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今日も母とお手伝いの柿本さんを呼んで、朝からのんびりティータイムを楽しむ。

 夫と娘は7時前に家を出た。ここから夕方の六時まで私が好き勝手できる時間だ。

 

 娘は私が卒業したはるだい中学校に通わせている。これは私の意向だ。

 私の地元は教育熱心なエリアで保護者から人気がある。親もそれなりにきっちりしたお家が少なくない。

 

 夫の実家も同様に教育熱心でレベルが高い。私が卒業した春の台中学校と夫が卒業した西南中学校は一二を争うぐらいだ。

 

 窓ガラスが割れてるとか、不良が乗り込んでくるなんてファンタジーだと思っている。お菓子の紙くずが出ただけで騒ぎになるレベルだ。

 

 部活もやっているので、帰りは夜の7時過ぎだけど、今日は塾があるので、結局家に戻るのは夜の10時過ぎ。

 

 春の日差しが入って穏やかな気分になるが、今はそんな気分じゃない。

 

 テレビでは人気女優がイケメンの俳優と結婚する話題がやっている。

 芸能記者の質問に対して嫌な顔ひとつせず丁寧に答えていく。

 ショートカットで顔が小さく大きな目は人をひきつけそうな雰囲気。


「どうせすぐ離婚するよ。年いったらね」


 テレビの前で吐き捨てるように呟く。


 女優は顔だけ。年いったら捨てられるに決まってる。


 相手の俳優はここ数年女子高生が好きな俳優ランキング上位常連だ。

 爽やかな雰囲気、背は180あって子犬のような顔なのに、悪役や変なキャラの役やシリアスな役まで何でもやっているから人気がある。


 自分以外の人間がちやほやされているとムカつく。

 それがテレビ越しだろうが関係ない。


 私は世界一可愛いんだ。


 今でも街中に出るとナンパされるし、SNSのフォロワーは男性が多い。

 いつも可愛い可愛いと言ってくれる。


 40前だけど、未だに20代で通用する。

 毎日のスキンケアを入念にしているのと、もとから可愛いから。

 夫と娘がいない間、母とお手伝いさん呼ぶか、親友と遊ぶか、マッチングアプリで知り合った男性達と飲み歩いている。


 だって寂しいもん。


 夫は家業がいそがしく、休みがカレンダー通りじゃない。

 私が一緒にいたい日に限って休みが合わない。


 娘は娘で中学に入ってから、友人や部活を優先するようになった。

 小学校の時はいつも私のそばにいつもいたのに。


 家族一人ぼっちだから、いつも母とお手伝いの柿本さんを呼んで、楽している。


「あれ? 陽鞠ひまりちゃんは?」


「今日、朝練あされんあるから早く出た。コンクール近いからって」


 切り捨てるように母に返す。


 娘が入っている吹奏楽部は近隣でコンクール強豪校で知られている。


 毎日朝のホームルーム前、放課後、休みも日曜日、年末年始、お盆休みの数日間以外ほとんど練習漬けだ。

 それでもって上下関係や暗黙のルールなど色々厳しい所がある。

 娘は吹奏楽部のカッコいい演奏をしてる姿を見て入部したいと言った。

 夫は賛成したが、私は反対した。


 家帰るの遅くなるし、他の習い事もあるからと。


 でも本当は娘と過ごす時間がなくなってしまうから嫌だった。

 娘が私以外の世界を知ってしまうのが嫌だった。

 小学校はなんとか放課後習い事や塾でコントロールすることが出来た。


 夫は娘が珍しく自分のやりたいことを言ったんだから、応援してやれと。


 だから条件として部活関係の出費は全て夫が行うようにさせた。


 私は賛成したわけじゃないから。


 でも無関心な親とレッテルを貼られるのも嫌なので、コンクールがある時は家族で見に行っている。

 他の保護者達にマウント取れなくなっちゃうし。


「そうか、コンクールねぇ。大変だねぇ……」


「そうよ! 私大変なのよ! 朝の準備やんないといけないし! 早く起きないといけないから!」


 机をどんどん叩きながら母と柿本さんに訴える。


「陽鞠お嬢様頑張ってるじゃないですか。吹奏楽部ってだいたいどこも上下関係や身内でのルールがとても厳しいですからね。うちの息子と娘もそれでよく悩んでいました」


「あんたのとこ息子吹奏楽だったの?」


「ええ。確かトランペットやってました」


「へぇー。男子が吹奏楽入るなんて珍しいわね。女子目当てでしょ?」


 柿本さんの話に鼻で笑う。彼女が少しムッとした顔をしても気にしない。


「そんなことありませんでしたよ。むしろ女子から理不尽な嫌がらせを受けることがよくありました。トランペットって、吹奏楽の花形ですからね。それでもって男子がやるとなると、余計でしょうね」


「部活以外でも、同じクラスの部員にノート破られたり、悪口書かれた手紙が息子に渡されたり……何度も学校と話し合いになったけど、結局表向きは解決したけど、根っこが変わらなかったわ」


 柿本さんは私の嫌味に怯むことなく懐かしむように話す。


「そうね。いじめられるなんて自業自得じゃない? だって女子ばっかの部活に男子が入ってきてさ、その上目立つポジションの楽器なんてやられたら、そりゃムカつくよ」

 

 私は柿本さんとこの息子さんより、嫌がらせした女子の気持ちの方がわかる。

 あんな地味な奴が目立つ楽器なんて、実力あっても調子乗ってるって〆てやりたいもの。


「加害者の子も結花お嬢様と同じようなことを仰ってました。お嬢様は嫌なことから全て逃げてきたし、加害者と同じようなことしてきましたからね。全てご両親に責任押し付けてね。あなたには私たちの事が到底理解も気持ちも分からないでしょうね」


 私の顔をしっかり見るかのよう。じっと見るように。


 私はすぐ目線をそらす。


 お説教がうざい。話聞くんじゃなかった。

 あの人私に偉そうに言うけど、何様かしら?

 あーっ、昔の話引き合いにされて腹立つ!

 もう終わったことじゃない! 何で?

 いっっつも嫌味ったらしいわ! お手伝いの癖に!


「柿本さん、コーヒー淹れなおししてくださる? 2人分ね」

 

 母が穏やかな声でお願いして、柿本さんは「分かりました」と淡々と返事する。


「柿本さん酷いわねぇー」


 母が寄ってきて私の肩を叩く。


「そうよ! あのババア早くくたばらないかなー」


「もう終わったことなのにね。今更蒸し返されてもねぇ」


 コーヒーを淹れる柿本さんに視線を向ける。

 柿本さんは私たちの会話は聞こえないと言わんばかりに、せっせと淹れる。


「はい、お待たせしました」


 声に張りがないというか冷めたような口調。


「なんなの? その態度。顔ムカつくわ。ただでさえブサイクなのに、さらにひどいわ」


 難癖つけてやろう。私をイラつかせた罰として。


「あら、さようでございますか? 見た目だけのお嬢様はおっしゃることが違いますねー」

 柿本さんは私の嫌味に反応せず「私は風呂掃除してますので」と淡々と告げてリビングを後にした。


「態度悪いわ。あのババアさ、クビにして!」


「柿本さんは優秀な方よ。他にやるのはもったいないから」


 母は頬に顔をあてる。遠回しにやめさせないでと言っている。


 私は言い返されたり、注意されるのが非常に不愉快だ。

 私は世界一可愛いんだから。何しても許される。

 何で昔のことを蒸し返されなきゃいけないのよ!

 もう終わったことじゃない!


「結花ちゃんは気にしなくてもいいの。あなたが好きなようにするのが仕事なんだから。気晴らしにカフェ行きましょ」


「ごめん、今日望海とランチなんだー」


 申し訳なさそうに手を合わせる。


「あら、そうなの? 残念ねー。じゃぁ柿本さんがサボらないか見ておくわ」

 

 いたずらっぽく笑う母に「じゃぁそうして」と突き放すように言った。

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