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須藤圭子すどうけいこ(79)


 私はいつも呉松さんと同じテーブルに座ってます。

 彼女が入所してからずっとなりゆきでと言えばいいでしょうか。

 

 私は70に入ってから卵アレルギーが出るようになりました。あと杉ね。


 うちには孫が4人います。娘側に小学6年の男の子と女の子の双子、息子側に中学1年の女の子と2年の男の子です。

 そのうち小6の男の子が海老、中1の女の子が桃アレルギーなんです。


 あ、私の主人も杉アレルギーだったんだけど、2年前からキウイアレルギーになっちゃってね……息子と娘はなーんにもないけどね。

 

 娘と息子が敬老のお祝いや誕生日やイベントとかで、時々差し入れを持ってきてくれるの。


 私が卵アレルギーあるのを知ってるから、ほとんどせんべいとかおかきが多いの。

 2人とも1回に持ってくる量や種類が多いからね、私1人じゃ食べきれないの。


 だからさ、呉松さんや他の人やここのスタッフさん達に分けてるの。


 私の家はアレルギー持ちが多いから、分ける時は、大丈夫かどうか聞いてるわ。

 老眼で成分表を読むのがしんどいから、スタッフさん達に見て貰ってる。

 他の人も同じね。

 

 スタッフがいなければ呉松さんが代わりにみてあげるってやってくれる。

 彼女は足が少し悪いだけで、頭も目もしっかりされてるから。スタッフがいなくても大丈夫と思ってたの。

 

 ある日呉松さんから頂いたお菓子ね、分けてあげるというから、一緒に召し上がったの。

 はるだいにあるパン屋限定のクッキーね。


 そのときは私もきちんと知らないで食べてしまったし、昔はよく食べてたから、油断してたわ。

 

 彼女も私が卵アレルギーあること知らなかったから、それは仕方ないと思うの。

 そのときはスタッフで、これから他の人に分ける時は、スタッフ立ち会いの下でやるようにってルールになったの。

 

 で、またしばらくして、呉松さんからこれあげるって来たの。


 確か……西南中央せいなんちゅおうのショッピングモールにある、お菓子屋のごまプリンとクッキー。

 スタッフさんは目の前でチェックして、ちょっとよした方がいいって言ってくれたの。


 正直食べたかったけど、仕方ないわね。


 でもさ、スタッフさんがいなくなった隙に、呉松さんが少量だからいいんじゃない? って言ったの。


 怖かったし、遠慮してたんだけど、どれぐらいの量でなるか知りたいから、食べてみてよって、私の口に入れたの。


 そしたら、喉がかゆくなって、顔が赤くなってね、声が出しにくくなったの。

 近くにいつも私達に話しかけてくるおじちゃん……誰だっけ? 藤崎ふじさきさん、だっけ? あの人が職員さん呼んでくれてね、その後処置してくれたの。


 後から同じ席の後藤ごとうさんから聞いたんだけど、呉松さん、私がかゆみで苦しんでるとこ楽しんでたんですって。

「これぐらいでかゆくなるなんて、おかしいわねぇ」とか「演技じゃないの? 本気なの?」って何回も聞いてたのよ。


 さすがに2回もなればわざとじゃないかしら?

 職員さん達は、差し入れの管理に厳しくやってくださってて、助かるんだけど、隙を狙って呉松さんから口に入れられるなんて思わないでしょうね。


 職員さん達は2回とも、電話で息子と娘に平身低頭へいしんていとうで謝ったみたいなの。

 でもその姿を見てたら、申し訳なくって。


 どうか職員さん達を責めないで欲しい。

 

 呉松さんとお家のことや夫のこととか話してるけど、だんだん付き合い切れなくなって。

 しかも、うちの息子が面会に来たら、話に入ってくるの。で、息子と嫁を別れさせて、うちの娘と結婚させてなんて言うのよ? 名刺ちょうだいって言われたわ。


 呉松さんの娘さん可愛いのよ? 女優さんみたい。

 でも、仮にこの人と息子が結婚したら、呉松さんが《《義理の家族》》になるんでしょう?

 

 こんな、アレルギーあるのを分かってて、こっそり食べさせようとする人が家族なんて、怖いでしょ?!

 一歩間違えたら殺人よ?! 


 子供たちは施設のスタッフから、電話で一部始終聞いてるんだから。


 同じ席の後藤さんも、面会で、お孫さんか息子さんを、呉松さんとこの娘と結婚させてなんて言ってたって。

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