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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
5章

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6

農産部門は太刀川、小野田、塩浦の3人と高校生バイトの男性1人がせっせと手を動かしていた。

 

 あれ、あの男の子――朝礼で目をつけた子!


 よっしゃぁ! これで多少やる気でた!


 彼女いるのかな? いなかったらからかってあげよう。


「みなさーん! 手をとめてー」


 福島が手を叩いて作業中断を呼びかける。

 作業していたメンバーは振り向いて、福島に視線を向けた。


「今日から入る、依田結花さんです。皆さんよろしくお願いします」


 ほら頭下げて挨拶してくださいと促され、結花は「よろしくお願いします」と少しテンション高めに挨拶した。


「あらー、ゆいちゃん! ここだったんだ!」


「よかったー。若い女の子増えて」


「ね、相川あいかわくん、ほら若い子きたわよ!」


 声が高くなるおばちゃん3人衆に対し、相川は少し警戒気味で目線をそらす。


 あぁ、このスポーツ刈りの子は相川くんていうのか。あとで名前聞いてみよっ!


「よ、よろしくお願いします」


 相川はぎこちなく一言挨拶しただけで、視線を福島に向ける。


「ほんとゆいちゃんが来てくれてよかったわぁー」


「そうそう」


「ね、今から教えていい?」


 おばちゃん3人衆が目を輝かせて福島にアピールする。

 その姿は可愛い孫を目にしたおばあちゃんの図だった。


「いえ、あなた達は持ち場に。私はこれから説明いたしますので。皆さんお時間頂きありがとうございました」


 おばちゃん3人衆はなーんだととぼとぼ持ち場に向かうのに対し、相川はそそくさと戻った。


「ずいぶん可愛がられているんですね」


「ええ。私は世界一可愛いから、おばちゃんにモテるのよ」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべる結花に、福島はそうですかと短く返した。


「おそらくしばらくの間勤務時間は彼女達と一緒になるでしょう」


「え、相川くんは?」


「彼は高校生なので、学校が始まり次第、通常勤務に戻ってもらいます。今は冬休みなので」


 そ、そんなぁ。ってことは、平日に会えない可能性あるってこと?! それは嫌だ。でも、変則スケジュールはきついし……。


「ね、相川くんと一緒は無理?!」


「あなたの出来次第です。ということで、野菜の袋詰めの様子を見てみましょう」


「買い物客が混む時間帯はご存じですか?」


 いきなりのクイズに結花は「そんなの知らないわよ」と返す。


「10時から11時、そして16時から17時。だからそのあたりを狙って、できたてを提供するのです。刺身と惣菜も同様です」


 そういえば、いつも行ってるスーパーもそうだ。


 だいたいこの時間帯から買い物客のレジが並ぶ。


 結花は思い出したのか「そうなんだね」と素直に返した。


 福島は一瞬面食らった。


 さっきまで態度反発的だったのに。何があったか知らないが。なんなんだろうか。

 店長曰く、相川を狙ってる可能性が高いから、彼とほかの女性スタッフの態度に気をつけろと言っていた。

 確かにそのそぶりはある。

 質問が彼の勤務時間と業務に関係ない内容だ。

 午前中も店長にプライベートなことを質問して大目玉を食らったらしいが、これは思った以上に面倒なやつだ。


「じゃぁ、皆さんの様子見ていきましょう。必ずメモするように。後でマニュアルお渡しします」


「はい、分かりました。――今作ってるのは?」


 相川と塩浦がせっせと袋から取り出している。


「あぁ、これは……さつまいもの袋を詰めてるんですよ。今の時期旬ですからね。ここは果物や野菜の袋詰めや、品だし、19時過ぎたら、値引きシールを貼るんです」


「はぁ……そういう仕事があるんだね……」


 結花は野菜は実家や知り合いから無農薬を送ってくれるので、スーパーで買う機会が少ない。

 とはいえ、料理するのは娘の陽鞠か夫の悠真か実家のお手伝いさん達だったが。


「ここは地域でも安くできるだけ高品質を目指しています。だから極端にひどい野菜や果物が来ることはないんです。ちなみにここの商品は、社員割引で買うことが出来ます」


 社員割引という単語に反応する結花はちょっとラッキーだと心躍る。


 お金が少ないし、カードは使えなくなった。


 しかし月1回悠真が10万の生活費を送るということで、なんとかするように努力する。

 スーパーの惣菜はあんまり買ったことがないので、これを機に食べてみようか。


「で、太刀川さんと小野田さんがやっているのはみかんの袋詰めですね。今の時期必須アイテムですから。で、段ボールからだしてだいたい5個ぐらいに袋詰めするんです」


 ピーク時に合わせて準備しているのだろう。


「じゃあ、みかんの袋詰めやってみますか」


 太刀川と小野田は手慣れた様子なのか、手際よく詰めていく。

 結花も福島にやり方を教わるが……。


 なにこれ? どうやってやるの?! 全然上手く封できないんだけど!


 うまく詰められないのか、みかんを入れた袋が破ける。


「ゆいちゃん、入れすぎよー! じゃあ、わあしと交代して。みかん取り出してくれる? 5個ずつね!」


 適当にみかんを入れていくが、福島に適当に入れるんじゃなくて、状態を見て欲しいと言われる。


 お腹に入ればいいじゃない。こんなの。

 どうせやすもんでしょ?


 福島に言われるのが嫌なのか、結花のみかんを取る手が乱暴になっていく。


「依田さん、雑に扱わないで下さい。物に当たらないで下さい」


「なんであんたみたいなオバサンに言われないといけないの?! やってるからいいでしょ?!」


 結花の甲高い声が響く。

 離れて作業していた相川は結花に一瞬視線を向ける。それは冷めた目、軽蔑の視線だった。


「あんた呼ばわりしないでください。ほら、他の人も見てるでしょう」


 福島は店長が表に出すのは避けた方がいいと言っていた理由がわかった。


 甲高い声が響く。しかも耳をつん裂くような声。

 昔友達で親がヒステリックでつらいと言っていたが、多分こんな感じなんだろう。確かに嫌だ。耳が疲れる。


「あんたさっきからなんなの? 勤務歴長いから偉いの? いくつか知らないけどさ、私は呉松家のお嬢様で、社長の妻よ! 敬いなさいよ!」


 手に腰を当てて福島に指差す。


「年は関係ないでしょう。依田さんは新人でしょう。入った方が先の人が先輩です」


 そんなことも分からないのかと言いたい衝動を抑える。この人は働いたことがないと聞いたから。


 絶対この人部活に入ったことなさそうだ。


 入っても先輩と喧嘩してそうね。


 確かに入った年や生まれた年が1つ違うからと、偉そうにされるのは嫌だという気持ちは分からなくもないが、それもだんだん気にしなくなるものだと思う。


「なら、言動と態度で示してください。無条件で敬ってもらえると思ってたら大間違いです。真面目に仕事してください。ほら、もう1回教えますので」


 福島は内心あきれつつも顔に出さないよう、深呼吸をする。

 その後福島、小野田、太刀川達のフォローと指導のおかげで、時間かかるものの、一通り出来るようになった。


「おおっ! すごい! ゆいっちゃん!」


「商品は丁寧に扱ってねー!」


「その調子です。次はスピードアップを目指しましょう!」


 結花は女性達に褒められて「当然よ」と鼻息荒くする。


 なんでオバサンにこんなとやかく言われないといけないの? まじ屈辱すぎる。


「あとは塩浦さん達の手伝いをしましょう。時間が空いたら他の人の手伝いもするように心がけてください」


「わ、わかった……」


「『分かった』じゃなくて『分かりました」です」


「分かりました」


 些細な言い回しでも言い直しをさせられることに、結花は苛立っていた。

 相川と塩浦はなれた手つきで流れ作業のように袋詰めしていく。


「塩浦さん、こちらの袋詰めも教えたいので、一緒にいていいですか?」


「いいわよー。ゆいちゃん、やってみよう」


 結花は塩浦と福島に挟まれる形で教わる。

 あえて女性の間に挟まってやってもらうように野崎から言われているからだ。極力男性の近くでやらせない。

 要領はみかんと同じだが、今度は2個ずつだ。


「じゃぁ、袋詰めされたものを段ボールにいれていきます」

 さつまいもとみかんとそれぞれ段ボールに仕分けして台車に積んでいく。

 

 段ボールが積まれた台車を福島が押していくのを、結花もついて行くように言われた。一緒に塩浦も来る。

 店内は開店したばかりで人がまばらだ。

 レジも11台あるうち5台は通常タイプだが、1台しか開いていない。あと6台はセルフレジだ。そこは立ち入らないように仕切りが敷かれている。


「依田さん、段ボールに入れたさつまいもをこちらに置いていってください。この時期買うかた多いので、できるだけたくさん置いてください」

 

 福島と塩浦のやりかたを真似ながら、結花もおいていく。


「もう少しスピードあげてください。あと、商品が落ちないように置き方も考えてください」


 そんなこといわれてもー! やったことないもん!


 なんか疲れた。もう家帰りたい。働きたくない!


 さつまいもを終えると今度はみかんだ。

 おなじく積まれたものを中から取りだしせっせと陳列していく。


「段ボール持てそうですか?」


 みかんが積まれた段ボールを下ろすよう指示されたが、結花は「むりでーす。箸より重い物もったことありませーん」とすぐに音をあげる。

 福島と塩浦は顔を見合わせて目を丸くする。

 こんな単語本当に言う人いるんだと呆れ通り越して感動する。


「これからこの仕事する以上、段ボール持てませんから下ろさないは通用しないよ。確かに重いけど。私が手伝うから」


 塩浦が後ろもってと2人体制で抱えるようにお願いしたらなんとかいった。

 結花はあー腰痛い、座りたいと腰をトントン叩く。


「呉松家のお嬢様にこんな力仕事させるなんて失礼よ! どんな教育してるの?! 夫に言いつけるわよ!」


 福島は「それはこっちのセリフだ」と言いたいのをこらえて「まだ慣れてないんですね。これからゆっくりやっていきましょう。私も最初そんな感じでよくパートさんに怒られてました」と失敗談に話題を変えた。


「そうなの? だってそんな風に見えないから……」


「私は昔から多少体力に自信があると思ってたんですけど、意外と腰に来たり、腕痛めたりとありましたから。だから、定期的に整体やマッサージに行ってるんです」


「はー、そうなのね。そうだ、いいとこ紹介しようか? 私の名前出せば安くなるし」


「いや、今行ってるとこが気に入ってるんで大丈夫です」


 多分いいところなんだろうけど、紹介されても高いだろうなぁと暗澹した気持ちになる。


 持ち場に戻ってきた後、結花は「相川くーん、品だし? 一緒について行っていい?」と声をかける。

「いや、相川さんは太刀川さんと一緒に行ってもらいます。私達は、他の仕事をします。ここの掃除と段ボールの整理整頓です」


 結花は口先をとがらせて「えー、相川くんとこにいきたーい」とごねる。


「また別の機会にやるので。今日は私と一緒ですから!」

 

 相川が狙われるのも時間の問題だ。

 

 彼が来るのは明日と明後日。新学期始まったら顔を合わせる機会はなくなるだろう。

 

 あの感じだと、若い男性スタッフ達が餌食になりそうだ。


 シフトをよく考えないとまずいかもしれない。


「ね、ゆいちゃん、私と一緒にやりましょ。かっこいい福島さんもいらっしゃるし」


 塩浦になだめられてしぶしぶ2人で開封した段ボールをまとめていく。


「そろそろ多くなりましたので、捨てに行きましょう」


 段ボールはたたんでカートに置いていくきまりだ。

 まとまったら、外のゴミ捨て場に持って行く。

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