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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
4章

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9


仕事が終わって、家に着くと、前で男性2人組に声をかけられた。


日下部龍太郎くさかべりゅうたろうさんですか?」


 龍太郎は「はい」と状況がつかめず、ぎこちない返事をする。


「少しお話したいことがあるんです。あなたが今付き合ってるゆいちゃんについて」


 何でこの2人は自分の付き合ってる人のことを知ってるのだろうかと首を傾げる。


「あ、あの、あなた達は……」


「失礼しました。私、依田陽貴よだはるきと申します。”ゆいちゃん”の《《義理の兄》》です」


「私は”ゆいちゃん”の《《夫》》、依田悠真と申します。日下部龍太郎さん」


 男性2人から名刺をもらった……まって、今《《義理の兄》》と《《夫》》って言ってたよな?!

 どういうことだ?! まって、思考が追いつかない。


「少しお話聞きたいんですが、お邪魔してもよろしいでしょうか」


 穏やかな口調でお願いされたので、龍太郎はどうぞと、2人に中に入るよう促す。


 マンションで男性3人がリビングに集まってとなると狭くなる。

 小さい丸テーブルに固まって正座をしていただくようにした。


「改めまして、私、依田悠真(ゆうま)と申します。ゆいちやんこと、結花の夫です」


「私は悠真の兄――結花さんからすると義理の兄にですね」


「ま、待ってください。夫と義理の兄ってどういうことですか?! もしかして、《《結婚してる》》ってことですか?!」


 龍太郎の体が全身熱くなる。


 独身は嘘なのか? あの2人、会社の上司ぐらいだから、多分40代ぐらい?

 名刺を確認すると、依田悠真はローカルスーパーよだの社長、陽貴は人事部長。


「ええ。そうです。私と妻の間に中2の娘がいます」


 龍太郎は目を白黒させて、頭の中を整理する。


 え、ということは、これ、俺が浮気相手ってこと?

 いや、週末はデート普通にしてたし……子どもの話なんか全然聞かなかったし。

 夫のモラハラに耐えれなくて別居していると言っていた。


「年も誤魔化してるみたいだね。龍太郎さん、年はいくつと聞いてました?」


「28と聞いてます……それも……?」


「妻、37歳ですよ。まー、このプロフィールの写真じゃぁ、騙されるのも無理ないですからね。見た目だけに力入れてますから」


 陽貴は紙を取り出して、結花がマッチングアプリで使っていたプロフィールの写真を見せる。


 目を大きく見せて口元は隠している。

 撮った所は実家の部屋だ。


 年は28歳、結婚を希望している旨が書かれていた。

 夫にモラハラを受けてたので、今度は優しい男性がいいと。


「ね、年齢も嘘なんですか そんな……」


 現実を受け入れることができないのか、放心状態で手足の力が抜ける。


 年も誤魔化してたのか! 37?! 上司と変わらないじゃないか。しかも子持ちとか。嘘だろ? 嘘だろ? 子どもの話なんか全くなかったし、むしろ体型崩れるし、自分が汚くなるから嫌だと言っていた。世界一可愛い自分が台無しになっちゃうと。


 じゃぁ、夫のモラハラも、姑に虐められてたも……学歴も?

 一体どこからどこまでが本当なのか嘘なのか?


「日下部さん、いきなり色々言われて状況が掴めないと思います。しかし、私は結花の夫であり、彼女は14歳の娘がいる母親でもあります」


「はい。申し訳ございませんでした! 私、今彼女が既婚者であることや子どもがいることを知りました……年齢もかなり離れていたことも。そ、そんな素振りなかったので……」


 必死に弁解をする龍太郎の目は本気だった。


「では、結花とあなたの今までの関係を包み隠さず話してください」


 まるで面接のような雰囲気に龍太郎は、結花との経緯を語った。


 マッチングアプリで半年前に出会ったこと、最初はアプリ内でのやりとりだったが、ここ2、3ヶ月、直接会う関係となった。


 前夫がお金に厳しく、月3000円のお小遣いしかもらえなくて困っていること、実家の親に会わせてくれない、姑がほぼ毎日やってきて生活の邪魔をしてたなど。

 体の関係はない。ただいずれ家族に紹介したいと考えていたこと。

 あの日、結花からいきなり呼ばれてゲーセンで遊んでいたこと。


「俺が倒れてる間に呑気にデートかよ……ふざけんなよ」


 悠真の怒気のはらんだ口調に龍太郎は凍りつく。


 怒るのも無理ないよなと納得する。いや、自分が旦那の立場でもそうなる。


「そもそも私は旦那さん倒れたどころか、既婚者であることを知りませんでした。早く返せば良かった……」


「結花は、私が倒れて兄と娘が連絡してたにも関わらず、幼馴染の女性とのランチとあなたのデートを優先したんです。これがどういうことか分かりますか?」


「身内の一大事より自分のことしか考えてない、ということですか」


「そうです。もしあなたが結花と結婚しても同じようなことになると思います。……昔ね、私の母が勤務中に倒れたんですよ」


 悠真は遠い目で十数年前の母が倒れた話を始めた。


 あの時も働きたくない、姑が嫌いだから嫌だと強く主張していた。

 挙句の果てには、死に損ないの老人より、いこれから未来ある私を優先しなさいと言って退けた。

 家族で助ける気が全くなかったので、悠真と陽貴達が母のフォローをした。


 一方結花は何もしてないが、ネットや実母の周子に姑の介護大変なのと吹聴していた。

 その様子も陽貴がお願いしたき調査会社の証拠に載っていた。


「はっきり言います。結花と別れてください。あなたはまだお若いし、希望がある。私達の話を真剣に聞いてくれるし、言葉遣いが丁寧。うちのスタッフとして欲しいぐらい。そんなあなたに私は妻が騙してたことが許せません」


「家族が体調崩しても、ほっといて遊びに行くような人です。そんな人と一緒にいて不幸になるぐらいなら、もっとステキな女性と付き合って幸せになって欲しい」


 龍太郎は依田兄弟の言葉に身に染みて「はい、本当に申し訳ございません」と繰り返した。


「いいんだよ。君は騙されていた。むしろ被害者だ。言っちゃ悪いけどね、うちの妻は親に甘やかされて、自分がお姫様とマジで言ってる。いい歳して、言動も行動も幼いから、社会の厳しさを教えるために、日下部さんから、結花に慰謝料請求して欲しい。なんとしてでも払わせたい」


「あー、確かにそういうとこありましたね」


 今までまで何も知らずに付き合っていたとはいえ、過去のデートを思い出すと寒気がしてきた。

 40前で自分のことを”ゆいちゃん”って……会社の女性社員でそんな呼び方する人見たことないし、上からすぐに指導受ける。

 中学や高校の同級生で、自分のこと名前で呼ぶやつがいた。でも、ああいうのは、成人したら卒業してる。

 喜怒哀楽がはっきりしてて可愛いと思っていたが、冷静に考えると、めちゃくちゃめんどくさいタイプだ。

 

 社長があんな感じだ。

 機嫌が悪いと朝礼でその場の思いつきのように、あれができてない、お前たちは出来が悪いだ怒られる。

 仕事のことを相談しても無視する。社長の側近が必死にご機嫌伺いとスケープゴートになっている。

 プライベートでもああいうタイプに振り回されてきたのかと思うと、自分の浅ましさに反吐が出る。

 

 正直見た目で惹かれたのはある。

 子どもみたいな無邪気さや純粋さ。

 言い方を変えれば、いつまで経っても成長しない人。

 

 ――この子身内でいたら嫌かな。同性の友達がいないタイプ。ただ、男性ウケめっちゃいい。

 

 ――結婚後多分苦労すると思う。家族の悪口ばっか言ってるから……。


 母と姉が口を揃えて「彼女はやめとけ」の発言。

 会社の女性の先輩や同僚からも「騙されてないか「結婚したら苦労するタイプ」」似たようなことを言っていた。

 多分女の勘というものだろう。


 言われた時は見た目だけなんてと思ったけど、今なら分かる。中身みきちんと見ないとダメだ。

 もし自分の友達で彼女の同じタイプと付き合ってるとか結婚を考えてると言ったら全力で止めるだろう。


 既婚者であることを隠して、マッチングアプリでよその男性と付き合っているんだから。


「彼女の料理って食べたことありますか?」


 龍太郎は「はい、今年の花見の時です」と身を乗り出す。


「タッパー持ってきてませんでしたか?」


「ええ。そうです。それがなにか?」


 悠真と陽貴は顔を見合わせて、やっぱりかーと呟く。


「あれ、彼女の《《お手伝いさん》》が作ったものですよ」


 お手伝いさんという単語に龍太郎は顔色を失う。

 花見の時に持ってきてくれた俵型のおむすびや、だし巻き卵に、唐揚げなど。

 2人で駅近くの大きな公園で食べた時、本当に美味しかった。

 料理が趣味でレパートリーを増やしていると。

 得意なのは定番の肉じゃが。


 あれも嘘、なのか?


「お手伝いさんって、自分でじゃないんですか?!」


「多分、家庭的な自分を演出するためのやり方です。うちの妻は料理しないどころか出来ないんです」


「じゃぁ、普段の食事や家事は……?」


 できないなら外食か? お手伝いさんとやらがやってるのか?


「娘と私でやってます。どうも、実家のお手伝いさん呼んでやらせてるみたいですが。その支払いも私達の家計から毎月6万飛んでます。3人いらっしゃるので」


 6万の金額に頭が真っ白になる。


 いや、これこのまま結婚したら、馬鹿みたいにお金飛ぶパターンじゃないか。

 他に色々かかってるんだろうなと思うと、この男性2人の言うことが分かる。

 このままだと自分が生活出来なくて破滅する。


「妻は家事が得意とアピールしてたのでそのまま信じきってました。本当は出来ないことを隠して、私にバレた時喧嘩になったんです。丁度私の母が倒れた頃かな」


 悠真が話す結花との結婚生活。

 親が倒れても協力する気なし、家のことは全て実家の母親やお手伝いさん達に任せて、遊び回ってたこと。

 それを巡っての喧嘩だ。

 結婚した自覚はあるのか。それで子どもほしいのなら、難しい。


 義母の世話するか、仕事するか、家事をきちんとするか、この3つの中で結花は家事をきちんとするを選んだ。

 その条件として、実家の母とお手伝いさんを無断で呼ばない、呼ぶ場合は事前に了承することにした。


 悠真のサポートで娘の陽鞠が生まれてからも、継続できた。


 陽鞠が小さい頃は悠真は早く帰り、夫婦で保護者同士の付き合いでホームパーティなるものをよくやっていた。

 しかし、陽鞠が小学校高学年ぐらいから、結花に悠真と一緒に家事手伝うように言われるようになった。

 結花は家事をせずにのんびり過ごしてる。


 それどころか、陽鞠が中学に入ってから、結花が日付け変わるギリギリ前までいないことが増えた。

 塾帰りの陽鞠が先に帰ってることが多い。

 朝食も陽鞠が朝練あるため、悠真が5時に起きて作っている。

 結花は2人がいなくなった後に食べてるらしい。


 依田家では家族揃って生活するのが難しくなった。


 専業主婦である結花が家族と揃う気がないんだから。


「妻は娘と私がいない時間帯にお手伝いさんと実家のパーティ呼んで、やってもらってるんです。娘が試験で早く帰った日や昼から部活ある時に、何度も見たんですが、妻に強く口止めされてたんです」


「娘さんの学校行事に行ってない感じですか?」


「行ってないと言うよりは、行かせてないですね。以前は妻が面談に出席してたんですが、娘が嫌がって、私が同席してます。今年の家庭訪問では、娘の担任に子どもがいない人に先生任せたくないとか、若いママの方がいいと喧嘩売ってしまって、娘の立場は最悪なものとなってます。なんせ、娘の担任と妻が同級生なんですよ……それで、妻の中学時代の話をちらほら聞いてたら、確執ありますね。他に妻の同級生や先輩の保護者もいらっしゃるようで……」


 うわぁ、ひっでえー。親がこんなのとか嫌すぎる。

 若い親がそんなに偉いのか。

 先生だって色々事情があるのに。


 しかも同級生で、話聞く限りでは確執ありそうな雰囲気だ。


 彼女のあの性格だとさもありなんかな。


 娘さん、親のことで色々言われてるんだろうなと思うと、彼女より娘の方に同情したくなる。

 自分でも嫌だ。親と担任が確執あって、無関係な子どもの立場はキツイだろう。


 将来彼女と結婚したら、リスクしかない。

 絶対人間関係でトラブル起こしそうだ。

 家のことはしないで、娘と夫に押し付け。


 自分は遊び回ってるだけ。お茶一つ自分で入れないとかどんだけお姫様気質なんだよ。


 しかも40前だろ? 身内で絶対いてほしくないタイプだ。多分母と姉と兄嫁とは合わない。

 母は真面目だし、だらしない人が嫌い。姉は彼女のようなぶりっ子に昔いじめられたの即答で無理というだろう。兄嫁はのほほんとしてるので、真っ先に彼女の嫌がらせのターゲットになる可能性がある。


 兄はキャンキャン騒ぐ女性嫌いだから、まず合わない。兄嫁と身内以外の女性が苦手。


 たとえ彼女に非があっても、あのワガママな性格と、母親を出してくる時点で、負けるのはこっちだ。

 反対する家族の意見は無理ないよな。


「……依田さんの言う通り、でしょうね。話を聞いてたら、苦労するのは目に見えてます。誠実な人間なら最初からマッチングアプリで、既婚者隠して遊ばないですから。――彼女と別れたいです、いや、別れます」


「そうですか。慰謝料の請求はなしですが、その代わり、私達に協力頂けませんか? 今後彼女との連絡を絶って下さい。再度申しあげますが、彼女には自分の甘さや立場を分かってもらうためにも、日下部さんは慰謝料請求して下さい。そうじゃないと、彼女のためになりませんから。弁護士とご相談ください。私達と関わりあることを彼女に言わないでください」


 龍太郎は陽貴から最寄りの弁護士相談所を紹介された。昔から付き合いのあるところらしい。


「では、長々と失礼しました」

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