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都内から車で1時間ぐらい離れた辺鄙な山奥の施設だった。
まるで刑務所のような要塞と無機質な鉄筋コンクリートの建物。
いや、隔離されたような村と言えばいいのか、数百人の男女が集団生活をし、せっせと畑仕事や工場仕事をしていた。
服は冬の時期にも関わらず、薄着の青のジャージだった。男女問わず。
結花の中に嫌な予感が走ったが、もう引き返せなかった。
ここに入ると一生出られない。同行者兼紹介した男性――洲本が運転中に言った。
「え? ここなに?」
洲本に尋ねても「農業工場」と答えるだけだった。
「なんで、こんなにみんな薄着なの?」
その瞬間洲本は「つべこべ言わずついてこい」と口調が荒くなった。
公園で声かけられた時は穏やかだったのに、ここに来て急に豹変した。
洲本についていくと地下室のような建物が見えた。
大量の電灯とエアコンに遮光するかのようなカーテン。何か甘いにおいがした。思わず鼻をつまむ。
白みを帯びた緑色の葉っぱが見えた。
せっせと収穫の作業だろうか男女が段ボールに詰める。
「今日からお前はここで働いて貰う。さっきも言ったがここにいる以上一生出られない。いいな?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ここなに? 変な匂いするんだけど?」
「口答えするな。お前は俺にとやかく言える立場じゃない」
洲本は「こいつが今日からお世話になるやつだ。みっちりやってくれよな」と結花に厳しい指導をお願いした。
この建物での就業が終わると、各自大部屋に入れられる。
結花は女性用の部屋に入ったが、思わず声を上げた。
「なにこれ?!」
6畳の畳敷きに10人がぎっちぎっちに入って、申し訳程度にある毛布数枚を2人で使うというものだった。
部屋の中はまるで刑務所の牢屋のような感じで、室内に監視カメラがあった。
エアコンがあるものの、全然効いていなかった。
髪はボサボサ、化粧気もなくしわがめだち、口元が悪人のような顔立ちになった結花。
服も露出多い物ではなく、みんなと同じ青のジャージに着替えた。ここでは仕事中だろうが、就寝だろうがジャージを着て過ごすと。
既にいる先輩方の年齢は幅広い。
結花と同い年ぐらいから、下は10代の女性。
ここのメンバーと寝食をともにすると洲本に言われた。
名前も呉松結花ではなく、120番と呼ばれるようになった。
刑務所同様、名前が剥奪されるのである。
「あんた新入り? 私50番なの。ここは一生出れないよ。おめでとう!」
同室の女性の1人がダミ声で話しかけた。
「わ、私は、呉松結花よ! ゆいちゃんって呼んで!」
「残念ながら、ここは名前で呼ばれない。全員番号で呼ばれる。刑務所と一緒さ。なんたって、ここは、問題起こした人間の《《最終処分工場》》だから」
「ど、どういうこと?」
「文字通りさ。私達に行き場がないの。今の時代、一回やらかした人間は社会に戻られるのを嫌がるからねぇ。だからね、人と顔会わせないように、こんな僻地で集団生活おくるのさ。日本各地の”問題児”が送り込まれるんだよ。ここはある意味治外法権だから、館長の言うことが絶対なの。私達に人権なんてないんだから」
自嘲気味に話す女性は、なにか諦め切ったような顔をしていた。
「人権ないって。そんなのおかしいじゃん?」
「おかしいっていっても、あたしたちに言われてもねぇ。夏の暑いし、冬は寒い。仕事が出来なければ罰が待っている。館長や各部屋のリーダーの機嫌を損ねたら死んじゃうからね。服もこんなのだし、虫も出るから」
同室の人達は体をかきむしって必死にこらえる。
「あ、病院とかないから、死んだらそれまでだからね。毎日誰かしらここの施設で死んでるから」
施設――暁水館の本当の過酷さはこれからだった。