11
つむじーじは”べっそう"を持ってるって。
今日はそこにいくんだ。
後部座席で隣にいるすいも一緒だ。ぼーっとしてる。
じーじのお家は広いんだ。まるでゲームに出てくるダンジョンみたい。
特にお庭は広くって歩くだけで疲れちゃうんだ。
いっぱいお花や池や木が沢山あってきれいなんだ。
毎年夏休みや冬休みに、おじちゃんとおばちゃんとか一緒に、花火とかお花見をするのが楽しみなんだ。
あとは従兄弟の心優姉ちゃん、心陽ちゃんとか海音兄ちゃんと流星兄ちゃん達と、ゲームで対戦するのが楽しみ。
特に海音兄ちゃんはゲームが強くって、全然勝てない。2番目に強い心優姉ちゃんとやったら、なかなか勝負が決まらない。ちょっと退屈。
僕も海音兄ちゃんみたいに強くなれるかな。
次会う時は負けないからなと約束したから。
僕とすいはゲームが好きだけど、ちょっとどんくさい。それでも一緒にやるのは楽しい。
夏休みだし、みんな来てるかな。
絶対海音兄ちゃんに勝ってやるからな!
いつもみんなでやるときは、海音兄ちゃんが持ってきてくれる。
僕とすいは、まだ早いからとパパとママがなかなか買ってくれないんだ。
今度10月に僕とすいの誕生日あるから、そのときまで待ってねってさ。
でも、待てないんだ。友達は持ってるし……なかまはずれにされてる感じ。
そんなときに、《《ゆいちゃん》》という友達が僕たちにゲーム機を買ってくれたんだ。
ゆいちゃんはとても綺麗でやさしいお姉さん。
いつもキラキラした服を着ているから、すいが憧れている。
ちょっと前にゆいちゃんと公園で仲良くなって、時々家に連れて行ってもらったり、お菓子やゲーム機を買って貰ったんだ。
ママのことを知ってるんだって。
ゆいちゃん、ママのママ、つまり僕達のおばあちゃんなんだ。
ある日、ゆうじーじとママが出て行って、それから全然会ってないんだって。
僕たちもゆいちゃんに会って、初めてママのママがいたのを知ったんだ。
ママはそういうのをちっとも話さない。
パパやゆうじーじに聞いても「もう亡くなったよ」と答えるか、ごまかされるだけ。
いつになったら、じーじのべっそうに着くんだろう。
今日初めて行くからわくわくして、窓の景色ながめてるんだけど、段々山と田んぼしか見えなくなった。
運転しているのは川口さんっていうお兄さん。
時々つとむじーじの家に行ったときに会うんだけど、ちょっと怖いんだ。
目がにらんでるみたい。でも僕達にとても優しい。
いとこ達がいないときに遊び相手になってくれたんだ。
手先が器用で、竹とんぼやじーじの庭でひみつきちをつくってくれた。
ひみつきちはすぐにばれちゃったけど。
車乗って宿題頑張ったよとか、今度友達と海に行くんだって話したら、あんまり興味なさそうだった。
その代わり、好きな子いないのとか学校はどうか聞かれた。
学校の話はいいけど、好きな子の話なんて答えたくない。
全然興味ないもん。
なんかいつもの川口の兄ちゃんじゃない。
そんな変なこと聞いてこないし、変にニコニコしてて怖い。
「はく、ここさどこ?」
妹が声を潜めて聞いてきた。
信号が赤なので、カーナビを見ようとするが、習ってない漢字ばっかで読めない。
「危ないから、カーナビ見ないでね。ちゃんと座ってねー。1回コンビニ寄ろうか。トイレ行きたいでしょ?」
信号超えた先にあるコンビニのことだ。
そういえば全然行ってないやと思い出して、うんと答えた。
コンビニに着くと、真っ先にトイレに向かう。
川口さんは車で待ってるって言っていた。
すいを連れて車に戻ると、川口さんからのど渇いたでしょと、紙コップを渡された。オレンジジュースだ。
僕とすいの大好物。
やったーとごくごく飲むとすっきりした。
「喉乾いてたんだー」
「ねー」
お代わりしたいと言うと、またトイレ行きたくなるよと言われたので諦めた。
コンビニ出て、再び田んぼばっかの道を通る。
車の中からオルゴールが流れてる。
多分クラシックだと思う。幼稚園の時、友達がピアノで弾いてたからきいたことある。
さっきまでラジオで天気やどこが混んでいるとか、今日のニュースだったのに。
肩が重くなった。振り向くと、すいが寄りかかって寝てる。
川口さんと話したい気分じゃない。
僕が《《知ってる人》》じゃないもん。
ゆいちゃんに買ってもらったゲーム機は、パパに没収されたし、退屈だ。
いつになったら着くんだろうと思っているうちに僕も眠くなった。
川口はルームミラーで、後部座席の子供たちの規則正しい寝息を一瞥し、口角を上げた。
しばらくすると、通りから離れた所に入った。
すぐに大きな平屋が見えた。そこの駐車場に車を停めた。
玄関が開いている。
車から降りると、ねずみ色のスウェット姿、スポーツ刈りのふくよかな男性がやってきた。
男性は後部座席の窓を覗いて「金になりそうだな」と呟いた。
「そりゃ、稲本庄吾と長谷川ひかるの子だからな。祖父は議員の稲本勤、祖母はジュエリーショップ社長の稲本智子、あと親族に大塚朝典だからな」
「けっ、上級国民様のお家は違うねぇ」
「堀、無駄口叩いてないでとっととやれ、さーちゃんから《《ご褒美》》もらえねーぜ」
「そうだな」
川口と堀は翡翠と琥珀をゆっくり抱え上げて、家の中に連れて行く。
奥から男性2人がやってきた。
2人とも大柄で、1人はスキンヘッド、もう1人は角刈りだった。
「神牧、曽田、こいつらをやれ。持ってるか?」
「ああ。買ってきましたぜ」
スキンヘッドの神牧が布テープを見せた。
2人は川口と堀にバトンタッチされ、先に川口が和室に向かった。
後ろにみんなついていくと、川口が「ここの中に放り込んでろ。身動きできないようにしろ」と指示した。
神牧と曽田が子供達の手、足を縛るように、口や目をテープで塞いだ。
物音を立てないように押し入れの中に入れて、出られないようにつっかえ棒をさした。
その間川口は神牧と曽田の様子を動画と写真撮影していた。
「お前達見張ってろ。なんかあれば俺に連絡しろ」
「いえっさー」
川口は《《さーちゃん》》にこんな感じですぜと送りつけた。