1
月曜の朝礼からバックヤードは緊張感に包まれていた。
まるで何も話すなというような圧力。
細身で背が高く、髪はスポーツ刈り、シャープな顔立ち大きく開いた目はまるで威圧するかのよう。男性ではなく女性だ。
「今日からこちらのヘルプで来てくださった尾澤万希さんです」
野崎は「一言どうぞ」と促す。
「どうも、みなさんおはようございます! 久しぶりにここに来たんで、忘れてるところあると思いますが、みなさんお手柔らかにお願いします!」
尾澤が声は低めだが、明朗快活に挨拶をした後、スタッフ達は大きな拍手で包まれる。
結花は尾澤の顔を見て「あらイケメン」と少し顔が赤くなる。
うんうん、私のタイプね。背丈よし、顔よし、声もいいわ。あいつとは大違いね。
どこの部門に入るの? 後で連絡先交換してもーらお!
にやついた顔で尾澤に視線を送る結花は、野崎が業務連絡していても、全くメモを取らずだった。
「おーい、そこのあなたー! 真ん中の小柄の人!」
業務連絡の最中に尾崎の低い声が響く。
スタッフ達の視線は結花に集まる。
「え? なに? 私?」
キョロキョロ見回す結花に尾澤は「そうだよ。キミだよ」と続ける。
野崎は尾澤に反応して業務連絡を止める。
「あのさー、今、野崎店長がお話してる最中じゃん? メモ取らないの? それとも記憶力自慢系? じゃぁ、さっき言った内容、一語一句間違えずに言える?」
業務連絡? 何それ。あのハゲの話なんてどうでもいいんだけど。それより私はあなたの個人的な連絡先とか、好きなタイプ聞きたいんだけど!
下にうつむいてメモ帳を開く。
スタッフの名前やプロフィールがメモされている。
彼女や妻子の有無、好きなタイプや家族構成、職業など、見た目を100点満点で評価しているもの、業務に一切関係ないことばかりだ。
ペラペラとページをめくって、思い出す限り書き留めるが、出てこない。
尾澤は結花のところにやってきて「ちょっと見せてくれるかーい?」とメモ帳を取り上げる。
内容を見て尾澤は「……後でお話あるから。名前は? 依田結花さんね!」と呟いた。
距離が近い! いやー、声がいいから心臓跳ね上がる! 顔近づけて!
「依田さん、じゃ朝礼終わったらね。野崎店長は今、今日のタイムセールの商品を話しているから、なにが目玉か忘れずに書いてね」
「は、はい……」
強く怒られるかと思ったら軽いノリ言われたものだから、結花は呆気にとられる。
尾澤の一声で結花は言われた通りのことをメモした。




