表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/153

4

 世間はお盆シーズンだが、《《長谷川ひかる》》は仕事で忙しかった。

 プライベート用のスマホのディスプレイには、通知の山だ。

 いつも行ってるスーパーや保護者仲間の連絡、そして最寄りの警察署。


 警察署から、連日不審者情報が来てげんなりする。

 ほぼ毎日といっていいぐらいだ。

 不審者はもちろん、盗撮、痴漢、高齢者を狙った詐欺や行方不明者など、枚挙に暇がない。

 この4月から双子の琥珀こはく翡翠ひすいが小学生になったので、余計神経質になる。


 2年前にこの近辺で殺害事件があった。

 7月から9月の間に、小学生から高校生、それぞれが通う学校の校門の前で、遺体として遺棄されていた。


 犯人は被害者家族に100万の要求をし、被害者が性的被害に遭っている様子を送りつけた。

 犯行時間は18時台、家族への送信は22時だった。 

 警察は家族へ送っていることから、面識のある人間ではないかと考えていた。

 しらみつぶしに聞き込みや情報提供した結果、20代の男性が逮捕された。

 

 彼は被害者達と面識があった。よく遊んで貰ってた近所のお兄さんポジションのような関係。

 彼は「秘密基地」で遊ぼうと被害者達を山奥に連れ出し、犯行に及んだ。

 その秘密基地は、被害者達は何度も行ったことのある場所だった。

 

 近所では遊び上手のお兄さん、優しい人と評判だった。

 ひかるも、近所のスーパーで少し話したことある程度に面識があった。


 犯人逮捕の緊急速報で、テロップに名前出た瞬間、夫と一緒に「嘘でしょ」と声を出した。

 以来、子供達には知っている人でも大人がいないときは関わらないように、警察に逃げるなど口酸っぱく言っている。

 

 休憩がてらリビングに向かう。

 ダイニングテーブルには、白髪交じりで穏やかな笑みを浮かべる男性がいた。父の悠真ゆうまだ。

「陽鞠、庄吾くんが淹れてくれたコーヒー飲もう。仕事で疲れただろ? ほら、用意してるから。庄吾しょうごくんのは美味しいからねぇ」

 悠真は向かいの席を指差した。

 キッチンから「恥ずかしいですよー」と声がした。

 細身で170ぐらいあるだろうか、爽やかなスポーツ刈りに大きな目と少し幼く見える顔。

 ひかるの夫の稲本いなもと庄吾だ。


 庄吾は座りなよとひかるに着席を促され、うんと座った。

 コーヒーの匂いがひかるの鼻孔を刺激する。

 ひかるは「あーいい匂い」と誘われ、ダイニングテーブルに座った。

 隣には庄吾がいる。なんでか分からないけど、心躍るというか安心感がある。


 まさか自分が結婚して、子供2人なんて思ってもなかった。

 恋愛は諦めていたというか、あの人のようになるのが怖くて怯えていた。

 高校時代、男子からちょくちょく告白されていたが、全て断っていた。

 色恋沙汰にかまけてる暇があれば、勉強や趣味に打ち込む方がいいと。

 お陰で学年上位キープし続けてきた。


 その一方で、身に覚えのない嫌がらせをちょくちょく受けていた。

 男好きとか、整形してるんじゃないかとかの事実無根の噂話、物を隠されたり、授業中に渡される手紙で調子乗るなと一言だけ書いたものが送られたり。

 やはり地元の学校だったので、あの人の悪行を知って、それをからかってくるのが一番しんどかった。


 ――私は私。あの人と一緒にしないで!


 犯人は先輩とか他所のクラスの子とか色々。


 友達から『ひーちゃん、密かに男子から人気あるよ』で言われ、耳を疑った。

 どうも近寄りがたい雰囲気がいいと。それで一部の女子で妬んでる子がいると。


 唯一の救いは先生達がまともだったことだろうか。

 嫌がらせした人達は、他に《《余罪》》があったから退学になった。

 そもそも地元でも指折りの進学校なのに、こんなみみっちい嫌がらせをする人間がいるのが驚きだった。

 親のことは地元だとついて回るから、早く出たかった。

 

 知り合いのいないとこに進学して、やっと自分らしくいられる。

 夫とは大学のゼミで知り合った。

 俳優業と大学の両立をやってると聞いて、うさんくさいなと思っていた。

 1年の時だ。夏のゼミの合宿(という名の遊び)の時、バーベキューで、荷物持ちや火起こしを率先してやっていたら、夫が手伝ってくれた。

 他の女子達は調理するか、サボってるかだった。

 そのサボり魔の先輩が一番わがままで、みんなが動きやすい服装の中、彼女だけ、セーラー服とヒールの高いパンプスでやってきた。

 

 まるであの人を見ているみたいで不愉快さMAXだった。

 調理している女子達もさすがにないわと怒っていた。

 私が力仕事するのは、あの人とみたいになりたくないから。

 女性という属性を使って、弱いアピールして、反感を買ってる姿を何度もみたから、反面教師にした。

 それに今は男女平等を求められるし、性別や立場を盾にして、弱者アピールや主張を通そうとする輩は叩かれる。


 そのサボり魔に夫が強く注意してくれて、スカッとした。

 合宿で夫の強さに惹かれた。

 それ以来少しずつ話すようになった。一緒にいるとなんとなく安心する。

 気づいたら一緒にいるのが当然な関係だったし、娘と息子が生まれた。


 人を愛することや好意を持つことは、悪いことじゃないって気づいた。

 たまたま運がよかっただけだ。


 でもどこかで、子供達、または自分があの人に似てしまったらと思うと怖くなる。

 幸い、子供達は今のところ特に問題ないし、トラブルも起こしていない。

 夏休みで暑いのに、毎日近所の公園で遊んでいる。

 当然熱中症対策して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ