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世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!  作者: 月見里ゆずる
4章

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2

ゲームに夢中になっていたら、インターホンが鳴った。

 インターホンのモニターを確認すると、兄夫婦がやってきた。


 兄は黒のスーツにねずみ色のネクタイにとビジネススタイルだが、兄嫁は青のアンクルパンツに白のセーターだ。


 そそくさと玄関まで出迎えると、兄嫁が紙袋片手に「これどうぞ」と渡した。


 中身はインスタントの食事類やペットボトルのお茶数種類。



 兄嫁か髪を短くしているのか、顔筋がはっきり見える。

 凛々しい顔つきだが中身は穏やかだ。

 妻と正反対のタイプ。


「いいんですか?! わるいねー。さぁ入って」


 2人分のスリッパを用意してリビングに案内する。


 つけていたテレビを消して、音が何もなくなる。

 床に座らせるのは悪いので、ベッドの上に座ってもらう。


「何もなくてごめん」と言うと、気にしないでと兄嫁からフォローが入る。


 自分は兄の横に座った。


「結花はちゃんと改心してくれるかね……」


 ぼそっと呟いた言葉虚しく響く。

 兄夫婦は顔を下に向ける。まるで気まずいと言わんばかりに。


「……それなんだけどな、これを見てほしいんだ」


 兄は黒のビジネス鞄から分厚くなっている透明なクリアファイルを取り出した。


「これは?」


「俺が知り合いに頼んで、結花さんの過去を調べてもらった」


 クリアファイルから取り出して、パラパラとめくっていく。

 

 ――娘の担任が言っていた話は本当だった。


 過去に男性教師と関係をもって揉めたこと、そして今その男性教師が娘が通う中学校に再赴任していること。

 中学時代、妻は娘の担任と同級生で、当時担任が付き合っていた彼氏に妻がちょっかいをかけていた。他にも被害者はいる。

 中学・高校時代に同級生の子を不登校に追い込んだこと。しかも3人も。

 

 妻のいとこが長年妻のお世話係&召使いのような扱いをされていること。それが今も続いている。


 家事は出来ず全て他人が作ったものを出していた。

 お手伝いさん達に任せっきりで日中はなにもしていない。


 浪費が激しい理由は妻とその母親の買い物によるもの。


 学校内のトラブルは全て妻両親が頭下げてお金だけ支払って終了で、妻自体にお咎めなし。

 学力に見合ってない大学に行っているが、妻の母親がお金積んで進級させた。


 地元では家の名前に笠に威張り散らして、素行が悪いことで有名だった。

 


 ――妻はガチの《《問題児》》で、《《いじめっ子》》だったとは。


 娘の担任の気持ちが分かる。もし自分がその立場だったら。いじめっ子の娘が自分の担任で受け持つことになったら。大人の対応が出来る自信がない。


「これ、結婚の時に聞いてたのと全然違うな」


 日記帳が入っていたダンボールから分厚いバインダーを取り出した。

 タイトルは書いていないが、中身はお互い結婚する時に身辺調査なるものをやってもらった。


「これさ、見てほしいんだ」


 妻のプロフィールから、どんな過去を歩んできたか、現状などなど。


「なんかめちゃくちゃ美化されてないか? だって、容姿端麗家庭的、性格は穏やかで、昔からいじめられっ子だった……って」


「全然違うじゃん」


 3人で思わず吹き出す。


「多分結花さんのお母さんが絡んでそうだな。盲目的に娘のことを信じ切ってる所あるから」


「うん。そうじゃないと私や美羽みうさんに失礼な態度取らないし」


「……そうか、千雪さんと美羽さんにも嫌がらせしてたんか……」


 兄嫁はうんと小さく頷く。


「千雪は子どものこと、美羽さんは体のこと言われてたみたい。昨日、俺さ、美羽さんとこに行って、結花さんの名前出した瞬間、顔曇らせてた。『あの人の名前も話も聞きたくないって。容姿だけ整ってる人には何も気持ち分からないでしょうね!』って。多分俺や悠真の前じゃなく、見えない所で嫌がらせしてたと思うよ」


 弟嫁はおでこにあざがある。同級生からのいたずらによるものだ。色々手を施したそうだが、完全には消えず、少し目立つ形で残ってしまった。

 弟は「そんなの関係ねぇ! 全部ひっくるめて好き」と言っている。


 多分長年見た目のことを妻から言われてきたのかと思うと、自分のコントロールできなさを責めたくなる。

 弟がこのことを知ったら烈火のごとく怒るだろう。

 弟嫁が妻を嫌うのも名前聞くだけでも拒否反応だすとしたら相当だ。


 妻は私は可愛いから同性からよく嫌われるの、いじめられるのなんて言っていたが、怒りを買う原因を自分で作ってる。

 ホームパーティで保護者からいじめられたのも、そりゃ嫌うわと何度もいいそうになったが、結局妻の勢いを恐れて何も止めなかった。

 自己保身に走った自分に責任がある。


「本当は今までの発言含めて、私と美羽さんにきちんと謝って欲しいところだけど……あの性格じゃ無理よね」


「結花、生まれてこの方一度も頭下げたことない、謝ったことないっていっつも自慢げに言ってるんだな。あぁー! ぜってー無理だろーな!!」


 頭を抱えたくなる。自分の知らない妻の姿を次々と出てきて兄夫婦の口から聞かされる度に。


「確かに結花さんは見た目可愛らしいし、男の人が味方になりたい気持ちは分かる。でも、性別や変えようがないものを見下したり、態度変える人は女性でも男性でも離れる。それを理解出来てないから、被害者モードになるの。結花さんによる被害者は私たちだけでなく、他に沢山いるんだから。確かに悠真さんも被害者だけど、彼女の横暴さを止められなかった加害者でもあるの。悠真さんだけでない、結花さんのご両親も」


 静かに言う兄嫁の内容は正論で心に突き刺す。


 そうだ、自分は被害者でもあり、加害者なんだ。

 

 もっと早くに妻に真剣に向き合っていれば?

 普段から強く言い返すことができていたら?

 妻の本当の過去を結婚の段階で知って、一度立ち止まって考えてたら?


 言い訳するなら、当時もう20代後半で、結婚するのに丁度いいかと考えていたし、もちろん、妻のことが好きだったから、彼女の母親が反対しても、無茶苦茶な誓約書を出されても、受け入れた。


 その結果、被害者を沢山出すことになった。


 妻が今までやった因果が今巡ってきている。

 それは私と娘そして妻本人に。


「覆水盆に返らず。今出来ることと、悠真がどうしたいか考えなさい。俺は悠真と陽鞠ちゃんの両方がいい結果になってほしいと思ってる。そのためならベストを尽くす。結花さん? そんなもん知らん。あの人が自滅しようがしまいが知ったこっちゃない。ただ、あの人が不利になる形にしようと思う」

「相変わらず、手厳しいなー。はる兄」


 兄弟で一番怒らせたら怖いのは兄だ。父の次ぐらいに怖い。しかも、社員に対しても厳しいとこは厳しい。

 会社での言葉遣い、服装、マナーなど。それが高校生のアルバイトでも容赦ない。

 さすが会社で教育係やってるだけある。


「引き続きあの人の身辺調査するから。もし居場所を聞かれても、探られても無視するんだ。陽鞠ちゃんにもそう言うから。――絶対(ほだ)されるな、いいな?」

 険しい目つきで顔を近寄られ、は、はいと覇気のない声で返事した。

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