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 チャレンジ枠の部屋に戻った結花は、丸岡と服部と向かい合わせで椅子に座っていた。

 結花は足をしっかり閉じ、手は膝の上に乗せて座っていた。

 

 午前中あのババアに死ねとか言われたし、ここは大人しくいいとこのお嬢ちゃんを演じなきゃ。


「落合さんが社長室に行ったんですけど、心当たりありますか? 私は彼女には営業部に行ってもらいたいのでお願いしたのですが?」


 服部が努めて穏やかな口調で尋ねるが、その節々にはとげがあるように見えた。


「《《大変そうだから》》、交代しただけです」


 たまには別の部署も行った方がいいと思いますと語尾を伸ばさず、説得力を持たせた。


「そうですか。落合さんは、力仕事が少し難しい方なんです。最初無理して色々やってたら、体壊してしまったんです。それ以来、負担少ない仕事をまわしてるんです」


「へー、そうなんですねぇ。てっきり元気そうに見えたので。知らなかったです」


「社長から聞いたんですが、落合さん、足痛そうにして来たってお話ですが、心当たりありますか?」

 

 落合は足を踏まれた後、頑張って立ち上がり、痛みをこらえながら、浅沼がいる社長室に向かった。

 普段は結花や吉原が来ているのに、落合が来たことで「珍しいね」と声かけた。


 落合は「そうですか?」と結花のことがバレないように取り繕っていたが、荷物の仕分けがしんどそうだった。


 時間かかりつつも、なんとか終わらせて、退室するときの足取りがなんとなくおかしかったので声をかけた。

 落合は最初「なんでもないです」と答えたが、最近彼女の様子が元気ないことを周りから聞いていたので、世間話がてら色々聞かせてと話を引き出した。

『呉松さんに足踏まれたんです』とぽつり漏らした。


 大きな音や声が苦手なのを知ってるのか、耳元で悪口を言われたことも。

 郡山が数日前ホースで水をぶっかけられたことなども。


 他のメンバーも結花の憂さ晴らしの道具にされていて、言うこと聞かなかったら、嫌がらせすると脅されていること。


 浅沼は営業部の部長から郡山の件を聞いていた。


 あれはガチだったのかと同時に、思わず「相変わらずだな」と呟いた。

 この際だからと、浅沼は結花の過去について話した。


 お互い中学校時代の《《同級生》》であること、かつて結花に杖を壊されたり、何回も盗まれたことがあること、嫌がらせを受けていたこと。

 彼女は障害のある同級生(男子)に、わざとパニックを起こさせ、暴れさせて、自分が被害者になれるように仕向けていたことを話した。


 その同級生は浅沼の幼なじみで、小学校から大きな音、強い匂い、予定の見えないスケジュールや変更が出ると、パニックになって暴れることがあった。

 よく思わない保護者や同級生もいたが、年が上がるにつれ、家族で試行錯誤していくうちに、落ち着きを見せた。


 結花はパニックになっている姿が本当かどうか試すために、わざと匂いつきのペンを嗅がせたり、音に反応しないために、つけているヘッドホンを教室の掃除用具入れに隠してた。


 同級生は案の定パニックになり、結花はわざと殴られ《《被害者》》として騒いでいた。


 同級生があまり自分の状況を上手に伝えられないことを逆手に取って、結花はその家に治療費を請求した。

 しかし、結花の日頃の様子を知っている他の同級生達が証言したことから、支払いは不要になった。


 あの人はね――呉松結花くれまつゆいかはね、いつも自分が主役、《《被害者》》じゃないと嫌なんだよ。


 なまじ見た目だけはいいから、いくら彼女が悪いことしても、家の名前や妄信的な人間の圧力でなかったことにしてきた。


 お金払ってはい解決みたいな。


 私の杖が壊れた時もそうだったけど。


 彼女は本当に「頭を下げたことがない」「謝ったことがない」「自分で何か成し遂げたことがない」のだと思う。


 あの人、中学の時将来の夢で専業主婦って声高々に言ってたんだけど、本当は働きたくなかっただけだと思う。


 1回その夢は叶ったけど、自分で壊して、働かないといけない状況になったからね。


 《《後ろ盾》》がもういないみたいだし。


 家族にも見捨てられたって話だし。


 かつていじめてた《《同級生》》にあれこれ言われながら働くのって、彼女にとって《《屈辱》》だと思う。

 

 中学時代の悪行含めて、今までのことが沢山重なって因果応報としてきてるんだよ。

 

 お天道様ってよく見てるなって思った。


 中学時代の浅沼と結花の関係や、2人の過去を知った落合は、妙に納得出来た。


「そんなこと聞いてどうするんですか? 私、早く仕事に戻りたいんですが」


「じゃぁ、本人に聞こうか? 落合さんに」


「いいですよ。呼んでください」


 服部が落合を連れてくるために、一旦席をはずした。


 どうせゆいちゃんには逆らえないから、素直にいわないっしょ? あいつ気弱そうだし。

 あの時人通りなかったし、バレないっしょ。


 結花は神妙そうな顔しつつも、心の中でほくそ笑む。


 服部が連れてくると、落合は結花の顔みた瞬間、後ろに隠れた。


 な、なに言われるんだろう。どうしよう、呉松さんいる。助けて!


 あの人いると絶対話せない。変な圧力というか、従わせようというオーラ。


 怖いよ、無理! 無理!


「ゆいちゃんの顔みるなりそのリアクション! 呉松家のお嬢様に失礼じゃない? 無礼も……」


「黙ってください」


 結花の癇癪に服部が短く切り捨てる。

 丸岡は落合の様子で無理だなと判断し、結花に自分の席に戻るように促した。

 

 落合の話や他のスタッフ達からのヒアリングで、結花による嫌がらせや、勤務態度の悪さが沢山耳に入った。

 結花が営業部の野澤目当てで行くのがバレて出禁。


 それどころか、社長室とチャレンジ枠以外の部署の出入りが禁止された。


 落合は当面仕事に来れなくなり、休職になった。

 しかし、結花は反省することもなく、ますます陰湿になるだけだった。


 人の目があるときだけ仕事して、責任者である丸岡と服部がいないときはやりたい放題だった。


 服部つかさは結局結花の横暴さが無理であること、今までの発言が酷いことから退職になった。

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