表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/153

7

人感センサーが反応して玄関に光がついた。


 ただいまーと声出すが誰も返事しない。


 鞄からスマホを取り出して、通知欄を見るが母と連絡つかない。


 依田陽鞠はスマホをカバンに入れて、舌打ちしながら自分の部屋に向かう。


 病院に来るとしかとこの耳で聞いたのに。


 叔父の前でキャラが変わったかのように、はい、行きますと嬉しそうに。

 しかし待てど暮せど一向に来る気配がなかった。

 面会終了の17時になってもだ。


 その間に何度も連絡したのに、メッセージアプリでも送ってる。


 返事はないし、寒い中病院の正面玄関で電話しても『ただいま電波のつながらない所に……』と返ってきた。


 一体どこにいるんだ。父が心配じゃないのか!

 怒り任せに学校の鞄をベッドに投げつけたくなるが、ここは、制服にしよう。


「ほんとありえない!」


 このやり場のない怒りをどこに向ければいい?


 母は一体何してるんだ?!


 これからまた塾に行かないといけないので、制服から学校指定の紫色のジャージに着替える。依田とがっつり白色で刺繍されている。


 陽鞠は白桜学院はくおうがくいんという中・高一貫の女子校に行くはずだったが、受験に落ちてしまい、結花の地元である春の台中学校にいくことになった。

 結花としては陽鞠が受験に落ちたことが近所や他の保護者にバレたくなかったから、逃げるように地元に戻った。

 

 それもそのはずである。日頃から結花は近所の人やママ友達に「うちはあなた達下々と生きる世界が違うのです」とマウントを取っていた。

 その娘が受験落ちるのがバレると屈辱を受けることになる。


 陽鞠も逃げたかった。


 受験で落ちた云々より、母の日頃の態度で周りから厳しい目を向けられるのがこれ以上嫌だったからである。

 授業参観で痛い服装で来たことで珍獣扱いされるのが嫌だった。


『いずれ依田陽鞠も母と同じようになる』と呪縛を受けているみたいで。


 くよくよ考えるのはやめにしようと、春の台中学校で吹奏楽部で頑張ってきた。慣れない部活と勉強の両立、そして、部活内の厳しい上下関係と暗黙のルール。

 最初の一年は慣れるのに手一杯だった。


 2年生になってからは先輩と新しい後輩との板挟み。そしてもうこれからは後輩達を引っ張らないといけない立場になってきている。

 スマホのロック画面を見ると、メッセージアプリでのグループチャット内で、部活の友達から「お父さん大丈夫?」のコメントが並ぶ。


 陽鞠は「うん、なんとか」と返す。


 ――こんな状況でよく病院いけるね。さすが、あの母親の子だからね。バチが当たったんじゃない?


 部長の浅沼智景あさぬまちかげだ。3年生が引退する時に満場一致で彼女に選ばれた。トロンボーン担当で、父親がやっていた影響なのか、腕は結構なものである。それに期末や中間試験の成績も上位をキープしている。


 入った当初はそこまでではないが、部長に選出されてから、智景は陽鞠に対してきつい口調で話してくるようになった。

 クラスは違うとはいえ、廊下ですれ違ってもにらみつけるような態度を取ってくるので、陽鞠にとって苦手なタイプだ。


 智景の態度は好き嫌い分かれる。腕はいいということもあり、出来ない人に対してかなりきついし、マウントを取ってくる。


 夏の合宿の時には、1年生の子が集合時間でもたついてしまい『もたつくぐらいなら辞めてくれ』からの、人格否定が始まった。

 前部長の保坂も顧問の森河も当然といわんばかりに、とめなかった。


 春の台中学校の吹奏楽部は、毎年きつい性格の人が部長に選出される。これが何十年も続いている。だから陰湿な嫌がらせは日常茶飯事、暗黙のルールに従えなかったら処罰される。その部長の機嫌次第で決まる。


 陽鞠にとって保坂はまだましの方だった。智景とは違い、満面の笑みで遠回しに嫌味言うタイプだ。そこまでターゲットにされていなかったというのもあるが。

 どうも智景の親も結花のことを知っているらしく、それもあって陽鞠はきつく当たられる。


「ほんと、ちか、きついなー。てかバチが当たったってなに?」


 周りの話を総合すると、母はこの学校で色々やらかしたのかなと思う。


 あの高飛車な性格なら十分ありえる。

 娘である私は否定しない。でもバチが当たったひどい。


 父が倒れたのは無理したから。母のわがままに振り回されて。

 母のことで、娘の私がやいのやいの言われるぐらいなら、コツコツ頑張って証明するしかない。

 その肝心の母は全く連絡取れないし!

 もー腹たって仕方ない!


 陽鞠は頭をかきむしる。


「あれ、珍しいな」


 メッセージアプリの差出人はいとこ叔母だった。

 開いて文面を確認する。写真も送付されている。

 その瞬間スマホをぬいぐるみを抱きかかえるようにして、ベットに仰向けになって倒れた。


 全身に嫌な汗が出る。

 今日塾に行けるメンタルなんてない。いっそのこと休みたいとこだが、欠席の連絡は親の電話じゃないと認められない。


 陽鞠は体をムチをうつようにして、塾に出席した。


 授業開始から30分後、顔色悪い陽鞠を見た講師が家に帰るように結花に連絡したがつかなかった。

 陽鞠は声を振り絞るように「お、おとうさんが、入院して……」と今日の経緯を話す。


 代わりに陽貴が迎えに来た。結花と連絡がつかないことを聞いた陽貴は、自宅まで連れていき、一晩泊まるようにさせた。

 もちろん、結花に連絡した上で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ