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結花に連れられた3人は、子供達が男性2人と一緒にいる姿を見て、呆気にとられた。


「あ、パパとママだ! ゆうじーじもいる!」


 琥珀と翡翠が両親のもとに駆け寄ろうとした瞬間、翡翠が転んでしまった。

 結花は翡翠の足を踏んで転ばせて通せんぼした。

 翡翠は泣き出し、琥珀は「通らせて」と訴える。


「ゆいちゃんの言うこと聞かないと、パパとママに会わせないから」


 にこにこしながら威圧感を与える結花に、琥珀は全身の力が抜けて座り込んでしまった。


「言うことってなんだよ?」


 悠真の質問に「あんたと元に戻ることと、ひーちゃんと同居して、専業主婦ライフやることよ! 毎月お金ゆいちゃん20万貰うから! それにひーちゃんは働いてるんだから、代わりに面倒みてあげる」と得意げに語る。


「嫌だ。お前とはもう関わりたくない。どうせ、地位やお金が目当てだろ?」


「あったりー! だって、娘婿は俳優、その親は政治家、娘は人気作家って箔つくだけで、周りの見る目違うじゃん? ゆうちゃんだけ、ずーるーい!」


 口先をとがらせて、フンと拗ねた真似をする。


「クソ兄に家追い出されるわ、けーさつに捕まるわ、ホームレスになるわ、挙げ句の果てには、浅沼に仕返しされるわ、ゆいちゃんの人生転落してばっか! ちょっとは成長したから、見直してくれるでしょ? だから一緒に同居しよっ! ひーちゃん、ネットで叩かれてるんでしょ?」



 こいつらが言い思いしてるなんてずるい! 


 ずるい! ずるい! ずるい!


 ゆいちゃん、なんでこんな目に遭わないといけないの?


 いかに今まで辛い思いをしてきたかみんなに語る。



 ネットでは、ゆいちゃんの味方が多くて、娘は批判されてるから、そうなれば、否応なしに、同居してくれるよね? やり直しさせてくれるよね?

 ゆいちゃんは被害者で、悲劇のヒロインだもん!



「随分長々とお気持ち垂らしてご苦労様。全部あんたが蒔いた種じゃん? 自己中で、いじめっ子気質。こういうのなんていうか知ってる? 因果応報っていうんだよ? ネットで叩かれてるのあんたの方よ」


 陽鞠が鼻で笑いながら煽る姿に、曽田と神牧は「そりゃ逃げられるな」「人が作ったもの平気で壊すだけあるな。納得」とぼそっと呟いた。


「ちょっとあんた達なんか言った?」


 地獄耳の結花は曽田と神牧を鋭い視線で威嚇する。


 誘拐・脅迫事件で話題になるなか、結花の過去についてネット上で流れ出している。

 当初は稲本夫妻の不手際を責めるものが多かったが、風向きが変わり結花が怪しいんじゃないかと疑われている。

 警察も結花の前科のこともあり、マークをしている。


「ネットで叩かれてる? ゆいちゃんが? 私は被害者よ!」


 その瞬間、曽田が吹き出すように笑った。


「被害者? お前どう見ても加害者じゃん。この誘拐・脅迫自体が自作自演じゃん。あの会見も茶番でしょ。より戻すの一生働かずに済むためのお金を条件に、孫誘拐しただけだからな」


「それな。しかもこいつ、この子達が作った夏休みの工作ぶっこわしたんだぜ? ちやほやされないからって」


 曽田に続けるかのように、神牧もここでの一部始終を暴露した。

 川口とさーちゃんこと結花に頼まれてやったこと、結花から琥珀と翡翠を殺さず、丁重にもてなし遊び相手になることなどを話した。

 川口から指示されるまで殺すなと言われてたが、子供達と遊んでいるうちに、自分の弟妹た姪っ子を思い出したと語る。


 結花が壊した工作は、一緒に作って陽鞠と庄吾に見せるつもりだったと。


 曽田と神牧が語る中、結花は「何余計なこと言ってるの」とか「もうしゃべらないで」と横やりを入れていく。

 それでも無視して、2人は稲本夫妻に話し続けた。


 稲本夫妻と悠真はにわかに信じがたいと顔を見合わせた。


「俺が言うのも差し出がましいですが、こんな、人のものを平気で壊すようなのもとに子供達をいさせるのは危ないと思います。娘さんも旦那さんも逃げてください。今のやりとり見て、さーちゃんが逃げられるのは無理ないと思いました」


「……これ、俺達が手伝って作った作品です。完成したらパパとママに見せると楽しみにしてました」


 曽田は琥珀が作った作品を稲本夫妻に見せる。

 あと少しで完成というところで、結花に壊されたのだから。


「はぁ、まだこういうことしてんのか……」


 悠真は大きなため息をついて呟いた。


「ほんとお前は昔っからよくも悪くもブレないな。さすが俺の本勝手に売ったり、中学時代に浅沼響さんの杖ぶっ壊しただけあるな」


 突き放すような口調に神牧と曽田は「杖壊すとかやばっ」「弁償案件じゃね?」と呟いた。


「そんなの昔のことでしょっ! もうゆいちゃんは代わったんだから、もう1回やり直そ!」


 結花は上目遣いで悠真に訴える。


「嫌だ。お前は俺達が努力して築き上げたものにただ乗りしたいだけ。かき回したいだけ。支配したいだけだろ? 何が変わった? こんな意味の分からん茶番に孫達を巻き込んでさ! ちっともかわってねーな! 本当に変わってるなら自己申告しないし、そもそも俺達の前に来ないだろ?」


「だ、だって、本当に変わったもん!」


「雀百まで踊り忘れずって知ってる? 人間死ぬまで根っこは変わらないって意味。この自己中ぶり、自分のこと未だにゆいちゃんなんて呼んでるし、ほんとメンタル女子中学生以下。しかも前科持ちで、自分がいつまでも被害者と思ってる。極めつけは、私達の子供達を誘拐して自作自演の犯罪。――私が生きて一番恥ずかしいのは、母親があんたってことだよ! とっとと……」


 陽鞠の声が震え出す。



 頼むから目の前から消えて! 私達の生活の邪魔しないで!


 前途洋々な人生を歩めると思ったのに。


 あの人から離れて、地元から離れて、やっと心の平穏を見つけた。


 いつまでも被害者でいたらダメだと言い聞かせて。


 前を向いてやってきた。

 

 やっぱり自作自演だったのかと思うと乾いた笑いしか出ない。


 昔から他人に注目して貰うためなら、あの人だったらやりかねない。


 あの人の自作自演に関わった男性達は、どこまで本当のことを言っているのか分からない。


 自己保身のために言ってるのかもしれないし、本当にあの人に見切りをつけているのかもしれない。

 これは警察の捜査に任せるしかない。



 憔悴する陽鞠に庄吾が肩をよせてなだめる。


「とにかく俺もお前とはやり直すつもりないし、陽鞠の言うとおり、関わらないでくれ。ホームレスになろうが、警察のお世話になろうが、知らん」 


「た、頼むから、お・ね・が・い?」


 結花のぶりっ子口調に悠真は眉をしかめ、曽田はうわぁと顔を引きつらせた。


「そ、そんなぁー……ひ、ひどいよぉー」


 結花の体の力が抜けて、床に座り込んだ。

 大げさに泣く姿がリビングに響いて、一同が不愉快そうに顔をしかめた。


 

 ゆいちゃん悪くないのに! 言うこと聞かないみんなが悪いの! 被害者なの!



 悲劇のヒロインモードで訴える結花を無視し、曽田と神牧は琥珀と翡翠を稲本夫妻のもとへ連れて行った。


「本当に申し訳ございませんでした!」


 曽田と神牧は深々と頭を下げた。

 稲本夫妻と悠真は一瞥した。


「君たちがやったことは許されるものではない。正後は警察に正直に話してください」


 庄吾の目は鋭く、まるで曽田と神牧を固まらせるような勢いがあった。


「あなたたちの最大の失敗は、あの人と関わったこと。あの人はね、周りを不幸にさせるし、不愉快にさせる天才だから。あの性格は死んでも治らないから。関わる人はよーく選ぶことだね」


 陽鞠は2人に対して同情気味だが、内心は穏やかではなかった。


 その後無事琥珀と翡翠は稲本夫妻のもとに引き取られ、事件に関わった結花と神牧と曽田、そして川口と間接的に関わった堀内が逮捕された。


 結花が逮捕されたとき「ゆいちゃん悪くないもん!」と、会見の時とはうって変わった態度を取り、ネットでは「泣き方が大根役者レベル」と揶揄された。

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