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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
6章

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3

  結花は休憩中意気消沈していた。


 ――依田さんは、今日の午後からしばらく現場に入れさせない。


 遠回しの戦力外通告をされた。


 どうしよう、これじゃ、安田ちゃんとか相川くんとか、会えないじゃない!

 勢いよく菓子パンにかじりついて、スマホをいじっていた。


 ゆいちゃん、また怒られたぁ(T-T)

 しかもおばさんって言われたよ! 失礼しちゃう!

 あいつなんなの! 見た目はかっこよかったけどね。

 もういやだ。一部除いてみーんな意地悪してくるし! やめたいんだけど!

 しかも現場入るなって。何するの?!


 SNSで尾澤とのやりとりの様子を投稿して、信者に慰めてもらおうとする。


 しかし最近は結花に対して厳しいコメントが並ぶようになった。


 それは言われても仕方ないとか、頑張ってほしいとか、残当(残念ながら当然)と煽るコメント。


 信者の他に野次馬が増えた。


 実際、結花のSNSは一部のネットで"痛いオバさんの投稿をニラヲチするスレ"でURLや投稿が載せられている――つまり珍獣扱いされている。


 陰で見ず知らずの人間に、面白がられている。


 そしてそこで結花は"ゆい姫"と呼ばれている。

 この手のスレの掟は、対象に直接嫌がらせしない、突撃しないという暗黙の了解がある。そうすると、ターゲットが消えてしまうからだ。


 当然本人は知らないが、夫の悠真と義兄の陽貴は知っている。

 結花のSNSの状況をチェックしているからだ。

 

 陽貴は「彼女は高確率で職場の業務情報流す可能性あるから見張る」という理由でこっそり覗いている。

 

 他に検索したら、結花がネットで"痛いオバさん"扱いされていたことを知った。

 勝手にネットのおもちゃにされていることを結花に黙っているつもりである。その方が本人にとって幸せだろうと。


「ゆいちゃんが入れないのはさみしいですー」


 隣に座っていた安田が結花にもたれつく。


「そうよ! ゆいちゃんも!」


「一体何するんでしょうね? 尾澤さんマジ厳しいからね。あれはひどすぎますよー。オバさんなんて失礼じゃん。あの人も大概でしょ」


「えっ、そうなの?」


「そうです。確か38歳です。見た感じ若く見えますからね。分からないでしょうけど、オバさんの部類ですよ!」


「まって、オバさんって、あの人女性なの?!」


 結花は勢いよく机を叩く。


「そーでーす。私も最初男の人だと思ったんです。ほら、背が高いし、髪も短いし、凜々しい顔つきだから……なんというか、男役が似合う人? 女子校行ったら絶対モテます。中高大と女子校の私が言うんですから、間違いありません!」


 尾澤を力説する安田に結花は驚きを隠せなかった。


 えー、私ずっと女の人格好いいって言ってたの!?

 

 めっちゃ恥ずかしい! 私、大っ嫌いなのに。前に「私をよいしょしてくれる同性以外」がつくけど。

 

 人間なんて私の取り巻き以外いらない。

 

 くっそ、ババアにずっとやいのやいの言われてたのか。しかも年の近いやつに!

 

 今度オバさんって言われたら言い返してやるんだから!


 鼻息荒くなる結花に安田は「どうしたんですか?」と首をかしげる。


「今度嫌み言ってきたら、夫に頼んでつぶしてもーらお!」


 悪い笑みがこぼれ出る。そうよ、私は社長の妻ですもの。多少は目をつぶってくれるよね?


「ゆいちゃん、尾澤さんに逆らおうとか、言い返そうとか考えるのはやめた方がいいですよ。あの人マジ容赦ないことで社内で有名なんです。新人研修で毎回泣いてる人が数人出てきてますから。さっきみたいに、相手の弱点つくような言い方するんで」


 安田の話に午前中のやりとりを思い出して「ゆいおばさんとかひどいよぉー」と駄々をこねる。

 かなり大きめな声なので休憩室に響く。

 他に休憩しているスタッフは「またあいつ泣いてるよ」と冷めた視線を向ける。


 結花が職場で泣く姿や拗ねるは日常茶飯事となってしまった。

 最初は農産スタッフ達や他の部門のスタッフ達が慰めたり、ご機嫌を取っていたが、最近は結花の取り巻き以外やらなくなった。

 しかもだいたい休憩時間にやる。

 

 他の休憩しているスタッフとしては、次の仕事に向けて英気を養いたいのに、不機嫌オーラ出すわ、休憩中に泣き出すわで、雰囲気が悪くなる。

 しかも甲高い声だから嫌でも聞こえる訳だ。


 最初にちやほやしたり、慰めたり、気を遣ってた人達も、徐々に結花の勤務態度やトラブっている様子を見たり聞いたりするようになった。

 だから最近は「また依田さんがなにかやらかして、言われたんだろう」と冷ややかである。


「尾澤さんの言うとおり、ゆいちゃんの立場はちょっと危ないかもしれません。場合によっては、クビ……」


 クビという単語に結花は「え、どうして?」と聞き返す。

 安田は声を潜めて「ぶっちゃけ、ゆいちゃんの評判は厳しいですよ。いい年して幼いって口そろえて言ってますよ。スタッフ達。ほら、今やってるドラマの主人公をリアルにした感じ」と教えてくれた。


 他の部門まで評判悪いことになっていた。


 どうして? 私は可愛いのよ? みんなに愛される、ゆいちゃんなんだよ?! なんでそんなに冷たいの?


 ――中身が幼い。そんなのどうしろと?


 この午前中だけで、尾澤に散々現実を突きつけられた。


 なんで、私はこんなに言われないといけないの?


 可愛いから許してくれないの?


「今やってるドラマの主人公ってどういうこと?」


「ほら、去年のあさ放送してた作品ですよ。うちの祖母も見てるんですが、他のキャラいいけど、主人公嫌いって言ってました。ネットでも似たような意見多かったんですよね」


 結花は「あー、あの作品ね」と手をうつ。


 毎朝15分ぐらいで半年にかけて放送されている。


 主人公が女性初の市長を目指すというものだ。

 

 高校生編まではよかったが、社会人編から、色々な男性と関係を持ち、職場では不平不満ばかり、家では姑といつも喧嘩していて、視聴者から評判がよくなかった。

 政治に今まで関心がなかったのに、いきなり市長目指すと宣言して、未熟さと無知で振り回される関係者達。

 市長になれたのは、愛嬌の良さと実家の太さだけ。

 

 就任しても無知であることがぼろぼろ出て、視聴者から「成長しないヒロイン」と揶揄された。

 放送終了3ヶ月前から「早くこの作品終わってくれ」のコメントや、出演者に対する誹謗中傷が向けられた。


「えー、あんなのと一緒にしないで!」


 いや、割と似てるじゃんと安田は言いそうになったが、これ以上言うと追い詰められるだけだろうと諦めた。


 ――結花に向けられる世間の厳しさは、まだ序の口だった。

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