんて、あり得ないわ。不祥事待ったなしね。脱税? 盗難? 男女トラブル?」


「まるで彼女が起こすと決めつけてるみたいですね」


 赤澤の話にいらだってきた尾澤はこめかみを掻く。


「そりゃそうよ? 私はこいつの《《被害者》》なんだから。娘見るとこいつの顔がちらついて仕方ない。それに性格なんてもう変わらないんだから、どっかでこのお店もこいつの身勝手さに振り回されるだけよ? 忠告よ」


 赤澤の勝ち誇った笑みは、尾澤の怒りを買った。


「あなたが見てるのは彼女の過去だけ。それで何を知った気になってるんですか? 未来を決めつけてるんですか? 確かに彼女は《《痛いおばさん》》だし、色々やらかした。今それに向き合ってやり直そうとしている。あなたは彼女が不幸になって欲しいと言ってるだけ――彼女の頑張りに水を差すような真似しないでください。大人しくしてくれませんか」


「て、店長、よ、呼んで来なさいよ!」


「店長は私ですが」


 尾澤は低い声で短く返す。


「じ、じゃ、こいつをクビにしなさいよ! お店の評判が下がるから!」


「それは考えときますねー。繰り返し申し上げますが、これ以上うちのスタッフに失礼なことをおっしゃるようなら、営業妨害として警察に通報いたしますよ」


「な、な……」


 赤澤は金魚のように口を開閉して、どこかへ消えていった。

 尾澤の低い声と営業スマイルが効いたようだ。


「ゆいちゃん、大丈夫⁈ 何もされてない?」


 血相を変えて尾澤は、結花を抱きしめるかのようにボディーチェックする。

 結花はうんとこっくり頷く。


「あーっ、ゆいちゃん、顔赤くなってるー! もしかして私に惚れた?」


 調子いい口調でからかう尾澤に結花の顔はさらに赤くなる。


「だ、だって、かっこよかったから……ありがとうございます!!」


 赤澤にあんなにいわれてもするすると言い返してたし、黙らせてたから。


「ちゃんとお礼言えたじゃん! その調子!」


 えへへとさらに口角が上がった結花。


「でも、店長って野崎さんじゃ……」


「半分ほんとで半分嘘。私、店長代理だから。一応各店舗そういう人がいるよ。店長がいないときに同じ権限持ってる人みたいな? この状況で私が店長っていったほうが効果ありそうと思った」


 結花はああ、その手があったかと納得した。

 尾澤さんが店長って言ったらどうリアクションするか見れるということね。


 尾澤はスマートウォッチを確認して、そろそろ休憩行こうと結花を促した。

 休憩室に戻りながら結花は尾澤が高校時代女子にモテたか話す。中には付き合ってくださいとしつこいぐらい手紙やメッセージを貰ったと。


「今年もバレンタインで、女子スタッフから20個貰ってねー。夫より貰ってるね」


「旦那さんより貰ってるんですか⁈ そりゃそうですよー! 旦那さんどんな人ですか?」


 結花は目を輝かせる。やっぱりこういう話が好き。


「それは、休憩のお楽しみー! さっきの件店長に報告しとこう」


 休憩室に戻るとパソコンとにらめっこしている野崎がいた。スタッフは3人ほど。スマホ触ってる人、寝てる人、弁当を食べてる人。


「店長、少しお話があります。お時間よろしいですか? できれば個室で」


 尾澤の呼びかけにゆっくり顔を上げる。


「一体何があったの? 依田さんが神妙な顔してるし。分かった行くよ」

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