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 被告人質問が始まった。


「ゆいちゃん、娘と夫に逃げられて、ずっと寂しかったんだもん。久しぶりに会うために、ちょっとサプライズしようと思ったの」


「特に手を出した訳じゃないし、死んだ訳でもないから、いいよね? だって川口と堀内が勝手に暴走しただけ」


「とにかく娘と夫に会いたいの。寂しい。精神的に辛かった」 


「世界一かわいいゆいちゃんが、誘拐とか殺そうとかするわけないじゃん? あんた達の目腐ってるの?」


「可愛い孫が誘拐されて、こっちは被害者なの! ゆいちゃんは無罪! 早く出して! 呉松家の名前だしたら、すぐにみんな釈放の署名活動してくれるわ」


 結花は検察や弁護士に喧嘩をふっかけるような発言を次々とする。


 質問されても答えになってなかった。


 結花もわざとらしい演技で、やらされた感や、夫と娘に逃げられて精神的につらかったと訴えるだけ。

 川口や堀内、神牧と曽田の関係は使い捨てだと切り捨てた。


 検察は懲役刑、弁護側は無罪を主張した。

 争点は、計画性か衝動性か、殺意はあったのか、責任能力があるかないか。


 取り調べの最中に、脅迫・誘拐の計画をしているのではと川口や堀内とのやりとりの証拠を提示された。

 しかし、結花は「そうだっけ? 自分に似た人がやったんじゃない?」「覚えてないや、てか川口って誰?」と供述をころころ変えていた。


 刑事に対して連絡先を聞き出したり、デートしよとナンパをしていた。

 結花の供述や過去のことを踏まえ、精神鑑定を行った。


 弁護側は精神的な病気があること、殺害されたわけではないから無罪。

 検察側は、やりとりしている証拠や言動から、責任能力はあるし、計画性がある。また、以前に罰金刑を受けていることから、更正の余地はないため、無期懲役を主張した。


 結花が最終陳述で長々といかに不遇の生活をしてきたか話した。



 夫と娘に捨てられ、再婚したけど、嫁いびりや再婚先の家族に嫌われていじめられていた。

 お金ないからそこの家族のものを売って自分のものにしていた。

 結局バレて、実家に戻されたけど、頼みの綱である母は亡くなり、婚活してもいい男性が見つからない。

 それどころか、父と兄に実家を勘当されて、刑務所行きになり、ホームレスになっちゃった。


 就職支援してもらったけど、そこの会社が、同級生が社長で、昔のいじめの仕返しと言わんばかりに、辛く当たってきてつらかった。

 憂さ晴らしに同僚を使ってストレス発散してたけど、バレて社長監視下で毎日が辛かった。

 全然働いたことないし、同級生に仕返しされるし、人に使われるのがかなり屈辱だった。


 一方娘は世間で有名になり、いい生活をしていることを知って、羨ましかった。

 もしよりを戻せば有名人の親族という箔がつく。

 独りは嫌だ。もう1回家族でやり直したい。

 世界一可愛いゆいちゃんは、家族や周りの人にちやほやされるべき。


 家族が戻ったら、ゆいちゃんは専業主婦で、夫は働いて貰って、娘夫婦と同居して、お姫様みたいな生活するの。

 今まで不幸な生活してたんだから、それぐらいいいでしょ。


 それよりさ、この服可愛いでしょ?



 結花は一回転して法廷にいる人達にいかに似合っているかアピールする。

 手に頬を当て笑ったり、手を振ったり。

 しかし裁判官や検察、弁護士達は顔色1つ変えない。


 傍聴席は「メンタルやばっ」「無罪狙ってるとか?」とざわめく。

 再び裁判官から静粛にと言われ、厳粛な雰囲気に戻った。


 別室で待機している稲本夫妻と悠真は、結花の証言を聞いてめまいがした。


「お父さん、よくこんな人と結婚してたね。私なら即離婚する」


 陽鞠が突き放すような口調に悠真は「そうだな」と短く答えた。

 結花が母親という消えようがない事実にいらだちを隠せない。そんな人と結婚していた父にも。


「陽鞠、お義父さんを責めないで」


「でも、この子達にも私の血が入ってる。引いては――」


 トラブルメーカー、前科持ち、自己中な人の孫というレッテルを貼られるだろう。

 たとえ私達夫婦がまともでも、あの人の血縁関係の事実は消えない。


 ――蛙の子は蛙。


 この言葉が脳裏によぎる。再び陽鞠の心に呪縛がかかる。

 私はあの人に屈しないと決めた。

 マスコミに色々聞かれてもノーコメントを貫く。


 たとえあの人と血縁上の関係があっても、私は私。子供達は子供達。関係ないし、私達の平穏な生活を自分達で手に入れる。

 蛙の子は蛙って言うが、鳶が鷹を生む場合だってあるんだから。


「確かに俺はお母さんと結婚した。盲目的だったし、自己保身や現状維持に走って、陽鞠を苦しめたかもしれない。陽鞠はお母さんと結婚した俺に謝れというのかい? それこそ、陽鞠が普段から嫌ってるお母さんの"被害者気質”や"悲劇のヒロイン"じゃないか。同じ轍を踏まないと決めてるんだろ? しっかりしろ」


 陽鞠は父からの厳しい指摘に唇をかみしめる。



 分かってる! 分かってる!


 そうならないように、やってきた。


 前を向いてやろうと思った。


 非常識な親の娘という枕言葉をなくすために。



「陽鞠ちゃん。お父さんの言うとおりよ。悲劇のヒロインになりたくないなら、あの人のようになりたくないなら、この法廷をしっかり見て。法が決めるんだから。そこから今後の動きを決めればよろし。あの人に厳罰を望む気持ちは分かる。今まで報いを受けても全く学習しなかったね。よくも悪くも変わってない。さすがあの母の血を色濃く受け継いでいる。りょう兄が見たらもっと毒吐いてたよ」


 良輔は「呉松結花という人間は、そもそもうちにいない。ただの騙りだろ」と切り捨て、傍聴に行かなかった。


 法廷で結花の言動や行動に言葉を失っても気にする素振りがなかった。



 ゆいちゃんの可愛さにみんな釘付け? やっぱそうでなきゃ。


 世界一可愛いから、お咎めなしで終わるよね?


 だって実際にやったのは、あいつらだから。



「ゆいちゃん見捨てて、娘がいい生活なんて生意気にもほどがあるじゃない? 親不幸の娘として名前が売れて良かったじゃん? 調子に乗ってるから、子供達が誘拐されるのよ。汚名をつけられたくないなら、ゆいちゃんの今後の生活保障してよ。ゆいちゃんは、世界一可愛いから、家族に愛されて老後過ごすのが夢なの。あと、減刑署名よろしく」


 結花は「ってことで、裁判官さーん、ゆいちゃんに無罪よろしく!」とウィンクした。


 裁判官は結花のアピールに顔色1つ変えず「以上ですか」と尋ねた。

 結花は「はい」と満面の笑みで答えた。



 第一審は無期懲役だった。

 しかし結花側が納得いかないと、控訴、上告した。



 ――懲役3年、執行猶予5年2ヶ月となった。



 一連の事件による判決は、ネットで軽すぎないかという声が出た。

 

 結花が逮捕されたときに、過去のことがネットで出回り、ライブチケットの転売の件が拡散された。

 そのことを引き合いにし、更正の余地なさそうなのに、甘くないかということから。


 陽鞠はじめ、庄吾、悠真そして静華も、結花に対して極刑を望んでいた。


『あまりにも軽くて驚いている。裁判中の態度を見て、元母補のメンタルが改めて幼いことや自己中ぶりを痛感した。本当は死刑になってほしい。人生で一番の恥はこの人の娘であることで、今すぐにも抹消したいぐらいである。一生私達に関わらないでほしい』


『昔から同級生いじめたり、トラブルを起こしてるが、全て母親がお金で解決してきた。自分で責任をとったことがないし、見た目だけで甘やかされてきた。元凶である母亡き後や家族から見捨てられてもなお、反省や学習をしなかった。年齢や過去のことを考えると、更正に端から期待していない。頭や精神の病気と言われても驚かない。幼い理由で姪家族にやったことはとてもじゃないが許されない。呉松の名字も名乗らないでほしい。一族の恥だ。元家族として厳罰を望む』


 陽鞠と静華は公に結花と関わらない、絶縁宣言をした。

  

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