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11時頃になると買い物客が賑わう、
店内は流行りの曲がけたたましく流れたかと思いきや、スタッフを業務の呼び出しのアナウンスが流れたりと、やかましい。
せっせとカートや籠を片付ける人、ピークに合わせてレジ打ちに入る人……。
結花は普段いくお店とは違うジャンルということもあり、顔をしかめていた。
「ここが、鮮魚コーナ……駐車場側に近いドアのあたりに、野菜があるでしょ……それから……」
野崎の話を上の空で聞く結花は、男性スタッフに好みがいないか狙いを定めるが今の所いない。
先程目をつけていた男子高校生の姿がない。
内心舌打ちしながら、野崎の後ろについていく。
それそろ12時近いし、かえっていいよね?
「依田さん、何かご質問ありますか?」
惣菜コーナーで足を止めた野崎。いきなり質問されて、結花は「あの、野崎さんって既婚者ですか? 彼女いない人っていますか」と尋ねる。
「……今は関係ないことですし、お答えする義理はございません。プライベートのことをいきなり聞くのは失礼でしょう。先程も人事部長に言われたでしょう」
期待はずれと言わんばかりにやれやれとため息つく。
「なによ。質問ぐらい答えてよ。ハゲの癖にキッショ!」
「業務のことならともかく、今はそういう話をする関係でもないでしょう。見た目を直接貶すのは失礼じゃないですか?」
見た目のことを言われ、野崎は呼吸を整える。
なんなんだ、この人。
お嬢様育ちって聞いてたけど、ほんとどこがだよ。
成金の間違いじゃないか?
いつだったかネットで、お上品な貶し方みたいな内容が話題になっていたが、遠回し過ぎて分からなかった。あれとは正反対。火の玉ストレートすぎる。
結花はフンとそっぽ向いて「なんなのよ、ケチっ!」とアピールする。
今時そういうこといきなり聞いてはいけないって、教わってないんだろうな。下手するとセクハラ案件だよ。
色々な意味で時代に取り残されたのかもしれない。
ニュース見ないって言ってたしなぁ。
野崎の内心のぼやきは胸の内にしまう。
一通り場所を案内した頃には休憩タイムだった。
「では、こちらまた書類の手続きと勤務のルールに関する話をいたします」
「はーい」
面談スペースに2人きりで今後の勤務予定や、どういった人が働いているかや、職場のルールを説明を受けた。
「では、次は水曜日なので、遅れずに来てください」
野崎の話を無視して結花は退出しようとするが「ここはありがとうございました。よろしくおねがいしますって言ってください」と止められる。
しぶしぶ「ありがとうございました。よろしくおねがいします」と言うが、棒読みでまるで馬鹿にするような言い回しだった。
結花は着替えてからバックヤードに目を向ける。
事務机と椅子が並べられていて、おばちゃん3人と、男性2人だろうか。
おばちゃん達も男性2人も固まって座っている。
結花は当然後者の向かいの席に座って、やっほー、元気? と声をかける。
男性2人はいきなり声をかけられて、顔を見合わせる。
「お、お疲れ様です」
大人の対応をして、スマホとち睨めっこしながら、パンを齧った。
「ね、名前は? 年はいくつ? 彼女いるの?」
矢継ぎ早にプライベートのことを質問されて、男性達は結花と顔を合わせないように必死になる。
返事をしてくれないのか、結花は拗ねるように、鞄から菓子パンとペットボトルのお茶を取り出した。
「ゆいちゃん、今日から来たから、わかんないことだらけでー。野崎って人はうるさいし……」
そこから始まる野崎に対する悪口。甲高い声に負けないように有線が流れる。
男性の1人がおばちゃん達に勘弁してくれと目線を送った。
「よ、依田さん。こんにちは。こっちおいで。今日は初めてで疲れたんだね」
おばちゃんの1人が助け舟をだした。
しかし結花はおばちゃんの話に「あんただれ? あんたに話聞いてくれなんて言ってないけど」と喧嘩を売る。
「私は、太刀川裕美と申します。今のみんなに聞こえるような言い方だったよ。それにそこのお兄さん方はスマホとにらめっこしてるんだから、そっとしといてあげて。ほら、おばちゃん達が話聞くから!」
そうよとあとの2人のおばちゃんも頷く。
おばちゃん達の勢いに負けたのか、結花はしぶしぶ太刀川の隣に座る。
「まー、可愛いねぇー! お人形さんみたい!」
「ほんとねぇー! 年おいくつ? 20代?」
「いや、10代かな? 学生さん? ゆいちゃんって呼んでいい?」
おばちゃん達が容赦のことをコメントしてくれたのか、結花は調子良く自分のことを話す。
太刀川、小野田、塩浦と名乗ったおばちゃん達は、惣菜部門の人達で、結花同様、朝早くから来て出勤している。
「確かにねー、店長は厳しいけど、無理もないかなと思う。正直自己紹介の時びっくりしたよ! ああいう服は動きにくいからさ、これから動きやすいものの方がいいよ」
「店長の前ではきちんとやっとけばいいの。私達の前では適当でいいから!」
「そうそう! ……とはいっても、店長より厳しい人がまだいるのよねー」
3人は同じ人を思い浮かんだのか、確かに……ゆいちゃんと合うのかと心配する。
「えー、まだ厳しい人いるの??」
結花は盛大なため息をつく。
店長が口うるさいというのに、それより厳しいって、ここは厳しい人しかいないの?! みんな意地悪ね。
おばちゃん達は甘やかしてくれそう。
「あー、農産スタッフの尾澤さんと福島さんとかでしょ? 基本厳しい人ばっかね。尾澤さんは入って十数年の40代、福島さんは高校からうちでバイトで入ってたから12年かな」
その後おばちゃん達から厳しいスタッフに気をつけること、何か言われたらいつでもおいでと言われ、安堵した。
「ね、車で送ってくれない?! ジュースおごるから! 私一人で帰れないのー」
男性スタッフに声をかけるが「免許とる年齢じゃないので」と切り捨てられる。
「けちっ! フン、タクシーで帰る!」
そういえば、仕事でタクシー乗る用事あれば、請求出来るって言ってたわ。
結花はタクシーのアプリを開いて、迎車をお願いした。




