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  ここはどこだろう? ほんとうにつとむじーじのべっそう?


 大きなリビングにある椅子と机と黒いソファー……じーじの家とちょっと違う。


 今何時かなって、時計を見たらおやつの時間だった。

 用意されたおやつはいつも僕達が食べてるもの。

 ポテチにチョコレートに駄菓子。


 すいと一緒に食べるけど、いつもより口数が少ない。


 僕達の向かいの席には、熊みたいに大きいおじちゃんが2人いる。

 この人達がずっと僕達と一緒にいるんだ。


 目つき怖いし、ずっとだんまりでお菓子食べてる。

 なんか怖いなぁ。


「……川口兄ちゃんはいないの?」


「うん。忙しいからな。俺たちが見てやるんだぜ」


 答えたのは頭テカテカした方のおじちゃんだった。確か、かんまきさんって言ってた。

 目が覚めたら、腕にテープがベタベタ貼られていて、あちこち取れかけていた。


 それに気づいたかんまきのおじちゃんが、剥がしてくれた。


 しばらくここに住むから、お兄さん達の言うこと大人しく聞きなさいって。


 そうじゃないとの後が怖くって。

 いつまでって聞いたら教えてくれなかった。


 いつも持ってるスマホは、いつの間にかなくなっていた。


「僕達のスマホ知らない? じーじの家に行くときはあったんだけど……?」


「ごめんな、おっちゃん見てないんだ」


 かくかくした頭のそだおじちゃんが答えた。


「パパとママが心配してると思うんだ」


「ちゃーんと言ってあるから大丈夫さ」


「じゃぁ、海音(かいと)兄ちゃんや心優ここね姉ちゃんは? 心陽こはるちゃんは? 流星りゅうせいくんは? 来ないの?」


 すいが不安げに質問すると「少し黙ってようか」とそだの兄ちゃんがとげとげしく答えた。


「そだ、ゲームやらないか?」


「おおいいな。ちょうどあるよな」


 そだのおじちゃんは、テレビの下にある入れ物から、ゲーム機を取り出した。


「あーっ! これ!」


 ゆいちゃんに買って貰ったのと一緒だ!!

 すいも「やるー!」と声をあげた。

 

 友達の間で流行ってる対戦ゲーム。

 色々なキャラクターが車に乗って、速さ勝負するもの。

 去年発売されて、お正月にいとこたちと遊んだんだ。


 やっぱり海音兄ちゃんが強くって、全然勝てなかった。

 友達と勝負してもなかなか勝てないんだ。


 一番強い雷飛らいとくんは、おじいちゃんと一緒に勝負して勝ってるぐらい。

 おじいちゃんは昔すっごい強かったらしいけど、雷飛くんに負けて悔しいからって、ゲーム動画やってるんだって。

 ゲームの動画をやるおじいちゃんはかっこいいし、ちょっと羨ましい。


 うちのじーじは、そういうのあんまりやらない人なんだって。   

 パパとママは昔やってたらしいけど、僕達にはまだ早いからって、買ってもらえないし。

 ここでやらせてもらえるなんて、ラッキー!


 曽田がテレビに映るようにセッティングすると、琥珀と翡翠は「わー! すごーい!」と声をあげた。

 大きなテレビの画面に映るだけで喜ぶ。

 4人で対戦した結果、一番強かったのは曽田だった。

 その次ぐらいが琥珀、神牧、そして翡翠だった。


「そだおじちゃん強すぎる!」


 湯気立てて抗議する琥珀と翡翠。


「そーだー! そーだ! 手加減しろよ!」


 子供達に同調するように神牧も抗議する。


「うるせー! だじゃれみたいに言うな! お前達が弱すぎるんだよ」


「子供の前ぐらい手加減しろよ。なぁ?」


「いやなこった、勝負は基本全力だ」


「じゃぁ、今度はおじちゃん同士で勝負してよ!」


 おじちゃん同士と言われ曽田と神牧は一瞬困った顔をしたが、子供達の勢いに負け、勝負することになった。


 結果としては神牧が勝った。


「かんまきのおじちゃんつよーい!」


「おい、お前そんな強かったっけ?!」


 2人の勝負は最初曽田が勝っていたが、後半で神牧が巻き返した。

 子供達も「すごーい!」と神牧の方を応援していた。


「だってガキ達の手前だし……オセロでもそうだけど、相手の力量や傾向見るためにあえて勝たせてるんだよ。弟と妹とやったのを思い出した」

 

 7歳離れた弟と妹。

 父は単身赴任で月1回帰るだけ、母は仕事どころか、家のことせず、男をとっかえひっかえして遊んでばかりだった。

 だから家事は俺がやっていた。

 たまに帰ってくる父は罪悪感なのか、罪滅ぼしなのか知らないけど、みんなで楽しめるゲーム機をよく買ってくれた。

 勉強なんてやる暇なかったし、出来るわけなかった。


 学校でも家事の疲れで授業中しょっちゅう寝ていた。いつの間にか俺は問題児扱いされていた。成績悪いから。

 家庭環境知っていて評価する人もいた。


 唯一の救いは、事情を知っている友達が弟妹の遊び相手してくれたことだ。


 弟妹は優しい子になった。年が上がれば手伝ってくれることも増えた。

 息抜きに弟妹達とゲームをするのが楽しかった。


 しかし、家の事情が一気に変わったのは数年前。

 

 ――母親が結婚詐欺で捕まった。


 婚活アプリで男性に未婚と偽った上、子供達が病弱でお金かかるのなんて言って、長年お金を巻き上げていた。

 ターゲットは年配から、一番若い人は30前のあんちゃんだった。

 

 母は働いてないのに……だからお金があったのかと妙に納得できた。

 唯一の救いは、弟妹が同じ学校の全寮制の学校に通っていたことだろう。

 弟妹は母親から離れたいがためにそこを選んだ。

 当然両親は離婚。


 学校関係と支払いは主に父がやっているものの、負担が大きいと俺にも少し出すように言われている。

 弟妹が楽しく学校に通えればいいんだ。


 自分の生活もあるので、正直苦しい。


 そんな中割のいいバイトを見つけた――目の前にいる子ども達の誘拐及び脅迫。

 条件は指示した日まで《《丁重に》》扱うことだ。


「ほら、晩飯の時間だ」


 神牧がテレビの時計を指差す。18時過ぎていた。

 その瞬間、曽田のお腹から空腹を訴える音が聞こえた。


「おじちゃん我慢してたんだね。すいもおなかすいたー」


「……っ、早くかたづけようぜ」


 子ども達に笑われたので、視線をそらしてゲーム機を一緒に片付ける。


「片付けたら手を洗って待ってること。返事は?」


「はーい!」


「曽田も!」


「……は、はい……」


「元気ねーな。ちったぁ、この子達を見習え。悪いけど、この子達が手を洗ってるかちゃんと見てくれ」


 特に指の間と手首なと細かく指示が来る。

 お前はオカンかよと思いながら聞き流して、曽田は子ども達と一緒に洗面所に向かった。

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