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 つむじーじは”べっそう"を持ってるって。

 今日はそこにいくんだ。

 後部座席で隣にいるすいも一緒だ。ぼーっとしてる。


 じーじのお家は広いんだ。まるでゲームに出てくるダンジョンみたい。

 特にお庭は広くって歩くだけで疲れちゃうんだ。

 いっぱいお花や池や木が沢山あってきれいなんだ。

 

 毎年夏休みや冬休みに、おじちゃんとおばちゃんとか一緒に、花火とかお花見をするのが楽しみなんだ。

 あとは従兄弟の心優ここね姉ちゃん、心陽こはるちゃんとか海音かいと兄ちゃんと流星りゅうせい兄ちゃん達と、ゲームで対戦するのが楽しみ。

 特に海音兄ちゃんはゲームが強くって、全然勝てない。2番目に強い心優姉ちゃんとやったら、なかなか勝負が決まらない。ちょっと退屈。


 僕も海音兄ちゃんみたいに強くなれるかな。

 次会う時は負けないからなと約束したから。


 僕とすいはゲームが好きだけど、ちょっとどんくさい。それでも一緒にやるのは楽しい。

 夏休みだし、みんな来てるかな。

 絶対海音兄ちゃんに勝ってやるからな!


 いつもみんなでやるときは、海音兄ちゃんが持ってきてくれる。

 僕とすいは、まだ早いからとパパとママがなかなか買ってくれないんだ。

 今度10月に僕とすいの誕生日あるから、そのときまで待ってねってさ。


 でも、待てないんだ。友達は持ってるし……なかまはずれにされてる感じ。

 

 そんなときに、《《ゆいちゃん》》という友達が僕たちにゲーム機を買ってくれたんだ。

 ゆいちゃんはとても綺麗でやさしいお姉さん。

 いつもキラキラした服を着ているから、すいが憧れている。

 ちょっと前にゆいちゃんと公園で仲良くなって、時々家に連れて行ってもらったり、お菓子やゲーム機を買って貰ったんだ。

 ママのことを知ってるんだって。


 ゆいちゃん、ママのママ、つまり僕達のおばあちゃんなんだ。

 ある日、ゆうじーじとママが出て行って、それから全然会ってないんだって。

 僕たちもゆいちゃんに会って、初めてママのママがいたのを知ったんだ。


 ママはそういうのをちっとも話さない。

 パパやゆうじーじに聞いても「もう亡くなったよ」と答えるか、ごまかされるだけ。

 

 いつになったら、じーじのべっそうに着くんだろう。

 今日初めて行くからわくわくして、窓の景色ながめてるんだけど、段々山と田んぼしか見えなくなった。


 運転しているのは川口さんっていうお兄さん。

 時々つとむじーじの家に行ったときに会うんだけど、ちょっと怖いんだ。

 目がにらんでるみたい。でも僕達にとても優しい。


 いとこ達がいないときに遊び相手になってくれたんだ。

 手先が器用で、竹とんぼやじーじの庭でひみつきちをつくってくれた。

 ひみつきちはすぐにばれちゃったけど。

 

 車乗って宿題頑張ったよとか、今度友達と海に行くんだって話したら、あんまり興味なさそうだった。

 その代わり、好きな子いないのとか学校はどうか聞かれた。

 学校の話はいいけど、好きな子の話なんて答えたくない。


 全然興味ないもん。

 なんかいつもの川口の兄ちゃんじゃない。

 そんな変なこと聞いてこないし、変にニコニコしてて怖い。

 

「はく、ここさどこ?」


 妹が声を潜めて聞いてきた。

 信号が赤なので、カーナビを見ようとするが、習ってない漢字ばっかで読めない。


「危ないから、カーナビ見ないでね。ちゃんと座ってねー。1回コンビニ寄ろうか。トイレ行きたいでしょ?」


 信号超えた先にあるコンビニのことだ。

 そういえば全然行ってないやと思い出して、うんと答えた。

 コンビニに着くと、真っ先にトイレに向かう。

 川口さんは車で待ってるって言っていた。


 すいを連れて車に戻ると、川口さんからのど渇いたでしょと、紙コップを渡された。オレンジジュースだ。

 僕とすいの大好物。

 やったーとごくごく飲むとすっきりした。


「喉乾いてたんだー」

「ねー」


 お代わりしたいと言うと、またトイレ行きたくなるよと言われたので諦めた。


 コンビニ出て、再び田んぼばっかの道を通る。

 車の中からオルゴールが流れてる。


 多分クラシックだと思う。幼稚園の時、友達がピアノで弾いてたからきいたことある。

 さっきまでラジオで天気やどこが混んでいるとか、今日のニュースだったのに。


 肩が重くなった。振り向くと、すいが寄りかかって寝てる。

 川口さんと話したい気分じゃない。


 僕が《《知ってる人》》じゃないもん。


 ゆいちゃんに買ってもらったゲーム機は、パパに没収されたし、退屈だ。

 いつになったら着くんだろうと思っているうちに僕も眠くなった。


 川口はルームミラーで、後部座席の子供たちの規則正しい寝息を一瞥し、口角を上げた。

 しばらくすると、通りから離れた所に入った。

 すぐに大きな平屋が見えた。そこの駐車場に車を停めた。

 玄関が開いている。


 車から降りると、ねずみ色のスウェット姿、スポーツ刈りのふくよかな男性がやってきた。

 男性は後部座席の窓を覗いて「金になりそうだな」と呟いた。


「そりゃ、稲本庄吾と長谷川ひかるの子だからな。祖父は議員の稲本勤、祖母はジュエリーショップ社長の稲本智子、あと親族に大塚朝典おおつかとものりだからな」


「けっ、上級国民様のお家は違うねぇ」


ほり、無駄口叩いてないでとっととやれ、さーちゃんから《《ご褒美》》もらえねーぜ」


「そうだな」


 川口と堀は翡翠と琥珀をゆっくり抱え上げて、家の中に連れて行く。

 奥から男性2人がやってきた。

 2人とも大柄で、1人はスキンヘッド、もう1人は角刈りだった。


神牧かんまき曽田そだ、こいつらをやれ。持ってるか?」


「ああ。買ってきましたぜ」


 スキンヘッドの神牧が布テープを見せた。

 2人は川口と堀にバトンタッチされ、先に川口が和室に向かった。

 後ろにみんなついていくと、川口が「ここの中に放り込んでろ。身動きできないようにしろ」と指示した。


 神牧と曽田が子供達の手、足を縛るように、口や目をテープで塞いだ。


 物音を立てないように押し入れの中に入れて、出られないようにつっかえ棒をさした。

 その間川口は神牧と曽田の様子を動画と写真撮影していた。


「お前達見張ってろ。なんかあれば俺に連絡しろ」


「いえっさー」


 川口は《《さーちゃん》》にこんな感じですぜと送りつけた。

 

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