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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
4章

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3


 冬の昼下がりの午後は寒い。

 朝はいい天気だったのに、昼になって曇り空が出てくるようになった。

 洗濯は外に干してないのが幸い。高い服は基本的にクリーニングに出しているから。


「ねぇ、どうしよ? 夫がうちに帰ってこないの!」


 結花はダイニングテーブルをドンと両手で叩いて、困ってるアピールをする。

 愚痴を聞いてもらうために親友の加藤望海を自宅に呼んだ。

 外に出るのもめんどくさくなったからだ。


 望海は渋々家に来た。


「それはしんどいね。またなんで?」


「分からない。退院の日に義理のお兄さんがうちの娘と一緒に夫を連れて行ったのよ! うちで預かるって!」


 結花は、いつも通りぶりっ子モードで義兄の陽貴におねだりして「みんなで一緒にうちに帰りたいなー。ゆいちゃん寂しいのぉ」と言いながら、悠真の腕掴んだけど、振り払われた。


 娘の陽鞠は他人のふりしたいと言わんばかりに、悠真の荷物を持ちながら玄関口を見ていた。

 院内の患者や関係者から結花の言動と態度に視線が集まっていたのに気づいていたのは、陽鞠だけだ。


「じゃぁ、陽鞠ちゃんは義理のお兄さんとこにいるの?」


「うん。そう」


 結花はため息のような無力感のような息を吐き出して、親友が持ってきてくれた紅茶を一口つける。

 お手伝いさんいないし、母も来ないから、やり方が分からないので、親友にやってもらった。

 親友は「ゆいちゃん、本当にお嬢様だね」と笑いながら言っていたけど。


「のんちゃんはいいよね。子どもたちがいい子で。あー、うちの小娘と交換してくれないかなー」


 チラっと横目に向ける結花。


「寂しいから《《りゅうちゃん》》に連絡したけど、断られた!」


「りゅうちゃん?」


 望海の心の中に野次馬根性が出る。


「うん、日下部龍太郎くさかべりゅうたろうくん。マッチングアプリで出会った30前の男性」


 背は170の長身で、スポーツ刈りで、顔はそこそこイケメンかな。目鼻立ちは整ってて、笑った時の八重歯が可愛いの。で、大手重工業の役員の息子で、そこの社員で働いているの。

 ファッションセンスは普通ね。でも、鞄やアクセサリーは高いものよ。

 この間は一緒にゲーセンでUFOキャッチャーとプリクラを撮ったの。見てよ。


 待ってましたと言わんばかりに、ペラペラとりゅうちゃんこと、龍太郎のことを話す結花。

 まるで推しを語るオタクのように早口になる。


 望海はアラフォーの女性がプリクラ撮るのって……と疑問に思いながら結花の話を聞く。


 ゲーセンで撮ったプリクラでは、結花が右頬に手を当てながら笑顔でいるのと、隣で龍太郎がピースサインをしている姿が写し出されている。

 スマホに保存出来るのでそれを望海に見せた。

 望海は可愛いから頂戴と言って、あっさり結花からその画像を手に入れることが出来た。


「ね、ゆいちゃん可愛いでしょ?」


「う、うん……」


 望海は乾いた笑いをしながらしげしげとプリクラの画像を見る。


 ――やっぱりこの間見かけた男性だ。


 あの日、結花と喧嘩した後、頭を冷やすために一宮駅いちみやえきから少し離れた図書館で現実逃避していた。

 落ち着いてきたので、気晴らしにカフェへ行こうとしたら、結花がよその男性の腕掴んでいる姿を見た。まるで恋人のようだった。

 思わず写真を撮った。


「りゅうちゃん、家柄も会社もお母さんが喜びそうな要素ばっかだから、夫がだめになったら、乗り換えようかな」


 恋する乙女の明るいトーンでボソっと呟く結花に、望海は「えっ」と思わず言い返した。


「だーかーら、夫がダメだったら、この人に乗り換えるの!」


 乗り換えるって車みたいな言い方と思うのと同時に、この子は昔からちやほやされないと気が済まないタイプだったことを思い出す。


 中学時代に同級生の彼氏にちょっかいかけるのは序の口、婚約者がいる先生と関係を持ってかなり揉めて、親がお金積んで黙らせたと自慢げに話してた。

 高校でも、教育実習や塾の先生にちょっかいかけてたし、陰でネットで知り合った男性と遊び回って、進級が危うくなってたし、彼女の夫となる人と付き合ってたのもだいたいこの頃で、1回先生にばれて揉めてた。

 結花にとって男性はスペアみたいなものなんだろう。

 

 望海は結花の話に目眩がしそうになった。

 こんな人でも、普通に結婚して裕福な生活をしている。

 

 彼女はお金がないないというが、金銭感覚がおかしい。

 彼女の夫は家のために妻子のために、身を粉にして働いてきた。その無理したつけが今回っている。

 

それでもって、もっと働けはないだろと思った。


「それはないよ。悠真さん頑張ってゆいちゃんと陽鞠ちゃんのためにやってるじゃん。今度はゆいちゃんが支える番だよ。働き先探すの手伝うからさ」


 子どもを宥めるように説得する望海は内心うんざりしていた。


「えー、絶対嫌! むりむり!」


「まだ、今の状況分かってないの?! ゆいちゃんは愛想つかれてるの! 陽鞠ちゃんから!」



 今入院している父から連絡があった。


 同室のベットの家族が結花ちゃんとこの旦那さんじゃないかと。キャンキャン騒いでた声が結花ちゃんと周子さんそっくりだった。

 

 お見舞いに来てた男性がいたから、少し声かけて、望海について話したんだ。その男性から、もう少し話聞きたいからと、連絡先教えたんだ。

 

 勝手に教えてごめん。

 

 あれだ、名刺貰ってさ、そしたらローカルスーパーよだの人事やっててさ、多分結花ちゃんとこの旦那さんの親族じゃないかな。苗字が依田だった。

 いい男だったな。文登ふみとくんといい勝負だ。


 あとあの男性と一緒に女の子いたけど、陽鞠ちゃんじゃないか? もう何年も会ってねーけどさ、ちょっと元気なさそうだった。結花さんに顔の感じ似てるし。

 とにかく、男性が結花ちゃんのこと色々聞きたいらしいから、連絡してくれな! じゃ!



 父からメッセージアプリで来た。調子の良い文面だった。すぐにその名刺の方に連絡した。

 話を聞きに電話したら、その男性から言われた。


 ――もし、結花さんと会うことがあれば、その時の様子を録音と撮影して欲しい。

 

 悠真が大変なのでどうか協力して欲しいと。

 

 どういうことか尋ねると、悠真が病院に運ばれた日、結花に何度も連絡したが、陽鞠だけ来た。その日結花は来ることなく次の日に、実家の母親を呼んでやっと来たこと。

 望海は快く了承した。

 

 案の定、今日の朝から結花から会って欲しいと言われたので望海は依田家へ向かった。

 

 結花が得意げに他所の男性との遊びを語る姿に、望海は「あぁ、そうだ。この人は自分大好き人間なんだ」と改めて痛感する。


「ねぇ、まじでどうしよう?! うーん、乗り換えようかな? でもお金なくなったら困るから、夫もいてもらわないと困るし……いっそのこと2人一緒がいいなっ」


 結花はいいこと思いついたと言わんばかりに頭を上下する


「はっ? 何言ってるの?」


「だって私世界一可愛いからさ、夫以外の男性の友達が沢山いるし、それにりゅうちゃんを親戚として居候扱いにして一緒に住めばいいじゃん? わざわざ会いに行く必要ないし」


「それにゆいちゃんはいつまでも恋する乙女でいたいの。物語の主人公でいたいの。だって世界一可愛いもん。だからなんだって許されるの。私が不利になっても。世の中は私の味方になってくれる!」


「夫が倒れてどうすれば分からなかったから、りゅうちゃんに相談してて、そのうちに遊ぶような感じになったから仕方ないでしょ」

 鼻息荒く話す結花にの望海は黙って頷く。


「ままままって、陽鞠ちゃんはどうするの?」


 望海は一番気になる所を質問した。


「当然一緒よ。お母さんがいかに素晴らしい人か見せるのも教育の1つよ」


 あっけらかんと返す結花。

 望海は手を額に乗せて「そうなの? すごい考えだね」と返す。


「ねっ、のんちゃん、助けて! なんとか夫を帰ってこさせて! また家族一緒にいたいの! あとさ、夫と陽鞠が帰ってくるまで、うちのこと手伝って!」


 拝むポーズとウィンクでおねだりする結花に、望海は何も返事しなかった。


「……悪いけど、ごめん。用事思い出しちゃった」


 望海が椅子を引いて立ち上がろうとすると「用事ぐらい断って。可愛いゆいちゃんのために、夕飯とお風呂掃除して!」

 上目遣いで両手で頬を付いてお願いする。


「そんなの自分で調べなよ! うちの子供たちですら、わからないことは自分でネットや図書館で調べたり、人に聞いたりするのに! ゆいちゃんは人にやってもらってるだけだし、お礼も言わないから嫌!」


 望海は鞄を掴んで辞去しようとした瞬間、結花は立ち上がって、望海の前を塞ぐ。


「なんでよ! 呉松家本家のお嬢様である私に逆らうつもり? 格下の癖に! 黙って言うことききなさいよ!」


 結花は望海の右足を力強く踏む。そして望海は滑ってフローリングの床に転げ落ちた。

 天使の微笑みのような顔で「あら、ごめんねー。間違えて踏んじゃったぁー。大丈夫?」と手を差し伸べる。


 望海は立ち上がろうとして、結花が差し伸べた手につかもうとした瞬間、結花は手を離し、また転げ落ちた。足が踏まれたままだから。


「……どういうつもり? ゆいちゃん、ほんと陰険なとこ変わってないね」


 結花に睨みつける視線を送る。


「可愛いゆいちゃんのためにうちのことやってくれるなら、足外すけど。嫌なら、このまま踏み続けちゃう」


 結花はさらに力強く望海の右足を踏む。


「……たっ、や、やめてよ……」


 痛さのあまり望海は声を出すのが辛くなってきた。


「ゆいちゃんが有利になるために全部動いてくれるなら、外すよ。千陽ちはるちゃんと朝陽あさひくんに、この姿見せちゃおうかなー。お母さんがゆいちゃんに逆らっった罰を受けてる所。目上の人に逆らうとこうなるよって」


 いいこと思いついたとポケットからスマホを取り出し、動画撮影を始めた。


「この人はゆいちゃんが困ってるのに、何もしてくれない悪魔でーす! だから罰として、こんな感じになりましたー。天下の呉松家本家のお嬢様であるゆいちゃんに逆らった結果でーす! 目上の人に逆らうとこうなるよー!」


「ほら、早くゆいちゃんのために、お昼を……」


 その瞬間、結花のスマホに着信が来た。


 電話の主を見た瞬間、結花は「あらー、りゅうちゃーん、今いそがしーのぉ、ごめんねぇー。今から来るの?!」と出た。

 結花は足を踏み続けるのに疲れたのか、ダイニングテーブルのチェアに座り、頬杖をしながら通話をする。


 望海は声が変わる姿に全身に寒気が走ったので、隙を見て、立ち上がって、気づかれないようにこっそり依田家を辞去した。


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